(中台間を結ぶ高速旅客船「海峡号」 http://www.nhjd.net/thread-3083-1-1.html)
【「(中台の政治問題は)子々孫々に先送りすべきでない」】
中国が国家主権および領土保全の観点で最重要課題とみなす核心的利益には、台湾、チベット、新疆ウイグル、南シナ海、尖閣諸島などの問題がありますが、なかでも台湾の帰属は現国家成立の経緯からどうしても譲れない問題です。
台湾からすれば、中国との関係は国家の存亡そのものになります。
****台湾:中国軍が「20年に台湾への侵攻能力完備」と報告書****
台湾国防部(国防省)は8日、2013年版「国防報告書」を発表した。
報告書は中国軍について「2020年には台湾への全面的な侵攻能力を完備する」と警鐘を鳴らした。前回(11年)の「20年までに台湾への大規模作戦が可能」とした表現から、さらに踏み込んだ。
報告書では、中国の軍備拡張に伴う戦力強化を挙げ、「『台湾は中国の核心的利益であり、武力使用を放棄しない』と中国は強調しており、中台間に軍事衝突の危機はなお存在する」と指摘した。
昨年の中国の国防費は1064億ドルと台湾の約10倍で、ハイテク兵器やサイバー攻撃部隊の技術力が向上。戦闘機やミサイル部隊を沿海部に配備し、台湾に向けたミサイルは1400基余りに上るという。
また、海軍の遠洋進出や陸海空軍による合同上陸訓練を展開していると指摘。無人機などによる偵察能力の強化も挙げている。【10月8日 毎日】
******************
もちろん、中国にとって台湾進攻は軍事的作戦としての問題以外に、台湾をバックアップするアメリカとの関係もあって容易に動けるものではありません。
武力侵攻の可能性は潜在的圧力として常に残しつつも、先ずは経済的な関係を強め、やがては政治的な統一問題へと進み、将来は香港のような「一国二制度」的な対応で台湾を取り込んでいこう・・・というのが現実的な中国の対応となっています。
中台は1949年の分断後、当局間の直接協議は行われていません。
台湾では「海峡交流基金会」、中国では「海峡両岸関係協会」という「民間」の窓口が開設され、93年に初めて双方の窓口機関の「民間」トップ同士が会談し、窓口機関を通じた間接協議が行われています。
08年の国民党政権成立によって、一時中断していた両者の接触が再開・加速しています。
周知のように、台湾で国民党・馬英九政権が成立して以来、台湾は経済的活路を中国に求めており、その経済関係は急速に深まっています。
これまでは政治的な統一に関する問題については、台湾国内世論の反発もあって台湾・中国双方とも深入りは避けてきましたが、ここにきて、政治レベルでの関係強化を模索する動きも表面化してきています。
先のAPECでは、中台の両「官庁」トップの初顔あわせが実現しました。
****APEC:中国と台湾が急接近 政治レベル交流の可能性も****
インドネシア・バリ島で開催中のアジア太平洋経済協力会議(APEC)を舞台に中国と台湾が急接近した。
中国の習近平(しゅう・きんぺい)国家主席は6日、台湾代表の蕭万長(しょう・ばんちょう)前副総統と会談。中国で台湾政策を担当する張志軍(ちょう・しぐん)・国務院台湾事務弁公室主任と、台湾で対中政策を主管する王郁※(おう・いくき)・大陸委員会主任委員(閣僚)も同席し、中台の両官庁トップも初めて顔を合わせた。
新華社通信によると、習主席は「一つの中国」の枠組みを前提としつつ「両岸関係で処理が必要な問題については双方の担当部門が会談してもよい」として、対話の強化に意欲をみせた。「(中台の政治問題は)子々孫々に先送りすべきでない」とも呼び掛けた。
また、張主任は会談終了後、王主任委員に「訪中を歓迎する」と語りかけ、閣僚級の交流を提案した。中国と台湾の交流はこれまで民間団体を窓口にする形を取っており、今回の会談を機に政治レベルでの交流に格上げされる可能性もある。
台湾の馬英九(ば・えいきゅう)政権は、来年中国で開かれる予定のAPEC首脳会議の場を利用し、中台首脳会談を実現したいとの思惑があるとみられる。一方、中国側にも、馬政権の融和姿勢を背景に台湾政策を一段と進める狙いがありそうだ。 ※は王ヘンに奇 【10月8日 毎日】
*****************
【注目される来年の北京APEC】
中国は、“中国が主催国として北京で開く来年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で、政治対話に応じることを条件に台湾の馬英九総統を招待すると示唆した”【10月8日 産経】とのことで、議長国として習近平主席が主導権を握る来年の北京APECで、国際社会に統一工作の進展を誇示する狙いが指摘されています。
来年中国で開かれる予定のAPEC首脳会議が重視されるのは、以下のような中台の微妙な事情もあります。
****北京APECにらむ****
・・・・背景には、台湾の馬英九(マーインチウ)政権のもと、関係改善が進んだ事情がある。
馬氏は中台関係の改善で歴史に名を残そうとしていると見られている。
中国にも改善を政治対話につなげたい思惑がある。「中華民族の復興」を掲げる習氏は両岸問題に精通し、関係進展への意欲は強いとされる。
関係者が注目するのが、来年の北京APECでの中台首脳会談の可能性だ。APECは経済体の集まりとされ、台湾も1991年から「中華台北」として加わる。ただ、総統は首脳会議に出られず、経済閣僚や元高官が代表を務めてきた。
中国は台湾と「国と国」の関係との印象を与えるのを嫌い、第三国での首脳会談は受け入れない方針。
台湾では首脳会談だけのために総統が訪中すれば、「中国の一部と認めた」と批判されかねない。
APEC代表としての馬氏の訪中は、双方が受け入れやすいとの見方が出ている。
ただ、会談実現へのハードルが高いのも事実だ。今回、王氏と張氏の単独会談は中国側の反対で実現しなかった。中台が対等と受け止められるのを恐れたと見られる。代表会談でも「首脳会談について話はしなかった」(蕭氏)という。
首脳会談に踏み切れるほど台湾の対中感情が好転しているかもはっきりしない。環境が整わないまま会談すれば強い批判が噴出する恐れも。馬氏の支持率は低迷し、世論を二分するこの問題を動かす力はない、との見方もある。【10月7日 朝日】
*****************
【今後、中台政策当局間で定期会合】
当然、この問題は台湾側では重大な関心と警戒を呼んでいます。
****「官職で呼び合い」台湾評価 内政混乱 前進は困難****
APEC首脳会議を利用する形で、台湾と中国双方の政策部門トップである台湾の王郁●・行政院大陸委員会主任委員と、中国の張志軍・国務院台湾事務弁公室主任が初めて対面し言葉を交わしたことを台湾メディアは大々的に報じている。
今回の顔合わせでは互いに「主任」「主委」(いずれも閣僚級)と官職の肩書で呼び合い、張氏は「次は大陸で会いたい」と王氏に中国訪問を呼びかけた。
台湾の馬英九政権は2008年の政権発足以来、経済を軸に対中関係改善を進めてきた。
今回、台湾を「不可分の領土」とする中国が、台湾の担当者を官職の肩書で呼んだことは、台湾の「互いの統治権を否定せず関係を前進させるべきだ」の主張に沿うものと台湾側は歓迎。台湾メディアは「重大突破」と報じた。
しかし野党は「統一への加速」と強く反発している。
来年の北京APECに馬総統が出席し、中台首脳会談の実現につながる布石との見方も浮上する中、台湾では6月に締結した、中台相互の市場を開放するサービス貿易協定の立法院(国会に相当)での承認も進んでいない。
立法院長(国会議長)の司法干渉疑惑を機に内政は混乱し、民放世論調査では馬政権の支持率は11%と就任以来最低レベルで推移している。
来年末には統一地方選も控えているため、「野党の反発の中、中台両岸の政治対話の飛躍的な前進は困難」(与党・中国国民党幹部)との見方が根強い。●=王へんに奇 【10月8日 産経】
*******************
なお、“立法院長(国会議長)の司法干渉疑惑を機に内政は混乱”云々については、いささか国民党内部の「コップの中の嵐」的な騒動ですが、手打ちがなされたとも報じられています。
****台湾:馬総統と立法院長が和解の握手? 「双十節」式典で****
馬英九総統は10日、辛亥革命を記念した「双十節」の式典で、司法介入疑惑を巡り自ら辞任を迫った王金平・立法院長(国会議長)と笑顔で握手を交わした。台湾メディアは、激しい対立が続いてきた両氏の和解の証しではないかと注目している。
王氏と馬総統は式中、5回も笑顔で握手。周美青・総統夫人をはさんで座り、笑顔で言葉を交わし、声を掛け合って一緒に帽子をかぶる姿もみられた。式後、王氏は「氷がないのだから破るものもない」と語り、両者は対立していないことを強調。式場に入る前にも2人で何度も握手したことも明かした。
国民党から党籍剥奪処分を受けた王氏だが、党籍維持確認を求めた仮処分で下級審が維持を認め、馬総統は5日に最高法院(最高裁)に再抗告しないと発表。王氏は任期中、院長にとどまることが確実となった。【10月10日 毎日】
*********************
話を中台関係に戻すと、台湾の国民党・馬政権は、中国側の誘いを受け、政策当局間の定期会合を行っていく意向のようです。
****台湾「中国当局と定期会合」 政治対話踏み込みか****
台湾当局で対中政策を担当している行政院大陸委員会の王郁●(=王へんに奇)主任委員(閣僚級)は11日、中国の対台湾政策当局との間で今後、定期会合を行いたいとの意向を表明した。
王氏は、アジア太平洋経済協力会議(APEC)が開かれていたインドネシアのバリ島で、中国の国務院台湾事務弁公室の張志軍主任(同)と中台の主管当局高官として初顔合わせしたが、帰台後の同日の会見などで「(中国側との)相互訪問は一度きりにしない」と述べた。
双方が政権を認め合っていない中台だが、民間が中心だった経済交流のみならず、今後は当局間の直接交渉によって政治的な課題に踏みこむ可能性がある。
一方、中国側の張氏は同日、上海市内で開かれた中台政治関係について討議する初の「両岸平和フォーラム」の席で、「政治対立は棚上げが可能だが、いつまでも完全に回避できない」などと強調し、台湾側に政治対話に応じるよう求めた。張氏は王氏の大陸訪問を歓迎する意向も示した。中国は経済交流をステップに中台統一をめざしている。
台湾側の王氏は、張氏との主管当局のトップとしての初対面で、それぞれ「主委」「主任」との官職で呼び合ったことも強調。中台の高官や当局者は互いを「先生」など役職抜きで呼び合うのが通常で中国側があえて官職を容認して、台湾側に政治対話で譲歩を求めたとみられる。【10月12日 産経】
*****************
【難しい「現状維持」】
政治的レベルでの統一工作を進めていきたい中国側の意向は明瞭ですが、その流れに乗る台湾・国民党政権の考えにはよくわからないところもあります。
経済・政治において中国と台湾では影響力に差がありすぎます。接近すればするほど、両者間の引力は台湾を中国の中に取り込む形で強く作用します。
将来的に香港のような「一国二制度」で吸収されることを是としている者は多くはないでしょうが、関係を強化しながら台湾が望むような距離で、互いの主権を認め合うような形で止めるのは相当に難しいように思えます。
官職で呼び合ったことを喜んでいる場合ではないように思えるのですが・・・。
台湾の希望は「現状維持」が多いと言われていますが、「現状維持」のためには高度な政治的配慮が必要とされます。
****習近平体制でさらに不透明になる中台関係 ****
・・・台湾の人たちの間では、このような状況下で、二つの相反する傾向が見られるようになっている。
「自分たちは台湾人であり、中国人ではない」と考える台湾人はアンケートでは着実に増えている。
そして、大多数(61%)は「現状維持」に賛成し、「独立」賛成が15%、「統一」賛成が10%である。
他方、一つの注目すべき最近の調査によれば、52%という高い数字の台湾人たちが、台湾は将来中国に統一されることになるだろう、と予測している。
つまり、台湾の人たちの望む台湾の姿と彼らの予測する将来図は分裂的状況を示していることになる。
一方では、台湾人のアイデンティティーを固め、当面、現状維持を続けることを希望しつつ、他方、中国への依存度の大きさ、中国の強大な影響力の前に不安感にとらわれつつあることを示している。(後略)【7月15日 岡崎研究所 WEDGE】
******************
台湾の人々自身が、「現状維持」の難しさはよく認識しているようです。
****高速旅客船:台北と中国結ぶ「海峡号」が就航****
台北と中国福建省平潭(へいたん)島を結ぶ高速旅客船「海峡号」(6556トン)が就航した。中台間の旅客船で台北便は初めて。
中国は同島で貿易やハイテク産業などの「総合実験区」構想を進め、台湾に「共同開発」を呼びかけている。
2011年には平潭−台中便が就航しているが、主要都市・台北への就航で、中台交流が加速するとみられる。
台北便は週2便で、約170キロを約3時間で結ぶ。定員750人。第1便は9日、台北郊外の台北港に到着し、中国の団体旅行客ら約330人が降り立った。【10月11日 毎日】
****************