(9月25日 スーパーマーケットに並んだトイレットペーパー 写真で見る限り、一応商品は豊富にあるようにも見えます。(品質、価格、人気などはわかりませんが)
“入荷するたび、店頭に長い列”といったトイレットペーパー不足を報じる報道と現状がどの程度合致しているかは、慎重に見極める必要もありそうです。 “flickr”より By Sean Hawkey http://www.flickr.com/photos/hawkey/10089097316/)
【前途は多難】
ベネズエラでは、反米左翼でなにかと話題を提供することも多かったチャベス前大統領が死去し、後継者のマドゥロ氏がきわどい数字で弔い合戦を制して(マドゥロ氏の得票率は50・66%、野党カプリレス氏は49・07% 野党側は不正選挙を訴えています)4月に大統領に就任しました。
しかし、“チャベスなきチャベス体制”を背負うことになったマドゥロ大統領の前途は厳しいものがあると、就任当時から指摘されていました。
****ベネズエラ「チャベス後継」厳しい船出****
■モノ不足で首都混乱/不正疑惑…続く反発
3月に死去した南米ベネズエラの反米左翼、チャベス大統領の後継者であるマドゥロ大統領が4月に就任して以降、厳しい“船出”を余儀なくされている。
これまで過去50年間なかったとされるトイレットペーパーの買い占め騒動が起きるなど、モノ不足が顕著。
また4月の大統領選で敗北した野党候補からは「不正投票の末の勝利」と今も激しく突き上げられている。
政界のライバルとの対立も起きているとされ、前途は多難だ。
ここ数週間で首都カラカスの小売店からは牛乳や小麦粉、バターといった日常品が次々と消えた。月に1億2500万個消費されるトイレットペーパーも入手困難で、政府は5千万個を緊急輸入すると表明するとともに、「モノ不足は野党の陰謀」と主張している。
◆根源には価格統制
これに対して経済専門家らは、貧困層のために価格を低く抑える価格統制が問題の根源にあると指摘する。「たとえばフケ防止の2千円の高額なシャンプーを作っても、(価格統制で)300円でしか売れなかったら、企業側はバカらしくて生産しなくなる」(外交筋)というわけだ。
外貨流出を恐れる政府が、殺虫剤や肥料などの商品を輸入したい貿易業者に対し外貨供給を渋る通貨管理もモノ不足の背景にあり、政府は経済対策の見直しを求められている。(後略)【5月31日 産経】
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【モノ不足】
経済情勢については、その後も厳しい情報が報じられています。
****パン・ワイン不足深刻、教会儀式にも事欠く国****
ロイター通信によると、政治混乱に伴う物資不足が続くベネズエラで、カトリック教会の儀式に使うワインの使用を制限する動きが出ている。
地元産の専用ワインがブドウの不作で不足し、外貨管理を受けて輸入業者も代替用の外国産ワインを購入できないためだ。儀式に使うパンも足りないという。
同国ではトイレットペーパーなど日用品の不足も深刻だが、マドゥロ大統領は「反対派が物資をため込んで政権を妨害している」と批判するばかりで解決策は見えず、混乱は続きそうだ。【6月3日読売】
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モノ不足の例示として挙げられるトイレットペーパーの供給は、いまだ改善していないようです。
狂乱物価のときのような一時的な超過需要ではなく、供給側に価格統制や外貨規制という構造的要因が指摘されています。
政府は、左翼政権らしく、工場の政府管理で事態をしのごうとしています。
****トイレットペーパー不足のベネズエラ、工場を政府管理下に****
生活必需品不足が深刻化するベネズエラで、アレアサ副大統領は21日、北部アラグア州のトイレットペーパー工場を一時的に政府の管理下に置くと発表した。
生産、流通体制を見直して売り惜しみを防ぐのが目的だという。
同国では今年初めから、米や油、トイレットペーパーなど生活必需品の不足が目立っている。首都カラカス市内ではトイレットペーパーが入荷するたび、店頭に長い列ができる。
業者や野党は品不足の原因として、政府による価格統制や外貨規制を指摘。生産者の多くが採算の取れない状況に陥っていると主張してきた。
これに対して政府は、民間企業による売り惜しみやメディアの扇動が原因との立場を示す。マドゥロ大統領は今月13日、国内の「経済戦争」に勝つためとして、「経済からの国民防衛」と称する政府機関を新設した。【9月22日 CNN】
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【新聞用紙も不足 言論統制の批判も】
トイレットペーパーだけでなく新聞用の紙も不足して、新聞の発行も難しくなっています。
****ベネズエラの新聞に紙不足の危機迫る****
チャベスは死んでもチャベスの政策は残されたまま
トイレットペーパーや料理用オイルなど生活必需品の品不足が深刻化していたベネズエラで、今度は新聞が存亡の危機に立たされている。
ベネズエラの新聞業界は印刷用紙の供給を輸入に頼っているが、輸入業者が必要な外貨を調達できず、用紙を確保できないのだ。
国内の地方紙の半数以上で、数週間以内に紙の在庫がなくなるという。既に倒産したり紙面を減らした新聞も少なくない。
危機的な状況に至った原因は、半年前に死去したチャベス元大統領が遺した経済政策にある。チャベスは03年、国内資本の流出を防ぐ目的で為替管理制度を導入し、輸入業者が外貨を取得するのを厳しく制限した。
外貨取得に当たって輸入業者はまず、輸入したい商品が国内で生産されていないことを示す証明書を取得しなければならない。だが、当局は証明書をなかなか発行しない。証明書に基づいて外貨を提供する外貨管理委員会(CADIVI)も、官僚主義と汚職に蝕まれている。
チャベス政権によるメディア弾圧に苦しめられたベネズエラの新聞社が、チャベスがいなくなっても、その政策のおかげで立ち行かなくなるとは、なんとも皮肉な話だ。【9月17日号 Newsweek】
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不足している紙は、政府系新聞社以外への供給がしぼられ、すでに3紙が廃刊に追い込まれたとのことで、新聞用の紙の不足を使った言論統制との批判もあります。
【暗殺計画と大使追放合戦】
国内経済がうまくいっていないときは、国内外に“敵”をつくってこれを攻撃し、責任を転嫁するというのが政権の常套手段です。
****ベネズエラで大統領暗殺計画か、政府が阻止を発表****
ベネズエラ政府は26日、ニコラス・マドゥロ大統領の暗殺計画を阻止し、容疑者2人を逮捕したと発表した。
逮捕された2人は、コロンビア前大統領からの指示でマドゥロ大統領暗殺を計画していたとされる。
会見で暗殺計画の阻止について発表したミゲル・ロドリゲス内相によると、ベネズエラ当局は13日、コロンビアのアルバロ・ウリベ前大統領と共謀し、マドゥロ大統領の暗殺を計画していた10人からなるグループに所属するコロンビア人の容疑者2人を逮捕したという。
だが4月の大統領選でマドゥロ氏に敗れた野党指導者のエンリケ・カプリレス氏は、このたびの政府発表について、「こんな話を信じる者は誰もいない」と一蹴した。
ロドリゲス内相は6月にも、マドゥロ大統領がコロンビアと米国による別の暗殺計画の標的となっていたと発表していた。
ベネズエラ政府はこれまでにも、故ウゴ・チャベス前大統領が暗殺計画の標的となったと度々発表していた。どうやらチャベス氏から後継者として指名されたマドゥロ氏に政権が引き継がれた後も同様の路線をたどっているようだ。【8月27日 AFP】
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確かに親米右派のコロンビア・ウリベ前大統領の時代、ベネズエラ・チャベス大統領とは激しい確執もありましたが、今になって暗殺というのは・・・いささか眉唾の話に思えます。
やはり“敵”の本命はアメリカです。
アメリカ外交官らが、野党勢力に資金援助を行い電力システムと経済を破壊する活動を奨励したとして、在ベネズエラ米臨時代理大使と大使館員2人の追放を命じています
****ベネズエラ大統領、米代理大使の追放を指示****
ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領は9月30日、野党勢力と協力して破壊工作活動を画策したとして、在ベネズエラ米臨時代理大使と大使館員2人の追放を命じた。
マドゥロ大統領は、ケリー・キダーリング米臨時代理大使と米大使館員2人に対し48時間以内に出国するよう通告、外相に3人の追放を命じたと述べた。
米国とベネズエラは2010年以降、大使を交換しておらず、キダーリング臨時代理大使が在カラカス米外交官で最高位となっていた。
マドゥロ大統領は、米外交官らが「ベネズエラの極右」──同大統領は野党勢力をこう呼ぶ──と会い、野党勢力に資金援助を行い「電力システムと経済を破壊する活動を奨励」したと述べている。
ベネズエラでは長年にわたって度重なる停電が発生しており、政府は過去にも、野党勢力が停電や経済的破壊活動を企てたとして非難していた。【10月1日 AFP】
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アメリカは報復措置として、1日、首都ワシントンに駐在するベネズエラ代理大使と外交官2人の国外退去を命じました。
6月には“ケリー米国務長官は5日、米州機構(OSA)の総会が開かれている中米グアテマラのアンティグアでベネズエラのハウア外相と会談し、冷却化していた両国関係を改善することで一致した。双方の関係は反米左翼のチャベス前政権時代、“大使追放合戦”に発展していた。”【6月6日 産経】という関係改善の流れもありましたが、“大使追放合戦”に戻ってしまいました。
【忠実なチャベス路線】
トイレットペーパー工場の政府管理、新聞用紙供給を制限する言論統制、隣国が関与した暗殺計画の主張、アメリカに操られた経済破壊との批判・・・・マドゥロ大統領はチャベス前大統領のあとを忠実に守っているようです。
ただ、これでは電力不足やインフレ(昨年のインフレ率)、国内総生産(GDP)の約半分に当たる約1500億ドル(約15兆3000億円)に上る公的債務という現状の打開はできません。
もっとも、原油価格が高騰すれば、ベネズエラの財政は一気に潤います。
しかし、そうしたことで危機を切り抜けることが、長期的に見てベネズエラのためにいいことかは義婚です。
また、“虎の子”の原油についても、“国有石油会社(PDVSA)の昨年の生産量は、施設老朽化に伴う爆発事故や運営の非効率性などで、1999年のチャベス政権発足時の約3分の2の250万バレル(日量)まで低下している。シェールガス開発を進める米国がベネズエラ産原油輸入を減らす可能性もある。全輸出額の94%を占める石油の輸出が低下すれば、貧困対策実施に大きな影響が出るのは必至だ。”【4月16日 産経】という状況です。