(TVドラマ「24」 無制限の通信傍受で市民社会を脅かすテロと戦う連邦政府機関CTU)
【インターネットや携帯電話などのほぼ世界中の通信記録を対象に収集、分析】
スノーデン氏による暴露によって公となったアメリカによる通信傍受問題は、その後もブラジルのルセフ大統領のメール傍受問題などが続いていましたが、ここにきて米国家安全保障局(NSA)がフランス国内で一般市民の通話7000万件の通話を極秘裏に記録していたと報じられた件、更にNSAによるドイツ・メルケル首相の携帯電話傍受問題ということで、一気に欧州におけるアメリカへの不信感という形で広がっています。
英紙ガーディアン(電子版)によれば、NSAは2006年ごろ、世界の指導者35人の電話を盗聴していたとも報じられています。
これに関しては、アメリカの新聞は、ことしの夏に始まった内部調査で世界の指導者に対する通信傍受の実態が明らかになったあとその多くが中止されたとしたうえで、通信傍受の対象などは情報機関が独自に判断し、オバマ大統領は知らなかったと伝えています。
NSAによる通信傍受の概要については、以下のように説明されています。
****米の傍受、海底ケーブル通じ NSA、全世界の通信対象****
米国家安全保障局(NSA)が少なくとも三つのプログラムを組み合わせることで、インターネットや携帯電話などのほぼ世界中の通信記録を対象に収集、分析していたことがNSA元幹部らの証言でわかった。
米中央情報局(CIA)のエドワード・スノーデン元職員が内部告発した活動の全体像が浮かび上がった。
朝日新聞はNSAで実際に通信傍受などに携わった元職員6人に米国でインタビューした。
それによると、NSAは「アップストリーム」というシステムを使い、サンフランシスコやニューヨークなどの付近で主に海底の光ファイバーケーブルの情報を直接収集していた。
北米には基幹ケーブルなどのネット設備が集中し、世界各地域から送信されるデータの8割以上が経由する。こうした利点を活用し、情報を写し取るものだ。
NSAを巡っては、グーグルやフェイスブックなどの通信事業者の協力を得て業者のデータベースから情報を取り込む「プリズム」が明らかになっている。
アップストリームはプリズムの情報と合わせ、通信時刻や相手先といった「メタデータ」を集めていた。この二つのシステムで、ほぼ世界中の通信データを集めることができるという。
さらに「エックス・キースコア」(XKS)と呼ばれるプログラムは、メタデータだけでなく、メールの内容やサイトの閲覧履歴などまで収集できる。アップストリームやプリズムで得たデータから特定の調査対象者をあぶり出し、中身も傍受していたとみられる。
NSA元幹部で2001年まで分析官を務めたウィリアム・ビニー氏(70)は「アップストリームで光ファイバーの情報をリアルタイムで集め、足りない部分をプリズムで補った。その情報をもとに傍受対象者を絞り込んだ。XKSを使えば情報の中身も見られる」と証言。米国民を含む、ほぼ世界中のネット利用者が対象だったという。ほかの元幹部もこうした仕組みを認めた。
一方で、3年前にNSAのナンバー3で退職したリチャード・シェーファー氏は「メタデータをもとに通信のパターンをつかめば、テロリストのつながりがわかる。許可無く通信の中身までは見ていない」と説明している。【10月28日 朝日】
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当然ながら、独仏はこうした同盟国に対するアメリカのスパイ行為に不快感を示しています。
***NSA盗聴:独仏、米情報機関との協力関係を年内に見直し****
米国家安全保障局(NSA)がメルケル首相の携帯電話を含め独仏で大規模な盗聴を行っていた問題で、ドイツのメルケル首相とフランスのオランド大統領は24日、独仏が年末までに米国と情報機関の協力枠組みを見直す方針を明らかにした。欧州連合(EU)首脳会議の場で述べた。他の加盟国が望めば、独仏の見直しに参加できるという。
また独仏は、NSAの盗聴問題を機に、米EUの自由貿易協定協議に連動して今年7月に設置したデータ保護に関するワーキンググループでの議論を加速させる意向も表明した。
メルケル首相は「パートナーの間では信頼と尊敬が必要。一方的な関係ではないはず」と述べ、情報機関の活動の必要は認めながらも「不信があれば、協力がより難しくなる」と話した。(後略)【10月25日 毎日】
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【アメリカの反論:米国の情報活動こそが欧州市民の安全を保っている】
オバマ大統領は前出のように“知らなかった”という形で火消しに懸命ですが、面白いのは、外交的に配慮された公式見解ではないアメリカ側の本音とも言える反論です。
通信傍受して何が悪い。アメリカがそうした活動を行っているおかげで欧州の安全は保たれているのじゃないか?むしろ感謝してほしい・・・という声です。
****「欧州は米スパイ活動に感謝すべき」、米議員が反論****
欧州の人々は、米国のスパイ活動に感謝するべきだ――。米情報機関がドイツのアンゲラ・メルケル(Angela Merkel)首相をはじめ同盟諸国の首脳や一般市民の通信を傍受していたとされる問題で、米議員らが27日、殺到する批判にこのように反論した。
米国の情報活動こそが欧州市民の安全を保っているのであり、むしろ各国とも自国の情報活動の改善に努めるべきだと主張している。
米国家安全保障局(NSA)が世界数十か国の首脳や市民の通信を傍受していたとされる問題をめぐっては、各国政府が相次いで怒りを表明。欧州各国の首脳は先週末、今後の情報収集に関して、同盟関係を重視したうえで対テロ活動を維持する新しい協定を結ぶよう米政府に求めた。
しかし、米下院情報委員会のマイク・ロジャース委員長(共和党)は米CNNテレビで、欧州各国の反応について「誠意がない」と断言。誤った報道をしているとしてメディアも批判し「本来のニュースは、仮に米情報機関が国内外で国益を守るための情報収集活動をしていなかったらどうなるかということだ」と述べた。 また、米下院テロ対策・情報小委員会のピーター・キング委員長も米NBCテレビで、バラク・オバマ大統領はNSAの通話傍受プログラムの件で謝罪するのはもうやめるべきだと指摘。「現実に、NSAは数千人もの命を救ってきた。米国内だけでなく、フランスやドイツ、欧州全域においてだ」と主張した。
ロジャース委員長は、米国の通信傍受のおかげでどれだけ自分たちの安全が守られているのか、もしフランスの市民が正しく理解したら、祝杯を挙げるだろうとコメント。「拍手喝采でシャンパンのボトルを開けるだろう。通信傍受プログラムは良いものだ。フランスも米国も、そして欧州の同盟国全てを守っている」と述べている。【10月28日 AFP】
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【TVドラマ「24」に見る通信傍受、目的と手段の関係】
私事ですが、以前放映されていたアメリカTVドラマ「24」にはまっており、ネットの動画配信で毎日2~3話を観ています。
放映時に人気のあったドラマですからご存知の方が多いと思いますが、架空の連邦政府機関CTU(テロ対策ユニット)のロサンゼルス支局の連邦捜査官の活躍を描くドラマです。
核爆弾・生物兵器・化学兵器などでアメリカ市民社会を脅かすイスラム過激派などのテロ組織との戦いが基軸ではありますが、一方で、テロを利用して、あるいはテロ組織と裏で通じて危機を利用する形でアメリカの国是とされる自由・人権を制限して「強いアメリカ」をつくろうとする政権内部の野望も同時進行することが多く、“不死身のヒーロー”ジャック・バウアーはテロ組織と同時に、こうした政治的陰謀とも戦います。
このドラマの話を持ち出したのは、NSAの通信傍受問題で、「24」で描かれる世界における情報管理のすさまじさを連想したからです。
ドラマでは、ほぼすべての携帯・電子メールはCTUにより傍受可能で、事件が起きると直ちに追跡され、内容・発信元が明らかにされて攻撃チームが現場に向かいます。
また、地上の動きは衛星画像で監視可能で、目標の車を衛星で追いかけ、アジトを特定します。
容疑者の写真が得られると、画像ファイルでチェックされ、その正体が明らかにされます。
もちろんドラマの世界ではありますが、いったいどこまでこうした通信傍受や個人情報管理は現実に行われているのだろうか?という疑問も生じます。
メルケル首相もこのドラマを観ていれば、党務用とは言え、セキュリティー機能の弱い携帯など使用しなかったのでは・・・。
このドラマで常に問題となるのは、個人の権利に対する配慮と国家の利益・公共の安全の衝突です。
国家の利益・公共の安全という大きな目的のために、個人の権利を制約する、ときに生命を犠牲にすることという手段がどこまで許されるか?という問題です。
先述のように、社会全体の自由・人権を制限しても危機に攻撃的に対処する「強いアメリカ」をつくろうとする陰謀に対して、主人公バウアーは果敢に戦うのですが、その彼の闘いぶりは、一方でまた個人の権利を無視して行われます。
24時間の出来事を1時間ごとの24回に分けて描くというドラマの性格上、毎回のエピソードでは分刻み、秒刻みの山場が設定されています。従って、情報を容疑者から聞き出すのに時間をかけることはできません。
このドラマで「拘束した容疑者を尋問する」というのは“拷問する”ということです。
拷問も時間があれば神経を刺激するような薬物を使用して“人道的”に行われますが、あと20分で核爆弾がどこかを襲う・・・といった場面では、容疑者の指を切り落とすといった拷問で口を割らせるといったこともあります。
ほぼ毎回のようにこうした拷問場面が登場します。
テロで数十万人の市民が犠牲になるという場面では、容疑者の権利など問題にしてはいられないということです。
“テロリストや参考人を締め上げるジャックの拷問シーンはシリーズの名物と化しているが、これを真似る若いアメリカ軍兵士が増え、陸軍のパトリック・ギネガン准将が撮影現場でその悪影響について苦言を呈した。”【ウィキペディア】
通信傍受という“国家の利益”のためには、個人情報といった権利が制約されるのは仕方がないことなのか・・・そういった話にも通じる、ドラマ内の目的と手段の関係です。
【機能していないチェック体制】
話を通信傍受問題に戻すと、不当に個人の権利が侵害されないようにシステム上は予防策が講じられていますが、実際はほとんど機能していないようです。
****傍受大国、遠い透明性 「令状なし」を合法化****
米国家安全保障局(NSA)による情報収集が、米国の威信を揺るがし続けている。世界中のデータを集め、同盟国の通信の傍受さえ明らかになった。浮かび上がってきたのは、米国が自ら理想として掲げてきた民主主義や透明性、人権の尊重から遠く離れた姿だ。
「世界におけるアメリカのリーダーシップは、その民主主義と透明性にかかっている」
今年8月、オバマ大統領は、NSAの情報収集活動の見直しを宣言した。スノーデン元職員による告発以来、この問題でずっと守勢に立たされてきた政権を象徴する会見だった。
だが、オバマ政権こそが、こうした秘密の情報収集活動を支えてきたのではないか。
米通信大手AT&Tの元技術者マーク・クラインさん(68)も、そう考える一人だ。(中略)
05年に一部報道でNSAの令状なしの傍受が明らかになると、既に退職していたクラインさんは、通信傍受に反対する団体に内部資料を持ち込み、「プライバシーを侵害された」という訴訟に協力した。
ところが、08年に改正案が成立した「対外情報監視法(FISA)」が立ちふさがる。ブッシュ政権下ではホワイトハウスの判断だけで行われていた令状なしの傍受が、一定の条件を満たせば合法となり、協力する通信会社も免責された。結果的に訴訟は敗れた。
法改正を進めたのはブッシュ政権。だが、上院議員だったオバマ氏も関与した。大統領候補を選ぶ民主党予備選で改正案に反対の姿勢をとりながらも、指名を確実にしてからは賛成に転じた。クラインさんは嘆く。「改正案はオバマの助けで議会を通過したんだ」
オバマ政権下で、改正法で確保した権限をもとにNSAの活動が続いた。最近になって、ドイツのメルケル首相ら世界の首脳の盗聴も発覚。メルケル氏の盗聴は最近まで続き、10年にNSAから知らされたオバマ氏も許可していた、という報道も出ている。各国が米国への批判を強める。
「歴代政権で最も透明性を高める」。就任時のオバマ氏の宣言は、色あせた。
■行き過ぎ防止、機能せず
FISAとは本来は、議会と裁判所がチェックすることで、秘密性を保持しつつ情報機関の行き過ぎを防ぐ狙いの法律だ。
NSAなどが米国内や米市民を対象に情報収集をする場合、特別な裁判所への令状請求や議会への報告を義務づけている。2001年の同時多発テロ以降、アルカイダなどのテロ組織に重点を置けるよう、たびたび改正されてきた。
FISAが定める「特別な裁判所」とは、首都ワシントンの連邦裁判所の一角にある「対外情報監視裁判所(FISC)」だ。NSAの活動について問われると、オバマ氏は「乱用が起きないよう裁判所が監視している」と説明してきた。
しかし、FISCの審理に出席できるのは政府側の弁護人だけ。内容や決定は原則非公開で、「秘密裁判所」とも呼ばれる。11人の裁判官は全員、最高裁長官が指名し、大統領や議会も選任に関与しない。
FISCが議会に報告する年間統計によると、12年にあった傍受に関する令状請求1789件のうち、認められなかったのは政府が撤回した1件だけ。「NSA側を追認しているだけ」という批判が絶えない。(後略)【10月28日 朝日】
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【同盟国日本は?】
通信傍受されていた“世界の指導者35人”に日本の首相が含まれているのか、イエスマンの日本は傍受の必要もなかったのか・・・そこは知りませんが、アメリカの同盟国日本が協力を拒んだ・・・という話もあるようです。
****米国:日本に傍受協力打診 11年ごろ、中国情報収集か****
米国の情報機関、国家安全保障局(NSA)が2011年ごろ、日本政府に対し、光ファイバーケーブルを使ってやりとりされる電子メールや電話などの個人情報の傍受に協力するよう打診していたことが26日、分かった。複数の関係筋が明らかにした。
中国の国際光回線をはじめ、アジア太平洋をつなぐ多くの光ケーブルは日本を経由することから、中国情報の収集が狙いだったとみられる。
日本側は法的制約や情報要員の不足を理由に要請に応じなかったという。【10月27日 毎日】
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真相は・・・わかりません。