(アジアと欧州を結ぶ海底トンネル 【10月11日 建設新聞公式記事ブログ】)
【2つの大陸を結ぶ世界初の海底トンネル】
トルコで、アジアと欧州を結ぶ海底トンネルが完成しました。
あらかじめ海底に溝を掘っておき、そこにケーソン(沈埋函)を沈めて土をかぶせる沈埋(ちんまい)工法でつくられ、この海底部分の工事は主に日本企業が担当しています。開通式には安倍首相も出席しました。
****ボスポラス海峡トンネル開通=「150年来の夢」、欧州・アジア結ぶ―トルコ****
オスマン帝国のスルタン(君主)が構想した欧州とアジアをつなぐボスポラス海峡の海底トンネルが150年越しに実現した。トルコのエルドアン首相や安倍晋三首相らが出席し、開通式典が29日、同国最大都市イスタンブールで開かれた。
ボスポラス海峡の海底トンネルは、オスマン帝国のスルタン、アブデュルメジト1世が1860年に構想したのが始まりとされるが、当時の技術では実現に至らなかった。エルドアン首相は式典で「150年来の夢がかなった」と胸を張った。
トンネルは長さ約13.6キロで、地下鉄が乗り入れる。ボスポラス海峡にはすでに自動車用のつり橋が2本架けられている。しかし、急激な経済発展に伴う交通量の増大で、市民は慢性的な渋滞に悩まされている。トンネル開通で渋滞解消が期待される。
トンネルは、地上で作ったパーツを海底に沈める工法としては、世界で最も深い水深約60メートルに位置する。工事は日本の大成建設が手掛けた。【10月30日 時事】
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“トンネルは北アナトリア断層から18kmしか離れていないため、心配する技術者や地震学者もいる。1万人以上が死亡した巨大地震が知られているだけでも2桁は発生している。30年以内にマグニチュード7.0以上の地震に見舞われる可能性が最大77%になると科学者により見積もられている”【ウィキペディア】とのことですが、当然、そのあたりは対策を講じたうえでの計画でしょう。
このトンネル計画は、かつてイスタンブール市長を務めたことがあるエルドアン首相が首相就任後に推し進めたもので、“胸を張る”のもわかります。
安倍首相は5月に続き、今年2回目という異例のトルコ訪問ですが、別に開通式参加だけのためではなく、原発輸出のトップセールスが主目的です。
****首相トップセールス実る…トルコ原発輸出合意****
安倍首相は29日夜(日本時間30日未明)、トルコのエルドアン首相とイスタンブールで会談した。
これに先立ち、トルコの黒海沿岸シノップに原子力発電所4基を建設する計画をめぐり、三菱重工業などの企業連合とトルコ政府が合意書に調印した。両首相は合意を受けて、歓迎の意を表明した。
今年5月に続き、2回目のトルコ訪問となった安倍首相による「トップセールス」が実ったもので、日本の原発輸出は東京電力福島第一原発事故以降、初めて。
安倍首相は会談後の共同記者会見で「原発事故の教訓を世界で共有することにより、世界の原子力安全の向上を図っていくことは我が国の責務だ」と強調した。
エルドアン首相は「原発を必要と信じている。次のステップに進めたい」と語った。
両首相は、原子力分野の技術開発や安全性向上を担う人材育成などを目的に、トルコに科学技術大学を共同で設立することでも合意し、原子力エネルギーと科学技術分野の協力に関する共同宣言を発表した。【10月30日 読売】
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福島の事故をコントロールできず、原発がすべて停止している日本が原発輸出に精を出すことへの異論が世間にあるところですが、その話は今日はパス。
【世俗主義トルコが支援するシリア反体制派で過激派台頭】
好調な経済を背景に“150年来の夢”を実現し、鼻息の荒いエルドアン首相ですが、海底トンネル建設と同じ流れにある再開発計画推進で、その強引とも言える政治手法への抗議行動が6月に全国に広がりました。
かつてイスラム民主主義のモデル国とも見られ、イスラエル批判などの独自の外交でその存在感が高まったトルコ・エルドアン政権ですが、ここにきて内外の評価が揺らいでいることは、10月9日ブログ“トルコ・エルドアン首相の「民主化政策」 進むイスラム化 変わらぬ強権姿勢”(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20131009)でも取り上げたところです。
シリア内戦については、早くから反体制派支持の姿勢を明確にして、国際的支援体制をリードする立場にありましたが、そのシリア問題でも微妙な状況になっています。
****トルコ誤算 シリア、ジハード勢力侵食 反体制派支援…砲撃され初報復****
シリア反体制派を支援してきたトルコと、反体制派に参加する国際テロ組織アルカーイダ系などのジハード(聖戦)主義勢力との緊張が高まっている。
今月には初めて、トルコ領内に迫撃砲弾が着弾した報復としてジハード勢力側を砲撃。トルコはサウジアラビアやカタールとともに反体制派を庇護(ひご)してきたが、ここにきて自らが成長を手助けしたジハード勢力を統制できない“誤算”に直面している。
アサド政権に対する武装闘争が激化した2011年後半以降、シリア反体制派にはイラクやアフガニスタンで戦闘経験があるジハード主義者が多数参加した。反アサド政権の急先鋒(せんぽう)であるトルコは、それらの戦闘員が領内から出撃するのを黙認するなど、さまざまな便宜を図ってきた。
しかし、それらのジハード勢力の中から、「ヌスラ戦線」や「イラク・シリアのイスラム国(ISIS)」のようにアルカーイダへの共感を公言する組織が台頭し、シリア北部を中心に支配地域を拡大。他の反体制派部隊との抗争も相次ぎ、国境地帯の治安悪化などにもつながっている。
そんな中、トルコの英字紙トゥデーズザマン(電子版)によると、同国当局では最近、「(ジハード勢力への支援は)戦術的なミスだった」との声が上がっている。
トルコ南部では今月15日、国境のシリア側にあるISIS拠点から迫撃砲弾4発が飛来し、トルコ軍が初めて直接の報復に踏み切った。
反体制派を積極支援してきたのはサウジやカタールも同様だが、トルコはシリアと国境を接する分、ジハード勢力伸長の影響をより強く受けている形だ。
アルカーイダ系を含むイスラム教スンニ派のジハード勢力にとり、アラウィ派主導のアサド政権を打倒することは、敵である他宗派・宗教との戦いの一環であり、最終目的ではない。トルコ側には、シリア内戦で力をつけたジハード勢力がいずれ、世俗主義を国是とするトルコにも牙をむくのではないかとの危惧も生まれているとみられる。
トルコはアルカーイダ系への直接支援を否定しているが、内戦下で支援対象が「穏健」か否かの線引きをするのは困難だ。同紙によれば、9月のシリア問題に関する協議で、トルコが米国からアルカーイダ系への支援を非難される場面もあったといい、トルコに対する国際社会の目は厳しさを増している。【10月30日 産経】
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国内的にはイスラム主義を強めているとの批判があるエルドアン首相ですが、政治体制としては政治と宗教を分離するという大枠にあるトルコですから、イスラム原理主義とは相いれないものがあります・・・、と言うか、あるはずです。
もっとも、イスラム穏健派と過激派・原理主義の境目は曖昧でもあります。
イスラム穏健派という立場のエルドアン首相が心中で、イスラム原理主義と世俗主義野党のどちらにシンパシーを抱くのかは知りません。
【欧州に受け入れられないトルコ 苛立ちも・・・】
トルコは長年EU加盟を求めて交渉を続けていますが、進展していません。
****トルコの加盟交渉、来月再開=3年半ぶり―EU当局者****
欧州連合(EU)当局者は21日、トルコのEU加盟交渉が「11月に再開される公算が大きい」と述べた。22日に正式発表する予定。交渉は2010年6月を最後にストップしており、再開されれば約3年半ぶり。
EUは当初、トルコとの交渉を6月に再開する方向で調整していたが、エルドアン政権が反政府デモに強権的な姿勢で応じたため、人権を重視するEUは、交渉再開を先送りした。【10月21日 時事】
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トルコの加盟交渉が進まないのは、国内の人権問題やキプロスをめぐる外交問題などのハードルがあったためですが、基本的にはイスラム教国トルコという異文化に対する強い抵抗が欧州側にあるためと思われます。
トルコがEUに参加した場合、トルコ経由で中東のイスラム教徒が欧州に流入してくるという不安もあります。
なんだかんだとハードルを高くする欧州側に、「結局、認めるつもりはないのだろう・・・」と、トルコ側も熱意が冷めてきているのではないでしょうか。
ただ、「アラブの春」が順調に推移していれば中東経済圏も拡大し、民主化された中東を牽引する形で、欧州に依存しない道を進む・・・ということもあったのでしょうが、現状ではやはり欧州を意識せざるを得ないところです。
トルコは北大西洋条約機構(NATO)の加盟国ですが、下記の事案にも微妙な欧州・西側諸国との距離感・苛立ちがあらわれているように思えます。
****トルコ 中国製防空システム検討 NATO、相互運用に懸念 再考促す****
北大西洋条約機構(NATO)の加盟国トルコが初の防空システム導入に向けて中国企業と交渉する方針を示し、米国やNATOが懸念を強めている。中国製システムを採用すれば、NATO内部での運用に影響が出る恐れや、セキュリティーに関する情報が流出する恐れがあるためだ。
システム導入では米欧の企業も受注を争ったが、トルコ政府は9月下旬、「中国精密機械輸出入総公司」(CPMIEC)と共同生産に向けて交渉すると発表した。落札額は34億ドル(約3300億円)で、トルコ政府の見積もりや他社の提示額を大幅に下回った。
NATOでは装備調達は基本的に加盟国の判断に任せられているが、他の同盟国の装備との互換性は重要視される。中国製では相互運用に影響が出かねず、ラスムセン事務総長は22日、「トルコはNATOの立場を理解していると信じている」と再考を促した。
トルコにはNATOが進める欧州ミサイル防衛(MD)の早期警戒レーダーが設置される予定で、現在は隣国シリアからの攻撃に備え、NATOがパトリオット地対空ミサイルの発射システムを国内に配備中だ。
CPMIECは大量破壊兵器拡散に関して米国の制裁対象になっており、防衛情報の流出などの懸念もある。米国の駐トルコ大使は「深刻な懸念」を表明し、トルコ側と中国製システムを導入した場合の影響の評価作業も始めた。
トルコは、CPMIECとの契約は最終決定ではないとしている。ただ、同社は一部の生産はトルコ国内で行うとしており、防衛産業育成を目指すトルコの目標とも合致する。政府は同社の落札は商業的観点からの判断だと強調している。
エルドアン首相は「同盟国にはまだロシア製武器を使っている国もある」と述べ、NATOの見解は「(最終判断の)決定的な要素にはならない」としている。【10月27日 産経】
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海底トンネルでアジアと欧州をつなぎましたが、トルコの国際的立ち位置は中東と欧州の間で微妙なものがあります。