孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  総選挙圧勝を目指すスー・チー氏 選挙戦に垣間見える「真の変革」への疑問も

2015-09-09 23:09:56 | ミャンマー

(スー・チー氏の人気は未だ圧倒的なものがあるようです。 選挙戦では無名の候補者ではなく「スーチーの党」を前面に押し出す戦術です。【9月9日 WSJ】)

【「数十年ぶりに国民が真の変革をもたらすチャンスを得る。逃すわけにはいかないチャンスだ」】
ミャンマーでは11月8日の総選挙を目指した選挙戦がスタートしています。

現行憲法のもとで大統領選出馬を阻まれているアウン・サン・スー・チー党首率いる最大野党・国民民主連盟(NLD)が優勢と言われるなかで、どこまで議席を伸ばせるか、軍人枠の制約を乗り越えて単独過半数を制して政権を獲得できるかが注目されています。

****ミャンマーで選挙戦スタート=11月投票、スー・チー氏野党が優位****
11月8日に総選挙が実施されるミャンマーで8日、選挙戦が正式にスタートした。選挙運動期間は11月6日までの60日間。テイン・セイン大統領の与党・連邦団結発展党(USDP)とアウン・サン・スー・チー党首率いる野党・国民民主連盟(NLD)の二大政党を軸に争われるが、NLDが上下両院の過半数を制し、政権を奪取できるかが最大のポイントとなる。

上下両院選は、計664議席のうち25%を占める軍人議席を除いた498議席を争う。ミャンマーの大統領は両院を合わせた全議員の投票で決まるため、NLDが政権を取るには、両院の民選議席の約3分の2に当たる333議席を獲得する必要がある。

ミャンマーは小選挙区制を採用しているため、「その時の風の向き方で地滑り的勝利が起きやすい」(外交筋)とされる。1990年以来の総選挙参加となるNLDは、同年の選挙で約8割の議席を獲得。今回も選挙戦を優位に進めるのは確実とみられている。

スー・チー党首は8日、NLDのフェイスブックに掲載されたビデオメッセージで、今回の総選挙について「国にとって決定的な転換点となる」と強調。「数十年ぶりに国民が真の変革をもたらすチャンスを得る。逃すわけにはいかないチャンスだ」と訴えた。

一方、軍事政権の流れをくむUSDPは、2011年の民政移管以降、テイン・セイン大統領が推進した広範な政治・経済改革の実績をアピールして政権維持を目指す。

しかし、厳しい戦いが予想されており、選挙戦前には、大統領と対立していたシュエ・マン党首が電撃的に解任される内紛も露呈した。【9月8日 時事】 
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NLDは2010年の前回総選挙はボイコットしましたが(総選挙が11月7日、スー・チー氏の軟禁解除は選挙終了後の11月13日)、その後の圧勝した補欠選挙結果などをみれば、NLDが“地滑り的勝利”によって“両院の民選議席の約3分の2”を獲得することも十分可能にも思えます。

新議会は来年1月に招集され、両院の全議員が来年2月にも、両院の当選議員と軍人枠議員がそれぞれ指名した3候補から、投票で新大統領を決めるスケジュールとなっています。

スー・チー氏には大統領選出馬は認められませんが、NLD獲得犠牲数によってはNLDが推す候補者が次期大統領に就任することも可能になります。

一方、テイン・セイン大統領が党首を務める与党・USDPは、近年の目覚ましい経済成長の実績をアピールしており、スー・チー氏が「変革すべき時に変れるよう協力してほしい」と訴えている「変化」か、現政権による国軍主導政治による「安定」「成長」かの争いとなっています。

与党USDPは少数民族問題でも実績をアピールしたい考えのようです。

****9月末に一部武装勢力と先行署名」 ミャンマー当局者 内戦停戦協定で****
ミャンマー政府と少数民族武装勢力との停戦合意をめぐり、政府側の交渉窓口を務めるミャンマー平和センターのフラ・マン・シュエ上級顧問は3日、産経新聞と単独会見し、ずれ込んでいる停戦協定の署名式を今月末に実施することを明らかにした。

協議してきた15組織すべてとの署名は見送り、一部と先行して署名する。11月の総選挙前に政権の実績作りを優先する。

ミャンマーでは1948年の完全独立以来、ビルマ族を中心とする政府軍と、人口の3分の1を占める少数民族の各武装勢力が内戦を続けている。

テイン・セイン政権は今年3月、武装勢力側と停戦協定の草案で合意したが、武装勢力側はその後、北東部シャン州のコーカン族など、対象から外れた6組織も協定に含めることなどを要求。協定への署名は実現していない。

上級顧問は、カレン民族同盟(KNU)との間で信頼醸成が進んだ一方、カチン独立機構(KIO)とは疎遠になるなど、「協議進展に差が出ている」と説明。

テイン・セイン大統領が8月15日に日付未定の署名式への招待状を出した15組織のうち、合意が得られた7組織と今月末、首都ネピドーで署名を交わすと述べた。

大統領のアドバイザーも務める上級顧問は、「協定は署名から90日以内に停戦実現のための政治対話を開始するよう定めている」と指摘。

11月8日の総選挙を受けて来年1月には新議会が発足することから、停戦の流れを確実なものにするため、9月末までに署名にこぎ着けることが望ましいとの考えに至った。

テイン・セイン氏の出身母体である軍系与党、連邦団結発展党(USDP)は、総選挙での劣勢が予想されており、政権移行前に停戦の流れを築く狙いだ。

署名式には、少数民族が多い国境付近で接する中国、インド、タイと国連の代表も参加する予定。
上級顧問は、和平交渉で双方の橋渡しなどを担ってきた日本と欧州連合(EU)の署名式への立ち会いを武装勢力が提案している件についても、認める方針を表明した。【9月4日 産経】
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市民運動グループや有力者排除 党内で自らの立場が脅かされることへの危機感?】
上記のような一般的情勢は各紙が伝えているところですが、興味深かったのは、スー・チー氏の今回選挙への取組と言うか、彼女の性格と言うか・・・そのあたりを示唆する下記の【毎日】記事です。

***<ミャンマー>総選挙に向け選挙戦突入 2大政党が激突****
・・・・1988年に始まったミャンマーの民主化運動は、NLDと市民組織「88世代平和と開かれた社会」が連携して進めてきた。だが先月、NLDの総選挙立候補者選定を巡るゴタゴタで両者に亀裂が生じた。

NLDの最高意思決定機関「中央執行委員会」でリストアップした88世代の19人のうち、18人をスーチー氏が最終的に排除した、とされる問題が発端だ。

その中には、憲法規定で大統領への道が困難になったスーチー氏に代わり、88世代のリーダーで大統領候補とも目されたコーコージー氏も含まれた。

NLDと88世代は先月末、共同声明で引き続き連携する姿勢をアピールし「手打ち」をしたが、コーコージー氏は総選挙後に新政党を設立すると宣言。「『人物』ではなく『政策』に基づく組織にしたい」と述べた。

NLDはスーチー氏の「個人企業」とも呼ばれ、その「CEO(最高経営責任者)」のトップダウンで物事が決まっているとみられているからだ。

88世代以外にも、有力者がリストから相次ぎ除外され、NLDの一部地方組織が抗議行動を起こし、数百人が辞任または除名された。

スーチー氏は「後継者の育成に消極的」との評がもっぱらで、有力者排除の背景には、党内で自らの立場が脅かされることへの危機感がある、との見方が有力だ。

スーチー氏の「権威主義的」姿勢を米紙ニューヨーク・タイムズは「民主化勢力のパラドックス(逆説)」と表現した。

スーチー氏は既に遊説などで「候補者個人ではなく、党の名前(NLDかどうか)で投票してほしい」と繰り返している。

ミャンマーでは七つの少数民族州の議席が全体の4割を占めるが、NLDは最近、ほぼ全ての選挙区で候補を擁立すると発表。少数民族政党からは「候補者調整できると信じていたのに」と、批判も出ている。

また西部ラカイン州での仏教徒とイスラム教徒の対立を巡り、仏教徒支持を明言しないスーチー氏に対し仏教至上主義組織が反NLDキャンペーンを続けている。

政治評論家のシードアウンミン氏は「こうしたマイナス材料を差し引いても、NLDの過半数獲得は確実だろう。ただ(NLDの候補が大統領に当選できる)3分の2を超える圧勝になるかは微妙だ」と予測する。

一方、USDPでは先月、テインセイン大統領とシュエマン国会議長の党内抗争で、スーチー氏との連携姿勢を示すシュエマン氏が党内の実権を失った。

大統領派はさらに国会で、シュエマン氏の議長からの追放も目指し、議員リコール法案を通過させようとしたが、反対多数で否決された。これで党内にシュエマン派が70〜80人規模で存在することが確認された形となった。

NLDが選挙で圧勝できなくても、シュエマン派がNLDに合流し、スーチー氏がシュエマン氏を大統領候補に担ぐのでは、との臆測も流れている。

シードアウンミン氏は「テインセイン派にとってそのシナリオは悪夢だ」と指摘する。少数民族政党の躍進も予測され、ミャンマーの今後の政治情勢は全くの視界不良と言えそうだ。【9月8日 毎日】
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上記記事の“コーコージー氏”についてはよく知りませんが、1988年にミャンマー全土で起こった民主化運動を主導した元学生リーダーで、市民組織「88世代平和と開かれた社会」のリーダーであるミンコーナイン氏(同一人物?)は昨年11月末来日しています。

****改憲へスーチー氏と連携 ミャンマー民主化指導者・ミンコーナイン氏****
ミャンマーでアウンサンスーチー氏と同様に著名な民主化運動指導者のミンコーナイン氏(52)が27日、初来日を前に朝日新聞のインタビューに応じた。

来年後半の総選挙に向けてスーチー氏と連携し、現憲法を民主的な内容に改正するように求める運動を続けると強調。体制側と民主化勢力との対話を求めた。

ミンコーナイン氏は現在のミャンマーの政治状況について、軍事政権による2011年の民政移管後、「報道や市民団体設立などの自由は得られたが、(軍側は)権力は手放そうとしていない」と批判。軍に事実上の改憲拒否権を与え、政治関与を認める現憲法の改正が必要だと強調した。

現憲法には、外国人の家族がいると大統領になれない条項もあり、夫(故人)と息子が英国籍のスーチー氏は大統領になれない。

ミンコーナイン氏は今年、スーチー氏と共同で、改憲規定の改正を求める500万人分の署名を集めた。「総選挙は、憲法をどう変えるかを(軍ではなく)有権者の票が決められる形になってこそ受け入れられる」と主張。改憲の道筋を「国民の目に見える形でのリーダー間の対話」でつけるべきだとも話した。

ミンコーナイン氏は1988年、学生組織の指導者として民主化運動を率いたが、軍事政権に89年に逮捕され、投獄は計3回、2012年まで約20年に及んだ。
現在は政界には入らず、人権・市民運動を進めている。(後略)【2014年11月28日 朝日】
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1989年以来、2度の解放期間を挟み、計15年間拘束されてスー・チー氏の場合は、ミャンマーの“国父”アウン・サン将軍の娘ということで“軟禁”でしたが、ミンコーナイン氏の場合は“20年に及ぶ投獄”です。

良くも悪くも“カリスマ指導者”として、すべてを自らが決定するスー・チー氏に対し、ミンコーナイン氏は「現在の世界で(民主化推進のために)重要なのは政党よりも市民運動組織だ」という根っからの市民運動指導者で(今後、新党を組織するようですが)、肌合いは相当に異なるようにも思えます。

今年5月の段階では、「88世代平和と開かれた社会」は11月の総選挙では政党としては参加せず、立候補するメンバーはスー・チー氏率いるNLDから出馬するということで、両者は連携していました。

スー・チー氏としては、自分の意のままに動かない「88世代平和と開かれた社会」との間で確執があったのでしょうか?

少数民族政党とも競合?】
少数民族政党との関係も注目されます。
これもよくわかりませんが、スー・チー氏としては、取れる議席はすべて取る・・・という「勝ちに行く」姿勢ということでしょうか?

ただ、少数民族政党を蹴落として議席を伸ばしても、今後の少数民族との和解を進めるうえでは障害になるようにも思えます。

与党内クーデターで排除された形のシュエマン氏ですが、一定にその影響力は維持されているようです。
シュエマン氏はかねてよりスー・チー氏との協調路線が伝えられていますので、選挙後のスー・チー氏との関係が注目されます。

【「イスラム教徒の立候補希望者十数人がNLDの候補から外された」】
“西部ラカイン州での仏教徒とイスラム教徒の対立を巡り、仏教徒支持を明言しないスーチー氏に対し仏教至上主義組織が反NLDキャンペーンを続けている。”・・・・国際的には逆に、スー・チー氏がイスラム教徒のロヒンギャ支持を明言しないことが失望をかっています。

イスラム教徒の問題は、少数民族問題と並んで、ミャンマーの抱える大きな課題です。

今回選挙でも、イスラム教徒が排除された可能性が報じられています。
スー・チー氏のNLDもイスラム教徒を候補者から外したとも。

****ミャンマー総選挙、88人が立候補できず 候補者からイスラム教徒排除か****
ミャンマーの連邦選挙管理委員会のティン・エー委員長は2日、最大都市ヤンゴンで記者会見し、11月8日に実施される総選挙で立候補を届け出た6189人のうち、88人を資格不備などの理由で退けたと発表した。

仏教国である同国で、少数派のイスラム教徒が排除された可能性がある。

2日付の英字紙ミャンマー・タイムズによると、88人のうち、28人が西部ラカイン州からの届け出で最も多かった。同州には抑圧されているイスラム教徒少数民族ロヒンギャが多い。

候補者は、両親がミャンマーの市民権保有者か、ミャンマーの諸民族である必要がある。ロヒンギャは民族として認められていない。あるロヒンギャの国会議員は地元メディアに、身辺調査で今回は立候補が認められなかったとした。

アウン・サン・スー・チー氏率いる最大野党、国民民主連盟(NLD)は、最大の候補者1151人を届け出たが、幹部はメディアに「イスラム教徒の立候補希望者十数人が候補から外された」と述べた。
執行部が、「イスラム政党」とみられて支持を落とす事態を懸念したと指摘する。

選挙は上下両院の改選対象計498議席と州、地方の約1200の選挙区で行われる。【9月2日 産経】
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仏教ナショナリズムが高まる“仏教国”ミャンマーにあって、イスラムに寛容な姿勢を示すのは現実政治では、少なくとも選挙対策としては、難しい選択のようです。

では、スー・チー氏が政権をとったら、そのあたりがどうなるのか・・・わかりません。

すでに、仏教ナショナリズムの影響が社会全体に強まっています。

****ミャンマーが婚姻規制法 イスラム教徒との結婚制限狙う****
ミャンマーで、改宗や仏教徒女性と異教徒の結婚を規制する法律が成立した。国会を通過し、テインセイン大統領が署名したと大統領府幹部が29日、明らかにした。

多数派の仏教徒の間で近年反イスラム感情が高まっており、イスラム教徒の男性と仏教徒女性の婚姻を制限する狙いがある。

大統領が26日に署名して成立したのは改宗法と仏教徒女性特別婚姻法。改宗や仏教徒女性の異教徒との結婚に際し、本人の意思に基づいているかなどについて当局の審査と許可が必要になる。

婚姻では第三者が異議申し立てできる。法案については国連や人権団体などが懸念を示していた。

同国では反イスラムの仏教僧らが、「イスラム教徒が仏教徒女性を結婚によって改宗させ、人口を急増させている」と主張。

今回の2法と5月に成立した人口抑制法、一夫一婦法の計4法を「民族・宗教保護法」と総称して実現をめざし、運動してきた。一夫一婦法も国会通過済みで、近く大統領が署名するという。【8月29日 朝日】
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スー・チー氏の言う「真の変革」とは一体何か?
スー・チー氏にとっては、選挙で大勝して政権を獲得することより、政権獲得後にどのような政治を行うのかが、より大きな困難を伴うものになりそうです。
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