孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラン  聖地巡礼事故 国連総会でサウジアラビア政府を「無能」と指弾 懸念される両国の関係悪化

2015-09-29 22:13:59 | 中東情勢

(写真は2011年の「悪魔への投石」儀式へ訪れた巡礼者の波。何回も繰り返される大事故から、大巡礼「ハッジ」において最も危険な儀式と言われてきました。当局による対策も取られてはきたのですが。
「悪魔への投石」儀式は、“犠牲祭の3日間、巡礼者は毎日、25メートルの柱3本に、それぞれ7つの小石を投げなければならない”というものだそうです。【2011年11月7日 AFP】)

聖地巡礼で繰り返される圧死事故
9月24日、サウジアラビアの聖地メッカ近郊のミナで、イスラム教徒の大巡礼「ハッジ」を行っていた大勢の巡礼者が折り重なるように倒れて死亡した事故で、犠牲者の数は増え続け、現在のところ769人と報じられています。

この日は、ミナで悪魔を象徴する柱に投石する儀式の日とされ、巡礼者約200万人の大半が周辺にいたとみられています。事故は宿営地と儀式の会場をつなぐ通りで起きました。

巡礼者が殺到するメッカ周辺での圧死などの事故は過去にもたびたび起きており、1990年7月2日、やはりミナで、巡礼者が移動するためのトンネル内で転倒事故が起き、1426人が死亡しています。

また、2006年にも、同じ儀式の日にミナで約350人が死亡しています。【9月25日 朝日より】
“この儀式では、1994年から2006年の間に4回の圧死事故が発生し、計1000人以上が死亡している。”【9月25日 AFP】とも。

なお、メッカでは9月11日、建設工事用のクレーンが倒壊して聖モスクに激突し、少なくとも107人が死亡した事故も起きています。

これだけの犠牲者を出しながらも、毎年大勢の巡礼者が押し寄せる・・・その宗教的熱狂は部外者には理解しがたいものがあります。

当然ながらサウジアラビア当局の安全管理への批判がでますが、サウジアラビア側は巡礼者の規則に従わなかった行動に原因があるとしています。

****巡礼者圧死、サウジの安全対策に疑問符 「事故前から人々が失神****
サウジアラビア西部にあるイスラム教の聖地メッカ近郊で24日に発生し、大巡礼「ハッジ」で過去25年に起きたものとしては最多の717人が死亡した圧死事故を受け、安全対策に数十億ドルを投じたのにもかかわらず事故を防げなかった同国当局の対応力に対する疑問の声が上がっている。

現場となったメッカ近郊のミナでは、事故が起きる前から、巡礼者らは不満をもらしていた。
事故当時、現場にいたスーダン人のある男性巡礼者は、今回の大巡礼の運営体制は今までに自分が参加した4回の中で最もひどかったと語った。

男性は、「人々は事故前からすでに脱水状態に陥ったり、失神したりしていた」「人々はあちこちで互いに倒れ掛かっていた」と語った。また男性のサウジアラビア人の同行者は、「何かが起こりそうだ」と心配を口にしていたという。

サウジアラビアの内務省は、ハッジの安全確保、交通と群衆の整理に警官10万人を配備したと発表していた。警官らは、約200万人近くの人々が一挙に集まる地域の警護を任されていた。

しかし、ロンドンから取材に応じた、聖地の再開発に批判的なイルファン・アラウィ氏は、こうした警官らは言語能力に欠け、しっかりした訓練もされていないと批判。「彼らは大量の人々をさばく方法を知らない」と語った。

■サウジ当局は巡礼者らを非難
一方、サウジ当局は巡礼者らが規則に従わなかったのが事故原因だと巡礼者らを非難している。

ハリド・ファリフ保健相はニュース専門衛星テレビのアルイフバリヤで、「多くの巡礼者らは定められた時間を守らず移動していた」と指摘し、「もし指示に従っていれば、このような事故は回避できたはずだ」と語った。

24日の悲劇は、安全対策向上を目指し、10年の期間と10億ドル(約1200億円)以上の費用をかけて建設された5階建てのジャマラート橋周辺で起こった。(中略)

全長が1キロ近くあるジャマラート橋は、1時間に30万人の巡礼者がこの儀式を行うことができる。

アラウィ氏は「何人の人が入ることができ、何人の人が出ることができるのか、群衆管理のシステムを作るべきだ」と語り、現状に比べたらラグビーやサッカーの国際試合の管理体制のほうがしっかりしていると指摘した。

ミナではこの他、巡礼者の移動に使われる高架鉄道や宿泊用の防火テントなどの設備や安全対策が、ここ数年の間に導入されていた。(c)AFP
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群集事故としては日本でも2001年7月に、死者11人・重軽傷者247人を出した明石花火大会歩道橋事故が起きています。

事故を未然に防ぐには、滞留を発生させず、人の流れを管理する対応が必要とされます。
いったんパニックが発生してしまうと、手に負えなくなります。

さすがに、サウジアラビアのサルマン国王も24日、ハッジ(大巡礼)の運営方法見直しを指示しています。

“サウジアラビア政府は、事故の原因としてハッジの重要な行程になっている石投げの儀式に向かう人たちと逆の方向から来た一団が道路の交差点に集中したことや、当時、気温がおよそ40度で、多くの巡礼者が疲れていたことなどを挙げていますが、さらに徹底した捜査を行ったうえで、ハッジの運営を改善する方針を国内外に示しています。”【9月27日 NHK】

【「サウジ王室に死を」「事故を起こしたのはシーア派だ」】
これだけの犠牲者を出したことだけでも衝撃的なニュースですが、単なる事故にとどまらない可能性があるのは、死亡した769人のうち226人がイラン人で、20か国以上に及ぶ犠牲者を出した国々のなかでもイランが突出して多く、未だ連絡がとれていない者も多数いるということで、イラン政府がサウジアラビアの対応を強く批判していることです。

国連総会に出席するため、ニューヨークを訪問しているイランのロウハニ大統領は、、演説を終えた後、訪問の半ばで、イラン人巡礼者の葬儀に出席するためイランに戻ると発表されました。

****イラン大統領は前倒し帰国 770人死亡の聖地事故でサウジと対立「聖地取り戻せ****
イラン国営通信によると、国連総会出席のため訪米中のイランのロウハニ大統領は、約770人が死亡したサウジアラビア西部メッカ近郊での巡礼者の将棋倒し事故で犠牲となったイラン人の葬儀に参列するため、米国での滞在を短縮し28日に帰国することを決めた。

イランでは事故に関連しサウジを非難するデモが発生するなどしており、対立する両国の関係がいっそう悪化する可能性も出ている。

「サウジは責任を認め、世界のイスラム教徒と犠牲者の家族に謝罪すべきだ」。イランの最高指導者ハメネイ師は27日、こう述べ、サウジ側を牽制(けんせい)した。
イスラム教で重視される大巡礼(ハッジ)期間中の24日に起きた事故では、イラン人も少なくとも約170人が死亡し、イランでは安全対策の不備を指摘する声が相次いだ。

これに対しサウジ側は「悲劇を政争の具にすべきではない」(ジュベイル外相)と反論するなど両国間の応酬が続いている。

シーア派大国イランは、内戦状態が続くイエメンやシリア問題でスンニ派の盟主を自任するサウジと対立。サウジは、イランと欧米など6カ国が7月に結んだイラン核問題の最終合意についても、イランの影響力拡大への懸念などから反対の立場を取ってきた。

そんな中で今回の事故を受け、イランの首都テヘランでは27日、数百人がサウジ大使館前に集まり、「聖地を(シーア派に)取り戻せ」「サウジ王室に死を」と非難。

スンニ派諸国ではネット上で、「事故を起こしたのはシーア派だ」との噂が流布されるなど、宗派間の不信や根強い対立感情も浮き彫りとなっている。

ただイランは、最終合意の履行に向けたこの時期に周辺国との急速な対立激化は避けたいのも本音。

最終合意後で初となる今回のロウハニ師訪米ではオバマ米大統領との直接対話が実現するかにも注目が集まっているが、その一方で同師には、前倒しで帰国して事故対応に当たることで事態を沈静化させたいとの考えがありそうだ。【9月28日 産経】
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周知のように聖地メッカを守護するサウジアラビアがイスラム教スンニ派の盟主を自任するのに対し、イランはシーア派の盟主。

イランのシリア・イラク・イエメンでの影響力拡大、アメリカ等との核問題合意などに対し、サウジアラビアは激しく反発。両国の確執は混迷する中東情勢を左右する大きな軸となっています。

その両者の関係を悪化させかねない・・・そういう事故でもあります。

国連総会演説で、イランのロウハニ大統領はサウジアラビア政府を「無能」と批判しています。

****イラン大統領、米国を批判 国連演説「サウジは無能****
イランのロハニ大統領は28日、ニューヨークで開催中の国連総会で演説し、シリアやイラク、イエメンで続く内戦について、米国の軍事介入が原因だと批判した。また、巡礼中の事故でイラン人ら700人以上の死者を出したサウジアラビア政府を「無能」と厳しく非難した。(中略)

サウジの巡礼中の事故には演説の冒頭で触れ、行方不明者の確認や遺体の引き渡しが滞っているとサウジを批判。事故原因の究明と再発防止を強く訴えた。【7月29日 朝日】
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“イランは、最終合意の履行に向けたこの時期に周辺国との急速な対立激化は避けたいのも本音”【前出産経】とのことですが、国連総会で「無能」呼ばわりされた聖地守護者としてのプライドが高いサウジアラビアが黙っているのか・・・やや不安でもあります。

国内強硬派をなだめるためにも、強い言葉の批判が必要なのでしょうが・・・・。

【「ザリフの手は血で染まった」】
一方、今回国連総会においては、保守穏健派ロウハニ大統領にとって国内強硬派を刺激しかねないもうひとつの“事件”も。

****<イラン外相>オバマ米大統領と握手 強硬派に波紋も****
イラン学生通信によると、イランのザリフ外相は28日、国連総会開催中のニューヨークでオバマ米大統領と握手を交わした。

イランと米国は、1979年の在イラン米大使館襲撃事件を受けて80年に国交を断絶。強硬派を中心にイラン内で波紋が広がりそうだ。

イランのロウハニ大統領の一般討論演説後、ザリフ氏が会場を去ろうとした際にオバマ氏、ケリー米国務長官と鉢合わせし、短いあいさつと握手を交わしたという。

報道を受け、強硬派のマンスール・ハギガットプール国会議員(国家安全保障外交委員会)は「事実なら、ザリフ氏は大きな過ちを犯した。謝罪すべきだ。我々は米国を信用していないし、正常な外交関係を持つには大きな隔たりがある」と話している。

また、ファルス通信の投稿欄は「ザリフの手は血で染まった」などと過激な批判が相次いでいる。2013年の国連総会の際、ロウハニ師がオバマ氏と電話した時も、帰国した同師に靴が投げられるなどの反発が起きている。【9月29日 毎日】
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ザリフ外相としては、難航した核問題協議でなんとか合意に漕ぎつけた安ど感などもあって、ごく自然に手が出たのでしょうが、イランでは“あるまじき行為”と映るようです。

どこの国でも、自分たちの主張だけ声高に叫び、相手の立場を一切みとめようとしない“強硬派”の存在は、こうした“強硬派”の単純明快な主張は世論の受けがいいということもあって厄介なものです。
コメント (1)
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