孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パレスチナ・ガザ地区  このままでは「居住不能」に

2015-09-04 23:17:25 | パレスチナ

(ガザ地区 イスラエル軍の砲撃で吹き飛んだ自宅の前に座る女性 【9月4日 Newsweek】)

【「天井のない監獄」】
昨年7月のイスラエルによるパレスチナ・ガザ地区への侵攻、8月の停戦から1年が経過しましたが、イスラエルによる封鎖が続く状況でガザ地区の復興は進んでいません。

****停戦から1年 ガザ地区の再建進まず****
イスラエルとイスラム原理主義組織ハマスとの戦闘が停戦してから(8月)26日で1年となりますが、大きな被害を受けたガザ地区の再建はほとんど進んでおらず、国際社会は、このままでは再び政情が不安定化しかねないと懸念を強めています。

去年夏のイスラエルとハマスによる50日間にわたる戦闘は犠牲者の数がパレスチナ暫定自治区のガザ地区で市民を中心に2200人、イスラエル側で兵士を中心に70人に上るなど、ガザ地区を巡る戦闘では過去最悪の規模となりました。

双方が停戦で合意して26日で1年となりますが、大きな被害を受けたガザ地区では破壊された住宅や生活インフラの再建が大幅に遅れており、今も10万人が自宅を離れ、親戚の家や仮設住宅での避難生活を強いられています。

双方は停戦後、イスラエルによるガザ地区の経済封鎖の解除に向けて間接的な協議を進めることになっていましたが、封鎖は部分的に緩和されたものの継続されており、再建が遅れる最大の要因となっています。

国連の最新の調査ではガザ地区の1歳未満の乳児の死亡率が50年ぶりに上昇傾向に転じ、保健・健康状況の悪化が懸念されているほか、世界銀行の統計で失業率が世界最悪の44%に上り、とりわけ若者の失業率は60%に達しています。

国際社会はガザ地区を、こうした劣悪な状況のまま放置すれば、再び政情が不安定化しかねないと懸念を強めています。(中略)

「天井のない監獄」変わらず
ガザ地区はパレスチナ暫定自治区として自治が認められているものの、イスラエルが建設した高い塀やフェンスで囲まれていて、2007年にイスラム原理主義組織ハマスがパレスチナの中で対立する勢力を武力で制圧し、実効支配に踏み切って以降、イスラエルが人やモノの厳しい封鎖を続けています。

去年の戦闘で、ハマスはイスラエルによる封鎖の解除を掲げて戦闘を続け、停戦した際には封鎖の解除に向けてイスラエル側と間接的に協議を進めることで合意していました。

それから1年がたち、イスラエルは人の行き来や農産物の輸出など封鎖を部分的に緩和しましたが、依然として特別な許可がなければ住民がガザ地区の外に出ることを認めておらず、ガザ地区が「天井のない監獄」と表現される現実は変わっていません。

イスラエルとハマスの戦闘は、ハマスがガザ地区の実効支配を始めた2007年以降、すでに3回行われ、そのたびに住民を含む大勢の犠牲者が出ています。

住民の置かれた状況が厳しさを増すなか、ガザ地区では過激派組織IS=イスラミックステートを支持するグループが暗躍し、ハマスと対立する姿勢を示すようになり、新たな不安要素が出てきています。

再建進まない住宅
去年のガザ地区を巡る戦闘では1万8000世帯の住宅が破壊されたほか、電気網や道路などの生活インフラも壊滅し、これらの再建が大きな課題となってきました。

しかし、住宅の再建はほとんど進まず、今もおよそ10万人がガザ地区の中で、仮設住宅の生活を余儀なくされたり、親戚の家に身を寄せたりしています。再建のめどが立たないなかで、倒壊のおそれがある自宅に住み続けている人も少なくありません。

国際社会は去年10月、エジプトのカイロで開かれた国際会議でガザの再建に向けて35億ドルの支援金の拠出を約束しましたが、国連によりますと、先月の時点で実際に支払われたのは、その3割程度にとどまっているということです。

さらに住宅などの建設に必要なセメントや鉄筋などがハマスに軍事転用される懸念があるとして、イスラエルが建設資材の搬入を厳しくチェックする体制を取っているため、こうした物資がガザ地区に十分に届かず、再建の遅れが懸念されています。【8月26日 NHK】
******************

現在の経済状態が続けば5年以内に「居住不能」になる可能性
上記のような“復興が進まない”という報告はこれまでも再三目にしていましたが、このままでは5年以内に「居住不能」になるというショッキングな報告が国連から出されています。

****中間層もインフラも壊滅、ガザは5年後に「居住不能****
ほとんどのガザ住民は国連の配給がなければ生きていけない

パレスチナ自治区のガザ地区は、もし現在の経済状態が続けば5年以内に「居住不能」になる可能性がある、と警告する報告書を国連が公表した。

国連機関の貿易開発会議(UNCTAD)の報告書によると、ガザの社会経済の現状は1967年以来最低の水準にある。「今の傾向が続けば、人口過密が社会、医療、治安の破綻を招き、2020年までにガザでは生活できなくなるかもしれない」。

95年以前まで「退行」した経済
ガザの人口は、2020年までに現在の160万人から210万人に増加すると予測されており、医療、教育、上水道、衛生の各部門で「相当な努力」をしなければ、ガザに人が住み続けることはできなくなる、と報告書は指摘している。

ガザの壊滅的な経済の現状にも触れている。8年に渡るイスラエルの経済封鎖と過去6年間に繰り返された3回の戦闘によって、「ガザから域外に輸出する商品の生産能力は破壊され、インフラも破壊された」。

戦闘が繰り返されるため経済復興を成し遂げる十分な時間もなく、比較的に安定した時期だった95~99年に成し遂げた経済発展は失われ、以前より後退してしまった。

「パレスチナの人々の経済状態は、20年前より悪化している」と、報告書は指摘している。昨年の失業率は過去最高の44%に達し、女性10人のうち8人は無職だ。

ガザでは昨年のイスラエル軍とイスラム原理主義組織ハマスの戦闘によって住民数千人が住居を失ったまま。また06~14年の戦闘でパレスチナはGDP(域内総生産)の3倍の損失を被った。

ガザの住民1人あたりのGDPは、同じパレスチナのヨルダン川西岸地区の3分の2程度だが、「間接的な経済損失を勘案し、生産能力の破壊で将来失う収入も換算すれば、紛争による損失の合計はさらに高くなる」という。

中間層は壊滅しほとんどが極貧状態へ
昨年の戦闘では2200人の住民が死亡したが、その大部分は民間人だった。この戦闘で「かろうじて残っていた中間層は壊滅し、住民のほとんどすべてが極貧状態に転落。国際的な人道援助に依存しなければならなくなった」。

この戦闘で住宅1万8000戸、26の学校、15の病院が破壊され、農業部門や工場、主要インフラ、観光施設が損害を受けた。過去6年間の軍事行動で殺された住民は3782人に上る。

今年国連は、昨年のガザ侵攻に関して、イスラエル軍とハマスの双方の戦争犯罪を糾弾した。イスラエルは国連の主張に異議を唱え、ガザ侵攻は合法だったとする独自の報告書を公表した。

一方イギリスでは、来月訪英するイスラエルのネタニヤフ首相の逮捕を求める請願に、9万5780人の署名が集まっている。

ガザでは電気、食糧、水道の供給も課題となっている。昨年の戦闘以前も、ガザでは電力需要の40%は供給されていなかった。

ガザの住民は飲み水を海岸沿いの地下水に頼っているが、こうした水の95%は飲み水に適していない。

そして86万8000人のガザの住民のうち約半数が現在、国連機関の食糧配給に頼っている。2000年時点の7万2000人から大幅に増加した。【9月4日 Newsweek】
******************

国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)ではパレスチナ難民を「イスラエル建国で家と生計を失った者とその子孫」と定義しており、パレスチナのガザ地区・ヨルダン川西岸に約200万人、隣国のヨルダンに約200万人、シリアとレバノンにそれぞれ約50万人が暮らしています。その3分の1がいまだに難民キャンプにいます。【国連広報センター ブログより】

現在、シリア難民が欧州に押し寄せる事態に欧州各国は困惑していますが、近い将来、「居住不能」となったガザ地区からパレスチナ難民が欧州へ・・・という事態もあるかも。

これまでパレスチナ難民を受け入れてきたヨルダンはすでに飽和状態ですし、シリアは自国が崩壊状態です。

ちなみに、シリア・の首都ダマスカス南部のヤルムークにあるパレスチナ難民キャンプは、4月にイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」が進攻してきて以来、戦場と化していますが、最大1万4000人が依然としてキャンプ内に取り残されていると言われています。【9月3日 AFPより】

ハマスはサウジアラビア・エジプトとの関係修復を模索
話をガザ地区に戻すと、ガザを実効支配しているハマスは、イラン核問題での合意という国際情勢変化を受けて、これまで疎遠だったサウジアラビアやエジプトとの関係改善を模索しているとも報じられています。

****<ガザ停戦1年>ハマス「バランス外交」 孤立脱却図る****
イスラエルとの停戦から1年を経たパレスチナ自治区ガザ地区。
同地を支配するイスラム原理主義組織ハマスは戦力の回復を図るとともに、ダイナミックに変化する国際政治の潮流を読み、地域大国の対立などに乗じる「バランス外交」で、国際社会からの孤立脱却を図ろうとしている。

「サウジアラビアとの関係は改善されつつある」。ハマスは今月3日、ガザ市に有識者を招いて地域情勢説明会を開催。在外指導者メシャル氏が7月中旬、サウジにサルマン国王を訪ねた背景を報告した。

説明会に参加したガザ地区のアル・アズハル大のアブサダ准教授はサウジとハマスの接近について、イランの核問題を巡る同国と欧米との合意と「無縁ではない」と指摘する。

敵対関係にあった欧米との核合意は、国際的に孤立していたイランにとって追い風になる。地域大国イランの再台頭が予想される中、同国と対立する一方の地域大国サウジにはハマスを引きつけたい思惑が働き、隣国エジプトとの関係改善を目指すハマス側は、同国と関係の深いサウジに仲介役を期待しているという。

サウジとハマスは長らく疎遠だった。2007年、ハマスがサウジの仲介でアッバス・パレスチナ自治政府議長の出身母体ファタハと挙国一致内閣の樹立で合意した後、ガザを武力制圧したためだ。

一方、イスラエルと敵対するイランはハマスを軍事、財政両面で支援してきた。だが、11年のシリア情勢の悪化に伴い、アサド政権を支持するイランと、反体制派に同情的なハマスの関係も冷却化した。

イスラエルに封鎖されたガザ地区にとって、同国以外の唯一の「陸路の出入り口」に当たるエジプトとの関係も、13年夏にハマスを敵視する軍事政権が発足すると急激に悪化した。

八方塞がりになったハマスにとって、今年7月14日のイラン核合意は情勢好転のチャンスになった。

ハマスのハニヤ最高幹部の元顧問、アフマド・ユーセフ氏は「サウジはハマスに対し、イランと距離を置かせようとしている。見返りの支援策も示している」と話す。

ハマスにとってもサウジとの「復縁」がもたらすメリットは大きい。「エジプトを政治的、財政的に支援しているサウジが、ハマスとエジプトの間を取り持ってくれれば、ガザの窮状打開につながる」(ユーセフ氏)からだ。

エジプトもハマスとの連携が必要になりつつある。シナイ半島を拠点とする過激派組織「イスラム国」(IS)の分派が、7月ごろからエジプト治安当局への攻撃を激化。

当局は、ガザ内部のIS支持勢力と対立するハマスと関係改善を図る可能性がある。エジプトは今月、ガザ地区との間にあるラファ検問所を4日間開放。サウジの「仲介効果」との見方もある。

ハマスのハマド副外相は対イラン関係について「改善の努力はなされている」と強調する。
「イランともサウジとも関係を持ち、どの大国のポケットにも入らない。それがハマスの方針だ」と説明したが、「中東の政治は複雑で、中立でいるのは容易ではない」とも話す。

ハマス流バランス外交の行く末は見通せない。【8月26日 毎日】
*****************

エジプト、ハマス、更にはイスラエルの対IS共同戦線・・・という話については、7月3日ブログ「エジプト シナイ半島過激派を共通の敵としてハマスに接近? 更に入り組んだシリア各勢力の関係」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150703)でも取り上げたことがありますが、その実態はよくわかりません。

「エジプトを政治的、財政的に支援しているサウジが、ハマスとエジプトの間を取り持ってくれれば、ガザの窮状打開につながる」という話にしても、イエメンに深入りするサウジアラビアと、リビアの世俗派支持に関心が向いているエジプトの関係は、足並みがそろっているという訳でもないようです。

ハマスの近況については、下記のような報道も。

****ハマスが基礎戦闘訓練、2万5000人が参加 ガザ****
パレスチナ自治区ガザ地区を実効支配するイスラム原理主義組織ハマスが1日、同地区の約2万5000人のパレスチナ人に向け基礎戦闘訓練を目的とする夏期キャンプを開いた。【8月4日 AFP】
******************

“ハマス流バランス外交”や基礎戦闘訓練はともかく、ガザ地区そのものが「居住不能」となってしまっては、バランス外交も、戦力回復もあったものではありません。

イスラエル 国際的孤立の恐れも
当然ながら、ガザ地区の状況改善にはイスラエルの協調が必要不可欠です。

パレスチナ西岸地区の入植地問題などパレスチナ問題で、イスラエル・ネタニヤフ政権が軟化する兆しは今のところ見えません。

ただ、国際的な流れはパレスチナを容認する方向、イスラエルにとっては厳しい方向にあるように見えます。

****国連にパレスチナ旗掲揚を=10日に決議案採決****
国連未加盟ながら「オブザーバー国家」の地位を持つパレスチナは3日までに、ニューヨークの国連本部にパレスチナの旗を掲揚するよう国連事務総長に要請する決議案を総会に提出した。

10日に採決される見通しで、パレスチナの国連代表部当局者は「採択は間違いない」と自信を示した。

決議案は9月15日の第70回国連総会開会後、採択から20日以内に掲揚に必要な措置を取るよう事務総長に求めている。対立するイスラエルは反発している。

国連本部前には加盟193カ国の国旗がアルファベット順に並んでいる。決議案が通れば、同じくオブザーバー国家であるバチカン(ローマ法王庁)の旗も掲げられる可能性がある。

パレスチナは2012年11月の総会決議で、「オブザーバー機構」から格上げされた。【9月4日 時事】
******************

ガザ地区住民の生活困窮の深刻化、パレスチナ容認の国際的流れという情勢のなかで、頭が固いハマス・イスラエル双方がこれまでにない柔軟な発想に転じることができれば、ガザ地区の「天井のない監獄」という現状は改善されるのですが、なかなか・・・・。

ハマスにとっては、イスラエルと対立、イスラエルへの戦闘も辞さない強硬姿勢が組織存立の基盤でもありますので、両者の関係改善は難しいものがあります。

迷走する自治政府・アッバス議長
本来であれば、パレスチナ自治政府が影響力を示すべきところですが、アッバス議長・自治政府の存在感も薄いのが現状です。と言うより、迷走していると言うべきか・・・。

****パレスチナ自治政府議長、PLO議長を辞任へ****
パレスチナ自治政府のアッバス議長は23日、PLO執行委員会議長を辞任する意向を発表した。最大11人の他の執行委員会メンバーとともに30日以内にPLOに提出する。

パレスチナ自治政府のアッバス議長は23日、ヨルダン川西岸のラマラで「パレスチナ解放機構(PLO)執行委員会(内閣に相当)の他のメンバーとともに辞任することを決めた」と述べ、PLOのトップである執行委員会議長を辞任する意向を発表した。自治政府議長(大統領)にはとどまる。

PLOは、パレスチナ人400万人弱が住むヨルダン川西岸を支配している自治政府を形成する主要組織で、パレスチナ指導部内の混乱をうかがわせる。

アッバス氏は、辞任の意向を書面で提示し、承認を受ける必要がある。認められれば、2009年以来のPLOの最高意志決定機関、パレスチナ民族評議会(PNC)の特別会合が行われ、執行委員会委員と議長が選出される。

パレスチナ政府当局者や政治アナリストによれば、PLO内部の抗争やイスラエルとの和平交渉の行き詰まりから支持基盤が弱体化しているアッバス氏は、執行委員会議長選で再選を目指し、立場の強化を狙っている可能性がある。

最近、PLOの指導部内では意見対立が先鋭化し、パレスチナ人の間でもアッバス氏に対するいら立ちが強まっている。

アッパス氏は、公金を流用してラマラの高級マンション数件を購入したとの疑惑が生じている自分の息子を含め、スタッフの腐敗をめぐって批判を浴びている。

アッバス氏は、アラファト前議長の死去を受けて、2005年に後任の自治政府議長に選出された。しかし、06年にイスラム原理主義組織のハマスが自治政府立法評議会(議会)選挙で勝利し、パレスチナの政治は混乱状態となった。

07年にはハマスは、パレスチナ人200万人弱が住むガザ地区を実効支配した。ヨルダン川西岸を統治する自治政府とハマスとの統一政権樹立の試みは数多くあったが、ことごとく失敗している。

アッバス氏は最近、政敵の影響力を削ぐ動きを見せている。6月には、長年にわたって使えてきた側近のヤセル・アベド・ラボ氏をPLO書記長から解任した。

8月20日には、欧州連合(EU)が支援している、民間レベルでイスラエルとパレスチナの和平を提唱しているグループ「ジュネーブ・イニシアチブ」のラマラ事務所を閉鎖した。ジュネーブ・イニシアチブは、パレスチナ側ではラボ氏が主導している。

ハマスの最高指導者ハリド・マシャル氏は最近、イスラエルとの間で長期停戦に向けての話し合いを行っていると述べた。しかし、ハマスをテロ組織と見なしているイスラエルの当局者は、これを否定している。【8 月 24 日  WSJ】
********************

少なくとも、水面から上では、ガザ地区情勢の改善につながる話はあまり見られません。
水面下で何かあればいいのですが・・・。

また、“住民の置かれた状況が厳しさを増すなか、ガザ地区では過激派組織IS=イスラミックステートを支持するグループが暗躍し、ハマスと対立する姿勢を示すようになり、新たな不安要素が出てきています。”【前出 NHK】というのが気になるところです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする