(ハンガリー・ブダペストからドイツ・ミュンヘンに向かう列車で外を眺める移民 胸の内にあるのは希望でしょうか、不安でしょうか。あるいは故郷に残した家族への思いでしょうか。 【9月3日 AFP】
【ハンガリー・ブダペスト東駅の混乱】
このブログでも再三取り上げているように、また、連日各メディアが報じているように、欧州を目指す難民・不法移民の流れが止まりません。
欧州各国は、この未曾有の状況にどのように対処すべき決められず混乱しています。
その混乱の象徴ともなっているのが、バルカンルート(トルコから対岸ギリシャの島にわたり、ギリシャ本土から非EU圏のマケドニア、セルビアを通過し、多くがドイツを目指してバルカン半島を北上するルート)のEU入り口となっているハンガリー・ブダペストの東駅の混乱です。
****難民3000人、警官隊とにらみ合い ハンガリー駅前****
中東、アジアの紛争地域から欧州に逃れる人々の中継地となったハンガリーの首都ブダペストの東駅で、入構を阻まれた約3千人が駅舎外を埋め尽くす異常事態が起きている。
入り口に二、三重の人垣を作って立ちはだかる警官らに対し、難民、移民らはあくまでもドイツなどに向かう列車への乗車を目指す構えだ。
ハンガリー当局は1日から突然、国際電車の発着駅である東駅から難民、移民らを排除し始めた。
一方で、駅前には2日も南部国境から入国して西欧行きを目指す人々が次々と到着。混乱は増すばかりだ。
今年、ギリシャに上陸し、バルカン半島を北上してハンガリーに入った人々は15万人以上。膨大な数に収容が追いつかず、大半が列車などで難民受け入れ態勢の整ったドイツなどに向かっていた。
ムハンマドと名乗るダマスカス出身のシリア人男性(23)は「ハンガリー政府は我々を難民と見なしておらず、ここにはいられない。どんなことがあろうとドイツに行く」と話した。【9月2日 朝日】
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難民たちは、ハンガリー・ブダペストの駅に一時的に作られた「難民キャンプ」に数日間、足止めされていましたが、ハンガリー当局は8月31日、難民たちが最終的に目指す欧州北部に向かうため、列車に乗車することを許可しました。
本来、EUでは難民・移民が最初に到着した国で保護申請などの措置を行う規定になっていますが、ドイツなど欧州北部を目指す難民・移民が通過するハンガリーは、新たに押し寄せる記録的な数の移民の対応に手が回らないとして乗車を黙認する形となりました。結果、大勢の難民らがハンガリーを出国し、オーストリア・ドイツに向かいました。
しかし、9月1日には警官が駅を一旦閉鎖し、シェンゲン協定域内で有効な査証(ビザ)を持たない外国人は切符を持っていても入場が認めらないとしています。
ハンガリー内務省は8月31日、今年初めからの同国への不法入国者を15万6千人と発表しています。
1日のハンガリー当局の対応変更は、ドイツの意向があるのでは。
オーストリアやハンガリーを経由した大勢の移民がミュンヘンなどに列車で押し寄せたことを受け、ドイツ内務省は1日、ルールが依然有効であり、他のEU加盟国はこれを順守すべきだと主張しています。(メルケル首相がハンガリーの無責任な対応に激怒した・・・とかニュースで見聞きしたような気もします)
しかし、大半の難民が到着するイタリアやギリシャ、ハンガリーでは、これほどの規模の申請を処理するのは現実問題としては不可能とも言えます。
ハンガリーのオルバン首相も、ドイツに対し腹に据えかねるものがあるようです。
****ハンガリー首相、「移民危機は欧州でなくドイツの問題」****
ハンガリーのオルバン・ビクトル首相は3日、移民危機は欧州の問題ではなくドイツ一国の問題だと述べ、ハンガリーに押し寄せる難民に対する政府の対応を自己弁護した。
オルバン首相はベルギー・ブリュッセルで欧州議会のマルティン・シュルツ議長と共同記者会見し「この問題は欧州の問題ではなく、ドイツの問題だ」と述べ、「誰もハンガリーやスロバキア、ポーランド、エストニアにとどまろうとは考えていない。誰もがドイツを目指している。われわれの仕事は彼ら(移民ら)を登録することだけだ」と語った。
オルバン首相の発言に先立って、再開したハンガリーの国際鉄道駅では、西欧を目指す移民・難民が列車に殺到する騒動が起きていた。
オルバン首相は「欧州レベルでは明確な規則が存在する。ドイツの(メルケル)首相はきのう、登録をしない者はハンガリーを出国することはできないと語った」「ドイツ首相がわれわれに(移民の)登録実施を要求するのであれば、われわれはそうする。それが規則だからだ」と続けた。
オルバン首相はこれまで欧州の移民危機に対して強硬姿勢を取っている。難民を各国に割り当てる案を拒否し、セルビアとの国境沿いには有刺鉄線を設置して移民の流入を阻止しようとしてきた。【9月3日 AFP】
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【メルケル首相の決意 難民の受け入れを「成し遂げる」】
ドイツも現行ルールに無理があるのを認め、その見直しを提言しています。
****「難民受け入れ責任はEU加盟国で公平に」****
中東などから大勢の難民や移民がヨーロッパに流入している問題で、ドイツとフランス、イタリアの3か国は、難民を受け入れる責任はEU=ヨーロッパ連合の加盟国が公平に負うべきだという点で一致し、必要な対策をEUに書面で求めました。
中東やアフリカからの難民や移民は、地中海を渡って最初に到着するギリシャやイタリアだけでなく、経済的に豊かなドイツやフランスなどにも押し寄せ、ヨーロッパが抱える大きな問題となっています。
この問題について、ドイツとフランス、それにイタリアの3か国の外相が、2日、イタリアのローマで協議しました。
イタリア外務省の発表によりますと、協議では、難民を受け入れる責任はEUの加盟国が公平に負うべきで、難民が最初に到着した国がその責任を負うことを義務づけた今の制度を見直す必要性で一致したということです。
3か国はこうした内容を盛り込んだ書面をEUのモゲリーニ上級代表に送ったとしています。
EUは、今月14日に緊急の内相会議を開いて、難民の受け入れに関する各国の分担などを議論する方針ですが、今回の書面の内容についても検討するとみられます。【9月3日 NHK】
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メルケル首相は8月31日の記者改憲で、「欧州全体で動き、各国が責任を分かち合わなければならない」と指摘したうえで、「(負担の分担が)実現できなければ、(移動の自由を認めた)シェンゲン協定も課題になるかもしれない」と述べ、域内の移動の自由を認めた「シェンゲン協定」の見直しにも言及しています。
また、ドイツ・メルケル首相は、国境にフェンスを建設しているハンガリーなど中東欧諸国が難民受け入れに消極的なのに対し、ドイツは難民の受け入れを「成し遂げる」と決意を語っています。
****<ドイツ>首相、難民の受け入れに意欲「成し遂げる」****
ドイツからの報道によるとハンガリーに集まっていた約2000人の難民のうち、約800人が先月31日から1日にかけ、ドイツ南部バイエルン州に列車で到着、ミュンヘンなどの施設に収容された。
メルケル独首相は31日の記者会見で難民の受け入れと統合策が「国家の中心課題になる」として、定住・就労や独語教育などに取り組むと述べた。
列車でハンガリーからドイツに向かった難民は一時、ハンガリー・オーストリア国境やウィーンに留め置かれた。数百人はオーストリアに残され、残りはドイツに到着した。ミュンヘン駅に到着した難民はドイツに感謝の意を述べた。
メルケル首相は今年、80万人と予測される難民のうち半分は定住するとの見通しを述べた。
ドイツが債務危機を乗り越え、脱原発を実現した実績をあげ、難民の受け入れを「成し遂げる」と決意を語った。
一方、難民への攻撃や収容施設への焼き打ちには「国家として厳しく対応する」として「人間の尊厳を傷つけるものは容赦しない」と極右ネオナチなどの難民排除の動きを批判した。【9月1日 毎日】
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ドイツ政府は8月25日、シリア人による亡命申請の受け入れ要件を緩和したと発表しています。
メルケル首相も相当の覚悟でのぞんでいるようです。
しかし、そのドイツでも排外的な動きは強まっています。
****<ドイツ>難民への攻撃急増****
ドイツ内務省は2日、難民収容施設への放火といった難民への攻撃が今年になってから8月末までに337件に達したと発表した。昨年は同種の事件が1年間で198件だったので、倍増する勢いだ。多くは、ネオナチや極右思想に共鳴する市民による犯行という。
内務省の発表によると放火、暴行のほか、人種差別的な扇動などを含む難民への攻撃が今年7、8月に130件以上発生、8月末までに337件に達した。13年は1年間で64件で今年は5倍以上になる。
難民流入の急増とともに、攻撃も増えている。難民への攻撃とみられる事件でも、内務省の統計に入っていないものがあると指摘されており、実際の事件数はさらに多い可能性がある。(後略)【9月3日 毎日】
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【「難民危機の真の悲劇を示す恐ろしい画像」】
こうした難民・移民をめぐる混乱状態にある欧州にあって、ある写真が話題になっています。
海岸に打ち上げられ、うつぶせで横たわる難民の男児の写真です。
****海岸に打ち上げられた移民男児の遺体、欧州各国で波紋呼ぶ****
トルコ沖で移民らを乗せた船が転覆した後、海岸に打ち上げられた男児の遺体を写した写真が、大きな反響を巻き起こしている。
トルコの通信社ドーガンが撮影した写真には、トルコ・ボドルム近くの砂浜にうつぶせに横たわる男児の遺体が写っている。遺体はその後、警官によって拾い上げられた。
写真はインターネット上で広く共有され、ツイッター上ではハッシュタグ「#KiyiyaVuranInsanlik(海岸に打ち上げられた人間性)」が世界のトレンド上位に入った。
英紙デーリー・テレグラフは「難民危機の真の悲劇を示す恐ろしい画像」との見出しを掲載。英紙ガーディアン
は、この写真が悲惨な現状を「国内に持ち帰った」と報じた。
英紙インディペンデントは、「もし、シリア人の子どもの遺体を写したこの非常に力強い写真をもってしても、欧州の難民に対する姿勢が変わらないとしたら、いったいどうやったら変わるというのか」と報じた。
また、ハフィントン・ポスト英国版は、「何とかしろよ、デービッド」と、同国に到着する移民に対し強硬策をとるデービッド・キャメロン英首相に迫った。
スペインでは、エルパイス、エルムンド、エルペリオディコの各紙のウェブサイトも写真を掲載。エルペリオディコ紙は「欧州の水死」とのタイトルを写真につけた。
男児は、ギリシャのコス島に向かう途中の2日朝にトルコ海域で沈没した移民船2隻に乗っていて死亡したシリア人のうちの一人とみられている。
死亡したのは少なくとも12人で、うち5人が子ども、1人が女性だった。他に15人が救出され、救命胴衣を着け海岸にたどり着いて助かった人もいた。【9月3日 AFP】
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写真は#KiyiyaVuranInsanlikで検索すればすぐに見つかりますし、http://ink361.com/app/users/ig-362656665/sammyb3n/photos/ig-1065459902116923770_362656665 などで見ることができます。
痛ましい写真であり、公開することへの異論もあると思われますので、ブログ上にオープンにするのは控えますが、個人的には直視すべきものと考えます。
【もし貧しい人々が飢え死にするとしら、あなたが、そしてわたしが、与えなかったからです。】
こうした悲劇は、ほんの一端にすぎません。
****<ローマ法王>保冷車遺体事件を非難****
フランシスコ・ローマ法王は30日、ハンガリー国境に近いオーストリア東部でシリア難民ら71人が保冷車内に放置され、死亡した事件について「全人類に危害を加える犯罪だ」と糾弾した。
法王はバチカンのサンピエトロ広場で開いた日曜恒例の祈りの集いで、中東やアフリカから欧州を目指す難民・移民の死者が増えている現状に懸念を表明し、信徒と共に犠牲者のために黙とうをささげた。【8月31日 毎日】
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また、リビア沖の地中海上で欧州を目指す難民・移民の海難救助にあたる国際医療・人道支援団体「国境なき医師団」の担当者は、押し寄せる難民・移民を前に「救助船が足りない」と訴えています。
こうした繰り返される悲劇の一方で、ひっかかるものがあったのが、難民問題とはまったく関係ありませんが、ノルウェーの犯罪者を収監するオランダの刑務所の写真でした。
(オランダのノルゲルハーフェン刑務所の房室の内部 【9月2日 AFP】)
****刑務所が満杯、ノルウェーから蘭「豪華刑務所」へ受刑者移送開始****
ノルウェーでは受刑者を独居房に収監することが多いが、収容場所がないとの理由で有罪判決を受けた1000人以上が収監を待っている。
問題解決のためノルウェーはオランダ政府からノルゲルハーフェン刑務所を借用。両国間の正式な受刑者引き渡し式典を2日に控え、最初の受刑者25人が1日、同刑務所に到着した。(中略)
国内メディアが「豪華刑務所」と呼ぶこの刑務所では、長期受刑者は庭で野菜を栽培し、ニワトリを育て、調理し、舎房から牧歌的な風景を楽しむことができる。(後略) 【9月2日 AFP】
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欧州の犯罪者が「豪華刑務所」で暮らせ、他方で難民・移民は欧州から受入を拒まれ、犠牲者が増加する・・・・。
現実世界は国家単位で成り立っていますので、生まれた国家が異なれば、そうした境遇の差が生じるのはやむを得ないのが現実です。
もし、国家の枠組みを取り払ってしまえば、豊かな国はその豊かさを失うことも覚悟しなければなりません。
ただ、「やむを得ない」と受け入れるのには、ザラつくものが残ります。
****『マザーテレサのことば』より ****
もし貧しい人々が飢え死にするとしたら、それは神がその人たちを愛していないからではなく、あなたが、そしてわたしが、与えなかったからです。
神の愛の手の道具となって、パンを、服を、その人たちに差し出さなかったからです。
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もちろん、私も、多くの人もマザー・テレサのようにはなれません。
どんなきれいごとを言ったとしても、自分の身に負担が降りかかれば、まず自分の身を案じます。
しかし、そうであるにしても、「それでいいのか・・・・」という疑念は捨て去るべきではないでしょう。
たとえ自分に大きな負担が及ばない範囲での「偽善」であったとしても、可能な範囲でできることはないか探す気持ちは捨て去るべきではないでしょう。
理想を語ることが揶揄され、本音と称するもの言いがまかり通る昨今ですが、むき出しのエゴだけで生きるのもあさましいものがあるのでは・・・。