孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベネズエラ  迫るデフォルトの足音 野党指導者逮捕で政府批判を圧殺 国内コロンビア人の難民化

2015-09-11 22:47:26 | ラテンアメリカ

(8月25日、ベネズエラ国境のタチラ川を、冷蔵庫などの家財を担ぎながらコロンビアに戻る人々(ロイター)【9月9日 産経ニュース】)

デフォルトは「時間の問題」?】
“チャベスなきチャベス体制”のもとでの市場経済を無視した経済運営によるインフレと物不足に加えて、昨年後半以来の急激な原油安で、デフォルト候補一番手をギリシャと争うような状態に追い詰められていることは、昨年12月5日ブログ「ベネズエラ 原油価格下落で経済悪化が加速 迫るデフォルト・社会不安の危機」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20141205でも取り上げたところです。

また、経済破綻から国民の目をそらすかのように野党有力者を逮捕・拘束するマドゥロ大統領の強権的姿勢、そうした経済破綻・強権政治への抗議デモ、反政府行動への強硬な姿勢を続けるマドゥロ政権に対するアメリカの制裁措置とマドゥロ政権の対米反発・・・・等の混乱状況については、3月17日ブログ「ベネズエラ 対アメリカ関係悪化 国民の不満を国外に向け、支持者の結束強化を図る思惑も」http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150317でも取り上げました。

ベネズエラ・マドゥロ政権の経済・政治状況は好転していません。

原油依存のベネズエラ財政を決定的に左右するのが原油価格で、“原油価格が1ドル下がるたびにベネズエラ政府の歳入は7億ドル減少する”とか。

その原油価格は、4~5月頃にはWTI原油先物で1バレル=60ドル付近に持ち直した後、再び下落し、8月末には40ドルを割り込む場面も。ここのところは45ドル付近で推移しています。ベネズエラにとっては苦しい状況が続いており、デフォルトは「時間の問題」ではないか・・・とも見られています。

****原油安でベネズエラの債務返済能力に疑問符****
現金かき集めるマドゥロ政権、デフォルトは時間の問題か

ニコラス・マドゥロ氏は2年半前にベネズエラの大統領に就任した際、前任のウゴ・チャベス氏から、国の債務の元利返済は必ず行うという約束と、1バレル=110ドルを超える値がついていたベネズエラ産原油とを引き継いだ。

しかし、それも過去の話となった。原油価格は先週になって再び下落し、ベネズエラ産原油の値段は1バレル=40ドルに向かっている。

国際通貨基金(IMF)によれば、ベネズエラの今年の経済成長率は7%のマイナスに落ち込む見通しだ。
また、格付け会社ムーディーズの推計によれば対外収支の赤字は今年だけで300億ドルに達する勢いで、その穴埋めに外貨準備が使われているという。

ベネズエラ国債を保有する投資家は、来年にも予想されるデフォルト(債務不履行)から身を守ろうと躍起になっており、今週、ベネズエラのクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)の需要が記録的な水準に増加した。

原油価格が1ドル下がるたびに歳入が7億ドル減少
インフレが手に負えなくなり、国民が基本的な物資の不足に苦しむ中、債務に関する前任者の約束を守りたいというマドゥロ氏の気持ちもついには折れてしまうのでないか――。そんな疑問を投資家たちは抱くようになっている。(中略)
大手産油国の中で、今回の原油安の痛みをベネズエラほど強く感じているところはない。この国では、輸出の96%を原油販売が占めているからだ。エコノミストらの試算によれば、原油価格が1ドル下がるたびにベネズエラ政府の歳入は7億ドル減少する。(中略)

来年デフォルトする可能性は50%以上
ムーディーズは、2016年にデフォルトが発生する可能性が50%より高いと見ている。
ベネズエラが返済しなければならない債務は、向こう24年間の合計で1280億ドルある。

だがバンクオブアメリカによれば、マドゥロ氏にとってはその額よりも、このうちの約25%が向こう3年以内に期日を迎えることの方が心配なのだという。

バンクオブアメリカのベネズエラ人エコノミスト、フランシスコ・ロドリゲス氏は、ベネズエラ政府にはまだいくらか余力があり、穴埋めのために国有資産を610億ドルほど売却できるかもしれないと見ている。

また、今年12月に議会選挙が控えていることを念頭に、「ベネズエラは国債保有者への元利金支払いを、マドゥロ氏への給与の支払いよりも長い期間続けられる可能性がある」と述べている。

公式の統計がないため、インフレ率(年率)の推計値はムーディーズによる115%から722%までかなり幅がある、とケイトー研究所のスティーブ・ハンク氏は話している。(中略)

デフォルトは時間の問題か
・・・・国際エネルギー機関(IEA)によれば、世界全体の原油供給は少なくとも2016年後半までは需要を上回る。
石油に依存するベネズエラにとって、デフォルトは時間の問題でしかないのかもしれない。【8月19日付 英フィナンシャル・タイムズ紙】
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【「今のベネズエラでは、政府と違う考えを持ち、声を上げることが犯罪とみなされている」】
強権的政治姿勢の方も相変わらずです。

****政治弾圧の“象徴”的リーダーに禁錮13年 ベネズエラ、対立激化は必至****
ベネズエラの裁判所は10日、反米左翼マドゥロ政権に対する暴力的な反政府デモを扇動したとして昨年2月から拘束されている反政府指導者レオポルド・ロペス氏に禁錮約13年9月を言い渡した。ロイター通信などが伝えた。

ロペス氏は野党側にとって、政権による政治的弾圧の犠牲者として象徴的な存在。12月に議会選を控え、与野党対立が激化するのは必至だ。政権が関係改善を探る米国も反発するとみられる。

判決前、首都カラカスの裁判所付近ではロペス氏の支持者と政権支持者が衝突、ロペス氏の妻がペットボトルを投げつけられるなどした。

ベネズエラでは昨年2月以降、生活必需品の不足や高インフレへの不満からマドゥロ政権に対する抗議行動が全国に広がり、約4カ月間で43人が死亡した。【9月11日 産経ニュース】
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マドゥロ政権の政府批判を許さない姿勢については、下記のようにも報じられています。

****ベネズエラ、強まる弾圧 政治犯の妻ら、支援訴え****
南米ベネズエラのマドゥロ政権が、経済危機や治安悪化に不満を抱く野党や市民への弾圧を強め、体制に批判的な政治家や学生を次々と逮捕している。政治犯として拘束されている野党指導者の妻らが、国際社会の支援を求めて声を上げている。

「89人もの政治家や学生が不当に拘束されている。危機的な状況だ」。ブラジル・サンパウロで5日、ベネズエラ人のリリアン・ティントリ氏(37)とミッシ・カプリレス氏(64)が記者会見を開き、ベネズエラの人権侵害の深刻さを訴えた。ともに、暴力的なデモを扇動したなどとして逮捕された野党政治家の妻だ。(中略)

ティントリ氏の夫は野党指導者のレオポルド・ロペス氏(44)。昨年2月、マドゥロ政権に抗議するデモで演説した直後に逮捕され、現在まで刑務所に収容されている。

カプリレス氏の夫は現カラカス市長のアントニオ・レデスマ氏(60)だ。今年2月、武装した情報機関の部隊が執務室に突入し、クーデターを企てたとして逮捕された。

両氏は会見で、「マドゥロ大統領と違う考えを持てば、夫のように拘束される。意見を述べると罪になるのがベネズエラの現状だ」と説明。「私たちの国で起きていることを世界に知ってほしい」と訴えた。(中略)
 
チャベス前大統領の死後、ベネズエラでは経済政策の失敗から物不足やインフレが深刻化。マドゥロ政権は反政府勢力への弾圧を強め、野党政治家やデモ参加者を逮捕してきた。昨年のデモでは学生ら40人以上が死亡。今年2月のデモでは、14歳の少年が治安部隊の発砲で死亡した。

こうした状況について、国連は「人権侵害」として懸念を表明し、ロペス氏らの早期釈放を要求。4月には、中南米各国の大統領経験者ら20人以上が、同国の人権侵害の改善を求める宣言に署名し、米州機構に提出した。

 ■「抗議しただけで逮捕
リリアン・ティントリ氏が、サンパウロで朝日新聞の取材に応じ、ベネズエラの政治弾圧の状況を語った。
 ――夫のレオポルド・ロペス氏はなぜ逮捕されたのですか。
マドゥロ政権に抗議し、市民にデモへの参加を呼びかけたから。政府からは何度も国外に去るよう要求されたが、夫は断り続けていた。逮捕後は約2メートル四方の牢獄で、非人間的な扱いを受けている。今のベネズエラでは、政府と違う考えを持ち、声を上げることが犯罪とみなされている。

 ――人権侵害の状況は。
これまでに89人の野党指導者や学生が不当に逮捕・収容された。そのうち43人は政府に抗議しただけだ。200件以上の拷問も明らかになっている。デモ鎮圧には武器が多用され、たくさんの死傷者が出た。
 
――国内経済は深刻な状況が続いています。
食べ物や生活必需品を買うために何時間も並ばなくてはいけないし、並んでも買えるとは限らない。昨年のインフレ率は約70%。病院では薬の不足で死者が出ている。治安の悪化も危機的で、20分に1件のペースで殺人が起き、昨年は約2万5千人が銃などで殺された。殺人や誘拐の恐怖から、子どもを公園に連れていくことすらできない。国民は変革を望んでいるのに、その声が封じ込められている。

――国際社会に望むことは。
 ベネズエラの現状を知り、政治弾圧と人権侵害に抗議してほしい。【5月11日 朝日】
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6月時点の報道では、12月の総選挙に関して下記のようにも。

****支持率低迷の大統領に試練=12月に総選挙―ベネズエラ****
・・・地元報道によると、最新の世論調査での与党の支持率は21.3%。野党の40.1%を大きく下回った。

ただ、議席の3分の1弱を占める野党も一枚岩ではない。陣営内で路線対立を繰り返し、有力指導者は投獄中。支持を急拡大させているとは言い難く、「打倒マドゥロ」で一致協力できなければ「与党に切り崩される恐れもある」【6月23日 時事】
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シリア難民受け入れ表明・・・一方で、コロンビア人1万5千人超が難民化
経済的にも、政治的にも厳しい局面にあるマドゥロ政権ですが、欧州を揺るがす難民問題で、シリア難民受け入れを表明しています。

“一方、反米路線でシリアと連携するベネズエラのマドゥロ大統領は7日、「何人の難民が命を落とさなければならないのか」と演説。「2万人のシリア難民を受け入れたい」と言明した。”【9月9日 時事】

難民問題では欧州以外でも、オーストラリア、ニュージーランド、アメリカなど従来シリア難民などに厳しい姿勢をとってきた国でも、受け入れの表明がなされています。
南米では、ブラジル・ルセフ大統領も「わが国で暮らすことを望む人々に手を差し伸べる」と語っています。

難民受け入れは結構な話ですし、反米ベネズエラからすればアメリカの中東政策の犠牲者とみなされるシリア難民に連帯を示すのは自然なことかもしれませんが、ベネズエラの現在の危機的状況を考えると、そうした余裕があるのだろうか・・・と訝しく感じてしまいます。

何より問題なのは、ベネズエラ・マドゥロ政権自身が隣国コロンビアとの関係で大量の難民を発生させているという皮肉な現実です。

****ベネズエラから避難 コロンビア人1万5千人超 迫害恐れ 近隣国も動揺**** 
南米ベネズエラの西部に住む多数のコロンビア人が先月半ば以降、母国への帰還を余儀なくされている。

コロンビア人の密輸業者らが食料などの価格統制品をコロンビアで安く転売しているなどとして、マドゥロ政権がコロンビア人約1300人を強制追放。迫害を恐れた1万5千人以上が家を捨てて母国に逃れる事態となり、近隣諸国にも不安が広がっている。

ベネズエラでは、反米左派のマドゥロ政権が誕生した2013年4月以降、価格統制された廉価な商品の不足が目立っている。

こうした中、小麦やガソリン、などの統制品がコロンビアで安く転売されている事態に政権が頭を痛め、密輸業者の摘発を進めてきた。

マドゥロ政権は先月19日、コロンビアとの国境付近で治安部隊兵3人が密輸業者らとの銃撃戦で負傷したことを受け、ベネズエラに住むコロンビア人約560万人のうち約1300人を強制追放。令状もなく一帯で家宅捜索を進め、民家を無差別に破壊した。

コロンビアのサントス大統領は「コロンビア人をこのように扱うのは許せない」と憤慨し、大使の召還を発表。これに対し、ベネズエラ側も大使召還を発表するなど、非難の応酬合戦が続いている。

国連によれば、密輸と関係ないコロンビア人が危機感を募らせ、1万5千人以上がコロンビア東部のククタなどに避難。ロイター通信によれば、親子が引き離されている例もある。

冷蔵庫や家具などを家から運び出し、着の身着のままヤギや鶏を連れて国境の川を横断する様子は近隣国に衝撃を与えている。

ブラジルとアルゼンチンの両外相は今月4日、コロンビアの首都ボコタで会談し、人道上の観点から早期に対話を開始するよう2国に求める声明を発表した。【9月9日 産経】
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反米のリーダーを自任するベネズエラと、中南米にあっては例外的な親米コロンビアは、チャベス前大統領の頃から関係悪化と緩和を繰り返しており、2008年には、コロンビア軍が隣国エクアドル領内にあったコロンビアの左翼ゲリラの基地を越境攻撃したのを機に高まったコロンビアとエクアドル、ベネズエラの緊張が戦争に突入する直前の状態まで至ったこともあります。

今回のベネズエラ・マドゥロ政権による密輸業者取締りを名目にした“コロンビア人追放”は、国内の政治・経済危機を糊塗するために、外に“敵”をつくり国民の目を国内危機からそらす・・・という手垢のついた権力者の常套手段のようにも思われます。

シリア難民より先に自国内コロンビア人の難民化をなんとかしたら・・・というのは誰しも思うところですが、マドゥロ大統領には通じないようです。
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