孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

タイ  バンコク爆弾テロの首謀者は中国人ウイグル族  軍政意向を受けて新憲法案否決の「茶番」

2015-09-08 23:05:21 | 東南アジア

(先月17日に発生した爆発事件で破損した観光名所「エラワン廟」にまつられたヒンズー教の神ブラフマーの像が修復され、9月4日には記念行事も行われました。【9月4日 AFP】)

ウイグル族強制送還との関連は?】
8月17日夜、タイの首都バンコクの「エラワン廟」と呼ばれるヒンズー教の神を祭った祠「エラワン廟」の前で爆発が起き、20人が死亡、120人以上が負傷するテロがありました。

現場は外国人が賑わう繁華街であったため、多くの外国人が犠牲となり、マレーシアやシンガポールの華人の他、中国人5人、香港人2人が亡くなっています。

更に18日午後には、バンコクの都心を流れるチャオプラヤ川の船着き場付近でも爆発が発生。負傷者はいませんでしたが、警察はパイプ爆弾がさく裂したと説明しています。

事件発生当時から、タクシン派絡みの事件とか深南部で続くイスラム教徒によるテロとは異質な面が指摘され、7月にタイ当局がイスラム教徒のウイグル族109人を中国に強制送還して、同族のトルコなどから批判を浴びたこととの関係も取りざたされていました。

タイ当局は、不法移民の偽造文書取得を手助けする犯罪者グループによる、最近のタイ当局による取り締まりに対する報復との見方を示しており、強制送還を巡りタイ側に反発を強めた国際テロ組織の関与には否定的です。

未だ事件の全容はわかりませんが、少なくともウイグル族が深く関与していることは間違いないようです。

****バンコクテロ】首謀者の名は「イザン」逮捕の男供述 中国人か、事件前日タイを出国****
タイの首都バンコクで起きた爆弾テロで、タイ警察が実行犯として逮捕した男が、首謀者は「イザン」という名前の中国人だと供述していることが8日、分かった。ウイグル族とみられる。

タイの英字紙ネーション(電子版)が伝えた。首謀者は事件前日の8月16日、バンコク近郊のスワンナプーム国際空港からタイを出国したという。

供述した男は、ユスフ・マイライリ容疑者(25)で、タイとカンボジアの国境付近でタイ当局に拘束された。中国の新疆ウイグル自治区出身を示すパスポートを所持していた。

首謀者は、無料通話アプリ「ワッツ・アップ」で仲間と連絡をとり、同容疑者に爆発後の写真を撮影して送信するよう指示していたという。供述では、一連の爆破事件に関与したのは計6人。

バンコク・ポスト紙によると、同容疑者は、両親がまだ自治区に住んでいるとする一方、中国への送還を拒み、タイ国内での処罰を希望して供述を始めたという。実行犯とされる「黄色いシャツ」の男に爆発物を渡したことを認めた。【9月8日 産経】
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ウイグル族の中国出国ルートについては、以下のように指摘されています。

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シンガポールのあるテロ専門家は、ウイグル族が中東を目指して不法越境するルートが時と共に変化してきていると指摘する。

1990年代初期には中央アジアを通じてアフガンに出るルートが使われていたが、200人近くの死者を出した2009年のウイグル騒乱以降は中国西部の国境警備が厳重になり、中国南東部からミャンマー、タイ、インドネシア、マレーシアなど密入国斡旋ネットワークが確立している東南アジア各国へ出国するルートが使われるようになった。

(2014年3月には南部雲南省の昆明駅でウイグル族とみられるグループが旅行客らを切りつける事件が発生し、31人が死亡、141人が負傷した)前述の昆明事件以降、雲南省から抜けるルートが阻まれて、広東省や香港・マカオルートが使われるようになってきている。【8月31日 Newsweek】
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犯人グループが、単に取締り強化への報復で爆弾テロを行うというのもあまり考えにくい話で、タイ当局のウイグル族強制送還への反発が絡んでいるのでは・・・とも推測されます。

8月7日ブログ「タイ 中国への傾斜を強める軍事政権」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150807)でも取り上げたように、タイ及びタイ軍事政権は、中国との関係を深めています。

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2012年末に中国で公開された、タイを舞台としたコメディ映画『人再囧途之泰囧』(英題Lost in Thailand)が同国の歴代興行収入を更新するほどの好評を得ると、タイ旅行が一層のブームになった。タイ経済の約10%を占める観光業のなかにあって、中国人旅行客数は全体の5分の1に迫るなど突出しており、昨年は460万人の中国人がタイを訪れた。

2014年のクーデターで軍事政権が誕生して以来、タイは中国との関係を深めてきた。その蜜月ぶりは、8月はじめにクアラルンプールで開催されたASEAN地域フォーラムで開かれた両国外相による共同記者会見でも垣間見れた。

2人はその場でプレゼントを交換すると、タイのタナサック・パティマプラゴーン副首相兼外相(当時)が今の両国関係はこれまでになく良好だと指摘し、「もし私が女性だったら、殿下(注:中国の王毅外相)と恋に落ちてしまっただろう」と述べた。【同上】
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そうした親密な中国との関係を背景にウイグル族強制送還がなされた訳ですが、バンコク爆弾テロ事件の原因が強制送還という自らの施策にあったともとられかねない、事件と強制送還問題の関連を当局は認めたくないのでは・・・とも思われます。

タイ警察の科学捜査 紙幣からDNA
事件の捜査に関する情報のなかで、興味深かったのは下記の記事。

****逮捕の容疑者、「黄シャツ男」でない=DNA一致せず―バンコク爆弾テロ***
タイの首都バンコクで起きた爆弾テロで、国家警察報道官は4日、事件に関与した疑いで逮捕し、新疆ウイグル自治区生まれの記載がある中国旅券を所持していたユスフ・ミーライリー容疑者について、DNA型鑑定の結果、実行犯とされる「黄色いシャツの男」ではないとみられると明らかにした。

報道官によると、黄色いシャツの男が事件当日に乗ったタクシーに、料金として支払った紙幣などから検出されたDNA型と一致しなかった。

一方、先に爆弾製造に使用可能な材料が押収されたバンコクのアパートで、歯ブラシなどから採取されたDNA型とは一致したという。このため警察は、ミーライリー容疑者が事件に関わっているのは間違いないとみている。

また、事件に絡んで爆発物の不法所持容疑で逮捕され、軍の拘束下に置かれていたアデム・カラダク容疑者の身柄が4日、警察に引き渡された。同容疑者はトルコの偽造旅券を所持していたが、国籍は依然確認されていない。【9月4日 時事】
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タイ警察がどんな取り調べ・捜査を行っているのだろうか? ひょっとして、関係者の拷問とかやっているのだろうか?・・・と非常に失礼なことを考えていたのですが、DNAによる捜査、それも紙幣からDNAを採取するというような科学的捜査を行っていたとは意外でした。失礼しました。

それにしても、紙幣から指紋ではなく、DNAまでわかるとは知りませんでした。
ネットで確認すると、確かにそのような技術があるようです。

最先端技術でもありますが、鑑定精度は2~3年ごとに20倍も進化し続けているとも言われような世界のようです。
「科捜研の女」の沢口靖子さんの出番です。

反軍政運動の盛り上がりを懸念して、軍政延長を選択
タイの政治面で注目されたのは、なんといっても民政復帰の基礎となる憲法改正が振り出しにもどってしまったという話。

しかも、軍政主導で進められてきた改正案を、状況不利と見た軍政側が自ら反対に回って葬り、結果的に軍政延長を余儀なくさせる・・・というとんだ「茶番」です。

****タイ新憲法案否決 軍、「非民主的」批判受け転換か 軍事独裁、長期化へ****
軍事独裁体制下にあるタイで民政復帰に向けて起草された新憲法案が6日、国家改革評議会(NRC)で採決され、反対多数で否決された。

軍部が主導してきた憲法案だけに、最終局面で方針転換があった模様だ。非民主的な内容は否定された一方、起草は振り出しに戻り、独裁体制は2017年まで続くことが確定的になった。
 
採決の結果は、反対135、賛成105、棄権7。

NRCは国内諸制度改革と憲法案の審議・採決を主な役割として、クーデター後に軍事政権が任命した。憲法起草委員会も事実上、軍政の人選で、憲法案は軍部の意向に沿ったかたちで承認されるとみられていた。しかし、採決では軍、警察出身の議員のほとんどが反対した。

タイ軍部は昨年5月のクーデターで当時のインラック政権を崩壊させ、憲法を破棄。その後、軍事政権の権限を規定した暫定憲法を制定し、同時に新しい恒久憲法を起草し、それに基づく選挙を通じて権力を文民政権に戻す正常化へのプロセスを進めている。新憲法が民主的なものになるかがタイ政治の将来を決定づけるため、注目されている。

だが新憲法案は、選挙を通じて選ぶ下院と内閣の権限を制限すると同時に、任命議員が過半数を占める上院などの権限を強化。さらに民政復帰後5年間の経過措置として、非常時に内閣や議会を超えて命令を出すことができる機関の新設を盛り込むなど、民主主義の原則から逸脱した内容だと批判が高まっていた。

軍部は、国王を頂点として軍や官僚、財閥、知識層らエリートが特権的に国家運営を担う伝統的な統治を守ろうとしており、選挙を背景に台頭したタクシン元首相派を復活させない制度を模索してきたとされる。その意味で新憲法案は軍部の意に沿っていた。

否決に傾いたことに関しては、憲法案への批判が予想外に強かったことから、軍部は国民投票に進むことを避けたとの見方がある。「国民投票を前に政党の活動が活発になり、反軍運動も盛り上がる可能性がある」(NRC議員のパイブーン・ニティッタワン元上院議員)ためだ。

政治学者のユッタポーン・イッサラチャイ氏は「NRCを通っても国民投票で否決される可能性が高い。その否決は軍部に対する国民の『ノー』であり、より深刻だ。それよりも軍事独裁体制の期間を引き延ばすことを選んだようだ」と指摘する。

昨年5月にクーデターを決行したプラユット暫定首相は当初、「15カ月で民政に復帰させる」と語り、今年中に総選挙を実施するとしていた。その後、憲法案を国民投票にかけることを決定、総選挙は16年後半とされた。

今回、NRCでの否決を受け、新しい憲法起草委員会が設置される。関連法制定期間などを含めると、順調にいっても総選挙は17年半ばごろにずれ込む見通し。

抑圧的な体制は3年に及ぶことになる。この間にタクシン派の排除、解体が進められるとの見方がある。

タクシン派の中核組織、反独裁民主同盟(UDD)のチャトゥポン・プロムパン議長は朝日新聞に「我々は民主的な憲法のもとでの選挙にしか興味はない。それが実現するまで、戦う準備を続けるし、辛抱強く待ち続ける」と語った。【9月7日 朝日】
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憲法改正案の問題点については、4月28日ブログ「タイの新憲法草案 “権威”の指導監督によって、選挙による民主主義を制約する方向」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150428)でも取り上げたことがありますが、最終案では「合法クーデター機関」も付加されました。

****タイで新憲法最終案 「合法クーデター機関」案に批判***
軍事独裁体制下にあるタイの民主化を占う新憲法の最終案が22日、採決のために国家改革評議会(NRC)に提出された。非常時に政府と議会を超越した権限を持つ機関を新設するなど、民主主義の原則と相いれない内容になっている。

議論を呼んでいるのは、憲法発効後5年間の経過措置として軍司令官や警察庁長官、首相、両院議長らでつくる「改革と和解のための国家戦略委員会」(23人)に与えられる権限だ。

最終案は、政府には対応できない国家の独立や王制を脅かす危機が生じた場合、同委員会が事態正常化のために行政府、立法府を超えて命令や措置をとることができるとしている。

これは、選挙で選ばれた議会と政権の権限の停止を意味することから、専門家や政党関係者は「合法的にクーデターができる機関」だと批判。これに対し、憲法起草委員会は「政治混乱や暴力を、憲法を破棄せずに収拾するための条項だ」と説明している。【8月22日 朝日】
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結果的に、国民投票で反軍政運動が盛り上がることを懸念して、軍政の意向を受けた軍、警察出身の議員のほとんどが採決で反対に回るという「茶番」でした。

【「すべては閉ざされたドアの後ろで決定される」】
今後については、“新憲法策定は振り出しに戻ったが、ある学者は「すべては閉ざされたドアの後ろで決定され、民間の意見が反映されるかは不明」という”【9月7日 産経】といった状況です。

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今後、憲法の制定作業は一からやり直しとなる。

ただ、新憲法制定を通じ、軍や官僚などエリート層による伝統的支配体制の復権を狙う軍政の意向は変わらない。

評議会のメンバーを務める元陸軍幹部は「今回は可決すべきタイミングではなかったが、政策や方針は大幅に変更すべきではない」と語り、同様の憲法案が再提案される可能性を示唆した。【9月6日 毎日】
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過去14年で全ての国政選挙に勝利しているタクシン派の力を弱め、伝統的支配体制の復権を実現することが新憲法の狙いとされています。

いずれにせよ軍政が再来年半ばまで続くことになりましたが、軍政側はこの時間を利用して一段とタクシン派叩きを進めることと思われます。

****タクシン元首相の警察階級をはく奪 タイ暫定政権が懲罰****
タイ暫定政権は7日までに、タクシン元首相の警察官時代の階級称号「警察中佐」を?奪(はくだつ)した。法務省の決定をプラユット暫定首相が認め、国王承認を得て6日に発効した。

タイでは軍人や警察官が退役後も階級をそのまま名乗ることが認められている。

法務省は「タクシン氏は首相在任中の不正土地取引容疑で有罪判決を受けている犯罪者で、海外の逃亡先から国益に反する発言を続けている」などとして、懲罰として階級?奪を決めたとしている。【9月7日 朝日】
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****コメ質入制度の損害賠償をインラック首相らに請求か****
インラック前政権が導入した、コメを高値で買い上げるという米作農家支援プログラム「コメ質入れ制度」のせいで巨額損失が生じた問題で、ウィサヌ副首相は9月4日、「政府はインラック前首相、ブンソン前商業相、関連の民間企業に損害賠償を求めることが可能であり、そうするつもりだ」と述べた。

同プログラムは、農民の多くがタクシン派であることから、当時のタクシン派インラック政権が支持固めを目的に開始したもの。

副首相によれば、政府はまず昨年12月30日までに生じた損失について賠償を求める予定だが、請求額は数百億バーツにのぼる見通しだ。【9月6日 バンコク週報】
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コメント (1)
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