孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカにおける「性的少数者」「LGBT」に関する動き

2015-09-13 23:17:41 | アメリカ

(【9月9日 AFP】)

【「神の権限」で同性婚への結婚証明書発行を拒否

****LGBT*****
LGBT(エル・ジー・ビー・ティー)または GLBT(ジー・エル・ビー・ティー)とは、女性同性愛者(レズビアン、Lesbian)、男性同性愛者(ゲイ、Gay)、両性愛者(バイセクシュアル、Bisexual)、そして性同一性障害含む性別越境者など(トランスジェンダー、Transgender)の人々を意味する頭字語である【ウィキペディア】
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近年、この言葉を目にすることが多く、こうした「性的少数者」(“LGBT”が当事者側からの肯定的な呼称であるのに対し、“性的少数者”という言葉には多数派からの視点が感じられる点で、ややニュアンスの差がありますが)の権利擁護が進んでいること、ただ、一部地域では未だ非合法で、アフリカやイスラム教国などでは場合によっては死罪になることもあること・・・等々は見聞きします。

もっとも、一般論として権利擁護が進むのは結構なことだとは考えますが、個人的には正直なところ、あまり関心が向かない分野で、LGBTを扱った記事なども読み飛ばすことが多かったのも事実です。

同じ社会問題、人権に関する問題でも、警官による黒人への差別的な扱いといった話は比較的関心を持ちやすいのですが。

そんな私でも「おやおや・・・」と感じたのは、憲法が認めた同性婚を宗教上の理由で拒否し続けるアメリカ保守派の頑なな抵抗を伝えるニュースでした。

****同性婚拒否の担当者、法廷侮辱で収監=最高裁判決後も証明書出さず―米南部****
米南部ケンタッキー州の連邦地裁は3日、信仰を理由に同性カップルへの結婚証明書発行を拒んでいる同州内の女性書記官について、法廷侮辱罪に当たるとして収監命令を出した。複数の同性カップルが1日、書記官を同罪に問うよう申し立てていた。

収監されたのはロワン郡のキム・デービス書記官(49)。連邦最高裁が6月に同性婚を禁じた州法を違憲と断じ、全米で同性婚が認められたのに、「結婚は男女間でするもの」と結婚証明書の発行を拒否した。地裁が8月、証明書を発行するよう改めて命じた後も拒み続けた。

デービス氏は3日法廷で「神の道徳律と職務上の義務が一致しない。判決に従うことは良心が許さない」と述べた。同氏は聖書を厳格に解釈する使徒教会派のキリスト教徒だという。

米国では同性婚が合法化された後も、テキサス州やアラバマ州の一部で書記官や判事が宗教上の理由で結婚証明書の発行を拒み、論議を呼んだ。【9月4日 時事】
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アメリカでは今年6月に同性婚を認める連邦最高裁の判決が出ています。

****同性婚「全米州で合憲」 連邦最高裁判決、論争に決着****
米国のすべての州で同性婚が認められるかどうかが争われた訴訟で、連邦最高裁は26日、「結婚の権利がある」とする判決を言い渡した。同性カップルが結婚する権利は法の下の平等を掲げる米国の憲法で保障され、これを禁止する法律は違憲だと判断した。

オバマ大統領は判決を受けて会見し「アメリカにとっての勝利だ」と歓迎した。米国で同性婚は2004年にマサチューセッツ州で初めて行われたが、保守派の反発が強く、その是非が激しく議論されてきた。

ただ、最近は賛成の世論が急増。最高裁判決は論争を決着させる歴史的な節目であると同時に、米社会の変化を表す象徴となった。

米国では婚姻に関する法律は原則として州が定めている。AP通信によると、同性婚は現在、36州と首都ワシントンで行われ、14州で禁止されていた。訴訟は、禁止州のカップルらが起こしていた。

最高裁は判決で婚姻が社会の重要な基盤であり、同性カップルだけにその受益を認めないのは差別だと判断。同性カップルに、婚姻という根源的な権利の行使を認めない法律は違憲だと結論づけた。9人の判事のうち5人による多数意見で、4人は反対した。

連邦法でも、結婚を男女の関係に限定した「結婚防衛法」が96年に制定されていたが、最高裁は13年6月に「州が同性婚を認めているにもかかわらず、国が禁止するのは違憲だ」との判決を下した。ただ、この時はどの州でも同性婚の権利があるかどうかは判断しなかった。【6月27日 朝日】
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こうした憲法上の判断にもかかわらず、キム・デービス書記官は同性カップルへの結婚証明書発行を拒否したというものです。郡庁舎の書記官事務所を訪れた男性カップルから「誰の権限で拒否を」と問われると、「神の権限でだ」と応じ、譲らなかったそうです。 
(アメリカの「郡書記官」がどういう資格・立場にある役職なのかは知りません。)

近年のLGBTに関するリベラルな傾向が進むことを苦々しく感じていた保守派からはデービス書記官への強い賛同が寄せられ、共和党大統領候補も支持を表明するなど、この女性は一躍“時の人”ともなりました。

****同性婚拒否の書記官を釈放 米ケンタッキー州****
米南部ケンタッキー州で、自らのキリスト教信仰を理由に同性カップルへの結婚許可証発行を拒否し収監されていた郡書記官が8日、釈放された。

ローワン郡のキム・デービス書記官(49)は、連邦最高裁判所が今年6月に全米で合法化した同性婚に反対し、結婚許可証の発行を拒否したことから先週、法廷侮辱罪で収監されていた。同書記官は同性婚に反対する米国人数百万人のヒロインとなり、同性婚に対する論議を再燃させた。

デービッド・バニング連邦地裁判事は、同郡の副書記官6人中5人が全てのカップルに結婚証明書を出すと宣誓したことを受け、デービス書記官の釈放を命令。
同書記官に対し、もし結婚証明書の発行を直接または間接的に妨害すれば、処罰を下すと警告した。

収監施設を出たデービス書記官は、詰めかけた大勢の支持者に対し感謝の言葉を述べるとともに、神をたたえる言葉を繰り返した。

米大統領選の共和党候補者らは、相次いでデービス書記官支持を表明し、同書記官の収監は同性婚反対派が宗教的迫害に苦しんでいることを裏付ける証拠だと主張している。

前アーカンソー州知事のマイク・ハッカビー候補は収監施設を出る同書記官に付き添った他、施設前で開かれた支持者の集会を主催。
上院議員のテッド・クルーズ候補は同集会で演説はしなかったが、同書記官とその夫と面会した。【9月9日 AFP】
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“同書記官の収監は同性婚反対派が宗教的迫害に苦しんでいることを裏付ける証拠”・・・・今や、宗教的迫害を受けているのは保守派の方だということですが、まあ、立場の違いによる見解の相違でしょう。

変わりゆく人々の意識
なお、同性婚に関する最高裁判決を「アメリカにとっての勝利だ」と歓迎したオバマ大統領は、2012年の2期目を目指す大統領選挙で同性婚支持を公約として掲げ、昨年のソチ五輪でロシアの同性愛宣伝禁止法が差別法だとして開会式を欠席したとか、今年7月には訪問中のケニアでケニヤッタ大統領と共同記者会見を行い、同性愛者に対する同国の対応を「間違っている」と批判する(ケニヤッタ大統領の「ケニアはアメリカの大統領とは見解を共有していない」という反撃にあっていますが)など、この方面での変革を支持・推進しています。

もっとも、“2008年大統領選挙期間中、遺産相続権や養子縁組権など異性婚で保障される権利を同性愛カップルにも与えるシビル・ユニオン(civil union)制を定めた州法には賛成であるが、結婚というステータスを彼らに与えることには否定的であった。”【http://www.peace-aichi.com/piace_aichi/201107/vol_20-9.html】とのことで、世の中の流れに沿って軌道修正を行っているようです。

彼が変わったというより、イリノイ州の上院議員選挙では同性婚合法化を支持していたそうですから、大統領として同性婚支持を明らかにできる環境に、時代が変化したということかも。

アメリカでの同性婚について聞いたアンケート調査よると、当初は反対の人のほうが多かったのですが、賛成する人が年々増えていき2011年には並び、その後、逆転しています。

さらに、身近に同性愛者の知り合いがいるかを聞いた調査結果によると、「いる」と答えた人は1993年では61%でしたが、2013年には87%にまで上昇しています。【7月30日 NHKより】

ただ、LGBTへの強い風当たりがなくなっている訳ではありません。

“同性婚反対派が宗教的迫害に苦しんでいる”云々の話もありましたが、実際には、LGBTの人たちに寛容な政策をとることで知られるシアトルのような都市(2014年の市長選挙で、エド・マレー氏がみずからが同性愛者であることを公表して立候補、当選)でも、LGBTだということで職や家を失っている人は大勢おり、トラブルに巻き込まれたLGBTの人たちが避難できる場所を示す“SAFE PLACE”のステッカーを飲食店などの店に貼ってもらい、LGBT保護を図っているそうです。

日本では、まだ大きな変化はおきていませんが、東京・渋谷区の取り組みが注目されました。

****同性婚」に証明書 東京・渋谷区、全国初の条例成立 ****
同性カップルを結婚に相当する関係と認め、「パートナー」として証明書を発行する東京都渋谷区の条例が31日の区議会本会議で、賛成多数で可決、成立した。4月1日施行。

同様の条例は全国に例がなく、性的少数者の権利を保障する動きとして注目されている。(中略)

条例は、男女平等や多様性の尊重をうたった上で「パートナーシップ証明書」を発行する条項を明記。不動産業者や病院に、証明書を持つ同性カップルを夫婦と同等に扱うよう求めるほか、家族向け区営住宅にも入居できるようにする。

条例の趣旨に反する行為があり、是正勧告などに従わない場合は事業者名を公表する規定も盛り込んだ。

証明書の対象者は区内に住む20歳以上の同性カップルで、互いに後見人となる公正証書を作成していることなどが条件。カップル解消の場合は取り消す仕組みもつくる。

証明書に法的な効力はなく、区側は「憲法が定める婚姻とはまったく別の制度」としている。【3月31日 日経】
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その後、東京・世田谷区も7月29日、同性カップルについて区発行の「宣誓書」でパートナーシップを認める方針を明らかにしています。

男女別のトイレの段階的廃止
もうひとつ、LGBTの“T”に関する話題。これもやはりアメリカ。

****男女別トイレを段階的廃止、米サンフランシスコの小学校****
米国でトランスジェンダー(性別越境者)の人々のニーズを受け止めようという傾向が全国的に強まっている中、カリフォルニア州サンフランシスコの小学校が男女別のトイレの段階的廃止という全米でもあまり例のない取り組みを始めた。

サンフランシスコにあるミラロマ小学校のサム・バス校長は声明で、男女別トイレの廃止は、男女どちらの性にも合致しない生徒が8人いることを認識しての措置だと述べ「生徒全員に安心感を持ってもらいたいだけではなく、全員が一様に平等であることを理解してもらいたいとの狙いもある。生徒たちに貴重な教訓を教える機会だ」と語った。

米国では最近、五輪金メダリストのブルース・ジェンナーさんがケイトリン・ジェンナーさんと改名し、トランスジェンダーであることを公表し話題になった中、全米の学校・大学でトランスジェンダーの生徒の処遇を改善する動きが現れている。

多くの学校で性別分けのないトイレが導入されているが、男女別のトイレをなくしたところは少なく、この問題の論争は続いている。

ミズーリ州ヒルズボロでは今週、トランスジェンダーの生徒が女子用のトイレや更衣室を使ったことに抗議して生徒約150人が授業をボイコットする騒ぎがあり、この一件の後、教育委員会の数人の委員が「哲学的見解の違い」を理由として辞任した。【9月12日 AFP】
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“ミラロマ小の校長は「児童を無理にどちらか一方の性に特定する必要はない」と主張。親からも「要するに家のトイレと同じようになるわけね」と冷静な反応しかないと説明している。数年以内にトイレは全て男女共用になる。”【9月13日 時事】とも。

トイレの在り様は「文化」でもあり、国によって異なります。
以前は、中国の壁のないトイレに対し日本では軽蔑するような声が多々ありましたが、一方で、中国の人は「日本では男女共用のトイレが多い。信じられない」と言っていたとか。(中国のトイレ事情も、少なくとも都市部では大きく変わっているようです)

アメリカの人気TV番組に、「アリー my Love」という弁護士事務所を舞台にしたコメディがありますが、この事務所のトイレが男女共用で、ドラマの中で非常に重要な場となっています。
別にトランスジェンダーを意識した設定ではなく、ドラマの中でも「変わったトイレ」という扱いですが、今後は時代の最先端を行くトイレになるのかも。

確かに、「要するに家のトイレと同じようになるわけね」と言われれば「なるほど・・・」の感も。

そもそも不必要な性的な区別、性差の意識が、性的差別の温床になると言われれば、そのとおりです。
トイレの区分が“不必要”かどうかは議論があるところでしょうが。

ミラロマ小学校の取り組みが一般性を持つものかどうかは、わかりません。

より大きな「神学論争」を起こす権利問題
「性的少数者」LGBTの権利についでに、アメリカでのこんな「権利問題」も

****死ぬ権利」法案が可決 米カリフォルニア州****
米西部カリフォルニア州の議会は、安楽死や尊厳死をめぐる「死ぬ権利」法案を賛成多数で可決した。AP通信などが報じた。

ブラウン州知事が法案に署名すれば発効するが、キリスト教の神学校に通っていた同知事は、署名の可否について明らかにしていない。

法案が提出されたきっかけは、昨年11月、末期の脳腫瘍と診断され、カリフォルニア州から、尊厳死が合法化されている西部オレゴン州に移住したブリタニー・メイナードさん(享年29)の死。

メイナードさんはインターネット上に動画で尊厳死を予告する映像を公開し、実行。全米で大きな反響を呼んだ。メイナードさんは生前、ブラウン知事に尊厳死を認めるよう要請したことでも知られる。

州下院では賛成43、反対34で、州上院でも賛成23、反対14で可決した。

カリフォルニア州で法案が発効されれば、モンタナ州、オレゴン州、ワシントン州、バーモント州、ニューメキシコ州に続いて6番目となる。【9月13日 産経】
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同性婚以上に「神学論争」を惹起する問題です。
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