孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

溺死したシリア難民の男児の写真で高まる難民問題への関心 苦悩するドイツ シリア軍事介入の動きも

2015-09-06 23:07:40 | 難民・移民

(ドイツ国内で行われている、ボランティアによる難民への支援物資の配布 【9月4日 CNN】)

1枚の写真が高めた難民支援の機運
9月3日ブログ「欧州に押し寄せる難民・移民 現実政治に対し、海岸に打ち上げられた男児の遺体が訴えるもの」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150903)で取り上げたトルコの海岸に遺体が打ち上げられたシリア難民男児の痛ましい写真は、欧州を揺り動かしている難民・不法移民問題に大きな影響を与えています。
(男児の写真については、http://ink361.com/app/users/ig-362656665/sammyb3n/photos/ig-1065459902116923770_362656665 など)

これまでも戦火の犠牲になった子供は世界各地にあまた存在し、そうした写真も多数ありますが、今回の男児の写真は、波打ち際にうつぶせになった姿が安らかに眠っているかのようにも見え、そのことが一層痛ましさを拡大しているとも思えます。

難民への同情的な世論が高まり、これまで難民受け入れを拒んできた政治指導者もこうした世論を無視できず、これまでの方針を変える事例も出てきています。

イタリアのレンツィ首相は「映像を見ると胸が締め付けられる。すべての人々を救助するという欧州の理想を取り戻す必要がある」と述べ、キャメロン英首相は「一人の父親として(映像を目にして)心を動かされた」と語っています。【9月4日 毎日より】

英仏海峡トンネルに押し寄せる難民らをいかに撃退するかにしか関心がなかったイギリス・キャメロン首相ですが、難民受け入れ拡大を表明しています。

****難民支援を」英世論、首相動かす 男児遺体写真で波紋****
シリア人の男児とみられる小さな遺体がトルコの海岸に漂着した様子を写した報道写真が、欧州の世論を揺さぶっている。英国では難民支援の機運が急速に高まっている。

英国のキャメロン首相は4日、訪問先のポルトガル・リスボンで演説し、国連のシリア難民キャンプから数千人単位の受け入れを行う方針を示した。

難民受け入れを求める世論の圧力を無視できなくなり、消極的だった姿勢を一転させた形だ。

写真が3日付の主要各紙の1面に掲載された英国では、直後から難民支援の慈善団体にお金や物品の寄付が殺到。難民の受け入れ拡大を求める英議会へのオンライン請願運動への参加者は4日朝の時点で35万人を超え、増え続けている。与野党の政治家や宗教指導者も政府に難民救済を求めていた。

独仏両政府も3日、EU(欧州連合)各国に難民受け入れの「割当制」を共同提案する方針を示した。【9月5日 朝日】
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写真の男児はシリア北部アインアルアラブ出身のアイラン・クルディくん(3)で、家族と一緒にギリシャのコス島へ向かう途中に溺れたとのこと。
母親と5歳の兄も死亡しましたが、父親は助かりました。

カナダの親戚が一家を呼び寄せようとしていましたが、うまく進んでいなかったということもあって、カナダでも政治問題化しています。

****男児漂着、カナダにも衝撃 「政府の受け入れ不十分*****
・・・・・この事件は、10月19日に予定されるカナダ総選挙の争点になる可能性が出てきた。

野党・新民主党のマルケア党首は3日、自党の議員がクルディ一家を援助しようとしていたと明らかにし、「我々が何もしていないのは耐えられない。カナダは行動する義務がある」と難民の受け入れを増やすべきだと主張。

同じく野党・自由党のトルドー党首も「可能な限りすぐに、2万5千人のシリア難民を受け入れるべきだ」と述べた。

カナダ政府は7月、3年間で1万人のシリア難民を受け入れると発表し、選挙戦が始まってからもさらに増やすと表明。

保守党のハーパー首相は3日、過激派組織「イスラム国」(IS)に対する武力攻撃にも力を入れる必要性があると強調した。(後略)【9月5日 朝日】
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フィンランドのユハ・シピラ首相は、難民家族を自宅に宿泊させることを表明していますが、溺死男児写真だけでなく、最近の難民情勢を受けて難民支援の市民レベルの取リ組みも拡大しています。

****アイスランド女性が難民に救いの手 政府に受け入れ拡大要求****
今年に入り、欧州には史上例を見ないほどの数の難民が流入している。そんななか、欧州各地では草の根レベルで人々が難民受け入れに立ち上がっている。

アイスランドでは、大学教授のブリンディス・ビョルクビンスドッティルさんがフェイスブックを通じ、政府に難民の受け入れ人数を増やすよう求める運動を始めた。同国政府は50人の受け入れを公式に表明している。

きっかけとなったのは、友人の1人がフェイスブックでアイスランド政府に対し、シリア難民5人を自宅に受け入れる用意があるから受け入れ人数を55人に増やすよう呼び掛けていたことだ。

友人の考えに感銘を受けたビョルクビンスドッティルさんはまず、難民の旅費を自分が負担してもいいと思ったという。「それから、食料や衣服や部屋を提供したい人はたくさんいるのではないかと思いついた。そうすれば50人が100人や200人に増えるのではないかと思い、活動を始めた」と話す。

呼び掛けへの賛同者は1万2000人に達した。アイスランドの全人口が30万人ほどであることを思えば大きな数字だ。

ドイツ国内では、ボランティアによる難民への支援物資の配布も行われている
またドイツでは、ルームシェアなどの形で住居を提供してくれる人と難民を引き合わせるウェブサイトが運営されている。すでに数十人の難民に住宅を斡旋(あっせん)してきたという。

ベルリン在住のケイティ・グリッグズさんは、自宅アパートの客間を提供することにした。やってきたのはナイジェリア出身の妊娠中の女性(24)。ギリシャで2年ほど過ごしたが、状況の悪化を受けてドイツに逃げてきたという。

当初は不安もあったが、自宅にいながらにしてアフリカの現状を学べたのはすばらしい経験だったとグリッグズさんは話す。6週間後、女性は正式な難民申請に向けてドイツ西部の収容施設に移っていったという。【9月4日 CNN】
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全人口が30万人のアイスランドで支援賛同者が1万2000人・・・・日本で言えば480万人にも相当する数字であり、驚異的です。

同胞受け入れに消極的なアラブ諸国
エジプトの富豪は、イタリアかギリシャで島を自費で購入し、難民を収容させる支援策を申し出ています。

***エジプト富豪、「島の購入」を申し出 難民の受け入れ先に****
欧州諸国に中東やアフリカから難民、移民らが殺到している問題で、エジプトの富豪は6日までにイタリアもしくはギリシャで島を自費で購入し、これらの人々を収容させる支援策を申し出た。

この人物は通信企業グループ「オラスコムTMT」の経営者で中東でも指折りの富豪とされるナギーブ・サウィリス氏。

ツイッター上で、イタリアやギリシャ両国に島を売るよう呼び掛け、島の名前を「希望」にすることも示唆した。購入費については「いくらでも出す用意がある」としている。

両国沖合には無人の数十の島々があるとし、10万~20万人が居住可能と指摘。自らの案は決して馬鹿げたものではないとも主張した。(中略)

島購入などを思い付いた動機に関連し、「政治家たちは感情がないとも時に感じる」とも強調した。
サウィリス氏の提案に対するイタリア、ギリシャ両国の反応は明らかでない。【9月6日 CNNMoney】
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ただ、同じアラブ人難民のことを考えるなら、本来は裕福なサウジアラビアや湾岸諸国、あるいはエジプトが自ら受け入れていいのでは?という指摘もあります。

****難民欧州流入】「同胞から見捨てられる」・・・アラブ諸国、受け入れ消極姿勢に反感 湾岸諸国に負担求める声**** 
欧州にシリアなどからの移民や難民が流入している問題で、サウジアラビアなど富裕な湾岸アラブ諸国が同じアラブ人である移民らの受け入れに消極的だと批判する論調が域内外で高まっている。

もともと閉鎖的なサウジなどは移民受け入れが社会混乱につながることを危惧しているとみられるが、今後はシリア内戦にも深く関与している湾岸諸国に応分の負担を求める声が強まる可能性がある。

「シリア難民の受け入れは湾岸諸国の義務だ」。インターネットの短文投稿サイト、ツイッター上では最近、アラビア語でこんな訴えが拡散し続けている。

難民登録したシリア移民の数は現在、400万人を超え、その大半がトルコやヨルダン、レバノンなど周辺国で支援物資に頼った生活を送っている。キャンプを出て自活を始める者も多いが、十分な収入を得られるのはほんの一握りだ。

そんな中、サウジなどは外国人へのビザ(査証)発給が厳格で、有力なツテがなければ就労も難しい。移民にまじってイスラム過激派が自国へ浸透することなどへの警戒もある。その他のアラブ各国も、移民受け入れや生活保護に積極的とは言い難いのが実情だ。

このため、移民らは社会保障の充実した欧州を目指す流れが生まれている。同時に、湾岸アラブ諸国の態度が移民らに、同胞から見捨てられているとの反感を植え付けている側面も否定はできない。

一方、エジプトの大富豪、ナギーブ・サウィラス氏は今月、難民救済のためにギリシャやイタリアの島を買い取る案を公表した。実現性は低いとみられるが、こんな議論にも、厄介事はできるだけ抱え込みたくないアラブ側の本音が見え隠れしているといえそうだ。【9月6日 産経】
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もっとも、やはり難民・移民へのハードルを高くしている日本に、受け入れに消極的なアラブ諸国をとやかく言う資格もありませんが。

ドイツも「さすがに限界」 受入に批判的な声も
欧州のなかでも、欧州の価値観を重視し、受け入れに対応しようとしているドイツなど西欧諸国と、「この問題は欧州の問題ではなく、ドイツの問題だ」と言い放つハンガリー・オルバン首相のような受入に消極的な東欧諸国の対立があることは前回ブログでも触れたところです。

この5日以降だけでも約8000人の難民が、オーストリア経由でドイツに入ったと報じられています。
メルケル首相は難民の受け入れを「成し遂げる」と決意を示してはいますが、中東などからドイツに入国する難民や移民が今年は100万人に達するとの見方もあり、「さすがに限界」(政府関係者)が近づいているとも。

経済的負担も、経済的に恵まれたドイツをもってしても大変です。

****ドイツ、移民流入による今年の経済負担予測1兆3200億円****
ドイツの日刊紙「フランクフルター・アルゲマイネ」は5日、難民申請を希望する記録的な移民の受け入れによる同国の経済負担額は、昨年度の4倍となる100億ユーロ(約1兆3200億円)に達する可能性があると報じた。(後略)【9月6日 AFP】
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一番の問題は、異質な人々へのネガティブな国民感情でしょう。以前から難民受け入れ施設への放火など、ドイツ国内にも難民受け入れに批判的な世論もあります。

****足止めの難民、続々到着=与党内に受け入れ批判も―ドイツ****
ハンガリーで足止めされていた中東などの難民や移民らは5日夜までにオーストリアを経由して続々とドイツに到着した。DPA通信によると、約7000人に達している。

メルケル首相の受け入れ決定に与党内から批判が上がっており、難民への対応は今後も議論になりそうだ。

オーストリアと接し、難民が殺到した南部バイエルン州のヘルマン内相は受け入れ決定過程に州は関与していないと批判した。

最大与党キリスト教民主同盟の姉妹政党で同州を基盤にするキリスト教社会同盟は受け入れを「誤った決定」と問題視。6日の連立与党の会合で、流入抑制を要求する考えだ。【9月6日 時事】 
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それだけに、メルケル首相としてもドイツだけで抱え込むのではなく、EU全体で受け入れ態勢を・・・と動いていますが、先述のように東欧諸国の反対が強く、合意形成ができるかは不透明です。

****難民殺到、ドイツに圧力=EUの合意形成に躍起****
ハンガリーから難民や移民らが大挙して押し寄せたドイツが、欧州連合(EU)の難民政策で速やかに合意を形成しようと躍起になっている。

中東などからドイツに入国する難民や移民が今年は100万人に達するとの見方もあり、「さすがに限界」(政府関係者)が近づいているからだ。

だが、難民の受け入れ分担を嫌う東欧諸国の態度は硬く、交渉の行方は不透明だ。

「EU首脳会議の開催が必要だ。10月半ば以降では遅すぎる」。DPA通信によると、シュタインマイヤー独外相は5日、EU非公式外相理事会が開かれたルクセンブルクで、10月15、16両日予定の首脳会議を前倒しして難民政策を決めるよう訴えた。

独政府は、EUとして難民流入に長期的に対処するには、加盟国への義務的な受け入れ数の割り当てが不可欠とみる。欧州委員会も、最初の到着地ギリシャなどに集まる難民ら計12万人を加盟国が追加で分担して受け入れる案をまとめたが、反発は強い。

チェコのホバネツ内相は「移民は皆、チェコやスロバキアにとどまりたくないのに、どうしろというのか」と述べ、分担義務化は彼らの希望に沿っていないと指摘。ハンガリーのオルバン首相は「移民問題はドイツの問題」と突っぱねた。

ドイツは、難民認定されない安全な出身国のリスト作成のほか、ギリシャやイタリアにEU主導の保護申請処理センターを設けることもEUに求めてきた。実現すれば、欧州に入る難民の総数抑制につながるため、東欧諸国の協力取り付けの材料になるとも期待されている。【9月6日 時事】
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なお、「希望の地」ドイツにしても、あるいはその他の国にしても、難民・移民が新たな生活を異郷で送ることは極めて大きな困難を伴うものであり、ドイツに到着して喜んでいる人々を見ても、あまり楽観的にもなれません。

英仏:混乱の根源でもあるシリアのISへの攻撃を検討 ロシアはまた別の思惑で・・・】
一方で、押し寄せる難民の発生源となっているシリアへの軍事介入を強める動きも出てきています。

****仏、シリア空爆を検討=難民急増で戦略見直し****
フランス紙ルモンド(電子版)は5日、仏政府が過激組織「イスラム国」に対する空爆の対象範囲を、シリアまで拡大する方向で検討していると報じた。シリアから欧州に大量の難民が殺到している現状を踏まえ、移民問題の抜本的な解決には現地での武力攻撃が欠かせないとの判断に傾いたとみられる。【9月6日 時事】
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イギリス・キャメロン首相についても、“首相はシリアで過激派組織「イスラム国」に対する空爆実施を支持するよう野党・労働党議員に働き掛け、10月上旬にも議会承認を求める考え。難民の欧州への密航を手引きする業者への攻撃も検討している。”【9月6日 時事】とも。

シリアへの軍事介入についてはロシアの動きも報じられており、その思惑にアメリカが懸念を示しています。

****ロシア、シリアで軍事増強か 米国務長官が懸念表明****
米国務省は5日、ジョン・ケリー国務長官がロシアのセルゲイ・ラブロフ外相と電話で会談し、内戦が続くシリアにおける切迫したロシア軍部隊の増強に対する懸念を表明したことを明らかにした。

米国務省は、「ケリー長官は(ラブロフ外相に対し)、もし報道が真実であれば、一般市民の死者数や難民の増加、ISILと対抗する勢力との戦闘などで、内戦がさらに悪化する可能性があると明言した」と述べた。(後略)【9月6日 AFP】
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プーチン大統領は、今回の難民問題について「西側諸国、とりわけ米国が中東・北アフリカのイスラム圏でとってきた外交政策の誤り」の結果だと批判しています。

****<露大統領>難民問題「米の外交政策誤りが原因」****
ロシアのプーチン大統領は4日、当地で記者会見し、中東などから欧州に大量の難民が流入している問題の原因について、「西側諸国、とりわけ米国が中東・北アフリカのイスラム圏でとってきた外交政策の誤り」だと主張した。

プーチン氏の発言は、2003年のイラク戦争や、10年末以降の「アラブの春」への米国の介入を指したものだ。同氏は「現地の歴史、宗教、国民性や文化を考慮せずに自分の基準を押し付ける政策だ。我々は何度も『巨大な問題を引き起こす』と警告していた」と述べた。一方で欧米に「テロ対策」での協力を呼びかけた。【9月4日 毎日】
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ロシア軍のシリアでの強化云々は、難民問題とはかかわりのないロシアの思惑に沿うものでしょうが、そのたりはシリア問題を取り上げる際に譲ります。
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