孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

広がる難民支援の動き 日本では? 世論が割れるドイツではメルケル首相批判も EUの統一的対応は難航

2015-09-07 22:46:47 | 難民・移民

(ミュンヘン駅に到着した難民を歓迎するドイツ市民 一時的な高揚感とは別に、今後は地道な対策が必要とされます。画像は【9月7日 テレ朝news】)

難民にもなれない貧困者
欧州を揺り動かしている難民問題。

難民らの悲惨な状況が大きく取り上げられ、支援の動きも広がっていますが、難民として国外に出られる人はまだ経済的に恵まれた方で、国外脱出の資金を工面できない貧しい人々は戦乱の国内にとどまるしかないという現実があります。

****<難民>貧しい人、シリアから出られない 安定求めて続く波****
内戦が続くシリアなどを逃れ、西欧諸国をめざす難民や移民が殺到しているハンガリーの首都ブダペスト東駅では6日、オーストリア国境へと向かう列車へ続々と乗り込む難民らの姿があった。(中略)

「ここまでたどりついたのは、シリア国内でも経済力があった人たちだ。貧しい人は国外に出るのも難しいし、欧州まで来るなんて不可能だ」。生後4カ月の赤ちゃんをあやしながら国境の街、ヘゲシャロム行きの列車を待つモハメド・アブドラさん(28)は流ちょうな英語で語り始めた。

アサド政権が堅持する西部の主要都市ラタキアの出身。大学卒業後は、アラブ首長国連邦のホテルや、地元企業で営業職として働いた。2011年に内戦が始まった後もラタキアは治安が比較的安定し、1000ユーロ(13万2000円)ほどの月収があった。

しかし昨年末、反体制派の攻勢がラタキアに近づいたためトルコへ脱出した。既に200万人のシリア難民が流入したトルコには仕事もなく、「とにかく豊かなドイツを家族でめざすことにしたんだ」。

1カ月以上かけて、ギリシャからバルカン半島を陸路でハンガリーにたどりついた。手引きする業者らに支払った費用は、家族3人分で約3600ユーロ(約47万5000円)。アブドラさんは「これまでの蓄えと自宅を売った資金でまかなった」と話した。(後略)【9月7日 毎日】
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シリアでは国民の半数が避難生活を余儀なくされていますが、国外に脱出した400万人の2倍ほど、760万人が国内避難民となっています。

****1160万人が避難生活=国民の半数、内戦長期化で―シリア****
2011年の民主化要求運動をきっかけとするシリア内戦が泥沼化する中、シリア国民の半数に相当する1160万人が国内外で避難生活を送っている。長期化する内戦の決着が見通せない中、難民は今後も増加の一途をたどり、欧州への人の流れの加速は避けられない情勢だ。

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、トルコやレバノンなど近隣の中東各国に逃れたシリア人の数は今年7月時点で400万人に達した。

これとは別に、少なくとも760万人が既にシリア国内で避難生活を強いられている。シリアの人口は11年以前の段階で約2300万人だったとみられる。

UNHCRのグテレス高等弁務官は「一つの紛争による避難者数としては、ここ数十年では最多だ」と強調。人道危機の深刻化を防ぐため、欧州各国を含む国際社会に積極的な受け入れを要請している。【9月7日 時事】 
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トルコ:「話にならないほど少ない」】
また、国外難民の大多数は、トルコ(約200万人)、レバノン(約110万人)、ヨルダン(約60万人)など周辺国に暮らしています。

こうした周辺国に逃げた難民のなかで、内戦の長期化で帰還をあきらめ、安定した生活を求めて欧州を目指す人が増えていると言われています。

最大のシリア難民を抱えるトルコは、今回の欧州各国の“腰の引けた”対応を、冷やかに評しています。

****EU諸国の難民受け入れ「話にならないほど少ない」 トルコ首相****
トルコのアフメト・ダウトオール首相は6日、独日刊紙「フランクフルター・アルゲマイネ」への寄稿で、欧州連合(EU)諸国による難民の受け入れ数が「話にならないほど少ない」と批判した。

7日付の同紙に寄稿したダウトオール首相は、戦争によって荒廃したシリアやイラクからだけでもトルコは200万人以上の人々を受け入れたと述べ、トルコは「欧州と混乱地域の間の緩衝地帯」になっていると指摘した。

また、同紙が6日に明らかにした抜粋によるとダウトオール首相は、EU諸国が難民問題でトルコを支援するために実施した資金援助の額が低いと批判し、難民問題をトルコに押し付けつつ「キリスト教徒のとりでとしての欧州」を作ろうという「都合のよい考え」があるように思えると述べた。

ダウトオール首相は、今こそ流入する移民の問題でEU諸国が共同行動を取るべき時だと指摘し、トルコは「欧州のパートナーたち」と連携して協力する準備がある、と述べた。【9月7日 AFP】
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強権的な政治姿勢で欧州から“非民主的・人権軽視”と批判されることも多いトルコですが、200万人ものシリア難民を受け入れている(あるいは、受け入れざるを得ない状況にある)事実には重いものがあります。

広がる支援の取り組み
欧州では、イギリス・キャメロン首相の方針転換など、難民受け入れの動きも出ていますが、アイスランド(全人口が30万人のアイスランドで難民支援賛同者が1万2000人)のように、草の根的な市民による支援も拡大していることは、昨日ブログでも取り上げました。

****ローマ法王「教会などで難民受け入れを****
中東などから難民や移民がヨーロッパに殺到している問題で、ローマ法王のフランシスコ法王は、ヨーロッパの教会や修道院などで難民を受け入れるよう呼びかけました。

ローマ法王のフランシスコ法王は、6日、バチカンのサンピエトロ広場で日曜礼拝を行い、この中で、中東などから難民や移民がヨーロッパに殺到していることについて、「戦争や飢餓から逃れ、よりよい生活を望む難民が悲劇に直面している」と述べました。

そのうえで、「ヨーロッパ各地の教会、教区、それに修道院などが難民をひと家族ずつ受け入れることを願います」と述べ、バチカンにある2つの教区も、2家族を受け入れることを明らかにしました。

フランシスコ法王は、難民の問題について、国際社会に何度も迅速な対応を呼びかけてきましたが、ことし、難民が急増し、混乱が広がるなか、教会などに具体的な行動を求めるとともに、みずからも行動する姿勢を示した形です。【9月7日 NHK】
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****難民支援 欧州各地のサッカークラブが動き*****
中東などから難民や移民がヨーロッパに殺到している問題を受けて、ヨーロッパ各国のサッカークラブでは、寄付金の拠出を決めるなど、難民を支援する動きが広がっています。

このうち、難民の多くが目的地として希望しているドイツのバイエルンミュンヘンは、「故郷を離れ、苦しい生活を強いられている人たちを支援するという社会的責任がある」として、難民の支援のために100万ユーロ(日本円で1億3000万円余り)を拠出すると発表しました。さらに、難民の子どもや若者のためにサッカーのトレーニングキャンプを開き、ドイツ語の授業も行うとしています。

また、スペインのレアルマドリードも、100万ユーロの支援金を拠出すると発表したほか、難民に、チームが所有する施設やスポーツ用具を使ってもらうことを検討しているということです。

このほか、ポルトガルのチーム、ポルトは、難民の支援のため、今月15日に開幕するヨーロッパチャンピオンズリーグの初戦と2試合目の売り上げから、チケット1枚につき1ユーロを寄付するよう、UEFA=ヨーロッパサッカー連盟に文書で求めるなど、各国のサッカークラブの間で難民を支援する動きが広がっています。【9月7日 NHK】
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欧州以外の国々でも、昨日ブログでも取り上げた溺死男児の関係国カナダの他、ニュージーランドたオーストラリアでも動きが見られます。

****NZ、750人受け入れ=豪も拡大へ―シリア難民****
ニュージーランドのウッドハウス移民相は7日、シリア難民を取り巻く状況は「明らかに悪化している」と述べ、今後3年間で750人を受け入れる計画を発表した。

ニュージーランド政府は3年間で、難民受け入れ枠のうち150人をシリア難民に振り当てるほか、600人分を追加する。

キー首相は先週、難民枠を見直さないと宣言したばかり。海岸に打ち上げられたシリア難民男児の写真をきっかけに支援強化を求める声が国内でも強まり、修正を迫られた。

オーストラリアのアボット首相も7日、議会で「より多くのシリア難民を受け入れる用意がある」と指摘。ダットン移民相を急きょ、ジュネーブの国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に派遣し、受け入れ拡大へ調整に入った。

豪州は6月末に終了した昨年度、1万3750人の難民を受け入れ、うち4500人がシリア・イラク難民だった。国民1人当たりでみると、豪州は世界最大の難民受け入れ国という。【9月7日 時事】 
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オーストラリアはアジア難民の受入に関して、国外施設に送り込もうとする姿勢に批判的な報道もありますが、そのオーストラリアでも・・・というところです。

一方、シリア難民らと同胞でもあるアラブ諸国の消極姿勢についても昨日ブログで取り上げましたが、イスラエルも受け入れない方針です。

****イスラエル、難民受け入れず 国境にフェンス建設開始****
イスラエルのネタニヤフ首相は6日、欧州各国に押し寄せるシリアなどからの難民への対応に関連し、「我々は不法移民やテロに対し、国境を管理しなければならない」と述べ、受け入れない考えを示した。

ネタニヤフ首相は閣議で「シリアやアフリカからの難民の人道的な悲劇に無関心ではない」としつつ、「非常に小さな国で、人口動態的、地理的な奥行きに欠ける。不法移民やテロリストが殺到することは許されない」と述べた。ネタニヤフ首相はヨルダンとの国境沿いでフェンス建設を始めたことも明らかにした。

地元報道によると、野党・労働党のヘルツォグ党首がシリア難民を受け入れるよう政府に要求していた。
パレスチナ自治政府のアッバス議長も、シリア国内のパレスチナ難民がヨルダン川西岸地区に入ることをイスラエルが認めるように働きかけていた。【9月7日 朝日】
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関心が薄い日本
翻って日本は・・・と言うと、難民の様子がメディアで取り上げられてはいますが、受け入れ云々が政治的に議論されたり、市民レベルで大きな声になったり・・・ということはあまりないようです。

もちろん難民を受け入れる社会的コストは大きなものがありますが、それは他の国々も同じです。
受け入れるか否か以前の話として、そうした議論すら起きないというのは・・・・。

これだけの国際問題に無反応を決め込むのであれば、国連常任理事国を希望などといったことは今後口にしない方がいいようにも思えます。

また、中国やロシア、あるいは北朝鮮といった国々に対するとき、日本な一体何をっもって正当性を主張するのでしょうか。民主的な制度、人権重視、平和主義・・・そういう価値観ではないでしょうか?押し寄せる難民に関心すら払わない国に本当にそうした価値観が根付いているのか・・・疑問にも思えます。

単に、難民を受け入れると何かと大変だから・・・ということであれば、国益に走る中国などと“目くそ、鼻くそ”のレベルでしょう。

アジアの国からは未だ声があがっていませんが、そういうなかで声を上げてこそ、自国利益だけでない視野を持った、リーダーシップを担える国と言えるのではないでしょうか。

ドイツでも「過剰負担」や「政治的な過激勢力」への不安
とは言うものの、欧州の一部で広がる現在のような難民に対する好意的な対応が、今後も持続するとは期待できません。

今は、高揚感もあってドイツでは歓迎ムードがありますが・・・・。

****多様性をドイツの力に」=難民受け入れ支援の輪―ミュンヘン****
中東などからの難民らが到着しているドイツ南部ミュンヘンの中央駅には、6日夜も約200人の市民が集まり、歓声や拍手で難民を迎えた。市民の男性は「難民を受け入れて多様性が深まれば、ドイツの力になる」と強調した。

ミュンヘン在住のクリスティアンさん(49)は「ドイツ行きを望んでいる難民には、どんどん来てもらえばいい。ドイツには受け入れ能力がある」と語った。難民流入で社会が不安定化するとの見方には「根拠のない話。皆で難民を支えていけば懸念は消える」と迷いはない。

午後9時を過ぎても、100人を超える難民が列車で次々と到着。難民の子供に縫いぐるみをプレゼントしていたフリードリヒさん(44)は「ドイツは25年前に東西統一という大きな変化を乗り切った。社会は強靱(きょうじん)だ」と自信を示す。ドイツへの保護申請者数が今年最大で80万人に達するとの予測もあるが、「全人口の1%にすぎない」と気にする様子はない。

1991年にシリア中部ホムスから渡航し、長年ミュンヘンに住むフサムさん(48)は、難民の通訳として一役買えればと駅に駆け付けた。「難民は最初は言葉で苦労するだろう。だが、ドイツは寛容な国。数年頑張れば、適応は十分可能だ」と言い切った。【9月7日 時事】 
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こうした最大の受入国ドイツでも、賛否両論があることは昨日ブログでも取り上げました。

****移民ショック】独、移民対策を強化 大規模受け入れでメルケル氏への批判相次ぐ 与党内に不協和音も****
中東や北アフリカからの難民や移民が欧州に流入している問題で、ドイツが殺到する移民の対策強化を加速させている。連立与党は7日、受け入れを担う地方への財政支援などで合意した。

一方、連立与党内では例外措置でハンガリーから移民を受け入れたメルケル首相の判断に批判が上がり、不協和音も出てきた。(中略)

難民認定の可能性が低い移民については、早期の送還を図る一方、一定の要件下で合法的な移民として受け入れることでも合意。高齢化社会が進み、60万人規模で不足するともされる労働力を補う考えで、西バルカン諸国から流入する移民らを念頭に置いている。

ドイツは欧州連合(EU)最大の難民受け入れ国であるほか、旧西独時代にはトルコ人を労働力として受け入れてきた実績もある。生活水準が高く、語学習得への支援があるなど待遇もよいため、多くの移民らの目的地となっている。

ただ、この結果、今年の難民申請者は昨年の4倍に相当する約80万人に上ると試算され、受け入れに反発する極右勢力などによる難民関連施設への放火などが増加。最近の世論調査の結果では、約半分が移民ら受け入れに伴う「過剰負担」や「政治的な過激勢力」への不安を感じると答えた。

ミュンヘンのあるバイエルン州を地盤とする与党、キリスト教社会同盟では6日、党首のゼーホーファー同州首相が「(EU)28加盟国の中でドイツがいつまでも大半を受け入れることはできない」と述べるなど、ハンガリーの移民ら受け入れを決めたメルケル氏への批判が相次いだ。

これに対し、メルケル氏も7日、難民受け入れでの「公平な分担」の実現をEU側に改めて求めた。【9月7日 産経】
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****難民受け入れ反対デモ=独極右****
ドイツの公共放送ドイチェ・ウェレなどによると、西部ドルトムントで5日夜から6日未明にかけて、中東などから到着した難民の受け入れに反発する極右政党の支持者がデモを行った。(後略)【9月7日 時事】 
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EUは一枚岩にほど遠い状況
財政的にも大きな負担となりますし、何より急激な難民増加は社会・文化的な軋轢・摩擦を引き起こします。
ドイツ・メルケル首相も、ドイツだけでなくEU全体での「公平な分担」を求めていますが、難航しています。

****移民ショック】ドイツに移民続々到着、「公正な分担」見えず****
中東や北アフリカからの移民や難民が欧州に大量に流入している問題で、ハンガリーを出た移民らが、オーストリア経由で6日までに続々とドイツに到着した。ようやく“希望の地”を踏みしめた移民らだが、あくまで今回は例外的措置。欧州連合(EU)は加盟国間で受け入れの公平な分担などの対処を急ぐが、東欧諸国の反対もあり、議論は難航している。(中略)

一方、EUは5日、非公式の外相理事会を開いたが、具体策で進展はなかった。特定国に負担が偏るのを避けるため、難民申請者の受け入れを加盟国で義務的に分担する制度の導入では意見が割れたもようだ。

義務的な分担は欧州委員会が加盟国に提案して一度拒否されたが、ドイツやフランスの支持を受け、ユンケル欧州委員長が規模を拡大して近く再提案する方針。

だが、ハンガリーなど東欧諸国は、難民申請者らはいずれドイツなどに向かうため機能しないなどとして反対しており、EUは一枚岩にほど遠い状況だ。【9月6日 産経】
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ドイツにとって救いは、経済的に移民労働力を必要としており、難民らに仕事の機会を提供しようとの声が産業界から上がり始めていることでしょうか。

****難民受け入れに前向きな独産業界、人材不足を背景に****
・・・・ドイツでの難民保護をめぐっては、人道的な責務以外に、人材の確保といった側面で、産業界からも受け入れに前向きな姿勢が伺える。同国の産業界では、急速な高齢化と出生率の低下により優秀な人材が徐々に減少し始めていることがその背景にある。

ドイツの失業率は現在、東西統一以降で最低水準となっているが、ドイツ経営者団体連盟(BDA)の推計によると、エンジニアやプログラマー、技術者などが14万人不足している他、医療従事者やレジャー産業でも人手が足りない状態が続いているという。また産業界全体を通じて、今年は約4万か所の研修施設で空きが出ることも予想されている。(後略)【9月7日 AFP】
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「今回の教訓は、世界が問題を抱える国々に背を向けられないということだ」「相互に関係し合った世界では、疫病や人の流入といった危機はかわせない」(8月29日 米紙ワシントン・ポスト社説)【9月7日 産経】
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