(キューバの首都ハバナで握手するコロンビアのサントス大統領(左)と「コロンビア革命軍」のヒメネス司令官(右)。中央はキューバのラウル・カストロ国家評議会議長(2015年9月23日撮影)【9月24日 AFP】 なお、サントス大統領が和平交渉に出席したのは今回が初めてだそうです。)
【世界第2位の国内難民を抱える国】
南米・コロンビアの現状については、今年5月10日ブログ「南米コロンビア 国内避難民600万人 左翼ゲリラとの和平交渉が進展はしているものの・・・」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150510)で取り上げました。
非常に意外な感がするのは、上記ブログ表題にあるように、コロンビアでは全人口の13%に及ぶ600万人もの国内避難民が存在し、国際NGO「ノルウェー難民評議会(NRC)」が5月発表によれば、欧州を揺るがす難民問題の震源地となっているシリアの760万人に次ぐ数字であり、イラクの約340万人、スーダンの310万人をも上回っています。
これは、人口の1%が土地の50%を所有しているとも言われる不平等と貧困を背景に、左右の武装組織、麻薬組織が抗争を続けてきた結果です。
****コロンビア 世界第2位の国内難民を抱える国*****
コロンビアにおいては85年以降、政府対左翼ゲリラ、左翼ゲリラ対右翼民兵組織の抗争が国内各地で頻発していました。
さらに90年代初頭の大規模麻薬カルテルの消滅により、左翼ゲリラ及び右翼民兵組織が麻薬を資金源として勢力を拡大したため、紛争が激化した経緯があります。
このため各紛争地域で危険にさらされている農民を中心とした人々は避難を強いられ、周辺都市へと避難しました。紛争終結後も紛争への恐怖心が消えなかったこと及び、農地家屋を紛争によって失ったことから農村部に帰還しない場合が多いため、多くの国内避難民が発生したようです。(外務省資料より)
この結果、都市部での生活環境の悪化が進行し、貧困に苦しむ人々の中から“生きる手段”として、麻薬組織や武装組織に関与する者が生まれてくるという悪循環があります。【2008年4月21日ブログより再録】
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武装組織については、下記のとおり。
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コロンビアには主要な左翼系反政府組織として、「コロンビア革命軍(FARC)」と「国民解放軍(ELN)」の二大勢力が存在し、全国でテロ活動を行っています。
また、パラミリタリーと呼ばれる極右非合法武装集団は、政府との交渉の結果ほとんどが武装放棄しましたが、和平プロセスに参加しなかった少数グループが新興組織として、殺人、誘拐、恐喝等の違法行為を行っています。【外務省】(5月10日ブログより再録)
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【「平和の時が来ている」】
その中でも最大組織である「コロンビア革命軍(FARC)」は、“最盛期の02年には構成員2万1000人を擁し国土の3分の1を実効支配したが、政府の掃討作戦などにより現在は6400人に縮小した。”【9月24日 毎日】とのこと。
勢いを失ったFARCとコロンビア政府の間では2012年10月から和平交渉が行われており、交渉議題5項目のうち、「農地改革と農村開発の取り組み方」に続いて2013年11月には「ゲリラ戦終結後の政治参加」で合意、2014年5月には麻薬問題の解決に向けて協力することでも合意・・・というように、和平に向けて「進展」はしていることは前回5月10日ブログでも取り上げたところです。
今般、懸案事項となっていたゲリラ兵士らの処罰方法で合意に達したことで、和平実現に向けて大きな前進がみられました。
****コロンビア、左翼ゲリラと和平へ 半世紀の内戦終結か****
南米コロンビアの政府と左翼ゲリラ「コロンビア革命軍」(FARC)は23日、6カ月以内に和平実現の最終合意を交わすことで一致した。
和平への動きはこれまで何度も頓挫してきたが、難航していたゲリラ兵士らの処罰方法に双方が合意したことで、半世紀近く続く内戦が終結する可能性が高まっている。
1960年代半ばに結成されたFARCは中南米最大の反政府ゲリラとされ、テロや誘拐を繰り返し、内戦による死者は22万人にのぼる。コロンビア政府は掃討作戦を繰り返したが制圧できず、2012年から和平交渉を進めてきた。
コロンビアのサントス大統領は23日、キューバの首都ハバナでFARCの最高司令官ロドリゴ・ロンドニョ氏と初めて会談。仲介したキューバのラウル・カストロ国家評議会議長のほか、ノルウェーやチリの代表が立ち会った。
和平実現のための最終合意の期限を16年3月23日と定め、その後60日以内にFARC側が武装解除するとの内容で一致した。
虐殺や拷問、誘拐など内戦中の重大犯罪を裁く特別法廷の設置のほか、重大犯罪をした兵士らは恩赦の対象外となること、罪を認めれば量刑は禁錮5~8年とすることなどが合意に盛り込まれた。
サントス氏は合意後の記者会見で「必ず和平を実現する。失敗はない。平和の時が来ている」と指摘。ロンドニョ氏は「戦った者も指揮した者も、勇気を持って責任を引き受ける必要がある」と述べた。
これまでの和平交渉ですでに、ゲリラメンバーの政治参加や麻薬撲滅、地雷除去などについて合意。今後の交渉では、戦闘終結のための具体的な方法を詰めることになる。
キューバを訪問したローマ・カトリック教会のフランシスコ法王は20日、「コロンビアの平和と和解の道にこれ以上の失敗は許されない」と述べ、和平交渉の進展に期待。サントス氏のキューバ訪問は、23日になって急きょ発表された。【9月26日 朝日】
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非常に喜ばしいことではありますが、「6カ月以内に和平実現の最終合意を交わすことで一致した」とは言いつつも、具体的な手順は定められておらず、その実効性を危ぶむ声もあります。
****コロンビア和平実現なるか=具体論先送り、冷めた見方も****
南米コロンビアで半世紀以上続いた武力紛争の終結に向け、政府と左翼ゲリラ組織コロンビア革命軍(FARC)が「6カ月以内に和平合意する」と発表した。
サントス大統領とFARC指導者のティモチェンコ司令官が記者会見で握手し、交渉進展を演出。
だが、和平実現への具体的な手順は先送りされ、「茶番にすぎない」(ウリベ前大統領)との冷めた声も上がっている。
交渉前進では、支持率低迷にあえぐサントス氏の強い意向が働いた。10月25日に地方選を控え、地元紙は「大統領は選挙前に手柄を急いだ」と分析。
一方のFARCは、後ろ盾だったベネズエラやキューバの支援を失って弱体化が進んでおり、有利な条件で交渉を進めようと焦りがあったとされる。
共同声明は、新設の特別法廷で紛争中の犯罪行為を認めた場合、最大8年間「自由を制限する」と規定した。
だが、FARCは誘拐や爆弾テロを繰り返しており、国民から「処罰が軽過ぎる」と批判の声が上がりかねない。
犠牲者への補償でも、財源や金額などの具体的な言及はなかった。【9月26日 時事】
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サントス大統領は“2010年、対FARC強硬路線を取ったウリベ大統領の後継者として就任したが、直後に対話路線に変更。これが国民から支持され、14年に再選を果たしていた”【9月24日 毎日】ということで、和平交渉の成果を有権者に具体的に示したがっていた・・・とのことのようです。
ウリベ前大統領の批判も、和平交渉への姿勢の違いによるものでしょう。ただ、ウリベ前大統領の批判は「FARCとの合意は民主主義に対するクーデターである」と激しいものです。
****元大統領アルバロ ウリベがコロンビア政府とFarcの合意を、民主主義に対するクーデターであると批判****
元大統領アルバロ ウリベは、フアン マヌエル サントス大統領政府と共産主義ゲリラ組織コロンビア革命軍(Farc)の合意について、民主主義に対する攻撃であると批判しています。
「Farcとの合意は民主主義に対するクーデターである。」と2002年から2010年まで大統領を2期務めたアルバロ ウリベ上院議員は、9月23日にキューバ ラ ハバナで政府とFarcによる合意について、チリの日刊紙ラ テルセラの取材に答えています。
「Farcは2700人の失踪に責任があり、世界最大のコカインカルテルであり、1998年から2003年の間に1794人を誘拐し、2万人以上の児童を徴兵しています。」とセントロ デモクラティコ党を率いるウリベ元大統領は語っています。
和平合意によりFarcゲリラたちは刑務所に収監されることなく、制約なしに選挙に出馬することが可能になると、ウリベは批判しています。
「これは民主主義に対する侮辱です。コロンビアの軍は民主主義の軍であり、独裁体制下の軍ではありません。テロ組織とコロンビア軍を同列に置こうとするサントスの目論見を拒絶します。」と元大統領は強調しています。
現大統領サントスはアルバロ ウリベ政権の国防相を務めており、ウリベの後継者として大統領選挙に出馬し当選しています。【9月27日「音の谷ラテンアメリカニュース」】
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FARCの方は、“(ベネズエラの前大統領)チャベス氏は13年に死亡し、(キューバの)カストロ兄弟は老いた。革命軍の間では、後ろ盾を失い、国民からも支持されず孤立、弱体化していく懸念が膨らんでいたとみられる。”【同上】とも。
サントス大統領とFARC、両者の思惑が一致したことでの今回合意ですが、何事につけそれなりの事情はあるもので、要は最終的な結果を出せるかどうかです。
なお、前回5月10日ブログでも紹介したように、「FARCの武装放棄後、その構成員が社会復帰できず一般犯罪に手を染めるなどのおそれもあり、仮に和平交渉がまとまったとしても、治安の動向は予断を許さないものと思われます。」【外務省】という指摘もあります。
【コロンビアとベネズエラ 双方の大使を相手国に再び派遣することで合意】
一方、コロンビアは隣国ベネズエラとの間で、“ベネズエラ・マドゥロ政権による密輸業者取締りを名目にしたコロンビア人追放”という問題を抱えていたことは、9月11日ブログ「ベネズエラ 迫るデフォルトの足音 野党指導者逮捕で政府批判を圧殺 国内コロンビア人の難民化」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20150911)で取り上げたところですが、この問題も関係正常化に向けた取り組みがなされています。
****関係悪化のベネズエラ・コロンビア、大使再派遣で合意****
南米ベネズエラのマドゥロ大統領と隣国コロンビアのサントス大統領は21日、エクアドルの首都キトで会談し、自国に呼び戻していた双方の大使を相手国に再び派遣することで合意した。
ベネズエラ側が8月に突然、国境を封鎖したことで両国間で急速に緊張が高まっていたが、関係の正常化と国境問題の解決に向け対話を始めるとしている。
報道によると、両首脳の会談はエクアドルとウルグアイの仲立ちで実現。大使の再派遣のほか、問題のきっかけとなった国境周辺での密輸や暴力に関する調査の実施や、23日にベネズエラの首都カラカスで両国間の最初の対話を行うことなどが盛り込まれた。ただ、8月から続く国境封鎖の解除にはつながらなかった。
この問題では、ベネズエラ軍兵士がコロンビア人とみられる密輸組織から国境周辺で銃撃されたとして、マドゥロ氏が8月に国境封鎖を決定。非常事態を宣言し、軍を派遣した。
ベネズエラ国内ではコロンビア人住民への摘発が始まり、約2万人が国外に逃れた。【9月22日 朝日】
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“国境封鎖の解除”のニュースはまだ目にしていません。
チャベス前大統領の時代から、ベネズエラはコロンビアに対し過激な対応を行い、やがて緩和するといったことを繰り返していますので、今回もそのうち改善されるのでしょうが、追放され難民化したコロンビア人2万人が強いられている犠牲は看過できないものがあります。