孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

性・ジェンダーの多様化を容認する流れ

2017-07-01 22:13:55 | 人権 児童

(独ベルリンのブランデンブルク門前で開かれた同性婚容認を支持する集会に参加した人々(2017年6月30日撮影)【6月30日 AFP】)

珍しくなくなった同性愛を公言する政治指導者
最近は同性愛者を公言する政治指導者は、さほど珍しくなくなりました。

セルビア人のほとんどがセルビア正教会で、政治的にも民族主義的傾向が強い右派が政権を握っていることで保守的なイメージもあるセルビアでも、女性同性愛者の首相が誕生しています。

****同性愛公言の女性首相誕生=セルビア****
セルビア議会は29日、女性で同性愛者のアナ・ブルナビッチ首相(41)の就任を賛成多数で承認した。セルビア初の女性首相となり、AFP通信によれば、保守的なバルカン半島諸国で初めて同性愛者を公言する首相が誕生した。
 
ブルナビッチ氏はこれまで行政・地方自治相を務め、ブチッチ大統領から首相指名を受けていた。ブルナビッチ氏は議会演説で「ロシアとの関係を強化しつつ、欧州連合(EU)加盟交渉を加速させる」と訴えた。【6月30日 時事】 
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6月14日には、アイルランドでも14日、少数与党の統一アイルランド党の党首で同性愛を公言しているレオ・バラッカー氏(38)がアイルランド史上最年少の首相に選ばれています。

5月25日にベルギーのブリュッセルで開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議に出席した首脳陣の“パートナー”(いわゆる“ファースト・レディ)の記念撮影写真を紹介したアメリカ・ホワイトハウスが、同性愛者でもあるルクセンブルク首相のパートナー“ファースト・ジェントルマン”を無視した件は、トランプ政権の同性愛に対する批判的見解を示すものか・・・と、世界中で話題にもなりました。

ドイツ・メルケル首相も同性婚容認の方向へ舵を切る アジアでは台湾が
同性婚を法的に認める国も増えています。

ドイツ・メルケル首相は、これまで同性婚は認めない立場でしたが、国民世論が容認方向に傾いていることから、9月の総選挙対策もあって、同性婚に反対する党議拘束を解除する形で、同性婚容認への道を開いています。
ただし、メルケル首相個人としては、あくまでも反対の姿勢ではありますが。

****同性婚法可決…賛成多数で 今秋にも施行****
ドイツ連邦議会は6月30日、同性間の結婚を認める法案について審議し、与野党の賛成多数で可決した。法案は連邦参議院でも可決される見通しで、今秋にも施行される。

メルケル独首相の保守系与党会派キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)は長年、同性婚に強く反対してきたが、今回の「歴史的決着」は9月の連邦議会総選挙だけでなく、独政界の今後にも影響するとみられている。
 
DPA通信によると、投票総数は623票。左派系野党・緑の党などから393票が賛成に投じられ、CDU・CSUからも少なくとも73人が賛成に回った。メルケル氏は議決後、「私にとって憲法に定められた結婚とは男女間によるもの」と述べ、反対票を投じたことを明らかにした。
 
ただメルケル氏は26日のイベントで、参加者から同性婚について問われ「良心に基づいた判断がなされるような議論を望む」と発言。特段の政治的意図はなかったとみられるが、与党・社会民主党はこれを党議拘束がない採決を容認したものと解釈。野党と共闘して委員会採決を行い、本会議に法案を提出した。
 
ドイツでは社民党政権時代の2001年、同性カップルを「パートナー」として法的に登録する制度が導入され、社会保障や税制面での優遇が受けられるようになった。同性婚の導入により、今後は同性カップルが第三者を養子にできるなど、男女間の結婚と同じ権利が認められる。
 
独総選挙ではCDU・CSUを除く全国政党が同性婚容認を政策に掲げる。「最後の保守的価値」とされる同性婚問題の決着で、総選挙の争点の一つが消えることになる。将来的には保守と左派政党が近づき、新たな連立政権の枠組みにもつながる可能性がある。
 
欧州では既に13カ国で同性婚が認められている。【6月30日 毎日】
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“欧州では既に13カ国で同性婚が認められている”ということで、ドイツは“遅ればせながら”というところですが、アジアではまだ例外的で、先日台湾の憲法法廷が同性婚を認める決定を行い、アジア初の同性婚の法的容認へ動き出しています。

****台湾、同性婚を合法化へ アジア初 憲法法廷が判断 *****
台湾で、アジアで初めて同性婚が合法化される見通しになった。

司法院大法官会議(憲法法廷)は24日、結婚の前提を男女間と定めた民法の規定が、婚姻の自由と平等という憲法の趣旨に反するとの解釈を公表し、2年以内に立法措置をとるよう明確に求めた。
一方、その形式については柔軟な姿勢を示し、反対派にも一定の配慮をした。(中略)

「同性間の結婚を排除する民法には、立法上の重大な瑕疵(かし)がある」。司法院の呂太郎秘書長が同日台北市内で記者会見し、憲法法廷の判断を解説した。「社会倫理の維持を理由に同性婚ができないのは非合理で差別的。法の下の平等に反する」とも述べた。
 
合法化は蔡英文政権の公約で、昨年末にも実現が見込まれていた。ただ昨年11月に立法院(国会)で本格審議が始まると、保守派から「同性愛は異常で認めるべきではない」「父母のいる家庭のあり方や社会秩序を崩壊させる」との反発が表面化。審議の停滞を招いたが、今後は法制化への作業が本格化する。
 
立法院では結婚に関する民法の条文から男女の区別を消去することで合法化を実現する「民法改正」と、同性パートナーに結婚と同等の権利を保障する「特別法」を作る2つの方法が検討されている。
 
結婚は男女間のものという原則を守りたい反対派の間では、特別法なら容認できるとの意見が増えている。形式について憲法法廷は、民法には手を入れず、「特別法」を作るのも可能だと示唆。反対派にも一定の配慮をにじませた。実際に法制化が実現するのは、早くとも夏以降になるとの見方がある。【5月24日 日経】
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「民法改正」は認められないが、「特別法」なら・・・・日本の天皇退位の議論のようです。

フランスでは、女性同性婚者の生殖医療を認める方向の検討も
同性婚に関しては様々な問題・考慮すべきものがあるのでしょうが、誰しも思うのは「子供は?」という話。

一般的には、子供を育てたい同性婚夫婦は養子縁組をするというところでしょうが、生殖医療を用いれば、女性なら同性婚パートナーが妊娠することも可能です。
男性同性婚の場合は、代理母出産という方法も考えられます。

フランスでは、女性同性婚者の生殖医療を認める方向の検討が始まっているそうです。

****生殖医療、全女性に解禁へ=同性カップル出産可能に―フランス****
フランス政府は、自然な方法では出産できない女性同士のカップルや独身女性に対しても生殖医療を認める方向で検討を始めた。

国家倫理諮問委員会が6月下旬、「生殖医療をすべての女性に解禁すべきだ」と提言する答申を発表し、マクロン大統領も賛成の構え。ただ、同性カップルに厳しい姿勢を取るキリスト教団体など保守層は反発しており、調整は難航が予想される。
 
フランスでは現在、不妊に悩む男女のカップルにのみ、体外受精や第三者の男性による精子提供といった生殖医療を容認している。

倫理委の答申によると、近年では規制を逃れて隣国のスペインやベルギーで生殖医療を受け、妊娠する仏女性が毎年2000〜3000人に上るとみられる。
 
こうした事態を踏まえ、答申は「家族の在り方は変化している。独身女性や女性カップルに生殖医療を禁じることは問題だ」と結論付けた。

ベルギーで生殖医療を受け、女性のパートナーと生後3カ月の女児を育てる女性(29)は地元メディアに「解禁されたら2人目も考えたい」と話し、倫理委の判断を歓迎する。
 
ただ、女性が他人に子供を引き渡す目的で出産する「代理母」については、代理母となる女性の心身に悪影響を及ぼす懸念があるとして答申は容認しなかった。このため、男性同士のカップルが子供を得る権利は依然制限される。【7月1日 時事】
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トランスジェンダー アメリカのトイレ論争 日本では女子大が門戸開放?】
性的マイノリティに関する議論のなかで、最近話題になることが多いのが自分の生物学的性と内面的性が一致しない“トランスジェンダー”です。

アメリカでは、学校のトイレについてトランスジェンダーはどちらを使用すべきかに関する州当局の判断が、中絶や同性婚同様に、保守・リベラルの試金石ともなる非常に大きな政治問題ともなっています。

****学校でトイレに行けないトランスジェンダーたち 米国の教育現場が抱える問題****
◆トランスジェンダーの青少年が学校で抱える不安と不快
まず、トランスジェンダーの人々は直面する課題の類似からLGB(Lesbian, Gay, Bisexual)という人々とひとくくりにされているが、根本的性質は少し異なる。

LGBの人々は性的嗜好に基づいたマイノリティであるが、トランスジェンダーは自分の生物学的性と内面的性が一致しなかった人々である。
 
アメリカの青少年(13~17歳)のうちトランスジェンダーは総勢15万人以上いるとされている。そうした多くのトランスジェンダーの青少年は、70%が学校の公共トイレを利用するのを避けており、また時に水分の摂取も意識的に減らしていることが調査で明らかになった。

他にも、学校で自分の内的性別に沿わない更衣室やトイレの利用を強要されているケースが60%と半分を上回った。

◆法的サポートの必要性
トランスジェンダーの学生たちは、学校の公共トイレを利用する際に不安と不快も感じており、極端な場合には不登校になるケースもあり、教育を受ける権利に影響を及ぼしているという。(中略)

更衣室やトイレの使用は他の生徒の安全やプライバシーの問題と矛盾する、という反対意見もたびたび主張されてきた。つまり、制度を悪用する人の可能性が指摘されているのである。

しかし、長期間同じコミュニティにいる学生たちは「”一日だけトランスジェンダーのふりをする”ことはできないし、制度を整えた学校で学生が悪さをする回数が増えたという報告はない」、とレポート内で説明している。
 
これらの調査は、自分からトランスジェンダーであることを公表し主張をしているのにその権利が守られないことを前提としているような記述が多い。

日本では、そもそも自分がトランスジェンダーであることをカミングアウトしていない人も多いだろう。そのためトイレなどの設備のみを整えても、周りの目を意識して結局活用できないのではないだろうか。

物理的環境の整備も必要だが、同時に周りの人々の理解と許容という社会環境の整備もあって初めて成り立つのではないかと考えさせられる。【6月11日 大西くみこ氏 NewSphere】
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カミングアウトした者の扱いが問題となっているアメリカに比べ、日本ではそもそもカミングアウトができない社会的雰囲気がある・・・という状況ですが、少しずつではありますが、教育界でもトランスジェンダーに対する配慮の検討が始まってはいるようです。

****心は女性」女子大も門戸? 8校が検討前向き****
生まれた時の性別が男性だが、心の性別が女性のトランスジェンダーの学生の受け入れについて、国立2校、私立6校の8女子大が、検討を始めたか、検討を始める予定であることが朝日新聞の調べでわかった。

現時点で動きはないが、将来「検討するべき課題」と考える女子大も6割強の41あり、女子大が「多様な女子」にどう門戸を開いていくのかが注目される。(後略)【6月19日 朝日】
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南アジアで認められている「第3の性」】
アジアにあっては、トランスジェンダーについて、男性でも女性でもない「第3の性」という扱いもなされています。

タイでは軍事政権が主導した新憲法において“「第3の性」を認める公算が強まっている”という報道も以前ありました。

****タイの新憲法、「第3の性」認める方向****
タイが同国史上初めて、憲法で男性でも女性でもない「第3の性」を認める公算が強まっている。

新憲法案を作成している憲法起草委員会の広報担当者は、「男性または女性として生まれた人が、性別を変更したり、違う性別で生きたいと思うことは人権に当たる」と指摘。「国民は性別変更の自由を認められるべきであり、憲法や法によって平等に保護され、公平に扱われなければならない」との見解を示した。

第3の性では、個人が男性または女性のいずれかである必要がなくなり、自分の性別を自分で決められるようになる。

広報担当者は「今こそタイの社会における第3の性の存在を認め、保護する範囲を広げるべき時だ。第3の性が導入されれば、社会でも差別を減らす助けになる」と力を込めた。(中略)

アジアでは既に、インド、パキスタン、ネパールなどが第3の性を認めている。【2015年1月19日 CNN】
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しかし、その後公布された新憲法に関して、「第3の性」が認められたという話は聞きません。立ち消えになったのでしょうか?新憲法でどのように扱われたのかよくわかりません。

お堅い軍事政権ですから、認めなかったという方が納得はできます。あのプラユット首相が「第3の性」を許容するとはなかなか思えませんので。

タイを旅行された方なら、トランスジェンダーというか、いわゆる“ニューハーフ”が多いことはご承知だと思います。

タイでは徴兵検査がありますので、その際に“ニューハーフ”が話題になることもしばしばあります。
比較的、タイでは人々がLGBTに寛容であると言われることもありますが、当然ながら差別・偏見もあります。

“アジアでは既に、インド、パキスタン、ネパールなどが第3の性を認めている”とのことですが、パキスタンのように同性愛を禁止しているいるイスラム教の国で「第3の性」というのも不思議な感じもします。

****パキスタン、パスポート性別欄に「第3の性」を認める****
性別欄の記載が男性でも女性でもない「第3の性」のパスポートを、パキスタン政府が初めて発給したことが明らかになった。

第3の性のパスポートを発給されたのは、トランスジェンダーの権利保護を求める活動家で、北西部ペシャワル在住のファルザナ・リアズさん。極めて保守的なパキスタンで疎外されているトランスジェンダー社会にとって、一歩前進だと歓迎している。
 
リアズさんはAFPの取材に対し「前のパスポートでは性別欄に男性と書いてあったが、新しいパスポートでは男性でも女性でもなく『X』と記されている」と述べた。さらに「これまでは外見とパスポートの性別が違うために海外の空港で問題が生じていたが、今後は旅行がしやすくなる」と語った。
 
パキスタンのトランスジェンダーたちは近年、自分たちは宦官(かんがん)文化の継承者だと主張している。宦官はインド亜大陸を2世紀にわたり支配したムガール帝国時代に重用されたが、19世紀、同大陸に進出してきた大英帝国によって禁止された。
 
複数の調査によると、パキスタンには少なくとも50万人のトランスジェンダーがいるとされる。2009年には他国に先がけて第3の性を合法的に認め、身分証明書も取得可能になった。トランスジェンダーの候補が選挙に出馬した例もこれまでに複数ある。
 
一方、イスラム教で禁止されている同性愛は10年の禁錮刑、または、むち打ち100回の刑に処される可能性がある。【6月26日 AFP】
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“宦官文化”云々はわかりませんが、南アジアには“ヒジュラー”と呼ばれる「第3の性」が社会的に存在していることはよく知られるところです。

****ヒジュラー*****
インド、パキスタン、バングラデシュなど南アジアにおける、男性でも女性でもない第三の性である。ヒジュラ、ヒジュダとも呼ばれ、ヒンディー語・ウルドゥー語で「半陰陽、両性具有者」を意味する。

ヒジュラーは通常女装しており、女性のように振舞っているが、肉体的には男性、もしくは半陰陽のいずれかであることが大部分である。宦官として言及されることもあるが、男性が去勢している例は必ずしも多くない。

歴史的には、古くはヴェーダにも登場し、ヒンドゥー教の歴史にもイスラームの宮廷にも認められる。その総数はインドだけでも5万人とも500万人とも言われるが、実数は不明である。

アウトカーストな存在であり、聖者としてヒンドゥー教の寺院で宗教的な儀礼に携わったり、一般人の家庭での新生児の誕生の祝福のために招かれたりする一方、カルカッタ(コルカタ)やニューデリーなどの大都会では、男娼として売春を生活の糧にし、不浄のものと軽蔑されている例もある。【ウィキペディア】
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この話に入ると長くなりますので、今日はやめておきます。
“インド、パキスタン、ネパールなどが第3の性を認めている”のは、こうした社会的背景によるものでしょう。

ただし、差別・偏見がないという話ではないでしょう。

いろんな国のそれぞれの動きを以上のように見てくると、日本は世界でも性・ジェンダーに関して“保守的”な国であることがわかります。同質性を前提とした社会の少数派への無関心・拒否感でしょうか。
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