孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ社会の分断  南部リー将軍像や南部連合旗をめぐるせめぎあい

2017-07-09 23:02:00 | アメリカ

(KKKの全盛期、1926年4月27日、コロラド州の遊園地観覧車に乗るKKKメンバー 当時は州知事もKKKメンバーであり、上院議員や州都市長もKKKとつながりあった時代です。【7月05日 カラパイアより】

当時のKKKは、ヨーロッパ南部から大量の移民が押し寄せたことを背景にカトリックを主たる標的にしていたそうで、そのスローガンは、「アメリカ主義100パーセント」だったとか。なんだか聞いたことがあるような・・・)

トランプ政権成立が勢いづかせる差別主義
戦い、支配・被支配の過去を持つ双方にとって“歴史認識”が一致しないことが多いのは、日本と中国・韓国の歴史を持ち出すまでもなく、世界一般の現象です。

アメリカ国内を二分した南北戦争は 1861年から1865年の出来事で、奴隷制存続を主張するアメリカ南部諸州のうち11州が合衆国を脱退、アメリカ連合国を結成し、合衆国にとどまった北部23州と戦った戦争でした。

奴隷制や人種差別に対する南北の考え方は、一方が人道的で、他方が非人道的というような単純なものではないでしょうし、南部には南部の言い分はあるでしょう。

南部住民の少なからぬ人々にとって、戦いをリードしたリー将軍や南部連合の旗は、地域の誇りを示すものとの認識があります。

ただ、より多くの人々にとっては、克服すべき奴隷制などの忌まわしい過去の象徴でもあります。

リー将軍など南部指導者の像は今も南部各州を中心に多数存在しており、その像の撤去がしばしば問題となります。

****KKKがデモ行進、南北戦争将軍の像撤去計画に抗議 米****

米バージニア州シャーロッツビル(で8日、白人至上主義団体「クー・クラックス・クラン(KKK)」と支持者らが、南北戦争で南部連合(を指揮したロバート・E・ リー将軍の像の撤去計画に抗議するデモ行進を行った。
 
バージニア州当局は言論の自由を理由に、悪名高いKKKのデモを許可した。デモ隊は南部連合の旗を掲げたり、KKKを特徴づける白いずきんをかぶったりして行進した。
 
現場ではこのデモに反対する抗議行動があり数百人が参加。KKKのデモ隊に向かって「レイシストは帰れ!」などと叫んだ。デモ隊とこれに反対する抗議行動の参加者らは、金属のバリケードと警官隊によって隔てられていた。
 
極右勢力はシャーロッツビルを含め米国各地で、ドナルド・トランプ大統領の就任を契機に活気づいたと批判されている。

オルト・ライト(オルタナ右翼)、またはジェネリック白人至上主義者集団のKKKは、保守勢力の立場から南部連合旗や、奴隷制度があった時代を想起させる南部諸州の像などの保護を新たな大義名分に掲げている。米国ではこうした像を時代遅れでおぞましい人種差別主義の象徴と見る向きが多く、公共の場所から撤去しようとする動きが出ている。
 
KKKは全盛期の1925年に会員数が400万人に達したが、米国の過激思想の監視や調査を行っている人権団体「南部貧困法律センター(SPLC)」によると、近年その数は、南部の保守的な地域を中心に5000~8000人とされている。【7月9日 AFP】
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人種差別を象徴するKKKなどが登場するあたりに、単に“地域の誇り”では済まされない、基本的価値観の違いが背後に忍び込んでいることをうかがわせます。

日本的な良識からすれば、頭の尖がった白装束のKKKなんて映画や小説の中だけのようにも思われるのですが、現実にはいまだに一部の人々の間で生き続けているようです。

****クー・クラックス・クラン(KKK*****
アメリカのメディアでは未だにKKKとして統一団体のように紹介されるが厳密に言えばKKKの全国組織は前述のように1927年の時点で崩壊している。

現存するKKK系の団体に横のつながりはほとんどなく(組織によってはライバル意識すらある場合がある)、中央組織のようなものも存在しない。

しかし一方で、徹底した地下組織化による中央組織・連絡協議会的組織の温存の疑いや、点在する表面上の小組織の細胞組織化(アルカーイダ系各種テロ組織やネオナチ各種団体を例にとれば分かる通り、一部組織の違法活動発覚で組織全体が芋づる式に検挙される危険性の回避に役立つ)工作の疑いも持たれ続けている。【ウィキペディア】
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差別の心情は殆どの人の心の闇に広く存在します。しかし、それは克服すべきものとの理性も働きます。

従来は、KKK的な差別主義は口にすることが憚られるところがありましたが、今もトランプ政権を支える白人至上主義者とも言われれるバノン氏や、KKKの元最高幹部デービッド・デューク氏らが支持したトランプ政権の誕生、そしてトランプ氏の言動によって、KKK的な主張を隠す必要はないという社会的な風潮が広まっているように見られます。

差別的言動への批判は、ポリティカル・コレクトネスにとらわれたものとして逆に嘲笑の対象ともなります。

リー将軍の像撤去問題や南部連合旗の問題は、歴史認識の問題であると同時に、心に潜むダークなものどう向き合うのかという問題でもあります。

****ミニ・トランプ”が知事選に出馬。「リー将軍像を取り戻す」公約の意味は****
19世紀のアメリカ南北戦争は、現在に続く北部=合衆国と、奴隷制存続を訴える南部=連合国が激突した内戦です。あれから約150年たった昨年の米大統領選で、ドナルド・トランプは米社会の“分断”を煽(あお)って勝利を収めましたが、その深刻な余波が訪れ始めています。

当時、南部連合の軍司令官を務めたロバート・E・リーという人物がいます。彼は南北戦争以前には合衆国軍の大佐でしたが、郷里バージニアが合衆国脱退を決めると(奴隷制には反対しながらも)強い郷土愛から南軍の指揮官となり、北軍を最後まで苦しめました。「リー将軍」の愛称で今も多くのアメリカ人、特に南部の白人から尊敬されています。

地元バージニアなど南部諸州には彼の名を冠した公園や銅像・記念碑などが無数にありますが、近年はそれを撤去する動きが広がっています。リー将軍を“顕彰”することは人種差別を助長しているのではないか、というのがその理由です。

大きな契機となったのは、2015年にサウスカロライナ州チャールストンの黒人教会で発生した銃乱射事件でした。襲撃犯の男が白人至上主義者で、南軍の象徴である南部連合旗を“信奉”していたことが判明し、各地の南部連合旗撤去と並行して、「リー将軍をたたえること」に対する反対運動も拡大したのです。

しかし、白人至上主義者や一部の保守層はこの動きに危機感を抱き、「黒人による歴史修正だ」と反発しました。“被害者たる黒人の目を通じた歴史”しか語ることが許されないのはおかしい―と。

もちろん、歴史に対する姿勢として、現在の価値観に合うものしか残さないというのは過剰です。白人であれ黒人であれ、大人が子供に「過去にはこういうことがあった」と語り継ぐことも必要でしょう。

ただ、リー将軍や南部連合旗の存在が白人至上主義者の“よりどころ”となっているのも事実で、リー将軍をたたえる年に一度のパレードには、ネオナチや南軍兵士のコスプレをした連中も集まってくる。こうした“差別の源泉”を断つための対処療法として、仕方なくリー将軍の痕跡を撤去しているという事情もあるのです。

最近も、バージニア州シャーロッツビルの市議会でリー将軍の銅像撤去が決定されたのですが、その過程で象徴的な動きがありました。

トランプ大統領を後押しする極右メディア「ブライトバート・ニュース」が、撤去賛成派の黒人議員をひどい人格攻撃で執拗(しつよう)に非難。今年行なわれる同州知事選に出馬予定の、“ミニ・トランプ”とも呼ばれる泡沫(ほうまつ)候補もこれに便乗し、リー将軍像を取り戻すとの公約を掲げているのです。

彼はつい先日も、「俺はリー将軍をたたえるために『リー公園』に行く」とわざわざ宣言し、撤去賛成派のデモ隊との衝突をスマホ動画で生中継。「こんな罵声(ばせい)を浴びせるヤツらから、民主主義を守らなければいけない」と、もっともらしく語りかけるフェイスブックの投稿には、保守層から「いいね!」の嵐……。

トランプ大統領やブライトバート・ニュースが罪深いのは、「アメリカ人の本音」を盾に人間の差別意識をあぶり出し、社会の分断を深めたこと。これはそう簡単に元に戻せるものではありませんが、どう落とし前をつけるつもりでしょうか?【4月3日 モーリー・ロバートソン氏 週プレNEWS】
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“被害者たる黒人の目を通じた歴史”しか語ることが許されないのはおかしい・・・・というのはもっともな言い分ではありますし、学問・研究の場では異なる視点からの分析も必要でしょう。

ただ、社会的統合の過程としての政治の場にあっては、被害者の心情は最大限に配慮されるべきもので、いたずらに加害者の立場からの論点を主張することは、不毛な対立を煽るだけの結果になります。

学問・研究の場で議論された異なる視点からの分析を被害者が受け入れる心の余裕が生まれるまで、時間をかけて待つ必要があるでしょう。

2015年サウスカロライナ州銃乱射事件で広がった撤去運動
また、異なる視点からの主張に差別感情のようなダークなものが忍び込んでいるとしたら、そうした主張は否定すべきものになりますし、その“拠りどころ”となっているシンボルへの厳しい規制が必要になります。たとえ、“地域の誇り”としての一面があるにしても。

それにしても、「こんな罵声(ばせい)を浴びせるヤツらから、民主主義を守らなければいけない」云々は、同じような発言をつい最近も日本国内で聞いたような気がします。

****米ニューオーリンズ市、人種差別的モニュメントの撤去開始****
米ニューオーリンズ市は24日、1874年に白人至上主義者グループによって警官と州兵が襲撃された事件を記念して1891年に建造されたモニュメントを撤去した。治安上の理由から、撤去は予告なしで夜間に行われた。

市は「多様性、一体化・寛容」(diversity, inclusion and tolerance)のメッセージを発信する方針で、その一環として、この像を含む4つのモニュメントの撤去を予定している。

ミッチ・ランドリュー市長は記者団に「この像は、白人至上主義者による警官襲撃を賞賛するために建造された。4つの像のうち、米国とニューオーリンズを強めている価値観に最も激しく挑戦するものといえる」と語った。

市長は作業員に対する激しい脅迫があるとして残りの3つの像の撤去日程を明らかにしていないが、南北戦争時代に南部の「アメリカ連合国」を率いたジェファーソン・デービスの像と、軍人のロバート・E・リー将軍、およびP・G・T・ボーリガード将軍の像の撤去が決まっている。【4月25日 ロイター】
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こうした撤去運動のきっかけとなったのは、前出【4月3日 週プレNEWS】も指摘しているように、2015年にサウスカロライナ州チャールストンの黒人教会で発生した銃乱射事件でした。

****GoogleやAmazonなどが次々と南部連合国旗を問題アリとして取り下げた理由とは****
南北戦争中に使用されていた南部連合国旗が、アメリカのAmazonやGoogleショッピング、オークションサイトのeBayで販売数が爆発的に増加する現象が発生した後、南部連合国旗関連の商品が取り下げられるという事態が発生しました。この背景には2015年6月17日に起きたある事件が潜んでいます。

1861年から1865年まで4年間続いた南北戦争は奴隷制度の維持を主張するアメリカ南部と、奴隷制度の撤廃を主張する北部の間で起こった戦争です。奴隷制度の継続を目指す南部連合が使用していた旗が南部連合国旗で、アメリカの白人至上主義を唱える秘密結社「クー・クラックス・クラン(KKK)」が儀式の際に使用することもあります。

このことからアメリカでは南部連合国旗が人種差別の象徴ともいえる存在になっているのですが、Business Insiderが2015年6月23日にショッピングサイトのAmazonを調べたところ、南部連合国旗の売上が24時間以内に3000%以上増加するという、異常ともいえる事態が発生していました。

では、どうして南部連合国旗の売上が爆発的に増加したのかというと、その原因は6月17日にアメリカ南部のサウスカロライナ州チャールストンで発生した銃乱射事件にあります。同事件は、アフリカ系アメリカ人が通うエマニュエル・アフリカン・メソジスト・エピスコパル教会に男性が突然乗り込んで銃を乱射し、アフリカ系アメリカ人の女性6人と男性3人の合計9人が死亡した事件です。

事件が発生した翌日、警察当局はチャールストン近郊に住む21歳のディラン・ルーフ容疑者を逮捕。報道されているところによれば、ルーフ容疑者は人種差別的な感情を持っており、ブログに「種の戦争」という名前の戦争を起こす要望をつづった文章を公開していたとのこと。

また、奴隷制度の象徴でもある南部連合国旗を身に付けた写真をブログやFacebookに複数枚公開していたことも判明。警察当局は同容疑者の逮捕時に事件がヘイトクライムであると断定しています。


そして、事件直後からルーフ容疑者が身に付けていた南部連合国旗の販売数がAmazonやeBayなどのオンラインショッピングサイトやオークションサイトで爆発的に増加。この事態を重く受け止めた各社はすぐに南部連合国旗関連商品の取り下げを発表しました。

また、Googleも検索ワードに応じた商品を掲載するサービスのGoogleショッピングから南部連合国旗関連商品を取り下げることを発表し、各社がそろって人種差別行為に対する強い反対の意志を示しました。(後略)【2015年6月24日 Gigazine】
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事件が起きた米南部サウスカロライナ州では、州議会の敷地内に南軍旗が掲揚されていましたが、事件後、軍旗を撤去する法律が成立しました。

以前からアフリカ系米国人を中心に議会敷地からの撤去を求める声が上がっていましたが、「南軍旗は南部文化の象徴」と主張する人々の声にかき消される形で掲揚が続いていました。【2015年7月10日 CNNより】

こうしたリー将軍像や南部連合旗の撤去を求める動きがある一方で、冒頭記事にあるようにトランプ政権成立に後押しされる形でKKKのような極右主張も表面化しており、両者がせめぎあっているアメリカです。
コメント (1)
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