(メキシコ・シウダフアレスで、同市が公開したレイプ時緊急連絡アプリ「No estoy sola」を眺める少女ら【7月12日 AFP】)
【ブラジル:銃撃の発生場所や被害状況を地図に表示するアプリ】
治安の悪さを示す殺人事件発生率のランキングでは中南米の国々が上位を独占する勢いですが、特に、日本ではほとんど国名を目にすることがない中米の島国が上位にランキングされています。
貧困、そして貧困を背景として麻薬組織が社会に根付いていることが大きな理由です。
殺人事件犠牲者数という絶対値では、おそらくブラジルやメキシコあたりが上位にくるのではないでしょうか。
ブラジルでは、収賄罪で起訴されたテメル大統領の司法手続きが進むのかが世界的にも注目されています。
“起訴が(最高裁に)正式に受理されるには下院議会の3分の2以上が賛成する必要があるが、与党が多数派を握っていることを踏まえ、テメル氏の側近らは正式受理の回避に自信を見せている。”【6月27日 AFP】
更に言えば、下院議員の多くがテメル大統領同様の問題を抱えている状況では、その議員に政治浄化を期待するのは難しいのかも。
ただ、本会議に先立つ下院憲法・法律委員会は全政党の代表が委員となっており、政党の議席数をそのまま反映していないこと、与党内でも若手議員には汚職にまみれた大物議員に反旗を翻し世代交代を求める動きも出ていること、何より国民世論の批判が強いことなどから、事態は流動的とも。
下院憲法・法律委員会で起訴受理が賛成多数となれば、本会議の流れも変わります。
大統領を頂点とした汚職体質は政治の世界だけではありません。
****腐敗警官62人拘束=麻薬組織と癒着―ブラジル****
ブラジルのリオデジャネイロ州検察局は29日、麻薬組織に武器を横流ししたり、賄賂を受け取って麻薬取引を黙認したりするなど癒着していたとして、警察官95人の逮捕状を取り、このうち62人の身柄を拘束した。
警察官らは毎週、麻薬組織から集金し、その総額は月100万レアル(約3400万円)以上に達したという。
ニュースサイトG1によると、リオデジャネイロ近郊のあるファベーラ(貧民街)では、組織が月19万6000レアル(約670万円)の「目こぼし料」を警察に支払っていたとされる。また、ある警察官は週1000レアル(約3万4000円)を受け取っていたとみられる。【6月30日 時事】
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警察がほとんど組織ぐるみで麻薬組織と癒着しているのですから治安も改善するはずがありません。発砲・銃撃事件が頻発しています。
そこで、リオデジャネイロ市民が利用しているのが、銃撃の発生場所や被害状況を地図に表示するアプリだとか。
****「発砲通知アプリ」で身を守れ=リオで普及の兆し****
発砲、銃撃事件が多発するブラジル・リオデジャネイロの市民の間で、スマートフォンのアプリを利用して身を守ろうとする動きが広がりつつある。
国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが1年前に発表した無料アプリ「フォゴ・クルザード(十字砲火)」は銃撃の発生場所や被害状況を地図に表示。一目で危険地帯を知ることができる。
管理者のオリベイラさんは「市民が『十字砲火』にさらされている現状を広く知ってもらいたかった」と開発意図を説明。ダウンロード回数は予想を大きく上回る9万以上に達したという。
リアルタイムで情報提供するアプリ「オンジ・テン・チロテイオ(撃ち合いはどこ)」も人気で、利用者からは「これ無しでは家を出られない」との声もあがっている。
フォゴ・クルザードによると、6月までの11カ月間でリオ一帯で4398件の発砲・銃撃事件が発生し、1133人が死亡、1171人が負傷した。【7月11日 時事】
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【メキシコ:レイプ時の携帯による緊急連絡システム】
ブラジル以上に麻薬組織が社会を蝕むメキシコも、治安の悪さではブラジルに負けません。
そのメキシコでも、市民の生命を守るのに携帯が活用されているようです。
****女性をレイプ殺人から救うアプリ「世界一危険な街」が公開 メキシコ****
メキシコ北部チワワ州シウダフアレスは1990年代以降、「女性殺しの街」と呼ばれ、レイプ、殺害されて砂漠に遺棄されるか、行方不明になる女性が多数いることで知られてきた。
そんな同市がこのたび、女性の携帯電話が非常ボタン代わりになるアプリを公開した。
スペイン語で「No estoy sola(「私は独りではない」の意味)」と名付けられたこのアプリ。電話を振るか、ボタンをクリックすれば、緊急連絡先に通知が届き、リンクが貼られたテキストメッセージが送信されると、受け取った側は米グーグル(Google)の地図サービス「グーグルマップ」で送信者の居場所を知ることができる。 メッセージは5~10分置きに、送信者側がアプリの動作をオフにするまで繰り返し送られる。
このアプリが先週公開されて以来、すでに1万3000回以上ダウンロードされ、そのうち100回以上が米国内の利用だった。
米テキサス州エルパソと国境を接するシウダフアレス市は、女性にとって世界有数の危険な都市という汚名を返上する取り組みを続けてきた。1990年代以降、被害はやや減少してきてはいるが、1990年代に殺害された女性の数は、人権団体の推定では1500人を超えている。
被害者は主に、同市のマキラドーラ(輸出保税加工区)の組み立て工場群に出稼ぎにやって来た貧困層の若い女性たちだった。その内の多くは、レイプされて残虐な拷問を受け、同市の周辺にある砂漠で遺体が発見された。
人口140万の同市は、今も女性たちにとっては危険が多い街だ。昨年、報告があった女性の行方不明者は54人。今年に入ってからは17人の行方が分からなくなっている。【7月12日 AFP】
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シリア・イラクの戦場でもないのに、街を歩くのに、銃撃事件の発生状況確認アプリやレイプ時の緊急連絡システムが必要になるというのは異常と言うしかありませんが、現実でもあります。
【政治腐敗と表裏の「pax mafiosa(マフィアによる平和)」 崩壊で麻薬戦争再燃】
メキシコでは、街中でも刑務所でも、事件が後を絶たないようです。
****麻薬組織の抗争で銃撃戦、14人死亡 メキシコ****
AP通信によると、中米メキシコ北部チワワ州マデラで5日、同国最大の麻薬組織シナロア・カルテルと、同州を拠点とする対立組織フアレス・カルテルの関連グループ、ラ・リネアの間で銃撃戦が起きた。治安部隊が鎮圧したが、この抗争で少なくとも14人が死亡した。
同国では北西部シナロア州でも6月30日、麻薬組織と治安部隊が衝突し、麻薬組織側の19人が死亡した。【7月6日 産経】
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****メキシコ 麻薬戦争が刑務所内まで 受刑者28人死亡****
メキシコ南部の刑務所で対立する犯罪組織に所属するメンバーどうしの暴力事件で28人が死亡し、麻薬戦争と呼ばれる犯罪組織の抗争が刑務所の中にまで及んだことに衝撃が広がっています。
メキシコ南部アカプルコにある刑務所で6日、対立する犯罪組織に所属する受刑者どうしの暴力事件があり、これまでに28人の死亡が確認されました。(中略)
アカプルコは太平洋に面したビーチが有名で、海外からも多くの観光客が訪れる人気のリゾート地ですが、近年、犯罪組織どうしの抗争が激しくなっています。
メキシコでは政府と犯罪組織の衝突、また犯罪組織どうしの抗争が激化していて麻薬戦争と呼ばれ、去年1年間で市民を含む2万3000人が死亡し、犠牲者の数は、内戦が続くシリアに次ぐ多さとなっています。
前日の5日には、メキシコのペニャニエト大統領がアメリカのケリー国土安全保障長官と会談し、組織犯罪の撲滅に向けた協力を確認したばかりですが、犯罪組織の抗争が刑務所の中にまで及んだことに衝撃が広がっています。【7月7日 NHK】
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メキシコの“現実”は一筋縄ではいかないものがあります。
軍を動員した「麻薬戦争」で治安悪化を招いた前大統領にとってかわったペニャニエト大統領のもとで、一時的に殺人件数は減少しましたが、それは麻薬組織の活動をある程度黙認する「pax mafiosa(マフィアによる平和)」でもありました。
しかし、政治と麻薬組織の癒着が市民から批判を浴びて、その「pax mafiosa(マフィアによる平和)」が崩れつつある現在、再び事件・犠牲者が増加しているようです。
****今年の死者既に1万1155人 メキシコ麻薬戦争****
大統領は麻薬組織対策のやり方を変えたかったが、奏功せず
3月23日朝、メキシコ北部の都市チワワで銃撃犯はチェリーレッドのルノー・ダスターSUVに8発の銃弾を撃ち込んだ。自宅前からこの車で14歳の息子カルロス君を学校に送って行くところだった母親で新聞記者のミロスラバ・ブリーチさんが殺された。
ブリーチさんは、麻薬組織と地元の政治機構との関係に関する調査報道で知られていた。現場に残された犯人の手書きメッセージには、こう記されていた。ブリーチさんを殺害したのは「おしゃべりだからだ」と。
メキシコのエンリケ・ペニャニエト大統領の政権下で暴力件数が数年間減少したが、麻薬戦争が最近再燃している。
政府統計によれば、2017年1月から5月までにメキシコで殺害された人々は、ブリーチさんを含めて1万1155人に上っている。20分間で1人の割合だ。昨年同期を31%上回っている。年末までには、犠牲者の数はメキシコの平和時で最悪だった2011年の2万7213人に匹敵する恐れもある。(中略)
暴力再燃の原因の多くは、長年の根深いものである。例えば、米国内でのオピオイド(鎮痛作用のある医療用麻薬)市場の拡大や、麻薬密売集団同士の血塗られた抗争などだ。この抗争は、密売集団の上級幹部の死亡や逮捕がきっかけになって激化している。
麻薬取引問題の専門家によると、常識では考えられないダイナミズムも働いているという。ここ数カ月間、ペニャニエト大統領が率いる与党・制度的革命党(PRI)の州・地方指導者が腐敗していると有権者に烙印を押され、地方選挙で落選していることだ。
この結果、麻薬組織と政治家との間の非公式な「同盟関係」が崩壊し始めている。この関係は「pax mafiosa(マフィアによる平和)」と呼ばれ、殺人を抑制する役割を果たしていた。
「地方と州のPRI主導政府は、非公式なルールを使って暴力と犯罪をコントロールした」と、メキシコ市にある超党派CIDE研究センターのホルヘ・チャバト氏(治安・国際関係)は言う。「彼ら当局者は『君ら(マフィア)は麻薬を密売できる。ただし、余りにも多くの人々を殺さないという条件付きだ』と言ってきたものだ」
メキシコの暴力件数が過去最悪だったのは、2006年に始まった。敵対する麻薬組織同士が縄張り戦争を始めた時で、最終的に死者は10万人を超えた。当時のフェリペ・カルデロン大統領(国民行動党)は、強大な麻薬王たちを制圧するため軍隊を派遣した。彼らが影響力を拡大し、政府の権力に挑み、国の広い範囲を支配するほどになったためだった。
メキシコの殺人件数は今年過去最悪規模になりそうだ
軍は一部の麻薬組織を何とか壊滅できたが、殺人件数は増加し続けた。そして軍は人権蹂躙の非難を浴びた。罪のない市民の殺害や、麻薬組織容疑者の即決処刑への非難だった。
6年後の2012年、ペニャニエト氏を大統領候補に擁立したPRIは、自らを「効率の党」と呼んで政権に復帰した。前任のカルデロン大統領は、麻薬撲滅を強調したが、ペニャニエト大統領は教育政策の改革、エネルギー、電気通信産業の再編に集中した。(中略)
ペニャニエト氏が大統領として最初にとった行動は、メキシコ公共治安省の廃止だった。同省は2000年、国民行動党所属だった当時の大統領が設立した政府機関。麻薬関連犯罪取り締まりの専門的な連邦警察部隊を創設するために設けられた。ペニャニエト氏は就任後、その担務を内務省に統合した。
ペニャニエト氏の大統領就任以降、与党のPRIは麻薬密売などの汚職スキャンダルに見舞われてきた。メキシコではPRI所属の元知事のうち、汚職で捜査対象になっているか、服役中か、あるいは訴追されているのが12人近くに上っている。また3人が訴追を逃れるため国外に逃亡した。最近数カ月間で、2人がその後拘束された。いずれも容疑を否認している。
ペニャニエト大統領府はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)からの質問リストに長文の回答文を寄せ、2015年から殺人件数が増加しており、今年に入っても続いていることを認めた。
政府が新たに長期的な犯罪撲滅戦略を優先課題の一つとして実施していると述べた。この新プログラムには、メキシコの司法制度の広範な改革や、国家治安機関の強化策などが含まれているという。
大統領府は、メキシコの地方の法執行機関が自分の仕事を果たしていないと非難した。回答文は「専門的で、信頼でき、効率的な機関が地方レベルで欠如しており、それが何のおとがめもなく組織犯罪が横行する余地を与えている」と指摘。
ここチワワでは、ブリーチさん殺害は、暴力激化と政治的陰謀という雰囲気のなかで発生した。
昨年10月、有権者たちはハビエル・コラル氏をチワワ州の新知事に選出した。ブリーチさんと25年以上友人関係にあった元ジャーナリストだ。チワワは昨年、コラル氏を含め国民行動党所属の知事候補が勝利した7州の一つだった。
昨年末、チワワ州のセザール・ドゥアルテ前知事が米テキサス州エルパソに逃亡した。同州から数億ドル(数百億円)の公金を着服した容疑で逮捕状が出される直前だった。(中略)
チワワは長年、麻薬密売者の誰もが欲しがる州だった。チワワ州最大の都市シウダーフアレスは前回の麻薬戦争の際、麻薬カルテルによる暴力のグラウンド・ゼロ(震源地)で、世界でも有数の殺人率だった。
メキシコ最大といわれる麻薬組織シナロア・カルテルの最高幹部ホアキン・グスマン容疑者は、強力なカルテルとその武装ギャング「ラ・リネア」からシウダーフアレスの麻薬取引を乗っ取ろうとして武装した手下を派遣した。
グスマン容疑者は、2つのストリートギャング(ギャングの下部組織)を手先として雇った。2007年から11年までに9000人以上が殺害された。
グスマン容疑者は現在、米国で麻薬密輸などの罪に問われ、ニューヨーク・マンハッタンの施設に収監されている。
一方、シウダーフアレスでは緊迫した状況になっている。暴力事件が頻発し、過去5日間で29人が殺害されたためで、軍は3日、兵士を市内に配置した。州と連邦の警察とともに定期パトロールを最近5年間で初めて実施する。
チワワ州検察事務所によれば、同州全域で暴力が拡散し、予測不可能になっている。比較的小さなギャング組織が自らの影響力と麻薬取引支配を求め、争っているためだ。
5日未明にはエルパソから南西に約250マイル(約400キロメートル)離れたメキシコ地方都市ラスバラスで、2つの武装グループ同士の銃撃戦で少なくとも26人が死亡した。
米麻薬取締局(DEA)エルパソ支部の特別捜査官ウィル・グラスピー氏は「ラ・リネアあるいはカルテルの直接的な指導者を自任している人物は皆無だ」と述べた。
殺害されたブリーチさんは、自らが育ったシエラデチワワの丘陵地域で深まる政治と麻薬取引のつながりに関する記事をしばしば書いていた。
昨年3月、ブリーチさんは一連の記事を書いた。犯罪組織と地方政治ポスト候補者との家族的なコネに関する記事だ。彼女は記事のなかで、あるギャングのボスとされるカルロス・アルトゥロ・キンタナ(「El 80」としても知られる)の義母がバチニバという町の町長予備選候補としてPRIに登録したことを暴露した。
彼女の故郷チニパスでは、グスマン容疑者の元側近2人の甥が市長に立候補するためPRIの政党予備選に候補者登録した。ブリーチさんの記事が出されると、PRIは2人の候補資格を抹消した。(中略)
ブリーチさんが殺害の脅迫を受け始めたのはその直後だった、と彼女の家族は言う。彼女が殺害された時、遺体の近くには「El 80」という手書きのメッセージが残されていた。
ブリーチさん殺害で動揺した一人がコラル新知事だった。コラル知事はインタビューで、知事就任前、チワワ州の検察事務所は「完全に解体」されており、数千件の未解決の犯罪捜査のファイルが忘れられていたと述べた。その中には殺人、レイプ、誘拐の犯罪も含まれていたという。
コラル知事は、PRI時代の州政権は麻薬組織と取引し、組織の一部を農村地域に配置換えし、そこで活動できるようにしていたと述べた。
同知事は「彼らギャングはシエラデチワワに送られ、複数の町や地元の警察を支配し始め、地域全体のボスになった」と述べた。
PRIのチワワ州委員会のスポークスマンは複数回のコメント要請に回答していない。【7 月 6 日 WSJ】
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ペニャニエト大統領のもとで麻薬組織を封じ込めることができるのか、与党・制度的革命党には麻薬組織とも癒着するような“体質”があるのではないか・・・ということは、大統領就任当時から懸念されていたことです。
実際、ペニャニエト政権下で麻薬組織との癒着が進んでいます。
ただ、それを是正しようとすると麻薬組織がらみ抗争が激化し、犠牲者も増えるという“現実”があります。
軍を動員した「麻薬戦争」も行き詰まり、「pax mafiosa(マフィアによる平和)」も認められない・・・では、どうやってこの現実から抜け出すのか・・・・難しい状況です。