孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アメリカ 食費に事欠き、ホームレス化する学生 不良債権化する学生ローンを抱え込む政府

2017-07-03 23:17:26 | アフリカ

【「選択」7月号】

1割の学生がホームレスで、2割超が食べ物の確保に困っている
アメリカの大学生・卒業生が学生ローンの負担に苦しんでいる・・・という話はよく聞きます。

経済的困難の実態は想像以上のようで、1年前の記事になりますが、カリフォルニア州立大学では学生の1割ほどが家賃を負担できずにホームレス化しているとも報じていました。

****米カリフォルニア州立大学、学生の多くにホームレスと飢えの問題****
米国最大の州立大学の学生5万人近くが特定の住所を持たないホームレスで、さらに多くの学生が食べる物に困っている──。今週発表された調査報告書で明らかになった。

米カリフォルニア州にキャンパス23校と学生約46万人を擁するカリフォルニア州立大学(California State University)が委託した調査によると、8.7~12%の学生がホームレスで、21~24%が食べ物の確保に困っているという。
 
調査は昨年(2015年)2月、問題の実態を把握する目的で、大学の教職員および管理者、学生を対象にインタビュー形式で行われた。
 
調査報告書によると、困難な状況に置かれた学生の多くは、問題の深刻度について大学の教職員に理解されていないと感じており、また利用できる援助制度について知らない学生も少なくなかった。
 
ホームレスの学生の一人は、大学側に状況を説明し、寮の使用許可を求めたが、他の学生に対してフェアではないとの理由で断られたと話した。また別の学生は、食べ物に関する援助があれば、周囲からレッテルを貼られなくて済むと回答している。
 
一方の教職員らは、限定的な資源を背景に、援助プログラムの通知や奨励について消極的であったことを明らかにしている。学生からの要求が数多く寄せられることを嫌ったのだという。
 
報告書はさらに、問題の規模が誤解もしくは矮小(わいしょう)化されていたケースも多く、「一部では『飢えた学生』を当然視することもあった」と指摘している。
 
同大学広報担当は、調査は今後2年にわたって行う予定と述べた。【2016年6月22日 AFP】
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NHK番組でも、こうした実態を取り上げていました。(2017年3月26日にNHKBS1で放送されたドキュメンタリーWAVE「ホームレス大学生~アメリカ カリフォルニアからの報告」)

背景には授業料と家賃の高騰があることを指摘しています。
“ロサンゼルス内では都市開発が進みアパートは高級志向でプールやジム、屋上施設などが併設されている。それにより家賃は月に約22~28万、1DKですら11~13万もかかり、中流家庭層でも大学に通うのが難しい状態になっているのだ。さらに授業料も以前より2倍も上がっている”【同番組内容をまとめたMs.オオカミさんのブログより http://goldenretrievers.hatenablog.com/entry/2017/03/27/161119

政府発行の低所得者向けのカードとか、学生証を見せるだけで余計な詮索なしに食料や日用品を一定量無料で提供する取り組みもあるようです。

学生ローンに頼る生活にもなりますが、“もともと低所得者層のために作られた学生ローンも今では中流家庭層の学生も利用している。その数は全米の70%にあたる4400万人が使ってる。しかし返済滞納率は11%、10人1人が返せていない計算だ。”【同上】とも。

住む家はおあろか、毎日の食料に事欠く状況で大学を目指す若者らの背景には、学歴による厳然たる収入差があります。

“アメリカでは中卒~高卒、専門学校卒~短大卒、四大卒~院卒まできっぱりと収入差、失業率がわかれている。中卒は大卒の収入の半分以下、失業率は3倍に及ぶ。高卒と大卒では生涯年収は約1億1千万円も違う。安定した生活を送るには学歴が大切だからこそ、皆ホームレスになってまでも大学に通いたいのだ。”【同上】

学生らの意識としては、”取材を通してホームレス学生たちのほぼ全員はホームレスであることを誰にも知られたくないと答えていた。そこには、あわれみを受けたくないという心境や支援を受けるのは恥ずかしいという思いがあった。”【同上】とも。

昨今年1月、ニューヨーク州が全米で初めて公立大学の授業料無償化を決めたといった対応もあるようですが、先の大統領選挙で、かつてのアメリカでは考えられないような急進左派のサンダース候補がクリントン氏を脅かすほどに健闘した背景にもこうした若者らの困窮があります。

もちろん、こうした現状は社会を揺るがす重大問題ですが、そうした困難な状況にあっても目的意識を持って大学を目指すアメリカの若者というのは、日本の多くの大学生の実態(もちろん全員ではありませんが)に比べると、ある意味“非常に健全”であるようにも思えます。社会的に“病んでいる”のはどちらか?という感も。

話をアメリカに戻すと、住む場所に関しては、一定期間滞在できる若者向けシェルターもありますが、ホームレス経験者が自分たちでシェルターを新たに作る試みも紹介されています。

****アメリカで増える学生ホームレス、経験者がシェルター創設****
27歳のルイス・ツィー氏はカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の博士課程に在籍していた当時、節約のために車中生活を送っていた。(中略)

「ホームレスに陥った若者は、車で2時間かけてハリウッドの若者向けシェルターに行くか、自力でなんとかしなければならないのです」
ツィー氏は現在、NASAのジェット推進研究所で熱工学のエンジニアとして働いている。

ツィー氏と元クラスメイトのルーク・ショウ氏は2016年10月、高すぎる教育費が原因でホームレスになった学生のために、学生が自分たちで運営するシェルター「Students for Students」を創設した。シェルターは大学に在籍する間の食事や睡眠、仲間との交流や勉強をするための安全で快適なスペースを学生たちに提供している。

シェルターには9台のベッドがあり、ロサンゼルス地域の大学生を受け入れている(キャンパスが近いためUCLAの学生が多い)。

抽選で入居者を決める従来のシェルターとは異なり、「Students for Students」は応募者に対して面接を行い、最大6カ月間の滞在場所を提供する。

そこではまるで家族と暮らしているかのように、朝食と夕食が毎日提供される。
24時間運営のシェルターは、60人の学生ボランティアによって支えられている。UCLA社会福祉課のケースマネジャーは、より長く住める住居を探すのを手伝ったり、自治体の家賃補助制度を利用できるよう、入居者を支援する。

また、大学の医学部と歯学部の学生は定期検診を提供している。カウンセリングも利用可能だ。

「帰る家があるということは、若者が学業や仕事、人生をうまくやっていくための大きな支えになる」とツィー氏は言う。「安定した滞在場所があれば、精神も安定します」

アメリカでは非常に多くの大学生が、定住場所を持たずに暮らしている。全米70カ所のコミュニティカレッジに在籍する3万3000人の学生を調査したウィスコンシン大学の最近の研究によると、約半数が、住居を転々としていたり、生活費を払う余裕がないなど、不安定な住居環境にあることが分かった。

驚くことに、学生ホームレスの割合は14%に上った。カリフォルニア州では、コミュニティカレッジの学生の3人に1人が住居に関する問題に直面しており、 ツィー氏が実際に経験したように、問題は4年制大学にも広がっている。

ツィー氏とショウ氏は、ハーバード大学にある若者向けシェルターをヒントに「Students for Students」を設立。UCLAのデヴィッド・ゲフィン医学部から2万ドル(約222万円)の補助金を得ることに成功し、周辺コミュニティから食料や衣服、毛布および日用品に至るまでの寄付を募った。そして昨年秋、改装した教会に学生たちを迎え入れた。
シェルターは1学期に18~27人の学生を受け入れる予定だ。

「Students for Students」は最初の学期に、児童養護施設で育ち、学費免除の奨学金を逃してしまった学生を受け入れた。数カ月後、この学生は無事にシェルターを卒業していった。

「社会では学歴が重視されるため、人々は人生の可能性を広げるために学校に通い、『卒業証書』を取得しようとします。だからこそ私たちは、さまざまな生活上の困難に直面している学生たちを支えていきたいのです 」(ツィー氏)【5月7日 BUSINESS INSIDER JAPAN】
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連邦政府の資産の多くが、遠からず不良債権化する
こうした取り組みはあるものの、学生生活を支える学生ローンは膨れ上がり、その負担は個人レベルで見て返済不能なほどになっているだけでなく、マクロ経済的にみても金融市場にとって危険水域状態にあるようです。

その背景には、不良債権化に敏感な民間ではなく、政策目的の政府が学生に貸しまくっている実態があるとも指摘されています。

****米国を蝕む巨額「学生ローン」 「百兆円超」財政と家計を壊す爆弾****
「多くの新入社員が学生ローンを抱えて大変そうだ」
 
在米日系企業関係者は心配顔でささやいた。相変わらず米国の信用創造の質は低い。米国の家計債務残高は今年の第1四半期末に十二・七三兆ドルを突破し、過去最高だったリーマンショック前の二〇〇八年第3四半期の十二・六八兆ドルを八年半ぶりに更新した。
 
ただ、サブプライムローン問題が顕在化した八年半前と決定的に異なる点は、住宅ローンの家計債務に占める比率が厳しい規制で低下した一方で、学生ローンが構成比二番目となったことだ。
今やその債務総額は一・三四兆ドルと、自動車やクレジットカードのそれを上回っている。

我々が生きている「極端に金融依存化した現代」では、利息を支払う「経済成長の奴隷」を見つけることが必要だ。高等教育にそれを見出した米国では、既に学生ローン利用者が四千四百二十万人に達している。しかも膨張は止まりそうにない。

不良債権化する連邦政府の資産
米国の若者は苦しい。景気拡大により失業率が五%を切り、完全雇用が近付いているが、二十五歳以下の失業率は九・九%、黒人で高卒の場合は二六%だ。

十七歳から二十歳までの高卒かつ進学していない若者全体の不完全就業(パート等能力以下の就業)率は三一%にもなる。「大卒」は今なお就職に有利であり、学生や親にとって投資価値があるといえよう。
 
学費はどうか。一九七八年から現在までの四十年間で、米国では二九二%のインフレが起こったが、同期間に自動車の価格が九九%上昇したのに対して、大学の学費は一二九七%の上昇と、もはや「学費のハイパーインフレ」状態となっている。

米国の学歴社会と学費高騰が、現在の学生ローン問題の基本的な背景にある。
 
結果として三十歳以下の学生ローン利用者数は、〇四年から一五年までに一・五倍、ローン残高は二・六倍に増えた。

ピューリサーチセンターの調査では、四十歳未満の若年世代の学生ローン利用者の純資産は「八千ドル程度」という結果が出ている。未利用者の七分の一しかない。解雇のような収入上のトラブルが起これば、たちまちホームレスにでもなりかねない状況なのだ。
 
さらに問題は、その上の世代。学生ローン利用者のうち三十歳未満は一千七百万人で総額三千七百六十三億ドルである一方、三十歳以上が二千七百万人もいて、しかも総額は一兆ドルを超えている。
 
具体例を示そう。コロラド州に住む七十歳と六十五歳の夫婦は今、二人合わせて学生ローン残高が十八万ドルもあるという。むろん子供や孫のローンではない。

軍に勤務していた夫は、五十代の頃、IT技術を磨くために大学へ入学。その際、七万ドルを借り、月々三百~四百ドルずつ二十年近く返済してきたが、現在は八万ドルと逆に残高は増えている。妻も同様で七万ドルを借り、残高は十万ドル近くになっている。利息も払えないこの夫婦は「死ぬまで働き続けるしかない」という。
 
これは特殊なケースではない。米国では学生ローンが残っている六十歳以上が急増し、今や二百八十万人(一五年末時点)にもなり、全体の六・四%を占めている。六十歳以上の債務総額は六百六十億ドルと、六十歳以上だけで日本学生支援機構の年間貸与総額一兆円の六倍に達している。〇四年比で人数は四・五倍、債務総額に至っては十一倍と、他の世代を大きく上回る膨張ぶりだ。
 
次に債務不履行者に占める年代別の割合をみてみよう。五十歳未満が一七%、五十~六十四歳が二九%、六十五歳以上が三七%と、年齢に比例して債務不履行が多いことが分かる。つまり六十歳以上の学生ローン利用者の増加は、将来の債務不履行の増加に直結する。
 
ではなぜ、例にあげた夫婦は中年になってから学生ローンを借りられたのか。それは、貸し手が銀行ではなかったからだ。
 
五二・六%―。これは連邦政府の金融資産二兆六百億ドルのうち、学生ローンが占める割合である。

学生ローンの貸し手は連邦政府(州政府も多少はある)と民間の二種に大別できるが、政府は金融危機後に民間の貸し手への規制を厳しくする一方で、民間以上に政府自身が学生ローンを貸しまくった。

その残高は〇七年末の一千百五十億ドルから今年第1四半期末には一兆八百五十億ドルまで、実に九・四倍にも膨れ上がった。このデタラメ融資の結果、政府資産の半分が学生ローンという異常事態となっているのだ。
 
民間がやるべきことを政府がやるとどうなるか。中高年や女性、黒人などへの貸し付けが増えていった。政府であるがゆえに、借りる機会を公平に提供しようとするからだ。だが、残念ながら就業率や給与水準でみると、現実の返済能力は平等ではない。
 
つまり連邦政府の資産の多くが、遠からず不良債権化するということだ。昨年だけで百十万人の連邦政府ローン利用者が、債務不履行と認定されている。一日三千人の計算だ。

ある試算では、学生ローン利用者の四割が、クレジットスコア六百二十点以下のサブプライム層だという。〇六年の住宅ローン新規貸し付けのサブプライム比率でさえ二割近くだったといえば、いかに異常かが分かるだろう。現在騒がれている自動車サブプライムローンでさえも二割だ。

需要の先食いと将来の財政悪化
債務不履行者の多くがクレジットスコアの低い者であることが連銀の調査で分かっていても、現状は誰にも止められない。

債務不履行となれば、むろん連帯保証人が返済責任を負うことになる。米消費者金融保護局(CFPB)によれば「連帯保証人の半数以上が五十五歳以上」だという。若年の債務不履行の増加は、肩代わりさせられる中高年世代に負担が飛び火することになる。
 
実は債務不履行の比率は、すでにリーマンショック時を上回っている。つまり本来なら現在のバブルは崩壊している水準なのだ。貸し出しの質の低下と量の急増は、学生ローンバブルが限界に達していることを物語っているが、貸し手が政府なので止める者がいない。トランプ政権は六月、多少のルールを変えたが、学生ローンの急増に歯止めはかからない。
 
恐ろしいことに、学生ローン残高二十万ドル以上は四十万人にも達しているという。これらの重債務者は、未利用者より他にもローンを組む可能性が一・五倍高いとのデータもある。

連邦準備制度理事会(FRB)は六月十四日、今年二度目となる政策金利引き上げを行ったが、借金漬けの彼らはどうなるのか。債務不履行者は累計八百万人に達したが、あとどれだけ増えるのか。

金融機関であれば、金利状況によって貸し出し姿勢も守勢にシフトしていくが、そうはならない。需要の先食いと将来の財政悪化をもたらしながら、米連邦政府は今日もサブプライム学生たちに貸しまくっている。【「選択」7月号】
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“民間がやるべきことを政府がやるとどうなるか・・・”との表現は、やや一方的な感も。別に民間を追い出して政府が貸し付けている訳ではなく、民間がなかなか手を出さない分野なので政策的に政府が融資している・・・とも言えます。

ただ、金融である以上、借りた側には、その負担以上のメリットがあるかどうか、貸した政府側には回収できるか・・・という規律が必要になりますが、アメリカの現状はそうした規律を危うくしているようです。

政策的に必要ということであれば、金利を軽減したり、一部を無償化したといった方策もあり得ますが(その穴埋めは税金でまかなうことになりますが)、個人の自助努力を前提とするアメリカ社会、“小さな政府”を良しとする共和党優位の政治状況では、そうした対応に国民的合意を得るのは難しいでしょう。

教育を受けることで誰にでも成功のチャンスがある・・・というのがアメリカンドリームの基礎ですが、学費・生活費の高騰で教育の機会が制約される、なんとかその機会を支えてきた学生ローンも破たんする・・・ということになれば、アメリカンドリームの破たん・終焉ともなります。

食費にも事欠き、ホームレス化する学生、60歳を過ぎてなお学生ローンの負担に苦しむ人々・・・努力すれば報われるという“古き良きアメリカ”へのノスタルジーが産み落とした悲劇かも。

もっとも、教育における格差は日本でも問題になっていますので、アメリカだけの話ではないのかも。
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