(教習施設でロボットの製作に取り組むアフガニスタンの女子高校生=カブールで2017年7月6日 【7月16日 毎日】)
【狭まる政府支配地域 増加する民間人犠牲者】
タリバンの攻勢で政府支配地域は狭まり、更にはISのテロも頻発するという厳しいアフガニスタン情勢については、6月15日ブログ“アフガニスタン 勢力が増大するタリバンに「勝てていない」 ISテロも頻発 米軍増派の方向)”で取り上げたところです。
戦闘が拡大・継続する中で、民間人犠牲者は増大しています。
****アフガン民間人死者1662人・・・・1〜6月2%増****
国連アフガニスタン支援団(UNAMA)は17日、アフガンで2017年1〜6月にテロや戦闘の巻き添えとなって死亡した民間人が前年同期比2%増の1662人だったと発表した。
このうち約4割に相当する596人は、自爆テロなど武装勢力の爆弾使用による死者だった。子どもの犠牲は9%増の436人に上った。
死傷者は計5243人で前年同期とほぼ同じ。旧支配勢力タリバンが原因の死傷者が43%を占め、イスラム過激派組織「イスラム国」による死傷者は5%だったという。
一方、このうち、政府軍側が原因となった死傷者は945人(前年同期比21%減)。特に空爆の巻き添えによる死傷者は約4割増の232人だったという。【7月18日 読売】
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単純に2倍すれば、年間3300人ということで、膨大な数字です。
アフガニスタンの3分の2は政府の支配下にありますが、10%はタリバンが支配、残りの地域は双方で抗争中だとも言われています。【7月19日 WEDGEより】
【明確でないアメリカの「手詰まり」打開戦略 増派だけでなくパキスタン対策が重要】
アフガニスタン政府を支える米軍も“現状は「手詰まり」であり、「手詰まり」を維持していくのですら「数千人」の兵員が不足している”という判断ですが、アメリカ・トランプ政権としてこの状況にどのように対処するのか・・・明確な戦略は明らかになっていません。
もっとはっきり言えば、ロシア疑惑の火の手がますます大きくなる中で、オバマケア代替法案は頓挫する、北朝鮮問題では中国が思うように動かない、中東では自分が火をつけたようなカタール断交問題が収まらない・・・・など苦しい状況のトランプ大統領は“アフガニスタンどころではない・・・”といったところでしょう。
****「手詰まり」のアフガニスタン問題、トランプは関心なし****
米国平和研究所のハドレーとユスフが、6月16日付けニューヨーク・タイムズ紙に、「アフガニスタンの和平のためにはパキスタンの戦略的関心を汲んだ上での同国との対話が欠かせない、という論説を寄稿しています。
論説の要旨は次の通りです。
トランプ政権のアフガニスタン政策のレビューは、如何なる戦略もタリバンとハッカニに対するパキスタンの支持を縮小することなくしては成功しないという真実と向き合う機会となる。
パキスタンについて、援助に更なる条件を付ける、制裁を課す、あるいはテロ支援国家に指定することを主張する向きがあることは解るが、この種の「ムチ」はパキスタンの行動を変えることにはならない。変えさせるには、米国はパキスタンの戦略的懸念を理解せねばならない。
パキスタンの軍の行動はインドとの敵対関係によって規定されている。パキスタンはアフガニスタンとインドによる挟み撃ちを常に怖れている。
また、インドの支持に力を得てアフガニスタンが現在の国境の正統性を問題としパキスタン領に領有権を主張することを心配している。
インドの対アフガニスタン援助の大宗は経済援助であるが、近年タリバンとの戦闘支援のため軍需品を含む安全保障援助を強化してきている。
パキスタンにとってタリバンはインドの活動を抑止する存在であるが、パキスタンは、アフガニスタンの混乱の継続、タリバンの勝利を目標にしているわけではない。
それはパキスタン国内のタリバンの強化を招くからである。パキスタンの望みは、過激分子が再び国を支配することを許さないようにしつつタリバンを政治体制の中に取り込むための和解のプロセスである。
パキスタンの懸念を軽減する必要があるが、このためにはインドとパキスタンの関係改善が必要であり、米国はアフガニスタンを含む一連の問題についての対話を手助けすべきである。
また、米国はアフガニスタンの政治解決に本気で取り組まねばならない。最近、ガニ大統領とシャリフ首相は4ヵ国の調整グループ(米国、アフガニスタン、パキスタン、中国)を再開することで合意した。
米国はタリバンを和解のテーブルに着ける方途として、この努力を支持すべきである。タリバンによる暴力を抑え込まなければ、アフガニスタンの政府は交渉に対する国民の支持を取り付け得ない。
従って、4ヶ国グループを通じて和解のプロセスに発言権を持つ見返りに、パキスタンはタリバンに対する資金と武器の提供を止め、交渉に反対するタリバンの分子を排除し、交渉に参加の用意がある者にはその自由を与えるための検証可能な措置を取らねばならない。
この方向でパキスタンが動くよう、米国は中国と協力すべきである。この新たなより戦略的なアプローチは、米国と協力する上でパキスタンにとってのインセンティブとなろう。(後略)【7月19日 WEDGE】
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タリバンを抑えるためには、これを支援するパキスタンを何とかしなければどうにもならない、パキスタンの関心はアフガニスタンでインドの影響力が大きくなるのを阻止することにある・・・といった類の話は、従来から言われていることで【WEDGE】でも“論説に書かれていることに別段目新しいことはありません”と評しています。
“パキスタンにとってタリバンはインドの活動を抑止する存在であるが、パキスタンは、アフガニスタンの混乱の継続、タリバンの勝利を目標にしているわけではない。”“パキスタンの望みは、過激分子が再び国を支配することを許さないようにしつつタリバンを政治体制の中に取り込むための和解のプロセスである”・・・パキスタンの意図がそのように明確なのかは、やや疑問にも感じますが。
パキスタンが本当に“タリバンを政治体制の中に取り込むための和解のプロセス”を望んでいるなら、和平交渉がもっと軌道に乗っていてもいいようにも思うのですが・・・。
「ムチ」の強化以外に、何をすればパキスタンの“和解のプロセス”への取り組みを本格化・顕在化できるのか・・・よくわかりませんが、論説にもあるようにパキスタンへの影響力を強めている中国の協力は必要でしょう。
多くの中国人はパキスタン(巴基斯坦)人を「鉄のように固い友情で結ばれている」という意味で「巴鉄(バーティエ)」と呼んでいるほど、両国関係は緊密化しています。英BBC調査によれば、中国に対し、パキスタン人の63%が好意的な見解を示したとか。(なお、パキスタン以上に中国への好感度が高かったのは、83%のナイジェリア)【7月16日 Record chinaより】
北朝鮮問題でも動かない中国がアフガニスタン・パキスタンの問題で協調するか・・・という話はありますが、アフガニスタンにおけるイスラム過激派の存在は、新疆のウイグル族問題を抱える中国にとっても重大な関心事であり、また、「一帯一路」のパキスタンルートを成功させるためにもこの地域の安定が必要です。
【トランプ政権内部でも分かれる意見】
パキスタンの動向も不透明ですが、アメリカの対応も定まっていないように見えます。
とりあえずは「手詰まり」状態を維持するためにも増派が必要ということで、トランプ大統領は増派の規模の判断をマティス国防長官に委ねたと報じられていますが、政権内部の混乱も露呈しています。
****アフガンめぐる機密メモ、米政権内の亀裂示す****
増派できる米軍規模をホワイトハウスが制限、国防長官に与えた裁量権と矛盾
ドナルド・トランプ米大統領は6月、ジム・マティス国防長官に対し、国防長官自らの裁量でアフガニスタン駐留米軍を数千人増強できる権限を与えた。しかしその数日後にホワイトハウスが、駐留米軍の規模に事実上の制限を設けると説明した機密メモを出していたことが分かった。
関係者によると、このメモはH・R・マクマスター大統領補佐官(国家安全保障担当)が少数の政権当局者に送ったもので、トランプ氏はマティス氏に対し、ホワイトハウスと改めて協議することなく、アフガン駐留軍を3900人未満に限定して増派することを認めたとしている。
増派に関して政府内で矛盾したメッセージが出されているのは、16年続くアフガン内戦に深入りすることへの懸念がある中で、新たなアフガン戦略の策定をめぐってトランプ政権内に対立が生じていることを示している。
この内戦のために米国は2兆4000億ドルをつぎ込み、2400人以上のアメリカ人が死亡している。
マティス氏は、7月半ばまでにホワイトハウスに新アフガン戦略案を提示したいと述べている。同案では、米軍主導のアフガン駐留国際部隊が反政府勢力タリバンの勢いを止めるのに必要とする兵力が示されるとみられている。
アフガンでは、政府軍がタリバンを抑え込むことができないほか、過激派組織「イスラム国(IS)」も台頭しており、トランプ政権にとっては新戦略策定の緊急性が高まっている。
しかし政府当局者や元政府当局者によると、アフガンで米国の目標を何に置くか、タリバンとの和平交渉に再び力を入れるか、パキスタンにどの程度の圧力を掛けるかなどについて、政権内で意見が分かれている。
政府当局者によれば、トランプ氏がアフガン駐留軍の規模に関する権限をマティス氏に委譲したのは、ホワイトハウスがアフガン戦争の戦略について細かな点にまで口出しすべきではないとのトランプ氏の考えに基づくものだった。
その後のメモでホワイトハウスが駐留軍の規模に上限を置いたことについて、そうした規制は課されないとの印象を持っていた一部の政権当局者は驚きをもって受け止めた。
ホワイトハウスの国家安全保障会議(NSC)はこの点について論評を拒否した。国防総省のダナ・ホワイト報道官は、機密メモの詳細についてはコメントできないとする一方、駐留軍の規模は全体の戦略ほど重要なものではないとの見解を示した。(中略)
国防総省当局者は、タリバンとの戦いが膠着状態に陥っていることを公然と認めている。タリバンは支配地域の統治を強化している一方、ロシアがタリバンへの関与を強めていることが事態を複雑にしている。
米国のアフガンにおけるもう1つの課題はアフガンを過激派組織の聖域にしないことだが、その取り組みは不十分である。国防総省によれば、アフガンとパキスタンは現在20以上の過激派グループの拠点になっている。
アフガン駐留米軍のジョン・ニコルソン司令官は何カ月も前からトランプ政権に対し、形勢を逆転するため増派を要求している。しかし、アフガン戦略の見直しが続けられているため、増派に関する決定はずれ込んでいる。
決定が遅れている一因として、国務省の戦略策定にあたる上級の専門職員が不足していることもある。レックス・ティラーソン国務長官は最近、アフガンとパキスタンの特使のポストを廃止した。同省南・中央アジア局は、指導的役割を担うトップクラスの職員が何人も退職しており、加えてトランプ氏はアフガンとパキスタンの新大使を指名していない。
戦略見直しに当たり、米政府はパキスタンに対してこれまでよりも厳しい姿勢を取る可能性を探っている。米国とアフガンの両国は、パキスタンが過激派指導者を庇護しているとみており、罰したいと考えている。
ただパキスタンにどの程度の圧力を掛けるべきかについては合意が出来ていない。米政府当局者によれば、トランプ氏はパキスタンに圧力を掛けすぎ、事態をさらに悪化させることになるのを警戒している。
米政府当局者の間では、タリバンとの和平交渉にどの程度精力を注ぐかについても意見が分かれている。マティス氏は、タリバンが戦いで勢いを増していることから、交渉にほとんど価値を見出せないと示唆している。
同氏は、アフガン政府軍がタリバンの攻勢を跳ね返すのを支援するため米軍を増派し、アフガン政府の交渉力を強めたいと主張する。だが、それには何年もかかるだろうし、これまでも何度も増派を行って失地を回復したものの、そうした勝利も再び押し戻されてしまっている。【7月7日 WSJ】
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アメリカ国防総省がアフガニスタンに米軍約4千人を増派する方針を固めた、今週中にも公表される・・・との報道もありましたが、まだ目にしていません。当然ながら、パキスタンへの対処、和平交渉への方針を含めた“戦略見直し”もまだです。2,3日中には公表されるのでしょうか。
対ISでは、IS指導者を殺害したとの報道もありますが、新たな指導者はすぐに生まれますので、どこまでこうした攻撃が奏功しているのかはよくわかりません。
****アフガンのIS指導者殺害=1年で3人目「大きな打撃」-米軍****
米国防総省のホワイト報道官は14日、アフガニスタン東部クナール州で、同国における過激派組織「イスラム国」(IS)のトップであるアブ・サイード指導者を殺害したと発表した。昨年7月以降、駐留米軍がアフガンのISトップを殺害したのは3人目。(後略)【7月15日 時事】
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【ロボコン参加少女をめぐる混乱 将来ともロボコン少女の活躍は確保されるのか?】
アフガニスタン情勢とは別の話になりますが、アフガニスタン関連ではロボコン参加少女へのビザ発給問題も話題になっています。ここでもトランプ大統領は従来方針を覆す形になっています。
****アフガン少女らロボコン参加 3度目申請でビザ発給****
女子高生チーム6人「言葉にできないほど幸せ」
国際ロボットコンテストに参加するため、米国入国ビザの発給を却下されていたアフガニスタンの女子高生チーム6人が3度目の申請でようやく発給を受け、開催地のワシントンに15日に到着、「言葉にできないほど幸せ」と喜んだ。発給拒否への批判が高まり、トランプ政権が判断を覆した格好だ。米主要メディアが報じた。
6人は色を認識してボールを仕分けるロボットを開発。7月上旬に居住するアフガン西部ヘラートから首都カブールの米国大使館を訪れ、各国から約160チームが参加するコンテストに参加するためビザを申請したが、2度も断られた。
少女らは地元テレビに「私たちはテロ集団じゃない」と訴え、国際的な支持が集まった。米国の下院議員約50人は11日、ティラーソン国務長官に「勤勉で創造的な若い女性の入国を防ぐことは国務省の使命に反する」と受け入れを求めた。
ビザは12日に発給された。トランプ氏が、女性の権利擁護を訴える長女イバンカ大統領補佐官の助言を受け指示したという。
トランプ氏は大統領令でイスラム圏6カ国からの入国を制限。アフガンは対象外だが、入国審査の厳格化で当初ビザ発給が拒否された模様だ。【7月16日 毎日】
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アフガニスタンにロボコン参加するような女子高校生がいるというのは意外でしたが、非常に喜ばしいことです。
こうした女性の活躍が今後も加速されるような方向で、和平に向けたプロセスが進行するといいのですが。
かつてのタリバンにはそうした面での理解は全くありませんでした。現在はどうでしょうか?
和平は実現したが、タリバンの影響もあって女性は再び家の中に閉じ込められる・・・・というのでは、何のためのここ数年の戦闘だったのかという話にもなります。
こうした女性へのビザ発給すら拒むアメリカの現状は、タリバン並みとも言えます。