(ケニアの首都ナイロビで、「私の服装は私の選択」などのプラカードを掲げて女性暴行事件に抗議する女性たち(2014年11月17日撮影)【7月20日 AFP】)
【ドイツ 右派AfDへの実験的対策として、バイエルン州で顔を覆うベールの着用が禁止】
欧州ではイスラム系移民の増加に伴う様々な軋轢もあって、フランス、ベルギー、ブルガリア、オランダでは公の場でイスラム教徒の女性の衣装「ブルカ」「二カブ」着用を含め、顔をベールやマスクで覆うことが法的に禁止されています。(どのような場で禁止されるのかは、国によって差もあるようですが)
ドイツでも右派勢力からのそうした法律を求める声があり、メルケル首相も一定にそうした声に対応する措置をとっています。
****ドイツ、顔覆うベールの着用を一部禁止 勤務中の公務員対象****
ドイツ議会は27日、イスラム教徒の女性らが顔全体を覆うベールについて、着用を一部禁止する法案を可決した。対象となるのは勤務中の公務員のみ。
隣国フランスでは2011年から、公共の場所でのベール着用が全面禁止されている。ドイツの右派政党は同様の措置を要求していたが、部分的な禁止にとどまった。
トマス・デメジエール内相は、移民の社会的統合には「われわれの価値観を、そして他文化に対する寛容には限界があるということを、明確にした上で伝えていく」必要があると指摘した。【4月28日 AFP】
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「固有の民族伝統」を禁圧するようなナチスの誤りを繰り返さない、差別主義・排外主義に走るポピュリズムには屈しない・・・という基本的スタンスのメルケル首相としては、あくまでも“限定的”なものに止めたというところです。
一方で、“限定的”ながらも禁止措置を導入した意味合いとしては、“「女性解放の政策」として、「女の顔を隠させる、いかなる性的不均衡の暴力にも、ドイツは、またEUは、断固抗議し、明確な反対行動を取っていく」という、旧東ドイツ出身の物理学者であるアンゲラ・メルケル首相の、極めて原則的なリベラリズム”があるとの指摘も。【2016年12月9日 JB Press 伊東 乾氏“爺だが乳幼児のトランプを諭すEUの母メルケル”より】
上記措置に加え、南部バイエルン州では、8月から公共施設では顔を覆うベールの着用が禁止となります。
現実問題としては街中でそうした女性をみかけることはほとんどないにもかかわらず、こうした禁止措置を実施する背景としては、“極右政党である「ドイツのための選択肢(AfD)」の動きを牽制するために、 保守的なバイエルン州での妥協案導入に実験的に踏み切ったのではないか”との指摘もあります。
イスラム教徒というより、イスラムフォビアな右派への対策としての選挙対策的な禁止措置に対しては、批判もあるようです。
****ドイツのバイエルン州でもブルカ禁止に その目論見は?****
欧州全体が、「ニカブ」や「ブルカ」など、一部のイスラム教徒の女性の頭部や体の大部分または全体を覆うベールの着用を禁じる方向に動いている。総称して「ブルカ禁止」や「ブルカ討論」などと言及されることが多い。
フランスやオーストリアなどですでに特定の公共施設でのこれらのベール着用が禁止されているほか、審議中または地域的に施行されている国もある。今月11日には、欧州人権裁判所がベルギーでこれを禁ずる法律を支持する判断を下した。
南ドイツのバイエルン州でも来る8月1日より、公務員をはじめ、大学、幼稚園、あるいは選挙会場などの多くの公共施設で、顔を覆うベールの着用が禁止となる。ドイツで公式に禁止となるのは同州が第一号だ。
政治的駆け引き?
根拠としては、社会にとって人々がお互いの顔を見ることができるのは重要で、顔を向かい合わせることは「我々の対人関係の共存の基礎をなし、また我々の社会と自由な民主的秩序の基盤である」ことがあげられているが、これは今年初めの汎ヨーロッパ保守政党である欧州人民党の見解を引き継ぐものだ。
だが、2年前にはドイツの憲法裁判所が、教員の頭部ベールの着用を一律に禁ずるノルトライン=ヴェストファーレン州の法律を無効としているなど、宗教的寛容を目指す風潮があった。なぜ今、バイエルンでこの動きなのか。ニューズウィーク米国版によると、9月に行われるドイツ総選挙と無関係ではないようだ。
バイエルン州を率いる保守、中道右派のキリスト教社会同盟(CSU)と、その姉妹政党であるアンゲラ・メルケルのドイツキリスト教民主同盟(CDU)は、極右政党であるドイツのための選択肢(AfD)の動きを牽制するために、 保守的なバイエルン州での妥協案導入に実験的に踏み切ったのではないかと分析している。
AfDは早くから移民排斥や、衣服だけではなく宗教的建築(たとえば、イスラム教宗教施設の、ミナレットと呼ばれる尖塔など)のような象徴の禁止を主張している。
AfDにはもともと他国の極右政党ほどの勢いはなかったが、今回CDUとCSUが安全、移民、イスラム問題などで右派の主張に歩み寄ることにより、AfDの支持率は昨年15%ほどだったのが現在は10%以下に落ち込んでいる。
「問題ではないことを問題に」
しかし、南ドイツ新聞やツァイト誌などは今回の措置に、「存在しない問題を問題にしている」と懐疑的な見解を示している。すなわち、火のないところに煙を立てているだけということだ。
バイエルン州の州都ミュンヘンに本社を置く南ドイツ新聞は、ベールで顔を隠した女性をたくさん見かけるとすれば「夏のマキシミリアン通りだけだ」と揶揄している。マキシミリアン通りはミュンヘンの高級ショッピング街で、おそらく旅行者ということだろう。
2016年の時点でバイエルン州のイスラム教徒は人口のわずか4%とされ、そのほとんどはトルコ人だ。すでに何世代もドイツで暮らしているトルコ人たちはせいぜい髪をスカーフで覆うくらいで、まったく何もつけない女性も多い。
南ドイツ新聞はまた、 顔を隠すことはコミュニケーションの障害になるというCSUのヨアヒム・ヘルマン州内務大臣の意見を肯定し、また顔を隠すことが、とくに女性たちが強制されている場合は賛成できないとしながらも、「禁止」という政治的行為は不必要だとしている。
また、「バイエルンを最も安全な州のように思わせ、CSUを最も強力な党にするために」州政府はこのような不毛な議論も厭わないと分析。一方ツァイトも、「CSUは人権保護に真剣に取り組みながらもそれと相反する行為をする唯一の党だ」と指摘している。
バイエルン州での今回のブルカ禁止はやはり、実際的な影響を狙ってのものではないようだ。ドイツ全土でも、ブルカ着用者は通説で300人と言われている(ただし、この説にはあまり根拠がないことをツァイトが検証している)。結局、禁止によって目に見える大きな変化があるとは考えづらく、象徴的な意味しかないように思われる。また、憲法で宗教の自由が保障されているので、フランスのように禁止が連邦レベルで起こることもなさそうだ。
フランスでは2011年より特定の公共施設でのブルカ着用が禁止されているが、結果は統合どころか、ムスリムに疎外感を与え孤立させてしまっていると、キングス・カレッジ・ロンドンの政治思想学者アラン・コーフィーは語っている。【7月20日 モーゲンスタン陽子氏 Newsweek】
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なお、欧州人権裁判所(ECHR)は7月11日、イスラム教徒の女性の顔全体を覆うベール「ニカブ」を公共の場所で着用するのを禁じるベルギーの法律について、支持する判断を下しています。
【サウジアラビア ミニスカート女性を一時拘束】
欧州でイスラムファッションが問題になっているのに対し、厳格な戒律が重視されるサウジアラビアでは西洋風のファッション「ミニスカート」が問題になっています。
****<サウジアラビア>ミニスカート女性「わいせつ」と一時拘束****
イスラム教の厳格な習慣・戒律を重視する体制の下、女性の肌の露出が控えられているサウジアラビアで、Tシャツにミニスカート姿で歩く映像を動画サイトに投稿したとして女性が一時身柄を拘束される騒動になり、波紋を呼んでいる。
英BBCなどによると、動画には首都リヤドから約150キロ北のナジド地方にある要塞(ようさい)を女性がミニスカートで歩く姿が映っている。ナジド地方は特に保守的な地域として知られる。
16日ごろにインターネット上で話題になり、その後、警察はこの女性を「わいせつだ」との理由で拘束。だが女性は「映像は別の人物が撮影した。投稿されたとは知らなかった」と意図的な投稿を否定し、18日に釈放された。
サウジでは女性が外出する際には全身を覆う黒布(アバヤ)で体の線を隠し、頭部にはスカーフを巻く姿が一般的だ。ソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)上では「厳しく罰すべきだ」「何を着ようが自由だ」と賛否が分かれている。
イスラム教の聖典コーランは女性の肌について「外に出ている部分は仕方ないが、その他の美しい所は人に見せぬように」と述べている。
最近はサウジを訪問する外国人女性の服装も話題になり、トランプ米大統領の5月の訪問時には同行した妻メラニアさんと長女イバンカさんは髪を隠さないままだった。メルケル独首相やメイ英首相も最近の訪問時にはスカーフを着用していない。【7月20日 毎日】
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女性の車運転が認められていないなど、女性への抑圧的な対応では“悪名高い”サウジアラビアですので、今回騒動も驚きはありませんが、「やれやれ・・・」といった感も。
何をもって「わいせつ」とみるかは文化によって異なるのは当然ですが・・・。
そんなサウジアラビアでも、女性問題に関する改革の動きはないことなない・・・ようです。
****<サウジアラビア>公立学校で女子の体育授業解禁へ****
イスラム教の厳格な習慣・戒律を重視する体制の下、女性の肌の露出が控えられているサウジアラビアで、公立学校での女子生徒の体育の授業が認められることが決まった。ロイター通信が伝えた。
サウジでは現在、女子生徒の体育は一部の私立学校のみで実施され、「適切な服装」で行うことなどの制約がある。大半の公立学校では導入されておらず、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は「公教育で女子の体育を禁じている唯一の国だ」と批判していた。
だが近年、サウジ国民には肥満が増え、今後は医療費が増大する懸念も出ていることから、政府は国民の健康向上を実現する方策を検討していた。
国政助言機関の諮問評議会は2014年、女子体育の導入を認めたが、宗教界から「西洋化しすぎだ」と反発の声が上がり、実施されていなかった。こうした中、サウジ教育省は今月11日、公立学校での導入を認めると発表した。導入時期は未定。
サウジでは女性の五輪参加も長く認められていなかったが、12年のロンドン五輪で初めて柔道と陸上800メートルで2選手の参加が認められた。【7月13日 毎日】
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サウジアラビアは宗教支配が云々されるイラン以上に“異質”な宗教・文化の国ですが、アメリカにとっては重要な同盟国です。
女性のファッションだけが問題となり、男性の服装は問題にならないところに、女性に対する不均等な性的圧力がある・・・とも思われます。
【ケニア 「挑発的服装」の女性への暴行】
イスラムを離れて、住民の8割以上がキリスト教系のアフリカ・ケニアでも、女性の“挑発的服装”に関する話題が。
****「挑発的な服装」理由に女性暴行、男3人に実質的な終身刑 ケニア****
服装が挑発的すぎることを理由に女性を脱がせて性的暴行を加えた男3人に対し、ケニアの裁判所は19日、実質的な終身刑を言い渡した。
事件は、首都ナイロビ郊外のガソリンスタンドで女性が通りがかりの暴漢に衣服をはぎ取られ、性的暴行されたうえ携帯電話と現金を強奪されたもの。暴行の様子はカメラで撮影され、ソーシャルメディアに投稿されて広く拡散された。
ケニアではこうした女性暴行事件が頻発している。この事件をきっかけに、ハッシュタグ「#MyDressMyChoice」(私の服装は私の選択)を共有して抗議活動が展開され、2014年にはナイロビで、体のラインが出やすく丈の短い服を着た数百人が女性に対する暴力の撲滅を訴えてデモ行進した。
19日の判決言い渡しに当たり、判事は「われわれは平等だが、女性の尊厳を尊重することも等しく重要だ」と指摘。「世の中では多くの無教養な男たちが、こうした行為をしている」と非難した。
被告3人に言い渡された量刑は判決文上では死刑だが、ケニアは現在死刑の執行を禁止しているため、実質的には終身刑となる。【7月20日 AFP】
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先述のように、「わいせつ」「挑発的すぎる服装」の基準は文化によって異なりますが、暴行云々は論外です。
単に男性側が性的欲求に突き動かされたにすぎず、無期懲役なり去勢措置が妥当でしょう。
確か、タリバンが支配していたかつてのアフガニスタンでは、女性のハイヒールも“靴音が男性をその気にさせる”と言う理由で禁止されていたように思います。
こうなると、女性側の問題ではなく、わいせつな妄想にとらわれる男性側の問題であり、屈折した性的欲求を蓄積させる宗教・文化の問題です。