孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  ロヒンギャ虐殺を否定する国軍 “政治家”スー・チー氏の対応は?

2017-07-06 22:45:41 | ミャンマー

(ロヒンギャの人々に国籍を与えるミャンマー政府の取り組みに抗議する人々 【4月6日 BBC】 “政治家”スー・チー氏が直面する現実です)

国連報告を「でっち上げ」とする国軍 「スー・チーさんが政権に入っても実態は軍政だ」】
国軍などの治安当局、多数派仏教徒住民による“民族浄化”も懸念されているミャンマー西部ラカイン州でのイスラム教徒少数派のロヒンギャの問題は、スー・チー国家顧問の指導力への国際社会・人権団体からの期待にもかかわらず改善していないようです。

****ロヒンギャ1人死亡 ミャンマーで仏教徒が襲撃****
ミャンマー西部ラカイン州の州都シットウェーで4日、少数派のイスラム教徒ロヒンギャの7人が100人ほどの仏教徒の集団に襲われ、1人が死亡、6人が重傷を負った。
 
ラカイン州では2012年にロヒンギャと州内多数派民族の仏教徒ラカインとの衝突が起きて以降、多くのロヒンギャが避難民キャンプに暮らす。

警察関係者らによると、7人はキャンプに住んでおり、買い物のため事件の起きた地域に入った。警官が警護のため車で付き添ってきたが、7人が車を降りて買い物にいった際に集団に襲われたという。【7月6日 朝日】
*******************

国連などのロヒンギャ弾圧の指摘に対し、ミャンマー国軍は“でっち上げ”と完全否定しています。

****ロヒンギャ人権侵害を否定=「でっち上げ」とミャンマー国軍****
ミャンマー西部ラカイン州のイスラム系少数民族ロヒンギャに対する人権侵害疑惑で、国軍は「でっち上げだ」などとして治安部隊の関与を否定する声明を発表した。国営メディアが23日、伝えた。
 
人権侵害疑惑をめぐっては、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)が2月に公表した報告書で、国軍など治安部隊による昨年10月以降の軍事活動でロヒンギャ数百人が死亡した公算が大きいと指摘。「人道に対する罪」に当たる可能性が「極めて高い」と訴えていた。
 
これに対し、国軍は声明で、国軍による現地調査の結果、「OHCHRの報告書に含まれている18件の疑惑のうち12件は不正確で、残る6件はうそと捏造(ねつぞう)された申し立てに基づく誤りであり、でっち上げだと判明した」と主張した。【5月23日 時事】 
*******************

こうした状況にあって、民主化運動指導者としてノーベル平和賞も受賞したスー・チー国家顧問が指導力を発揮して事態改善にあたってくれることを期待する声は多々ありますが、国軍・多数派仏教徒の世論に抗して動くことは政治家スー・チー氏としては難しいようで、この問題に関する関与はあまりなされていません。

関与したがらないのは、スー・チー氏だけでなく、日本政府・日本社会も同じです。

****スー・チーさん、声を上げて=日本のロヒンギャ支援者-今も実態は軍政・ミャンマー****
ミャンマー西部ラカイン州で迫害を受けるイスラム教徒の少数民族ロヒンギャの支援活動を続ける日本ロヒンギャ支援ネットワーク(埼玉県)のゾーミントゥ事務局長(44)が「世界に向かってミャンマー軍が何をやっているか語ってほしい」とアウン・サン・スー・チー国家顧問兼外相に呼び掛けている。

ミャンマーでは昨年3月、約半世紀ぶりに文民政権が復活し1年以上が過ぎたが、現状について「スー・チーさんが政権に入っても実態は軍政だ。スー・チーさんの言うことなんて軍は誰も聞かない」と評価は厳しい。人権団体アムネスティ日本の東京事務所で11日に語った。

ミャンマー軍は昨年10月以来、ラカイン州で「イスラム過激派掃討」を名目に軍事作戦を展開中。ゾーミントゥさんは「軍が行く所では必ず女性が襲われる。村に放火し、子供を殺し、捕まえて刑務所で拷問し、また殺している」と訴える。激しいロヒンギャ弾圧は「ロヒンギャを差別すればラカイン州の多数派の仏教徒は軍を支持する。典型的な分断統治だ」と考えている。
 
1996年、タン・シュエ軍政期最大級の反軍政学生デモに参加したゾーミントゥさんは追われる身となった。98年に日本へ脱出。2002年にロヒンギャとして初めて日本で難民認定された。
 
日本からもスー・チー氏を応援し続けてきた。文民政権復活に期待は大きかったが、ロヒンギャ問題で沈黙を守る今の姿に「自宅軟禁下でも発言を続けていたのに、なぜ今、言わないのか。外相を続けられなくなるからか」と問い掛けている。
 
厳しい差別政策でロヒンギャは結婚するにも軍に許可を求めなければならない。しかし、許可は簡単には出ない。「お金を払えばすぐ許可は出る」とゾーミントゥさん。許可を得ずに結婚すれば逮捕されるため「お金を払えない人はバングラデシュに逃げて結婚するしかない」と難民が生まれる背景の一端を語った。
 
ゾーミントゥさんは「難民認定されて初めて結婚できたし、子供もできた」。現在は会社経営者になり「たくさんの日本人に助けられた」と感謝しつつ、日本で昨年、1万人以上が難民申請しながら28人しか認められなかった現状に表情を曇らせる。

難民の受け入れ拡大やミャンマー政府への影響力行使に向けて「日本は民主主義の国。どうか国民の権利を行使して声を上げてほしい」と日本人に訴えている。【6月13日 時事】
*****************

難民の受け入れ拡大が望まれる日本
日本は国連から、紛争国などから周辺国に逃れた難民を第三国に定住させる「第三国定住」の拡大を要請されています。

****難民受け入れ拡大、日本政府に要請 国連難民高等弁務官****
来日しているグランディ国連難民高等弁務官は29日、都内の日本記者クラブで会見を開いた。滞在中に日本政府に対し、紛争国などから周辺国に逃れた難民を第三国に定住させる「第三国定住」制度のもと、難民の受け入れ拡大を要望したと明らかにした。
 
第三国定住は、シリアやイラクなど各地での紛争激化によって多数の難民が発生し、受け入れ先の問題が深刻化する中で、期待が高まっている仕組みだ。日本は2010年度からミャンマー難民へのプログラムを進めており、今年度までに計123人を受け入れた。
 
グランディ氏は2日間にわたって金田勝年法相ら政府関係者と協議し、受け入れる難民の国籍の多様化と規模の拡大を求めた。会見で「前向きな反応を頂いた」とした上で、「日本はこのようなプログラムに慣れておらず、大勢を受け入れる前に一般社会の理解と準備が必要になるだろう」と指摘。中長期的な協議が必要との見方を示した。
 
また、多数の難民を生み、ミャンマーの治安部隊による迫害も指摘されるイスラム教徒ロヒンギャの問題に対し「ミャンマー政府に人権を尊重するよう求めている」と説明。戦闘が激化するシリア・アレッポについては「医療も食料もない状態で市民が東アレッポに閉じ込められている」と危機感をあらわにした。【2016年11月29日 朝日】
*********************

欧州が中東・アフリカからの難民・移民の問題で揺れているのは周知のところですが、それでも一部の国を除いて対応の努力はしています。

アジアにおける最大の難民問題でもあるロヒンギャについて、いつまでも「日本はこのようなプログラムに慣れておらず・・・」と門戸を閉ざし続けるのは、アジアにおける指導的立場を求める日本としては残念なことです。

異質なものの流入を排除して、同質なものだけの間で“安全・安心な社会”を誇っても、それは枠組みから排除された者の犠牲の上に成り立った“安心・安全”にすぎません。

受入れのための“一般社会の理解と準備”がどのようになされているのでしょうか?無策・無関心は日本政府だけの問題ではなく、日本社会の問題です。

受入れは様々な問題を惹起し、多大な努力・コスト・忍耐も必要となりますが、問われているのは国家・民族の“品格”の問題です。個人的には、日本が“自分たちさえよければ・・・”といった程度の国であってほしくないと考えています。

【「マザー・テレサでもないものの、政治家だ」 “民族浄化”国連調査を否定するスー・チー氏
話をミャンマーに戻すと、ミャンマー国軍が否定しているロヒンギャ弾圧に関する国連の調査要求に対し、スー・チー国家顧問は“入国ビザを出さないよう指示した”とも報じられています。

****ロヒンギャ問題調査団にビザ出すな」 スーチー氏指示****
ミャンマー西部ラカイン州で少数派イスラム教徒ロヒンギャへの人権侵害が報告されている問題で、アウンサンスーチー国家顧問が、国連人権理事会が派遣を予定している調査団に入国ビザを出さないよう指示したことが明らかになった。各国のミャンマー大使館に通知しているという。
 
6月30日の国会で、外務副大臣がロヒンギャ問題に答弁した中で「アウンサンスーチー氏は、我々は国連の調査団に協力しないと言っている。各国の大使館に調査団員にはビザを出さないよう命じる」と発言。外務省関係者によると、スーチー氏から同省に指示があり、大使館に一斉に知らせたという。
 
昨年10月にロヒンギャの過激派とみられる武装集団が警察施設などを襲撃してから、ロヒンギャに対する人権侵害が国連などによって報告されている。ミャンマー政府も独自の調査をしているが、国連はこれが「不十分」として、調査団の派遣を決めていた。
 
ミャンマー側は「これは国内問題だ」などと反発。スーチー氏は訪欧の際、調査団受け入れに「同意しない」などと発言していた。【7月1日 朝日】
*************************

スー・チー国家顧問は以前BBCのインタビューに対し、「民族浄化」という表現を否定し、自身について「マザー・テレサではなく政治家だ」とも語っています。

****ミャンマーは民族浄化をしていない スーチー氏独占インタビュー****
ミャンマーのアウンサンスーチー国家顧問は、同国西部ラカイン州でイスラム教徒の少数派ロヒンギャに対する人権侵害が相次いでいることについて、民族浄化ではないとの認識を示した。BBCとのインタビューで述べた。

スーチー氏は、民族浄化という言葉は「表現が強すぎる」と指摘し、国外に一時避難したロヒンギャの人々が住んでいた場所に戻ろうとするなら喜んで受け入れると語った。

インタビューで同氏は、「民族浄化が行われているとは思わない。今起きていることを言い表すのに民族浄化は表現が強すぎる」と述べた。

さらに同氏は、「多くの敵対行為があると思う。当局と協力しているとみられたイスラム教徒がイスラム教徒に殺されてもいる。あなたが言うような民族浄化ではなく、人々が分断されていて、我々はその溝を狭めようとしている」と語った。

ミャンマーはロヒンギャの人々を隣国バングラデシュからの不法移民だと考えており、国籍が与えられていない。公的な場での差別は頻繁に起きている。

2012年に起きた戦闘を逃れた多くのロヒンギャの人々が難民キャンプでの生活を余儀なくされている。
昨年10月に起きた国境警備隊への組織的攻撃で警官9人が殺害されたことを受け、軍はラカイン州で軍事作戦を開始。約7万人がバングラデシュに逃れた。

国連は先月、ミャンマーでの人権侵害の疑いについて調査すると発表した。軍がロヒンギャを無差別に攻撃し、強姦や殺人、拷問を行っているとして、非難の声が上がっている。ミャンマー政府は人権侵害を否定している。

スーチー氏がロヒンギャをめぐる問題について沈黙していると受け止められたことで、ミャンマーの軍事政権に長年抵抗してきた同氏の人権運動の象徴としての評判が傷ついたと多くの人々は考えている。

ロヒンギャ問題をめぐり、スーチー氏に対する国際的な圧力は高まっている。
しかし、今年初の単独インタビューとなった今回、スーチー氏は自らについて、マーガレット・サッチャー(故人・英首相)でもマザー・テレサでもないものの、政治家だと語り、ロヒンギャ問題については以前から質問に答えてきたと指摘した。

「ラカインで前回問題が起きた2013年にも同じ質問を受けている。彼ら(記者たち)が質問して私が答えても、人々は私が何も言わなかったと言う。単純に人々が求めているような発言をしなかったからだ。人々が求めていたのは、私がどちらかの共同社会を強く非難することだった」

スーチー氏は昨年10月の攻撃がなぜ起きたのか全く分からないとしながらも、ミャンマー和平の取り組みを阻害しようとする動きだった可能性を指摘した。同氏はさらに、ミャンマー軍がしたいようにふるまえるわけではないと語った。

しかし、スーチー氏は政府が依然として国軍に対する統帥権を取り戻そうとしていると認めた。現行の憲法では、国軍は政権から独立している。

スーチー氏は「彼ら(国軍)に強姦や略奪、拷問することは許されていない」とした上で、「彼らは出動して戦うことはできる。憲法にそう書かれている。軍事的なことは軍にまかされている」と述べた。

インタビューで同氏は昨年3月末に政権についてからの成果も強調した。
道路や橋の建設、電線の敷設への投資が、政権が最優先課題に挙げる雇用創出に役立ったほか、医療サービスも改善した。自由選挙も実施されるようになった。

政権がこのほかに取り組んでいる優先課題には、内戦状態がほぼ途切れることなく続いているミャンマーの和平実現がある。

また、軍事政権時代には国籍の取得を拒まれてきたロヒンギャの人々に市民権を与えようとしている。
近隣国に逃れたロヒンギャの人々についてスーチー氏は、「戻ってくるならば、彼らは危害を加えられない。決めるのは彼らだ。一部の人々は帰ってきた。私たちは歓迎しているし、これからも歓迎する」と述べた。【4月6日 BBC】
*********************

“民族浄化”を認めれば、国軍と決定的に対立することになりますので、スー・チー氏としてはそれはできないでしょう。
スー・チー氏に国軍を指導する権限がない・・・というのは事実であり、彼女ができることには限界があるというのも事実ですが、政治家としての調整能力に対する疑問も・・・

****スー・チー改革 道険し ミャンマー、米欧の期待と落差 ****
民主化運動の旗手、アウン・サン・スー・チー国家顧問によるミャンマーの変革が難しい局面を迎えている。国内の安定に不可欠な少数民族武装勢力との和平が道半ばで、治安を一手に担う国軍への配慮を強める。

少数民族への影響力を持つ中国にも接近し、昨年3月の政権発足時に米欧など先進国が抱いた理想主義的な指導者像から遠ざかっている。

6月中旬、国軍は北部の中国国境地帯に勢力を持つカチン独立軍(KIA)に攻撃を仕掛けた。付近の鉱山労働者や住民が退避を迫られ、現地メディアによると数百人が教会や寺院に避難した。
 
ミャンマーでは5月下旬に政府と国軍、武装勢力の間で民族間の和平を話し合う「21世紀のパンロン会議」が開かれたばかりだ。KIAは特別枠で参加した7つの武装勢力の一つ。スー・チー氏との会談にも加わり、停戦への期待が高まったが、戦闘が再発した。
 
ある専門家は「武装勢力との信頼関係を築く泥臭い交渉ができる人材が少ない」と政権の力不足を指摘する。パンロン会議は停戦協定に署名済みの8勢力と「各民族を対等に扱う」などの原則で合意。対話の枠組みを構築して一定の成果を示した一方、「少数民族側が将来的に連邦を離脱できるかどうか」といった論点では対立も残した。
 
スー・チー氏は肩書こそは国家顧問だが、実質的なトップとして政権を取り仕切る。長期間の自宅軟禁を経て、民主化運動の中心として国民と国際社会の期待を背負う。
 
一方、憲法の規定で国軍は軍事や警察を掌握する。少数民族との紛争が続くなかで、スー・チー氏は治安を担う国軍への配慮も目立ってきた。
 
西部ラカイン州北部で昨年秋に起きた警察署の襲撃事件後、国軍による掃討作戦で、イスラム系少数民族ロヒンギャに対する迫害行為があったとされる。スー・チー氏は国連人権理事会が3月に決議した独立調査団の受け入れを拒んだ。
 
スー・チー氏は「国連の調査は住民間の分断をさらに広げるだけだ」と主張。コフィ・アナン元国連事務総長がトップを務める独自の諮問委員会に対策の立案を委ね、欧米の国際人権団体は失望感を強めている。
 
外交では中国への接近にカジをきった。2011年の民政移管後、国軍出身のテイン・セイン大統領(当時)はそれまでの中国一辺倒の外交を修正。中国企業による巨大水力発電所の建設計画を凍結した。スー・チー氏のトップ就任で中国との関係はさらに後退するという見方もあったが、実際には逆の方向に進む。
 
インフラ開発を柱とした中国主導の広域経済圏構想「一帯一路」。スー・チー氏は5月中旬、同構想の会議に自ら出席し、賛意を示した。経済発展を支えるインフラ開発で、中国の資金力の魅力は大きい。
 
インド洋に面したラカイン州チャオピューから中国内陸部の昆明までは、中国企業が投資して天然ガスと原油のパイプラインが引かれた。ガスの輸送に続き、4月には原油の送出も始まった。
 
国内の武装勢力との和平でも中国を頼る。停戦協定未署名の7勢力によるパンロン会議への出席が実現したことに対し、政府の代表者は「中国の調整に感謝したい」と報道陣に述べた。
 
ミャンマーが民政移管を果たし、対中一辺倒の外交を修正したことを米欧など先進国は歓迎。経済制裁を解除し、企業がミャンマーへの投資に動いた。国軍への配慮や中国への接近は、民政移管後の追い風を弱めかねない危うさもはらむ。
 
4月の英BBCのインタビュー。「西側が抱いてきた(インドの修道女)マザー・テレサのようなイメージは誤解か」との質問に、スー・チー氏は「私は政治家だ」と即答した。現実の政治課題に直面するスー・チー氏にとって、民主化運動家としての期待は重荷にもなっている。【6月26日 日経】
********************

期待の大きさと現実のギャップは当初から懸念されていたことですし、現実政治家としての資質への疑問も以前から指摘されていました。

国際圧力をうまく利用して国軍から譲歩を引き出す・・・ような政治的調整が求められます。“軍事政権時代には国籍の取得を拒まれてきたロヒンギャの人々に市民権を与えようとしている”とのことですから、そうした改善を少しでも実現して、軍政との違いを見せてほしいところです。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする