孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

カタール断交問題  トルコも標的? 過激派支援の元凶は? 情報統制のためのアルジャジーラ閉鎖要求

2017-07-07 22:13:33 | 中東情勢

(断交したカタールへの対応について協議するサウジアラビア、UAE、バーレーン、エジプトの外務相ら=5日、エジプト・カイロ【7月7日 SankeiBiz】)

【「若干の値上げはあるが、何とか耐えられる程度だ」】
中東カタールがサウジアラビアやUAE、エジプトなど近隣諸国から国交を断絶されて1か月近くが過ぎましたが、事態は膠着しています。

まず気になるのは、食料・日用品の多くを輸入に頼っているカタールの市民生活はどうなっているのか?・・・というところです。

下記記事はそのあたりを報じたもので、タイトルには「悪夢」という刺激的な言葉ありますが、イラン・トルコの支援もあって、値上げなどの不満はあるものの全体的にはパニックを呼ぶような事態にはなっていない・・・・という印象を受けました。

****カタール断交1か月、市民生活に広がる「悪夢****
ペルシャ湾岸のカタールが近隣諸国から国交を断絶されて1か月近くが過ぎた。住民らは、断交下での日常生活への適用を余儀なくされている。
 
野菜や牛乳はイランやトルコからの輸入品を買わざるを得ず、人々は生活必需品の値上げに不満を漏らしている。また近隣諸国の大半がカタール航空の領空通過を拒否していることから、国際線のフライト時間が通常より長くなるという事態にも直面している。
 
首都ドーハのスーパーマーケットで買い物をしていた男性は、「政府が代替品を用意してくれているので、(商品不足の)問題はない。若干の値上げはあるが、何とか耐えられる程度だ」と話した。とはいえ自分も家族も買い物を減らさなければならないのは事実であり、「教訓を生かして消費を減らしている」と認めた。
 
サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、エジプトの4か国は先月5日、カタールが過激主義を支援しているとして断交に踏み切り、同国をたちまち孤立させた。

カタール側はそのような事実はないと否定したにもかかわらず、サウジアラビアとその賛同国はカタールとの空路と海路を遮断した上、唯一陸続きの国境も封鎖。カタールは食料品も含め、輸入に不可欠な経路を断たれてしまった。
 
外交危機という側面が大きいとはいえ、その影響の一部は同国で暮らす人々の生活にも徐々に広がりつつある。
 
物資不足への不満も募ってきている。好みの食べ物が買えないというだけでなく、例えば自動車の交換用フロントガラスなど、普段そこまで気にしていないがないと困るという物品も手に入らなくなっている。
 
インド出身のある露天商は、「国境封鎖後に値段が跳ね上がった、特にルッコラやパセリ、セイヨウアサツキはひどい」と語った。

■外国人居住者にとって「悪夢」
個人にはさほど影響しない問題と思われるかもしれないが、カタールで暮らす270万人のうち約9割が外国出身者で、断交は市民生活に重くのしかかってきている。レバノンからの駐在員の女性は、「断交は悪夢。早急に解除されるよう願っている」と述べた。
 
中でも夏季休暇を国外で過ごそうとする人にとって、問題は明白だ。あるヨルダン人男性は、断交による飛行規制により同国首都アンマンからドーハに行くのにオマーンのマスカットを経由しなければならず、「乗り継ぎに6時間かかった」と嘆いた。
 
人道上の問題も生じている。湾岸諸国が自国内に暮らすカタール人に対して出国を命じると同時に、カタールにいる自国民に帰国を要請したことは多大なる影響をもたらしている。
 
カタールの国家人権委員会(NHRC)は、1万3300人以上が「直接的な影響」を被っていると指摘。UAEに夫と子どもと暮らしているカタール人女性が、UAEからの出国を命じられたとの報告もある。(後略)【7月6日 AFP】
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人の移動が制約されていることは大きな問題ですが、パセリ、セイヨウアサツキや値上がりしようが、フライト乗継時間が長くなろうが、そのくらいなら・・・といったところでしょうか。

これまでのところの最大の被害者は、6月5日の断交開始によって国境が封鎖され、放牧先のサウジアラビアからカタールへ戻れなくなったラクダたちではないでしょうか。

そのラクダたちも、サウジ・カタールの非公式折衝でなんとか戻ることが許されたようです。
“サウジから戻れなくなっていたラクダやヒツジなど計1万2000頭が20日、ようやく帰国を果たした。ただ、疲弊して砂漠で死んだラクダも少なくなかったという。”【6月21日 時事】

もちろん、長期化し、対応が拡大していくと、市民生活への、また、関係国・世界経済への影響も大きくなります。

【「13項目」要求には“トルコ軍基地の閉鎖”も
カタールのテロリストへの資金援助やイランとの関係を批判して行われた断交ですが、その背景等についてはこれまでも取り上げてきたところです。

6月7日ブログ“アメリカ・トランプ大統領の“軽すぎる”言動 独自の道を模索し始めた同盟国
6月14日ブログ“カタール断交問題 独自外交のカタール それを許さない中東世界の現実 火をつけたトランプ外交
6月19日ブログ“カタール・サウジアラビアの断交問題 アフリカ・アジアへも影響拡大

サウジアラビアなどが突き付けた13項目の要求については、内容は公開されていませんが、多くはリークされる形で以下のように伝えられています。

****要求の主な内容****
・カタールを拠点とする大手衛星テレビ局アルジャジーラの閉鎖。近隣諸国は以前から同局が中東地域の対立をあおっていると非難してきた。
・ムスリム同胞団、イスラム過激派組織「イスラム国(IS)」、国際テロ組織アルカイダ、イランが支援するレバノンのイスラム教シーア派原理主義組織ヒズボラとの関係断絶
・カタール国内にいるサウジなど4か国の反体制派の引き渡し
・イランとの外交関係の縮小
・カタール国内のトルコ軍基地の閉鎖【6月25日 AFP】
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他にも、トルコとの協力停止や賠償金支払いなども要求にあるように報じられています。

テロリスト支援やイランとの関係はともかく、個人的に以外だったのは、“トルコ軍基地の閉鎖”のようにトルコを名指しで“イラン並み”に排除しようとしていることでした。

当然ながら、トルコ・エルドアン大統領は怒っています。
“トルコのエルドアン大統領は13日、「カタールを孤立させることは残酷でイスラムの価値観に反する大きな過ちだ。まるで死刑判決を下したかのようだ」と、断交した国々を批判した。”【6月15日 産経】

ここまでトルコを標的としたことの背景は知りませんが、結果的にアラブ・スンニ派諸国におけるサウジアラビアとトルコの対立が激化することにもなり、従来からのサウジアラビア・イランの対立関係はさらに複雑化しています。

トルコがムスリム同胞団やパレスチナのハマスなどと関係が深いことはありますが、要するに、サウジアラビアとトルコのという地域大国間の勢力争いという側面が窺えます。

ただ、カタールにトルコが軍事基地を構えてカタールを支援している以上、サウジアラビアなども軍事的にカタールに介入することはトルコとの衝突を意味し、難しいでしょう。

イスラム過激主義を拡大させている責任の筆頭はサウジアラビア
ムスリム同胞団、IS、アルカイダ、ヒズボラなどのイスラム過激派組織への資金援助云々に関しては、「それを言うなら、サウジアラビアこそが世界にイスラム過激派を広めた元凶ではないか・・・」という感もあります。

****英国のイスラム過激派の資金源はサウジアラビア」 シンクタンクが報告書****
英国のシンクタンクは5日、海外から同国内のイスラム過激派に流れる資金のほとんどはサウジアラビアからのものだとする報告書を発表した。在英サウジ大使館は報告書の内容は「明らかな誤り」だと批判する声明を発表している。
 
報告書を発表したのは、ロンドンに拠点を置く、外交問題を扱うタカ派のヘンリー・ジャクソン・ソサエティー。トム・ウィルソン研究員は声明で「湾岸諸国およびイランの各組織にはイスラム過激主義を拡大させている責任があるが、サウジアラビアの組織は疑いなくその筆頭だ」と述べた。

ヘンリー・ジャクソン・ソサエティーによると、サウジアラビアは1960年代以降「欧米のイスラム教徒コミュニティーを含むイスラム世界全域にイスラム教ワッハーブ派を布教するための数百万ドル規模の活動を支援してきた」という。
超保守的なサウジアラビアは、スンニ派の厳格な一派ワッハーブ派が支配的で、国内にはイスラム教の聖地メッカもある。

報告書によると、サウジアラビアからの資金は、主にモスク(イスラム礼拝所)への寄付の形が取られている。そのモスクがイスラム過激主義の指導者を受け入れ、過激主義の文献を広めてきた。
 
英国で最も過激な一部のイスラム教指導者らは、「奨学金プログラムの一環としてサウジアラビアに留学していた」という。
 
ロンドンの在英サウジ大使館はBBCに宛てた声明で、報告書の主張は「明らかな誤り」だと非難し、「われわれは暴力的な過激主義の行動やイデオロギーを許さず、これからも許すつもりはない。こうした逸脱者や組織が壊滅されるまで、われわれは手を緩めない」と述べた。(後略)【7月6日 AFP】
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現在の世界各地のイスラム原理主義は、サウジアラビアがイスラム世界全域にイスラム教ワッハーブ派を布教したことがその温床となっています。

また、“9.11”にも見られるように、サウジアラビアとしての国家関与はともかく、テロリスト集団とサウジアラビアの人的・資金的関係は常に問題となるところでもあります。

カタールに代わってハマスと接近するエジプト
13項目要求のなかでパレスチナ・ガザ地区のハマスがどのように扱われているかは知りませんが、サウジアラビアのジュベイル外相は6月6日、カタールが中東主要国との国交を回復するには、イスラム原理主義組織ハマスとイスラム組織「ムスリム同胞団」への支援を停止する必要があると述べ、ハマスとの関係停止も求めています。

確かに“これまでカタールはガザ、ハマスの擁護者として、エネルギーを供給したり、ガザ再建のために5億ドルの資金を提供してきた”【7月6日 「中東の窓」】とのことですが、現在はカタールに代わってエジプトがハマスに接近しているとか。

“UAEに亡命しているダハランのあっせんで、ハマスとエジプト情報機関の間で数度にわたる協議が行われている。(中略)ハマスはエジプトが境界のラファア検問所の開放時間を長くすることと、エネルギー供給を望んでいるが、エジプト側は過激派に関する情報提供と、シナイ半島への浸透防止への協力を望んでいる。”【同上】

エジプトはサウジアラビアとともにカタール断交を行っていますが、カタールがハマスを支援するのは許されないが、エジプトとハマスが関係を強化するのはいいのか?・・・という疑問も。

情報統制なくして独裁なし・・・・“『民衆』のチャンネル”アルジャジーラ閉鎖要求
いろいろ疑問に思われることもある「13項目要求」ですが、要するにアラブ世界の盟主を自任するサウジアラビアにとって“独自外交”を展開してサウジアラビアに従わないことも多いカタールが気に食わない・・・ということでしょう。

更に言えば、その“独自外交”の沿った独自の主張をカタールを拠点とする大手衛星テレビ局アルジャジーラで周辺国にまき散らされると、各国の体制維持に支障が出てくる・・・ということで、「13項目」の中でアルジャジーラ閉鎖を強く要求しているということではないでしょうか。

アルジャジーラの評価については、かつては欧米主要メディアと肩を並べる信頼性・速報性が高く評価されていましたが、近年ではカタール政府の御用メディアに堕しているとの指摘もありました。

****処刑寸前の「アルジャジーラ」 カタール断交で「放送終了」の危機****
サウジアラビア他がカタールとの断交を電撃発表し、即座に厳しい経済封鎖を始めた直後に、SNS上では、サウジ富豪のアルワリード王子の発言動画が出回った。曰く、「調査の結果、アルジャジーラが『民衆』のチャンネルであるのに対し、アルアラビーヤは、やはり『支配者と政府』のチャンネルであることが分かった」。

アルアラビーヤはアルジャジーラに対抗してサウジ系資本によって作られた、ドバイを本拠とするニュース専門局だ。今回の騒動ではカタールを非難する大キャンペーンを先導している。(中略)

それでも、この聡明な大富豪のひとことは、アルジャジーラをめぐる問題の本質を突いている。それはまた、今の湾岸諸国間の政治危機の根本原因でもある。

閉鎖か編集方針の変更
一九七〇年代に入って相次いで独立した湾岸の首長国では、先行していた他のアラブ「独裁国家」の例に漏れず、テレビは国営、新聞も政府系ばかりで、国営通信社の発表する「お知らせ」と、通信社が配信するニュースの中から、自国に悪影響のない、いわば「当たり障りのない」ニュースだけを選んで報道していた。(中略)

しかし衛星テレビの普及により、この風景は劇的に変化する。

米CNNが世界中で世論をリードし始めた九〇年代、初のアラビア語によるニュース専門局を立ち上げる計画はサウジ人の実業家によって進められていたが、これを買収して「世界一つまらない都市」と呼ばれていた静かな首都ドーハに開局させたのが現在は退位して「国父」の称号で呼ばれているハマド前首長だ。

ハマドは、アラブ世界に新しい時代を開き、吹けば飛ぶようなミニ国家と近隣諸国からバカにされていたカタールに名声と国家としての重みをもたらしてくれる自由メディアをどのように育てたらよいか分かっていた。

オーナーである自身とその政府は一切編集に介入せず、パレスチナ出身の編集長には一〇〇%ニュース選択の自由を与えたのである。

局は九六年の開局後、数年のうちにアラブ域内で起きる事件の報道についてはCNNを凌駕するようになり、9・11事件の発生した二〇〇一年ごろには、世界的なニュースの報道でも欧米主要局と肩を並べる信頼性と速報性を有するニュースソースに成長していた。
 
情報統制なくして独裁なし。権力者がメディアをいかにコントロールしたがるかは、わが国にも典型事例があるので分かり易い。中東においても、アルジャジーラが不都合な事実を次々に暴くため、近隣諸国とカタールの関係は緊張した。
 
またイラク戦争においては、米軍にとって不都合な情報が次々と暴露されたため、米国からハマドに対してその都度抗議があったという。(中略)

このようにして、「民衆」の目で報道する局との信頼を勝ち得たアルジャジーラは中東・北アフリカを中心に世界中で視聴され、その結果、容易に一国の世論を動かすことのできる超権力的存在になっていた。これが「アラブの春」が起きる前夜のことである。
 
ところが、アルジャジーラは変容していく。大きな力を持ったのが災いしたのであろう。政府も編集部も初心を忘れたのか、視聴者への強大な影響力を意図的に行使しているとしか思えない報道が目立つようになるのである。それは、特に「民衆」に人気のある「ムスリム同胞団」への肩入れ、という形をとっていた。
 
今次、断交した側はカタールに、アルジャジーラの全系列局と同国が支援するメディアの閉鎖を要求したが、これは初めてではない。二〇一四年、今回と全く同じ構図で危機が発生、サウジ他は大使を召還した。このときはアルジャジーラの湾岸諸国についての報道はトーンダウンする、との約束で何とか許された。
 
それから丸三年が経過、今回はいきなりの国交断絶である。それだけではない。
陸海空路を封鎖し、事実上の経済制裁を加えている。サウジ、UAEはカタールのタミーム首長が退位・亡命するまで圧力を緩めない、またそれもかなわないときは軍事進攻も辞さない決意と言われている。

金持ちになり過ぎた宿命か
現状、アルジャジーラは過激な反論や扇動的な報道はすっかり影を潜め、客観的報道に徹している。(中略)その甲斐あってか、本稿執筆時点で中東地域と世界の世論は概ねカタールに好意的だ。
 
他方、サウジ、UAEの報道は政府の主張を増幅させるような、あることないことの宣伝臭の強いニュース、番組のオンパレード。アルジャジーラの登場で、アラブのメディアは新時代を迎えたはずであったが、時計の針は二十年以上後戻りを余儀なくされている。
 
万一、アルジャジーラが閉鎖の憂き目に遭うようなことがあれば、それはアラブの「民衆」がようやく手にした自由メディアの死を意味する。それは、アラブの「民衆革命」を湾岸王政諸国に伝播させないために支払わねばならない、やむを得ない代償なのだろうか。
 
今回の湾岸アラブ諸国間の「身内喧嘩」が前回同様コップの中の嵐で終わるのか、それとも、深刻な地域対立、紛争に発展するのか、現時点で予想を立てづらい。その最大の理由は、アンプレディクタブル(予測不可能)が代名詞のトランプ大統領がこの危機の火付け役であり、かつ、サウジ・UAE陣営を煽っているからである。
 
米国務省や軍部は、この対立が誰の利益にもならない災厄であると認識し、関係修復に貢献したいと一度ならず表明している。それでも首を縦に振らないトランプ大統領は、自身と娘婿が七年前にカタールを訪問して巨額取引を持ち掛けたが無視されたことを根に持っているという報道がある。

その大統領を説得するために、タミーム首長はイラクで誘拐されたカタール王族ら人質事件(十億ドルの身代金)に続き、改めて財布の紐を緩めなければならないのかもしれない。金持ちになり過ぎた宿命だろうか。しかし、それで許してもらえるなら、アルジャジーラは再び人身御供を免れる。【「選択」7月号】
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現在の状況は、カタールが「13項目」に対し回答を仲介役のクウェートに提示していますが、その内容は“否定的”なものとされています。

これに対し“サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、エジプト、バーレーンの4カ国はそれぞれの国営メディアを通じて共同声明を発表。先の要望書は無効で、新たにカタールに対し、政治・経済・法的な措置を講じるとした。”【7月7日 ロイター】ということで、“次の段階”が検討されていますが、“4カ国は今後の措置を決めかねている”【7月7日 SankeiBiz】とも
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