孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ベネズエラ 末期症状的混乱のなかで拘禁野党指導者が自宅へ 増大するデフォルトの危機

2017-07-10 22:14:50 | ラテンアメリカ

(7月5日、マドゥロ政権を支持する数十人の群衆が鉄パイプや棒を持って国会議事堂内に乱入し、議会で多数派を占める野党の議員を襲撃した。【7月6日 Newsweek】)

拘禁中の野党指導者帰宅 政権側の意図を訝る声も
南米ベネズエラで“チャベスなきチャベス路線”を続ける反米・急進左派マドゥロ政権の無理な価格統制やバラマキ、そして主要輸出品である原油の価格下落による経済破綻(物価上昇、食料・日用品・医薬品の品不足、通貨下落、財政逼迫)、また、そうした状況への国民不満を押さえつけての強権的な居座り、それに対する国民の退陣を求める抗議行動などについては、このブログでも再三取り上げてきました。

政権への抗議行動に伴う死者はすでに90人にのぼっているとも報じられています。

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野党は2015年末の国会議員選で圧勝し、3分の2超の議席を獲得。マドゥロ政権との対立が激化した。政権の意向を受けた最高裁は今年3月、野党勢力が力を持つ国会の権限停止を宣言。

世論の強い反発で最高裁はすぐに決定を取り消したが、4月1日から反政府デモが始まった。
 
経済の低迷と物不足、物価の高騰が続き、国際通貨基金(IMF)によると、今年のインフレ率は約720%と予想される。

デモは勢いを増し、都市部から地方に広がり、マドゥロ氏は治安部隊を投入した。デモによる死者は今月までに約90人に上る。【7月6日 産経】
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そうした混乱状態が続くベネズエラ、野党勢力への弾圧を続けるマドゥロ政権ですが、ちょっと“変わった”動きも。

*****<ベネズエラ>野党指導者ロペス氏が刑務所から自宅軟禁に****
南米ベネズエラのナシオナル紙は、同国の野党指導者で国家扇動罪により2014年から収監されていたレオポルド・ロペス氏(46)が8日、刑務所を出て自宅軟禁に移されたと報じた。

最高裁は刑務所での拘禁を解いた理由を健康上の問題だと発表したが、ロペス氏には体調悪化の情報はない。マドゥロ政権は政治犯の象徴であるロペス氏の処罰を軽減することで、過熱する反政府世論を鎮める狙いがあるとみられる。
 
軍事刑務所から首都カラカスの自宅へ移送されたロペス氏は8日午後、玄関前に集まった支持者の前で拳を突き上げ、笑顔で国旗を振った。ロペス氏は党首を務める大衆意志党を通じ「政権にあらがう私の立場は強固であり、平和、共存、変革、自由のために闘う信念も変わらない」と声明を出した。
 
ベネズエラでは不況による物不足に苦しむ国民が4月以降、マドゥロ大統領の退陣を求めて反政府デモを連日実施。デモは14年の一時期にも盛んに起き、この時デモを指揮した疑いでロペス氏は逮捕され、禁錮13年9月の実刑が確定した。
 
マドゥロ政権は反体制世論を抑え込むため、野党政治家や軍人、デモ参加者の市民らを逮捕・収監しており、政治犯の数は約300人に上る。中でもロペス氏は刑務所内にいながら親族や党関係者を通じて国民へデモ継続を呼びかけ、英雄視されていた。【7月9日 毎日】
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野党指導者を刑務所から自宅軟禁へ移した・・・という対応の軟化ですから、非常に歓迎すべきことです。
政権側の狙いとして“過熱する反政府世論を鎮める狙い”とも説明されています。

ただ、これまでも、現在も、厳しい弾圧を続けているマドゥロ政権ですし、後述のように最近のベネズエラ情勢は“なんでもあり”の状態ですから、今回措置を素直に喜んでいいのか、ややとまどう感もあります。

****帰ってきた、ベネズエラの野党指導者ロペス****
<ベネズエラの反政府デモを扇動したとして刑務所に入れらた野党指導者ロペスが、「健康上の理由」で釈放され自宅軟禁に。だが、マドゥロ独裁政権がなぜ帰宅を許したのか誰にもわからない>

(中略)ロペス(46)はアメリカの大学で学んだエコノミストで、野党「民衆の意思」党の指導者。野党勢力のなかには将来の大統領と期待する向きもあるが、与党・ベネズエラ統一社会党からは政権転覆を狙うエリート主義者として嫌われている、とロイターは報じる。

それでも政府が釈放を許したのは、国民に、政府は暴力より対話を求めていることを示すためだという。

最高裁の判断後、首都カラカス郊外の自宅に戻ったロペスの下には大勢の支持者が集まった。政府の軟化に驚いた人々は、ニコラス・マドゥロ大統領との間にどんな取引があったのか知りたがったと、とAP通信は報じた。(中略)

ロペスの自宅軟禁は、マドゥロ独裁政権が改心しつつある証拠か、それとも新たなはかりごとなのか。【7月10日 Newsweek】
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日頃の行いが悪いと、少しばかりいいことをしても“何か裏があるのでは・・・”と勘繰られる・・・・といったところでしょうか。
“反政府デモが始まって以来、政府が反体制派に最も歩み寄ったといえる動きで、両者間での協議が始まるのではないかとの憶測も呼んでいる”【7月10日 AFP】という期待もあるようです。

【「暴力は増大していく」 “B級映画”ばりの最高裁判所襲撃事件、政権支持者の国会襲撃
最近ベネズエラで話題になったのは、“B級映画”ばりのヘリコプターからの最高裁判所襲撃事件ですが、これもよくわからないというか、政権側の“自作自演”ではないか・・・とも勘繰られています。

****悲劇に転じるB級映画ばりのベネズエラのドラマ****
世にも奇妙なヘリコプター攻撃、マドゥロ大統領に抑圧強化の口実

ベネズエラは通常の順番を覆している。この国の歴史は、まず茶番として、そして次に悲劇として展開しているのだ。危機に苦しむ同国から伝わってきた信じがたいような最新ニュースは、ぎりぎりB級映画に値するようなストーリー展開だ。
 
6月27日、ならず者の警察司令官がヘリコプターをハイジャックし、反乱を宣言し、最高裁判所に手りゅう弾を落とし、内務省のビルに銃弾を撃ち込み、姿を消した。負傷者は出なかった。
 
襲撃犯のオスカル・ペレスは、B級映画で主役を演じたこともあった。2015年公開のアクション映画「猶予された死」だ。本人のインスタグラムのアカウントに襲撃前に投稿された動画には、政府の転覆を呼びかける様子が映っていた(鏡を使って肩越しに銃を撃つシーンや、マシンガンを持ってスキューバダイビングするシーンも公開されている)。
 
ニコラス・マドゥロ大統領はこの飛行を政府の不安定化を狙った「テロ攻撃」と呼び、国営テレビで「あの航空機を乗っ取った人間はクーデターに着手し、武器を持った。これは、私がこれまで警告してきた類いのエスカレーションだ」と述べた。
 
しかし、社会主義のメリットをうたいながら、2016年のベネズエラ生活環境調査(ENCOVI)によれば全世帯の82%が貧困生活を送っているこの国では、一連の出来事に対する大統領の説明を信じる人は少ない。
 
疑念の源泉の1つは、新しいロシア製対空防衛システムが導入されたにもかかわらず、ベネズエラ空軍が出動しなかったことだ。防衛専門家のロシオ・サンミゲル氏は「過去12年間で兵器システムにつぎ込まれた途方もない金額を考えると、これは不可解だ」と言う。
 
ベネズエラでは3カ月続く反政府デモでほぼ80人の死者が出ており、多くの人はそれに続く今回の事件は、人々の関心をそらすための手際の悪いショーだったのではないかと疑っている。(中略)

実際に何が起きたにせよ、1つ、はっきりしていることがある。内閣のほぼ半分を軍の将校で固めているマドゥロ氏は今、さらに抑圧を強める口実を得たということだ。

同氏は、もし自分の体制が追放されたら、武器を手に取ると誓っている。「我々は絶対に降伏しない・・・武器で我々の国を解放する」。6月末には、再びこう語った。
 
マドゥロ氏は、憲法を書き換え、恐らくは予定されている選挙を中止し、民主的に選ばれた議会を含むすべての国家機関を支配下に収める7月30日の制憲議会招集で権力を固めようとしている。

その結果生まれるのは、大きな麻薬密輸ルートになっており、世界最大のエネルギー資源を持つ国におけるキューバ流の独裁体制だ。
 
世論調査によれば、機会を与えられたら、ベネズエラ人の4人に3人が新憲法を否決する。実際、3ケタのインフレと世界最高の部類に入る自殺率に煽られたアナーキー(無政府状態)は、7月30日に近づくにつれて加速していく可能性が高い。
 
国際社会はおおむね、何をすべきかについて途方に暮れている。ドイツのアンゲラ・メルケル首相は心配している。ペルー大統領は「大量殺りく」について警鐘を鳴らしている。左派政治家で前エクアドル大統領のラファエル・コレア氏のような盟友でさえ、解決策は自由選挙だと考えている。
 
だが、米州機構(OAS)は最近の総会で、ベネズエラの憲法改正を非難する決議に必要なコンセンサスを得られなかった。ベネズエラが過去に気前よくばらまいた石油から恩恵を受けてきた、カリブ海の複数の島国が非難決議に反対票を投じたからだ。
 
最善の解決策は、政府公認の汚職から利益を得てきた当局者に対する的を絞った金融制裁かもしれない。元閣僚らの試算では、2000年以降、3000億ドルもの資金が盗まれている。その間も、茶番から悲劇に転じたベネズエラの物語は続く。

「暴力は増大していく」。コントロール・リスクスのラウル・ガジェゴス氏はこう言う。「治安部隊は今後も権限を乱用し、殺害を続けるだろう」【7月6日 JB Press】
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「暴力は増大していく」・・・・7月5日には、政権支持者が国会議事堂を襲撃する事件も。

****国会議事堂に群衆乱入、12人負傷 政情不安で混迷深まるベネズエラ****
南米ベネズエラの独立記念日に当たる5日、反米左派のマドゥロ大統領を支持する数十人の群衆が首都カラカスの国会議事堂に押し入り、国会で多数派を占める野党議員らを鉄パイプなどで襲撃した。

議員を含む12人が重軽傷を負い、約350人が6時間以上、議事堂内に閉じ込められた。ロイター通信などが報じた。政情不安による混迷が一層深まっている。
 
群衆はマドゥロ氏をたたえるスローガンを叫びながら犯行におよんだ。銃を所持する者もいた。国会では独立記念日の記念行事が行われていた。

ボルヘス国会議長は「暴力の責任はマドゥロにある」と非難。マドゥロ氏は「私はどんな暴力行為にも加担しない」と関与を否定した。(中略)
 
マドゥロ政権は新憲法制定のための制憲議会選を30日に実施する予定だが、世論調査では新憲法制定への支持率は2割程度。野党優位の政治情勢の打開策は、混乱に拍車をかける結果になる可能性も指摘される。【7月6日 産経】
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記事にもあるように、政権側は新憲法制定に向けて動いており、今月30日に制憲議会選挙を行う予定です。
一方、野党側はこれに先立って、政権への支持、不支持を問う非公式の国民投票を16日に行うと発表しています。

非公式だろうが、国民投票となると相当の準備を要します。発表どおりに実施されるのかどうかはわかりません。
もし、実施されれば、阻止しようとする軍・警察や政権側民兵組織による暴力行為も懸念されます。

デフォルトに向けて追い詰められる政権 無分別な中国「金融外交」の結果とも
マドゥロ政権は力で野党勢力・政府批判勢力を抑え込もうとしていますが、一方で、経済的に次第に追い詰めれています。

****ベネズエラ、デフォルト危機 外貨準備減少に歯止めかからず****
ベネズエラがデフォルト(債務不履行)状態に陥るとの見方が強まっている。外貨準備高が100億ドル(約1兆1308億円)に向かって減少しているためだ。改憲を目指すマドゥロ大統領に反対するデモ活動が続く政情不安の中、経済見通しにも不透明感が高まっている。
 
ブルームバーグが集計したクレジット・デフォルト・スワップ(CDS)データによれば、ベネズエラが向こう12カ月に不履行となる確率は6月時点で56%と、昨年12月以来の高水準となった。

今後5年間にクレジットイベント(信用事由)が発生する確率も、6月時点で91%に達した。同国は年内に50億ドル超の元利金の返済期限を迎える。
 
国営ベネズエラ石油(PDVSA)の2035年に満期を迎える社債の利回りは上昇(価格は下落)し、今月5日に一時、6月9日以来の高水準に達した。
 
原油価格・生産が落ち込む中で債務返済に必要な資金を確保しようと、マドゥロ大統領は食品と医薬品の輸入を大幅に減らしたが、外貨準備の減少には歯止めがかかっていない。(後略)【7月7日 SankeiBiz】
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デフォルトに陥り資金繰りがつかなくなると、食料・日用品の輸入も出来ず、国民生活は完全に破たんします。(今でも破たん状態ではありますが・・・・)

これまでベネズエラの資金繰りを支えてきたのは中国ですが、その中国の支援自体がベネズエラをさらに厳しい局面に追い込んでいるとの指摘も。

****中国マネーが招くベネズエラの破****
<資源確保と影響力の拡大を目指す中国の「金融外交」が途上国を苦しめる>

(中略)明暗がくっきりと分かれる両国の経済だが、実は共通の「爆弾」を抱えている。中国の習近平(シー・チーピン)国家主席が膨大な資金力にものをいわせて影響力を拡大しようと「金融外交」を展開しているからだ。

中国のたくらみは相手国ばかりか、最終的には中国にも手痛い打撃を与えかねない。ベネズエラ経済の崩壊がそれを示す実例となるだろう。

99年にチャベスが反米・社会主義路線を掲げて政権の座に就くと、中国は彼をイデオロギー的な盟友と見なし、ベネズエラにせっせとカネを貸し始めた。

公式には中国の融資は資金の使途や返済に条件の付く「ひも付き」融資ではないが、現実は玉虫色だ。00年以降、中国は新たな市場の開拓と資源の確保を目指して積極的に対外投融資を始めた。

石油を確保しつつ中南米に友好国をつくるという中国の思惑は、アメリカと縁を切って貿易相手国を多様化したいというベネズエラの思惑とぴたりと合致した。だからと言って中国が金利をまけてくれるわけではなく、融資条件は中国に非常に有利なものとなった。

07〜14年に中国はベネズエラに630億ドルを融資。この金額は同時期の中国の中南米諸国への融資総額の53%に当たるが、その気前のよさには裏がある。返済は石油で行うことになっていたのだ。

融資契約の大半が結ばれた時期に1バレル=100ドル強で推移していた原油価格は、16年1月には1バレル=30ドル近くまで下落。こうなるとどう頑張っても返済が追い付かない。今やベネズエラは契約当初の2倍の原油を中国に輸送する羽目になっている。

中国だけが得する契約
ベネズエラ経済が完全に破綻し、マドゥロ政権が崩壊すれば、中国は外交・経済両面で大打撃を受けかねない。その証拠に国家経済を破滅に導いたマドゥロ政権がなかなか倒れないのは中国が支えているからだと、ベネズエラの野党はみている。

マドゥロ失脚後の新政権はチャベス=マドゥロ時代に結ばれたローン契約を無効とし、アメリカに支援を求めるだろう。そうなれば中国のメンツは丸つぶれだ。

中国は過去に貧困国のデフォルト(債務不履行)を熱っぽく擁護したことがある。当時の債権国は欧米諸国だったから、借金を踏み倒されても中国に実害は及ばなかった。

ベネズエラがデフォルトに陥れば、中国ばかりかほかの国々も影響を被るだろう。中国は「一帯一路」の一環として、多くの国々にベネズエラ方式の融資を行う計画だ。

資金と技術的なノウハウを提供してインフラ整備を支援すれば、資源や物流拠点を確保できる上、友好国を増やして国際社会で影響力を拡大できる。中国にとってはまさに一石二鳥の援助計画だ。

今は中国が壮大な構想を実現しやすい環境がある。アメリカはトランプ政権になってから世界のリーダーの役割を放棄した。オバマ前政権のアジア重視政策が掛け声だけで終わったことも、中国のアジア政策には好都合だ。

アジアの多くの国々は遠慮がちに、あるいは声高にアメリカの関与を求めている。中国の支配におとなしく従いたくないからだ。だがリスクを承知で中国に頼るか、どこにも頼れないかという二択なら多くの国が前者を選ぶだろう。

ベネズエラ経済が破綻の淵に追い込まれたのは、愚かな経済政策を進める独裁政権に、無制限にカネを貸す太っ腹なスポンサーがいたからだ。この有害な組み合わせは、一帯一路で多額の融資を受ける多くの国々に共通している。

経済の低迷に頭を抱える独裁政権は長期的には採算が取れなくとも、一時的な景気浮揚策として中国が出資する大型の開発事業に飛び付く。(中略)

借り手を苦しめる手前勝手な貸し付けで途上国の経済を破綻させる――中国が世界の鼻つまみ者になりたいなら、これほど有効な処方箋はない。既にベネズエラ、スリランカ、パキスタンの苦境を見て、ほかの国々は中国マネーに飛び付かないか、少なくともリスクを考慮する姿勢を見せている。

事業の採算性や借り手の返済能力を見極めずに多額の貸し付けを続けては、借り手と貸し手が相互不信に陥るばかりか、借り手が次々に破産する事態もあり得る。中国が賢い貸し手にならない限り、金融外交でいくら札ビラを切ったところで誰にも相手にされなくなるだろう。【7月8日 Newsweek】
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中国の「金融外交」の問題点はともかく、マドゥロ政権の今後は、中国がどこまで支えるかによります。
中国としても望んだ状態ではなく、ベネズエラ経済が破たんすれば「一帯一路」の金看板に大きな傷がつきます。しかし、貸し込めば更に深みに引きずりこまれます。頭の痛いところではないでしょうか。
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