(EU本部でメイ英首相(左)を出迎えたユンケル欧州委員長=ブリュッセルで2017年12月8日【12月8日 毎日】)
【難航必至の「第2段階」交渉】
イギリスのEU離脱にについては、昨年末にいわゆる“手切れ金”、アイルランド国境問題、イギリス国内に住むEU出身者の権利の保障などの離脱条件にかかる「第1段階」交渉で合意し、今年からは離脱後の自由貿易協定など「第2段階」に進むことになっています。
しかし、今後の交渉はこれまで以上に厳しいものが予想されています。
****英 EU離脱交渉 自由貿易協定などさらに厳しい交渉へ****
イギリスによるEU=ヨーロッパ連合からの離脱をめぐる交渉は、今月から交渉の第2段階として離脱後の自由貿易協定などについての交渉が始まりますが、国益に直結する課題をめぐってこれまで以上に厳しい交渉となることが予想されています。
イギリスとEUは離脱交渉の第1段階として去年6月から、イギリスがEUに支払うべき分担金の額や、離脱後に新たにイギリスとEUの境界となる隣国アイルランドとの国境の管理の問題などについて話し合ってきました。
EUは先月の首脳会議でこれらの協議で十分な進展があったとして、交渉の第2段階として双方の将来の関係についての話し合いを今月から始めることを承認しました。
第2段階の協議ではまず、イギリスが来年3月に離脱したあとの経済的な混乱を避けるために設ける「移行期間」の長さなどについて協議する予定で、イギリスが強く望んできたEUとの自由貿易協定については早くても3月以降に先送りされる見通しです。
このうち移行期間の協議ではEUは、イギリスの主張よりも短い2020年末までの1年9か月間にすべきだとしているほか、その期間中はイギリスの加盟国としての議決権は認めない一方で、EU予算の支払い継続を求めるなどイギリスにとって極めて厳しい提案をしています。
さらに、その後に予定される自由貿易協定の話し合いでも双方の国益に直結するだけに、交渉は厳しいものになり、これまで以上に難航することも予想されています。【1月2日 NHK】
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カネも支払い、制約も受けるが、議決権はない・・・そんな移行期間を期間限定とは言え、離脱強硬派が許容するのでしょうか?
イギリス側は、EUとカナダ間の交渉に8年を要した包括的経済貿易協定(CETA)をモデルにし、これに「プラスアルファ」した協定を想定しているとのことですが、そううまく事が運ぶか・・・・。
****<EU>「良いとこ取り」拒否 英離脱、貿易ルール作成多難****
英国の欧州連合(EU)離脱交渉は、15日のEU首脳会議での合意を受け、将来の関係を話し合う「第2段階」に移る。最大の焦点は、ヒト・モノ・カネ・サービスの移動が自由な単一市場を英国が出た後のルール作りだ。
新たに自由貿易協定(FTA)を締結する検討が進む見通しだが、多岐にわたる交渉テーマはどれも複雑な利害関係が絡むため、離脱条件を話し合った「第1段階」以上に厳しい交渉となりそうだ。
「目指しているのは『カナダ・プラス・プラス・プラス』だ」。英国のデービスEU離脱担当相は10日のBBC番組でこう述べ、EUカナダ間の包括的経済貿易協定(CETA)をモデルにする考えを表明。CETAには含まれていない金融サービスも対象とすることで、カナダ型に「プラスアルファ」した協定にしたい考えを示した。
EUとカナダの協定は昨年10月に調印し、今年9月に暫定発効した。双方の製品の98%で関税を撤廃したが、調印までに費やした歳月は8年。デービス氏はEUと英国の製品基準が一致していることを踏まえ、「交渉はそれほど複雑ではない」と自信をのぞかせた。
EUはノルウェーやスイスなどとも協定を締結している。両国の場合は単一市場で自由に活動できる一方、EUへの拠出金が必要で、EU規則も順守しなければならない。
これに対し、カナダ型には拠出金やEU規則を順守する義務がなく、EUからの移民を制限することも可能。単一市場の恩恵を受けながら移民を制限したい英国側の思惑に最も近いモデルといえる。
しかし、EU側はこうした「良いとこ取り」を許さない構えだ。交渉の基本方針には「英国がEU加盟国と同じ権利や便益を得ることはない」と明記しており、カナダ型に付け加えた「プラスアルファ」の度合いに応じ、拠出金などの負担を求める可能性がある。
個別テーマで難航しそうなのが漁業分野だ(中略)
英国の貿易と直接投資はEU加盟国が約5割を占めるため、暮らしや企業活動に直結するテーマは数多い。交渉では金融サービスのルールや企業の合併・買収(M&A)の審査、知的財産権の扱いなども焦点となる。
貿易交渉で合意できずに離脱した場合、英国には世界貿易機関(WTO)の協定に基づく貿易ルールが適用され、これまでなかった関税がかかることになり、貿易取引への打撃は必至となる。【2017年12月15日 毎日】
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【“合意した”「第1段階」も合意優先で内容先送り アイルランド国境問題はどうするのか?】
“合意した”ことになっている「第1段階」についても、とにかく合意することを最優先に、その合意内容については先送りした面があります。
*****【英EU離脱】合意優先 英・EUともに妥協 課題積み残し今後も続く難交渉****
英国の欧州連合(EU)離脱交渉は、離脱条件をめぐり欧州委員会と英側が基本合意したことを受け、最初の大きなハードルを越えた。
ただ、交渉期間が少なくなる中、双方が合意を優先させるために歩み寄った形。積み残した課題もあり、今後も難交渉は続く。
「ここに至るには双方のギブ・アンド・テークが必要だった」。メイ英首相は8日、急遽(きゅうきょ)設定された記者会見でこう述べた。ユンケル欧州委員長も「互いに耳を傾け、それぞれが立場を調整した」と語り、合意は双方の妥協の成果とした。
6月に始まった離脱協議で当初最大の難点とされたのが未払い拠出金の精算。600億ユーロ(約8兆円)相当とされるEUの要求に折れたのは英側だった。英国は離脱後2年間の移行期間を設け、その間のEU予算の拠出金約200億ユーロを払う案を示したが、最終的にEUの要求にほぼ沿った。
英国の譲歩の背景には離脱決定後の経済の急速な減速がある。今年の英国の国内総生産(GDP)はフランスに抜かれて世界5位から6位に転落すると予測され、離脱で経済が強くなるとの離脱派の主張に冷や水を浴びせた。
産業界では経営環境の不透明感払拭のため、来春までの移行期間合意を求める声も強まった。
一方、EU側でも英国が離脱協定を結べずに離脱する事態や政権基盤が脆弱(ぜいじゃく)なメイ氏への不安が上がり、“政治決着”を図る必要があった。
合意では在英EU市民権保護のために求めたEU側の司法管轄権の主張を後退させ、EU司法の判断を仰ぐか否かは英国裁判所の判断に委ねた。
ただ、最後の争点となった英領北アイルランドとアイルランドの国境問題では自由往来を保つ方針を確認したが、具体策は将来協議に事実上棚上げした形だ。
メイ氏の土壇場の説得に政権を支える北アイルランドの地域政党が応じたものの、同党側は合意後、「もっとはっきりさせたい課題があった」と漏らした。
トゥスクEU大統領は8日、合意を歓迎する一方、「最も困難な課題がまだ待ち受けているのを忘れてはならない」と強調した。【2017年12月8日 産経】
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“手切れ金”はカネである程度解決できますが(離脱を問う国民投票時に離脱派が主張していた内容とは大きく異なりますが)、英領北アイルランドとアイルランドの国境問題はより複雑・困難です。
毎日多くの住民が“意識されることのない国境”を超えて通勤し、“意識されることのない国境”をまたいで物資が流れているという、すでに現在一体化しているEU加盟国アイルランドと北アイルランドの間に“明確な国境”を復活せせるのか?
それでは北アイルランド市民の生活が破壊されますし、アイルランドとのつながりを重視するカトリック系住民の反発が高まります。
“明確な国境”管理を行わないなら、どこでEU加盟のアイルランドとイギリスの間のモノ・ヒトの流れをコントロールするのか?
北アイルランドとイギリス本土の間で行うのか?
しかし、北アイルランドをイギリス本土から分離するような方法には、イギリス本土との関係を重視するプロテスタント系住民(彼らを支持基盤とする地域政党との連立でメイ政権は成立しています)が強く反発します。
このように簡単に考えても、英領北アイルランドとアイルランドの国境問題はヒト・モノ・カネ・サービスの移動が自由な単一市場から抜けるという離脱の理念にも関わりますし、イギリスが多大な犠牲を払いながらようやく一定に落ち着かせることができた北アイルランド問題(住民間の分断は依然として解消していません)を再燃させることにもなりかねません。
****Brexitで北アイルランド国境問題はどうなるのか****
英国のEU離脱は、北アイルランド和平の基盤を崩し、北アイルランドとアイルランド間の国境管理の厳格化を招くので、同地域の国境問題が離脱交渉の大きな障害になってきた、と11月25日付の英エコノミスト誌が報じています。要旨は以下の通りです。
英国のEU離脱決定から約18カ月が経つが、北アイルランドをEU単一市場と関税同盟から離脱させつつ、北アイルランド・アイルランド間の検問なき国境を維持することは、どう考えても難しい。
英国は来月のEUサミットで承認を得て通商協議を始めるまで国境問題に取り組まないつもりだったが、アイルランド政府は英国が厳格な国境管理を回避する解決策を提示できなければ、拒否権を発動すると述べ、国境問題は突如、離脱協議の最大の障害となった。
メイ政権が北アイルランドの民主統一党(英本土との絆に執着)に支えられていることも、事態を面倒にしている。また、北アイルランド自体、1月から自治政府がない危うい状態が続いている。
アイルランドはEU加盟によって英国依存の経済から解放され、英国との関係も改善することができた。英国のEU離脱はアイルランドの繁栄を脅かすだけでなく、英アイルランド両国を交渉で対立する立場にしてしまった。
ただ、少なくともEU加盟国のアイルランドは、難局を乗り切る上で外交的、経済的にましな立場にある。
一方、北アイルランドはもっと切実な懸念に苦しんでいる。1998年の聖金曜日の和平合意により、北アイルランド人は英国籍かアイルランド国籍、あるいは両方を取得できるようになり、さらに、検問がなくなって国境地域は通商で大きな恩恵を受けるようになった。
英EU離脱はこれら全てを掘り崩してしまう。中でも、経済は深刻な打撃を受けるだろう。また、この1年で自警団や犯罪組織の活動が大幅に増加し、英EU離脱による事態の更なる悪化が懸念されている。
アイルランドは、逸早く国境問題を英EU離脱協議の優先課題にするようEU諸国を説得し、以来その立場を維持している。むしろバラッカー首相の課題は、強く出過ぎるのを避けることだろう。
アイルランドは、英政治家たちの発言にうんざりし、自らの考えを推し進めつつある。望みは、検問の必要を減らすべく、何らかの形で北アイルランドがEUの規制・関税制度の中に留まれるよう、メイが書面で請け合ってくれることだ。
また、アイルランド政府とEUは、今後の手本にすべく、電力などアイルランドと北アイルランドが既に共同管理している分野を調査している。
一部の英国人にとっては、この種の外国の干渉がそもそも彼らをEU離脱へと駆り立てたと言える。英国の懸念はもっともで、アイルランドは北アイルランドへの意図などないと言うが、北アイルランドとアイルランドを結ぶ動きは、北アイルランドが英本土と不可避的に疎遠になることを意味する。
英国は、北アイルランドの人々の英国かアイルランドかの二者択一の国籍選択の必要性を排除して過去の亡霊を葬ってくれたが、EU離脱はその亡霊を起こしてしまった。(後略)【1月4日 WEDGE】
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前出の「カナダ・プラス・プラス・プラス」といった貿易協定が成立すれば、国境管理の意味合いが減少することにはなりますが・・・。
もし、アイルランドが合意しなければ離脱交渉に「拒否権」を使うことが想定され、それは「合意なき離脱」というイギリスにとって最悪の事態ともなります。
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Brexitは英国にもEUにもアイルランドにも何の利益ももたらさないことがますます明らかになってきています。
離脱派にも間違ったと反省している人も多いのではないでしょうか。
しかし、国民投票で離脱すると決まり、メイ首相はそれをやらざるを得ない立場にあります。
尚、英国経済はこの離脱騒ぎのために振るわず、GDPの規模でフランスに追い抜かれました。
Brexitにともなう英国の苦難はなかなか終わりが見えません。勝手なことを言っている離脱派のボリス・ジョンソンを首にもできず、メイ首相の苦労は尽きないように思われます。【同上】
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【議会承認の国内ハードルも】
難航するのは対EUだけではありません。国内説得も大変です。
メイ首相は今後の交渉について、EUとの最終合意前に議会の承認を必要とするという“拘束”を課せられています。
****<英国>メイ首相、綱渡り政権運営 EU離脱の与党調整難航****
欧州連合(EU)首脳会議は15日、英国のEU離脱交渉を、通商関係などの協議に前進させることを決めた。経済問題など各国の利害が直接絡む今後の協議は、これまで以上に難航が予想される。
メイ英首相は交渉と並行して、与党内の残留派や強硬離脱派との調整が必要で、対応を誤れば進退問題に発展する可能性もある。
今年6月の総選挙で過半数割れしたメイ氏率いる与党保守党は、北アイルランドの地域政党、民主統一党(DUP)の閣外協力を得て、かろうじて半数を超えている。
英下院では13日、離脱条件に関し、EUとの最終合意前に議会の承認を得るよう求める修正法案を賛成多数で可決した。修正案は政府方針に反発する与党保守党議員が提出。残留派の保守党議員11人が造反し、メイ氏の求心力低下を露呈した。
メイ氏は「離脱方針は揺るがない」と強調する。だが離脱関連法案の審議は続き、政権運営は綱渡りだ。
保守党内では総選挙での敗北以降、首相の座を巡る駆け引きが浮上しては消えている。政治評論家のバストン氏は「首相の座を奪って最終的に離脱交渉をまとめても、昨年の国民投票で離脱、残留派に二分された国民から批判を受けるのは必至で、政治家としての利益はない」と説明。有力議員が様子見をしていると分析する。
一方、保守党有力議員の側近は「メイ氏は今回、離脱交渉を一歩進めた。これを功績として首相の座を降りてもらい、次の交渉は別の首相が担うという考え方もある」と話す。【12月16日 毎日】
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EU側も納得し、イギリス国内的に許容される・・・・そのな針の穴にロープを通すようなことができるのでしょうか?
【もう一度最初から考え直すべきでは?】
毎回言っているように、イギリスは何のためにこんなに難しい問題にのめりこんでいるのか・・・不可解でもあります。
離脱するという最初の判断に問題があったのではないでしょうか?
****英世論調査、EU残留希望が国民の過半数に****
英インディペンデント紙電子版に掲載されたBMGの世論調査によると、欧州連合(EU)残留を望む英国民は全体の51%、離脱支持は41%だった。
EU離脱(ブレグジット)交渉は、貿易に焦点がおかれる第2段階に入りつつある。調査は5─8日、1400人を対象に実施された。
インディペンデント紙は、「残留」を望む回答のリードは国民投票以来最大だったと伝えた。
ただ同紙は、BMGの代表の発言として、今回の結果は国民投票に行かなかった人の意見が変わったためで、「離脱」に投票した人と「残留」に投票した人のどちらも、10人中9人が意見を変えていないと伝えた。
国民投票では、離脱支持は52%、残留支持は48%だった。【2017年12月18日 ロイター】
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****英有権者の半数、ブレグジットで再投票実施を支持=世論調査****
(12月)3日付の英日曜紙メール・オン・サンデーが掲載した最新の世論調査によると、英国の有権者の半数が欧州連合(EU)離脱に関する再投票の実施を支持していることが判明した。
また、英国がEUとの通商協定交渉に進むために支払わなければならない離脱清算金が多過ぎるとの意見が多数派となった。
調査は専門機関サーベイションが11月30日─12月1日に英国の成人1003人を対象に実施。ブレグジット(英のEU離脱)の最終条件の是非を問うためにもう一度国民投票を実施すべきかどうかで、50%が賛成した。反対は34%、分からないが16%だった。
メール・オン・サンデーによると、英国がEUに約500億ユーロの清算金を支払う意向だと複数のメディアが報じて以降、今回が初めての主要世論調査だった。こうした500億ユーロを払うべきだと答えた有権者はわずか11%にとどまり、31%はびた一文払う必要はないと主張した。
またブレグジット後に金銭的に苦しくなると予想した有権者は35%、楽になると答えたのは14%となった。【2017年12月5日 ロイター】
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もう1回やり直し方がいいように思うのですが。