孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イギリス  メイ首相は否定しているものの、EU離脱交渉の課題が整理された段階で再投票すべきでは?

2018-01-17 22:28:45 | 欧州情勢

(国民投票の再度実施を提案して話題となっている、離脱を先導したUKIPのファラージ元党首【1月12日 毎日】 その本音は、離脱決定で“用済み”になった党の存在感回復では?)

内閣改造でも首相の求心力低下露呈
予想されたように難航するイギリスのEU離脱ですが、今日17日には、EU関連法を国内法に置き換える「EU離脱法案」の採決が下院で行われます。

****英下院でEU離脱法案採決、保守党が支持訴え 野党反対でも可決へ****
英国のメイ首相率いる保守党は17日、議会下院でこの日予定されている欧州連合(EU)離脱法案の採決に先立ち、同案を支持するよう保守党議員に呼び掛けた。また、野党・労働党に対しても法案への支持を求め、反対すれば混乱を招くと警告した。

この法案は1972年にEUの前身である欧州共同体(EC)に加盟するため設けたEC法を廃止するとともに、加盟後40年以上の間に導入されたEU関連法を国内法に置き換えるもの。

労働党のコービン党首は先に、民主主義に基づく説明責任、労働者保護、環境や消費者の権利に関する懸念が解消されない場合、法案に反対するよう党員に呼び掛けるとしていた。

ただ労働党が反対票を投じる場合でも、北アイルランド地域政党と保守党の閣外協力により、法案は下院で可決される公算だ。

一方、上院(貴族院)では、同法案の審議に数カ月を要するとみられ、採決はまだ先となる見通し。【1月17日 ロイター】
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おそらく、法案は可決されるのでしょう。(ここでつまづくようなら話になりませんので)

ただ、1月4日ブログ“イギリス 対EUも、対国内強硬派も、難航必至の離脱交渉 残留や再投票を望む声が増加”でも取り上げたように、イギリスにとって厳しい交渉が明らかになるにつれて、国内には離脱に懐疑的な空気が増しているように見えます。

難しい交渉を強いリーダーシップで先導していく立場にあるメイ首相ですが、昨年6月の総選挙に失敗して以来、その求心力は低下しています。
立て直しを狙った内閣改造も、求心力低下を広く示すような混乱を露呈する結果となりました。

****英メイ首相の内閣改造が混乱 閣僚の異動拒否、相次ぐ****
英国のメイ首相が8日、内閣改造に踏み切った。政権の立て直しをねらったものだったが、英メディアによると、別の閣僚ポストへの異動を求められたグリーニング教育相が反発して辞任するなど混乱した。
 
英BBCやガーディアンによると、グリーニング氏は雇用・年金相への横滑りを打診されたが拒否。教育改革に意欲を示しており、8日夜ツイッターで「若者の機会均等がある国をつくるためできることをやり続ける」と説明。

ハント保健相も別の閣僚ポストを拒否して保健相を続けることになった。同紙は「メイ氏の内閣改造が混乱」と報じるなど、求心力低下を印象づけかねない結果になった。
 
昨年6月の総選挙で、メイ氏率いる与党・保守党は過半数割れに追い込まれた。昨年11月には国防相と国際開発相が辞任。12月には、過去の警察捜査で議会の事務所のパソコンにポルノ画像が見つかっていたと報じられていた政権実質ナンバー2のグリーン筆頭国務相を解任し、内閣改造で立て直しをはかる予定だった。

今回の改造ではグリーン氏の事実上の後任にリディントン法相を充てるなどしたが、ハモンド財務相やジョンソン外相ら主要閣僚は留任した。【1月10日 朝日】
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離脱派UKIP元党首の再投票容認論 その本音は・・・・
世論に離脱に関する懐疑的な空気が広まる状況のなかで、残留派が国民投票のやり直しを求めるのは当然の成り行きですが、離脱を主導した英独立党(UKIP)のファラージ元党首からも、離脱の意思を明確にするためということではありますが、再投票を容認するような発言も。

****英「再び国民投票」議論 EU離脱派からも メイ首相繰り返し否定****
一昨年の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を選択した英国で、2度目の国民投票実施の是非をめぐる議論が高まっている。

離脱派の一部から「残留論争に終止符を打つため」2度目の実施を求める声が上がり、残留派指導者の中にも離脱撤回に向けた再実施を主張する意見がある。ただメイ首相は繰り返し、もう一度国民投票を行う可能性を否定している。
 
英国内でEU離脱撤回を求める意見が収まらない中、離脱派の中心的存在である英独立党(UKIP)のファラージ元党首は11日、ツイッターに「もしかしたら、本当にもしかしたらだが、EUをめぐる2度目の国民投票を行うべきかもしれない。国民投票はこの世代においては、問題をきっぱりとなくすことになるだろう」と投稿した。
 テレビでも、再度国民投票を行えば「離脱への投票が前回よりはるかに大きいだろう」と発言。離脱運動に多額の活動資金を提供したアーロン・バンクス氏もこうした考えを支持した。
 
離脱撤回を求める残留派は、野党労働党のブレア元首相や自由民主党のクレッグ元党首がツイッターで「賛同する」と主張。「国民は離脱に伴う負担を懸念する。再投票すれば残留が上回る」(同党広報)としている。
 
英国では国民投票の実施は首相が決定する。2度目の国民投票に反対する意見も根強く、メイ氏は再実施すれば、2016年に離脱に投票した52%の英国民への「裏切りになる」としている。【1月15日 産経】
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離脱派の中心的存在である英独立党(UKIP)は、離脱を求める国民運動にあってこそ、その存在を主張できる政党です。離脱の方向が決まってしまえば、“用済み”の政党です。

実際、国民投票で離脱の方向が決定されて以来、党内の内紛・混乱もあって、UKIPの存在感は急速に薄れています。
ファラージ元党首の、再投票容認発言は、再投票実施となれば党の存在感を取り戻せるという党利党略が背景にあるのでは・・・・というのは、私の独断偏見です。

ついでに言えば、再投票で離脱が否定されるのが、UKIPにとっては最良のシナリオではないでしょうか。そうなれば再投票以後も、離脱支持者の怒りを結集して、長期的に党の勢いを持続・強化できます。

UKIPは現在、党首のボルトン氏の恋人の差別発言で、いよいよ厳しい状況に追い込まれており、党勢回復には再投票実施しかないでしょう。

****肥だめ」よりひどい?メーガン・マークルに対する英右派の差別発言****
<「英王室の血を汚すバカな平民」「頂点に這い上がろうと必死のアメリカ黒人」等々は、黒人プリンセスを嫌うイギリス人の本音?>

反EU・反移民を掲げる右派政党、イギリス独立党(UKIP)のヘンリー・ボルトン党首(54)の恋人で党員のジョー・マーニー(25)が、ヘンリー英王子の婚約者で米女優のメーガン・マークルについて人種差別的なメッセージを知人に送っていたことが英大衆紙「メール・オン・サンデー」に暴露された。

マーニーは知人男性に送ったメッセージで、マークルが嫌いだとして理由を列挙した。「人種にこだわり過ぎ。英王室の血を汚す。バカな平民。脳みそが小さい」などに加え、「黒人で女優気取り。ここはイギリスであってアフリカじゃない」と罵倒していた。

メッセージの相手が「それは人種差別だ」と批判すると、「だったら何?」と突っぱねてこう続けた。「彼女は黒人のアメリカ人。何とかして頂点に這い上がろうとして必死なの。次はイスラム教徒の首相や黒人の国王が出てくるに違いない」

自分自身を「モデル、女優、ブレグジット支持者」と呼ぶマーニーに対しては、直ちに責任を問う声が上がった。人種差別的だと批判にさらされることの多いUKIP党内からも、「人種差別だ」と非難する声が上がった。

「どう見ても人種差別的な内容だ。党として一切許容すべきでない」と、党員のジャック・ペニーはツイートした。「党首選の時、ボルトンは人種差別やナチズムに立ち向かうと言った。もし党員のこのような不祥事を許すなら、彼もUKIPもそこまでだ」

セクハラを告発するのは「弱い女」たち
前回の党首選でボルトンに敗れたピーター・ウィットルも、メッセージの内容は「不名誉だ」と切り捨て、党からの追放を訴えた。ボルトンは「マーニーの党員資格を即時停止した」と発表したが、追放の可能性には言及しなかった。(中略)

「ショッキングな言葉遣いだった」と、今度ばかりはマーニーも謝罪した。「真意を伝えるためにわざと誇張した表現を使った」

だが、遅過ぎた。党内からは、ボルトンの辞任を求める声も上がっている。黒人プリンセスの行く末も心配だが、ただでさえ党勢が衰えているUKIPの将来はさらに危うそうだ。【1月16日 Newsweek】
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スコットランド民族派は単一市場残留主張で揺さぶり
一方、スコットランドの分離独立を主導するスコットランド自治政府首相は、“離脱後の単一市場残留について協議する「絶好の機会」が到来した”との認識を示しています。

****英国の単一市場残留協議に「絶好機」=スコットランド首相****
スコットランド自治政府のスタージョン首相は14日、英国が欧州連合(EU)離脱後の単一市場残留について協議する「絶好の機会」が到来したとの考えを示した。

スタージョン氏は「単一市場からの離脱が英経済の恩恵になることを示す信頼し得る証拠は全くない」とし、離脱が強硬であるほど結果が悪くなるとアナリストも予想していると指摘した。

また、同氏はBBCの番組で、労働党に対し単一市場残留を約束するようあらためて呼び掛けた。

一方、同党のコービン党首は単一市場のメンバーであるにはEU加盟が必要との見解を示し、「EU離脱が単一市場離脱を意味するのに、スタージョン氏が単一市場残留を主張し続ける理由が理解できない」と述べた。

スタージョン氏は、EU離脱推進派が通商や投資における多額の損失を補う案を提示できていないことから、「スコットランドや英国が単一市場に残ることに賛成する穏健派の主張にとって、現在は絶好の機会になっている」と語った。【1月15日 ロイター】
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スコットランド自治政府はこれまでに、仮にイギリスが欧州単一市場を離脱したとしてもスコットランドだけは残る提案を公表してきていますので、目新しい話でもありません。

スコットランドは残留派が多く、ブレグジット国民投票でスコットランドは、62%がEU残留を支持しています。

2014年9月のスコットランド住民投票で失敗(独立反対が55%、賛成が45%)、その後の総選挙でも議席を減らしたスコットランド国民党・スタージョン首相としては、離脱に関するスコットランドの独自性を主張することで中央政府に揺さぶりをかけたい思惑でしょう。

ただ、労働党・コービン党首の言うように、単一市場残留を主張するなら、EUからの離脱そのものを改めて否定すべきところでしょう。

悲壮な覚悟の“「決裂担当相」新設検討”ではあるが・・・
メイ首相は、難航する離脱交渉を見据えて、「決裂担当相」の新設を検討しているとも。

****メイ英首相が内閣改造 対EUで「決裂担当相」新設検討****
(中略)9日も組閣は継続され、英テレグラフ紙によると、メイ氏は合意しないままEUから離脱する場合を想定して閣外相で「決裂担当相」の新設を検討している。

EUとの貿易で世界貿易機関(WTO)ルールで関税復活に備える。EUと現状維持を目指すが、対EU強硬派にも配慮して不利な条件なら合意しない姿勢を示す狙い。【1月9日 産経】
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“不利な条件なら合意しない”というのは毅然とはしていますが、イギリスにとって“茨の道”でもあります。

****合意なき」EU離脱、50万人の雇用失われる可能性=ロンドン市長****
英ロンドンのカーン市長の委託でコンサルタント会社がまとめた報告書によると、英国が欧州連合(EU)と貿易協定で合意しないままEUを離脱すれば、離脱後の12年間に50万人近くの雇用と500億ポンド(674億1000万ドル)の投資が失われる可能性がある。

ケンブリッジ・エコノメトリックスがまとめた報告書は、英国のEU離脱を巡り、最もハード(強硬)な離脱方法から最もソフト(穏健)なものまで5つのシナリオを検討。建設や金融など9つの業界への経済的影響を調べた。

それによると、合意なき離脱のシナリオでは、最も影響を受けるのは金融・プロフェッショナル関連サービスで、英国全体で11万9000人の雇用が失われるという。

カーン市長は「政府が今後も交渉方法を誤れば、成長と雇用がともに低下する失われた10年に直面する可能性がある」と指摘した。【1月11日 ロイター】
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再投票実施のススメ
再投票実施論とか、悲壮な覚悟の「決裂担当相」といったイギリス国内事情に対し、EU側は“気が変わったら、いつでも・・・”と鷹揚な姿勢です。

****英EU離脱】EU大統領「われわれの心は開かれている」 英残留転換なら受け入れ用意と発言****
欧州連合(EU)のトゥスク大統領は16日、英国のEU離脱問題をめぐり、「大陸側の心は変わっていない。われわれの心は開かれている」と述べ、英国が残留に方針転換した場合、受け入れる用意があるとの認識を示した。フランス・ストラスブールで行われた欧州議会の討論で語った。
 
英国で最近、離脱に関する2度目の国民投票の是非が議論されているのを念頭にした発言とみられる。

AP通信によると、トゥスク氏は「民主主義が心を変えられないなら、それは民主主義ではない」とも強調。ユンケル欧州委員長はこの発言を受け、「ロンドンで疑いなく耳が傾けられるよう期待する」と述べた。
 
EUと英国は今後、将来的な関係などに関する協議に入る見通しで、トゥスク氏は一方で英国に対し、将来関係について「もっと明確なビジョン」を示すように求めた。【1月16日 産経】
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メイ首相は“再実施すれば、2016年に離脱に投票した52%の英国民への「裏切りになる」としている。”【前出 産経】とのことですが、このあたりの論理はよくわかりません。

離脱は今後数十年のイギリスの方向を決める重要な決断です。
それを1回の国民投票、それも問題点などが整理されていなかった時点での投票だけにゆだねる方が、おかしいのでは・・・と思うのですが。

2016年の投票は、交渉に入る前の段階で、あまり具体的な問題が明らかになっていなかった時点での投票です。
実際に交渉を行って、問題・課題が明らかになってきた段階で、改めて国民の決意を問うことに、なんの不都合があるのでしょうか?
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