【幸せは金で買えるか?】
毎年末恒例の「世界幸福度調査」(米国の世論調査会社ギャラップ・インターナショナルとWINによる共同調査)によれば、調査対象国55カ国で1位は南太平洋の国フィジーで、2位コロンビア、3位フィリピン、4位メキシコと続いています。
“今回の調査で唯一90ポイント以上を獲得した「フィジー」は、前年も1位、その前が2位、その前は1位。直近の4年間で3回も1位を獲得している幸福先進国です。”【1月6日 ハフィントンポスト】
「幸せ」のとらえ方は個人で千差万別であり、「幸福度」といった形で数量化することには無理があることは、今更言うまでもないことです。
ましてや、国別の「幸福度」指数といった類は、何を基準に数量化するかで全く異なった結果にもなります。
そこは百も承知の上で、あえて「幸福」と「所得」の関係、つまり「幸せは金で買えるか?」という問いに答えようとすると・・・やはり結果は様々のようです。
【https://ourworldindata.org/grapher/gdp-vs-happiness?time=2014】
上記などは、比較的明瞭な、所得が高いほど幸福感が強まる傾向を示していますが、下記は必ずしも単純ではないことを示しています。
【http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/9482.html】
確かに所得が高い国は比較的高い幸福度をしめしますが、所得が低い国では大きなバラつきが見られます。
****幸せはお金で買えるか(所得水準と幸福度の国別相関)*****
(中略)相関度をあらわすR2値は0.1737(2005年期データであると0.3071)であり、ゆるい相関が認められる。
しかし、相関図を見て、より印象的なのは、所得水準の高い国では幸福度がある一定水準以上に収斂している(不幸と感じている者はそれほど多くない傾向がある)のに対して、所得水準の低い国では、幸福度に大きなばらつきが認められる点である。(中略)
所得水準が高まれば不幸と感じる人の割合が大いに減じるということから、幸せはお金で買えるといえるが、だからといって所得水準の低い国で不幸な者が多いとは限らないのである。
お金持ちでも不幸かも知れないよ、という貧乏人の慰めは、事実に反するが、貧乏でも幸せに暮らそうという態度は十分な合理性を持っているといえよう。
また、経済成長が重要なのは幸福を増すからというより、不幸を減じるからであるということが分かる。【本川 裕氏 「社会実情データ図録」】
********************
所得水準の低い国で幸福度に大きなばらつきが生じる背景として、「国民性」と呼ばれるような文化的要素があると思われます。
なお、所得水準と幸福度の関連については、2013年5月3日ブログ“「お金はあればあるほど幸せ」か? 富・所得と幸福度の関係”でも。
【家族や友人、教師との信頼関係を重視するドミニカ】
数量化した指数で何かを語ることは難しいにしても、個々の事例を見ていけば、「幸せ」あるいは「不幸」に関する理解について何かの参考も得られるかも。
冒頭のギャラップ調査でもそうですが、この手の調査では総じて中南米諸国は、所得水準は低いながらも「幸福度」では上位にランキングされます。いわゆる「ラテン気質」でしょうか。
コロンビアとかメキシコなど、所得水準もさることながら、治安の面でも、世界有数の難民国だったり、「麻薬戦争」と言われる状態だったりもします。それでも・・・・
****みんな誰かの宝物だから ドミニカ共和国・メキシコ****
カリブ海の真ん中にあるドミニカ共和国。青い海に囲まれた小さな島国が、世界の15歳に「幸福度」を尋ねた国際機関の調査で1位になった。どんな秘密があるのか。この国で「幸せのかたち」を考えた。
「一番すてきで特別な人へ。君は毎日を楽しくしてくれる家族のような存在です。どうか君の全ての夢が実現しますように。愛する人たちに囲まれながら何百年も過ごせますように」
首都サントドミンゴの公立中学校。模造紙いっぱいのメッセージを読みながら、16歳の誕生日を翌日に控えたチェルシ・シエラさんは涙を流した。仲の良い友人たちが、休み時間にサプライズの誕生会を開いてくれたのだ。
シエラさんは一人一人をぎゅっと抱きしめた。「こんな友人に恵まれてとても幸せ。みんなにすごく感謝している」。企画した男子生徒も「喜んでもらえてうれしい」と満足げだ。
この国の子どもたちの「幸福度」は世界1位。経済協力開発機構(OECD)が昨年発表した、2015年の学習到達度調査(PISA)の一環で調べた結果だ。学校に通う15歳の子らに生活の満足度を尋ねると、「十分に満足」と答えた割合が47カ国・地域で最も高かった。
コンクリート製の校舎は古く、黒板は穴だらけ。机や椅子の大きさもまちまちだ。だが、今の生活について生徒たちに聞くと、ほとんどが「私は幸せ」と口をそろえた。
女子生徒の一人アンジェリ・カブレラさん(15)は「お母さんが毎日、ほおにキスして『大好き』と言ってくれる。それが私の幸せの時間。幸せとは他の人と一緒に過ごす時間のこと」と笑った。教師のロサ・ペレスさん(47)は「多くの子が幸福そうに見えるのは家族や友人、教師との信頼関係が強いことと関係があると思う。ドミニカ人は人間関係が濃密ですから」。(中略)
海に囲まれたドミニカ共和国は観光が主要産業だ。16年は欧米などから観光客600万人が訪れた。経済成長率は6・6%を記録し、3年連続で中南米カリブ地域のトップ。
だが、貧富の格差は激しい。治安も悪化し、17年の世論調査では国民の42%が「3年以内に国を出たい」と答えた。
教育政策も行き届いているとは言いがたい。15年のPISAでは、数学と科学部門で72カ国・地域で最下位だった。
国連児童基金(ユニセフ)ドミニカ共和国事務所によると、15~17歳の10%は途中で学校をやめ、最初から行かない子も多い。少女の妊娠も問題になっている。37%の女性は17歳前に、12%は15歳前に結婚する。5歳未満の子の12%は出生届すら出されない。65%の親は体罰を容認する。
ロサ・エルカルテ所長は「確かにこの国の人々は陽気でよく笑う。でも、それは本当の幸せというより、気分的なものかもしれない」と考えている。
国際NGOプラン・インターナショナルのラケル・カサレス氏は「子どもたちが幸せと感じているのは衝撃的」と驚きを隠さない。「弱く危険な立場にありながら、それに気付いていない。安易に『世界一幸せ』とくくるのはとても危険だ」と警鐘を鳴らす。
同国の著名な精神科医セサル・メジャ氏は「苦しい生活の中で陽気に踊るドミニカ人の行動はつじつまが合わない。学者たちも十分に解き明かせずにいる」という。だが、こう語った。
「幸せとは満足感や精神的な喜びによるもの。物質的な豊かさや所有財産の多寡とは関係ない。ドミニカ人は前向きに楽しむすべを知っている。それが幸福感につながっている」
厳しい現実にかかわらず、人々が幸せを感じる土壌が確かに、ここにはあるのかもしれない。(後略)【1月1日 朝日】
*******************
【他人の視線を人生の重要な基準にしている韓国】
一方、儒教文化という点では日本と比較的似かよっている韓国ですが、近年はもろもろの社会問題から、特に若者の間で「ヘル朝鮮」という自虐的な言葉がよく聞かれます。
****「幸せに見られたい」流行語に見る韓国若者の特徴に、ネットがため息****
2018年1月16日、韓国・朝鮮日報によると、昨年流行した新造語から、20〜30代の若者世代が「幸せとは程遠いが幸せに見えていたい」という持続性のない「使い捨ての幸せ」のためにお金や時間を費やしていることが分かった。
昨年、韓国の若者世代に流行した新造語のうち、中でも「イッソビリティー(『イッソボイダ:ありそうに見える』+『アビリティー:能力』=ありそうに見える能力)」が大流行した。
その他に「腹いせで使った費用」という意味の「始発費用」という言葉もあるが、どちらも「幸せに見えていたい欲求」が反映されているとされる。
このような消費行動は30代に最も多いという。非営利研究所の希望製作所が昨年11月に全国の満15歳以上の男女1000人を対象に調査したところ、30代は「現在の暮らしの満足度」「心身の健康」「経済状態」をはじめほぼ全ての項目で平均以下という結果が出たというのだ。(中略)
学者らはこのような韓国人の性向を「自己監視(self monitoring)が過度に強い」ものと解釈する。つまり、韓国社会が表向きには欧米のように個人主義化したように見えても、依然として他人の視線を人生の重要な基準にしているというのだ。
これを受け、ネットユーザーからは「ヘル朝鮮(地獄のような韓国の意)のせい」「李明博(イ・ミョンバク)や朴槿恵(パク・クネ)など元大統領のせいで一番被害に遭ったのが30代」「幼い頃から『一番になれ』『他人の先を行け』と圧迫されたから」など昨今の韓国社会に責任を問うコメントが目立つ。(後略)【1月21日 Record china】
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“表向きには欧米のように個人主義化したように見えても、依然として他人の視線を人生の重要な基準にしている”というのは、日本にもあてはまるところがありますが、最近はそうした生き方から抜け出そうする人々も増えているようにも。
【男性に比べて女性の幸福感が際立って高い日本】
その日本は、「幸福度ランキング」の類では、大体“中の上”“上の下”といったところで、悪くはないが、それほど高いという訳でもない・・・といったところでしょうか。
ただ、ひとつ日本には際立った特徴があるようです。それは“男性に比べて女性の幸福度が高い”という特徴です。
下記「幸福度の男女差」(世界価値観調査及びISSP調査)で見ると、中央線より右に行くほど女性の幸福感が男性を上回る度合い、左へ行けば男性が上回る度合いを示していますが、女性超過の点で日本は1位が3回、2位が1回、3位が1回、11位が1回と、“世界で一番、女性超過が大きい国”であることを示しています。
****「幸福度の男女差」****
・・・・東アジア諸国はかつての儒教国だという性格を共有し、欧米諸国と比較すると、家庭や社会の中での女性の地位が低いと考えられているが、経済発展と社会の近代化が進んだ高所得国では、幸福度にそれが反映しているわけではなさそうである。
むしろ、女性は、①家族の財産権、相続権の男女平等など近代的な法律上の位置、②家事労働を軽減する家電製品の発達、③子育て、老親の世話の負担を軽減する社会保障の充実、などにより、かつての家への従属・拘束から解放されて自由になったのに、男性の方は、男性の権利ばかりでなく責任も大きかった過去の伝統に引きずられ、自分が家族やまわりを支えなくてはと思いすぎて、幸福度を感じにくくなっているのではと想像される。【本川 裕氏 「社会実情データ図録」】
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【“やたらと楽しそうな”日本の女子学生】
上記の“男性に比べて女性の幸福度が高い”という日本の特徴を反映した調査がもうひとつ。
高校1年生を対象とする国際学力テストであるOECDのPISA調査によると、日本を含む東アジア儒教圏の生活満足度が他のグループより際立って低いこと(下記図の横軸で見ると、先述のドミニカは最高に対し、韓国は下から二番目)、ほとんどの国が男子学生のほうが満足感が女子学生より高いのに対し、日本だけが女子学生のほうが高いこと(縦軸で見て、日本だけがマイナス)が示されています。
****日本の女子高生がやたらと楽しそうな理由****
世界の高校生は生活満足度の状態で文化圏ごとにグループ分けできる
・・・・・(高校1年生を対象とする国際学力テストであるOECDの)PISA調査では、学力テストのほかに、学力の要因を探るため、先生や同級生との学校生活の状態や学習意欲、生活満足度などの意識の状態を、生徒に対する調査票によって調べている。
図1には、世界48ヵ国の生徒の生活満足度の状態を示すグラフを掲げた。ここで生活満足度は、0から10までの11段階で回答を求めた結果の平均点で示されている。
X軸方向に「生活満足度の高さ」、Y軸方向に「生活満足度の男女差」を取った散布図を描いた。これを見ると、欧米、ラテンアメリカ、イスラム圏、東アジア儒教圏といった文化圏ごとに、ほぼ例外なく、国々がグループ分けできる点が非常に興味深い。
また、日本については、東アジア儒教圏の共通の特徴として、X軸方向の全体的な満足度が世界の中でも最低の水準になっているとともに、Y軸方向については、世界では一般に男子生徒の生活満足度が女子生徒を上回っている中で、唯一、女子生徒の方が上回っている点で非常に特徴的だ。(中略)
日本だけでなく、儒教の影響がなお残る東アジア諸国では、所得が高くなってもなかなか幸福を感じないようなのだ。(中略)
東アジア諸国の高校生の生活満足度が、世界の中で最も低くなっているのは、上述のように、成人と比較して学生の場合は所得水準との関係が薄く、さらに教育分野では儒教の影響がなお大きいこともあって、成人と同じ理由がダイレクトに働いているためだといえる。(中略)
日本の高校生も、先生や親の期待に十分応えられていないと感じてしまいがちなので、生活満足度が欧米などと比較して低くなってしまっているのであろう。
さらに、人生態度に関する、これ以外の文化心理学的な要因も考えられる。
幸福感研究の世界的な第一人者、エド・ディーナーとの実験心理学的な研究で知られる大石繁宏氏によれば、社会の流動性が高く、友人を選択する可能性の高い米国では、弱音を吐くと友人から「お荷物になりそうな面倒な奴だ」と思われるプレッシャーがあるという。
これに対して、友人を選ぶ余地の小さい島国の日本では、悲しみや苦しみを共有する人間関係が大事だと思われており、「自分が元気すぎると不幸な友人を傷つける場合がある」という配慮が働く。欧米起源のスポーツと異なり、日本の武道や大相撲では、勝者のガッツポーズが控えられているのも同じことだといえる。
このため、全体としての満足度を聞くアンケートに答える段階で、欧米では毎日の満足度のうちいい面だけ回顧し、日本では悪い面だけを思い出して回答する傾向があり、結果として毎日の満足度は同じレベルでも、日本人の満足度は低くなるという(大石繁宏「幸せを科学する」p.35〜43)。(中略)
全ての国で、生活満足度の男女差は、「男マイナス女」が成人より高校生の方が大きくなっている点が印象的だ。成人については生活満足度に男女の差があまりないのに対して、高校生については、男子生徒が女子生徒を上回る場合が圧倒的に多いのだ。(中略)
PISA報告書によれば、女子高生の生活満足度が男子より低いのは、一つの可能性として、「思春期の女子の厳しい自己批評を反映しているのではないか」と考えられている。
すなわち、マスメディアが前提にしている「スリムで理想的な体型」や、ソーシャルメディアで共有されている美しいとされる体型の画像の影響にさらされていることが、思春期の女子の自己認識や満足感にネガティブなインパクト与えているとされているのである。(中略)
日本の女子高生がやたらと楽しそうなのは古い道徳からも新しい規範からも自由なため
ここまで考えてくると、日本の女子高生の生活満足度が、世界で唯一、男子より高い理由の一つは、自分の身体イメージへのこだわりについて、欧米のようには強迫観念にまでは至っていないためだと考えられる。(中略)
さて、日本の女子高生の生活満足度が世界で唯一、男子より高いことを説明するもう一つの要因は、成人の生活満足度がそもそも女性優位であり、女子高生もそれと同じだと考えられるからである。(中略)
このように、日本の女子高生が男子より楽しそうなのは、男性と比較して、性差に対する旧来の道徳感からの解放が進んでいると同時に、若い女性の身なりや体型はこうあらねばならないという情報社会の新規範からも外国と比較して自由だから、というのがデータから推察されるとりあえずの結論である。【1月17日 本川 裕氏 ダイヤモンド・オンライン】
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大幅に省略しましたので文脈・論旨が不明瞭になってしまいました。興味のある方は上記リンク先でご覧ください。
ただ、“日本の女子高生がやたらと楽しそうな”理由が、“自分の身体イメージへのこだわりについて、欧米のようには強迫観念にまでは至っていないため”というのは、個人的にはあまり説得的でないように感じています。
【自殺にみる男女格差】
ついでに男女差に関する、全く別の観点からの数字を。
2017年の日本全国の自殺者は16年よりも757人少ない2万1140人で、8年連続で減少しています。結構なことです。
男女別にみると、男性が1万4693人、女性は6447人で、男性が女性の倍以上になっています。【1月22日 Record china】
*****自殺者の70%は男性 統計データから見る男性の自殺リスク*****
・・・・アメリカの男性自殺率は女性の4.2倍、イギリスは3.6倍とのこと。自殺率の男女格差が日本と同程度かそれ以上に激しい国も、世界には少なくないようです。
WHOの報告によると、英米と同じく旧ソ連・旧共産諸国も自殺率の男女格差が大きく、ロシア、ベラルーシ、ウクライナ、エストニアなどは日本とほぼ同じの約2~3倍程度、リトアニアについては男性自殺率は女性の6倍という驚きの数字です。
興味深いのがイスラム圏と中国で、これらの地域においては女性自殺率が男性自殺率を僅かに上回ります。アフガニスタン、イラク、インドネシア、パキスタン、中国……など。(後略)【小山晃弘氏】
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このあたりも興味深いところですが、長くなったので、また別機会に。
毎年末恒例の「世界幸福度調査」(米国の世論調査会社ギャラップ・インターナショナルとWINによる共同調査)によれば、調査対象国55カ国で1位は南太平洋の国フィジーで、2位コロンビア、3位フィリピン、4位メキシコと続いています。
“今回の調査で唯一90ポイント以上を獲得した「フィジー」は、前年も1位、その前が2位、その前は1位。直近の4年間で3回も1位を獲得している幸福先進国です。”【1月6日 ハフィントンポスト】
「幸せ」のとらえ方は個人で千差万別であり、「幸福度」といった形で数量化することには無理があることは、今更言うまでもないことです。
ましてや、国別の「幸福度」指数といった類は、何を基準に数量化するかで全く異なった結果にもなります。
そこは百も承知の上で、あえて「幸福」と「所得」の関係、つまり「幸せは金で買えるか?」という問いに答えようとすると・・・やはり結果は様々のようです。
【https://ourworldindata.org/grapher/gdp-vs-happiness?time=2014】
上記などは、比較的明瞭な、所得が高いほど幸福感が強まる傾向を示していますが、下記は必ずしも単純ではないことを示しています。
【http://www2.ttcn.ne.jp/honkawa/9482.html】
確かに所得が高い国は比較的高い幸福度をしめしますが、所得が低い国では大きなバラつきが見られます。
****幸せはお金で買えるか(所得水準と幸福度の国別相関)*****
(中略)相関度をあらわすR2値は0.1737(2005年期データであると0.3071)であり、ゆるい相関が認められる。
しかし、相関図を見て、より印象的なのは、所得水準の高い国では幸福度がある一定水準以上に収斂している(不幸と感じている者はそれほど多くない傾向がある)のに対して、所得水準の低い国では、幸福度に大きなばらつきが認められる点である。(中略)
所得水準が高まれば不幸と感じる人の割合が大いに減じるということから、幸せはお金で買えるといえるが、だからといって所得水準の低い国で不幸な者が多いとは限らないのである。
お金持ちでも不幸かも知れないよ、という貧乏人の慰めは、事実に反するが、貧乏でも幸せに暮らそうという態度は十分な合理性を持っているといえよう。
また、経済成長が重要なのは幸福を増すからというより、不幸を減じるからであるということが分かる。【本川 裕氏 「社会実情データ図録」】
********************
所得水準の低い国で幸福度に大きなばらつきが生じる背景として、「国民性」と呼ばれるような文化的要素があると思われます。
なお、所得水準と幸福度の関連については、2013年5月3日ブログ“「お金はあればあるほど幸せ」か? 富・所得と幸福度の関係”でも。
【家族や友人、教師との信頼関係を重視するドミニカ】
数量化した指数で何かを語ることは難しいにしても、個々の事例を見ていけば、「幸せ」あるいは「不幸」に関する理解について何かの参考も得られるかも。
冒頭のギャラップ調査でもそうですが、この手の調査では総じて中南米諸国は、所得水準は低いながらも「幸福度」では上位にランキングされます。いわゆる「ラテン気質」でしょうか。
コロンビアとかメキシコなど、所得水準もさることながら、治安の面でも、世界有数の難民国だったり、「麻薬戦争」と言われる状態だったりもします。それでも・・・・
****みんな誰かの宝物だから ドミニカ共和国・メキシコ****
カリブ海の真ん中にあるドミニカ共和国。青い海に囲まれた小さな島国が、世界の15歳に「幸福度」を尋ねた国際機関の調査で1位になった。どんな秘密があるのか。この国で「幸せのかたち」を考えた。
「一番すてきで特別な人へ。君は毎日を楽しくしてくれる家族のような存在です。どうか君の全ての夢が実現しますように。愛する人たちに囲まれながら何百年も過ごせますように」
首都サントドミンゴの公立中学校。模造紙いっぱいのメッセージを読みながら、16歳の誕生日を翌日に控えたチェルシ・シエラさんは涙を流した。仲の良い友人たちが、休み時間にサプライズの誕生会を開いてくれたのだ。
シエラさんは一人一人をぎゅっと抱きしめた。「こんな友人に恵まれてとても幸せ。みんなにすごく感謝している」。企画した男子生徒も「喜んでもらえてうれしい」と満足げだ。
この国の子どもたちの「幸福度」は世界1位。経済協力開発機構(OECD)が昨年発表した、2015年の学習到達度調査(PISA)の一環で調べた結果だ。学校に通う15歳の子らに生活の満足度を尋ねると、「十分に満足」と答えた割合が47カ国・地域で最も高かった。
コンクリート製の校舎は古く、黒板は穴だらけ。机や椅子の大きさもまちまちだ。だが、今の生活について生徒たちに聞くと、ほとんどが「私は幸せ」と口をそろえた。
女子生徒の一人アンジェリ・カブレラさん(15)は「お母さんが毎日、ほおにキスして『大好き』と言ってくれる。それが私の幸せの時間。幸せとは他の人と一緒に過ごす時間のこと」と笑った。教師のロサ・ペレスさん(47)は「多くの子が幸福そうに見えるのは家族や友人、教師との信頼関係が強いことと関係があると思う。ドミニカ人は人間関係が濃密ですから」。(中略)
海に囲まれたドミニカ共和国は観光が主要産業だ。16年は欧米などから観光客600万人が訪れた。経済成長率は6・6%を記録し、3年連続で中南米カリブ地域のトップ。
だが、貧富の格差は激しい。治安も悪化し、17年の世論調査では国民の42%が「3年以内に国を出たい」と答えた。
教育政策も行き届いているとは言いがたい。15年のPISAでは、数学と科学部門で72カ国・地域で最下位だった。
国連児童基金(ユニセフ)ドミニカ共和国事務所によると、15~17歳の10%は途中で学校をやめ、最初から行かない子も多い。少女の妊娠も問題になっている。37%の女性は17歳前に、12%は15歳前に結婚する。5歳未満の子の12%は出生届すら出されない。65%の親は体罰を容認する。
ロサ・エルカルテ所長は「確かにこの国の人々は陽気でよく笑う。でも、それは本当の幸せというより、気分的なものかもしれない」と考えている。
国際NGOプラン・インターナショナルのラケル・カサレス氏は「子どもたちが幸せと感じているのは衝撃的」と驚きを隠さない。「弱く危険な立場にありながら、それに気付いていない。安易に『世界一幸せ』とくくるのはとても危険だ」と警鐘を鳴らす。
同国の著名な精神科医セサル・メジャ氏は「苦しい生活の中で陽気に踊るドミニカ人の行動はつじつまが合わない。学者たちも十分に解き明かせずにいる」という。だが、こう語った。
「幸せとは満足感や精神的な喜びによるもの。物質的な豊かさや所有財産の多寡とは関係ない。ドミニカ人は前向きに楽しむすべを知っている。それが幸福感につながっている」
厳しい現実にかかわらず、人々が幸せを感じる土壌が確かに、ここにはあるのかもしれない。(後略)【1月1日 朝日】
*******************
【他人の視線を人生の重要な基準にしている韓国】
一方、儒教文化という点では日本と比較的似かよっている韓国ですが、近年はもろもろの社会問題から、特に若者の間で「ヘル朝鮮」という自虐的な言葉がよく聞かれます。
****「幸せに見られたい」流行語に見る韓国若者の特徴に、ネットがため息****
2018年1月16日、韓国・朝鮮日報によると、昨年流行した新造語から、20〜30代の若者世代が「幸せとは程遠いが幸せに見えていたい」という持続性のない「使い捨ての幸せ」のためにお金や時間を費やしていることが分かった。
昨年、韓国の若者世代に流行した新造語のうち、中でも「イッソビリティー(『イッソボイダ:ありそうに見える』+『アビリティー:能力』=ありそうに見える能力)」が大流行した。
その他に「腹いせで使った費用」という意味の「始発費用」という言葉もあるが、どちらも「幸せに見えていたい欲求」が反映されているとされる。
このような消費行動は30代に最も多いという。非営利研究所の希望製作所が昨年11月に全国の満15歳以上の男女1000人を対象に調査したところ、30代は「現在の暮らしの満足度」「心身の健康」「経済状態」をはじめほぼ全ての項目で平均以下という結果が出たというのだ。(中略)
学者らはこのような韓国人の性向を「自己監視(self monitoring)が過度に強い」ものと解釈する。つまり、韓国社会が表向きには欧米のように個人主義化したように見えても、依然として他人の視線を人生の重要な基準にしているというのだ。
これを受け、ネットユーザーからは「ヘル朝鮮(地獄のような韓国の意)のせい」「李明博(イ・ミョンバク)や朴槿恵(パク・クネ)など元大統領のせいで一番被害に遭ったのが30代」「幼い頃から『一番になれ』『他人の先を行け』と圧迫されたから」など昨今の韓国社会に責任を問うコメントが目立つ。(後略)【1月21日 Record china】
*****************
“表向きには欧米のように個人主義化したように見えても、依然として他人の視線を人生の重要な基準にしている”というのは、日本にもあてはまるところがありますが、最近はそうした生き方から抜け出そうする人々も増えているようにも。
【男性に比べて女性の幸福感が際立って高い日本】
その日本は、「幸福度ランキング」の類では、大体“中の上”“上の下”といったところで、悪くはないが、それほど高いという訳でもない・・・といったところでしょうか。
ただ、ひとつ日本には際立った特徴があるようです。それは“男性に比べて女性の幸福度が高い”という特徴です。
下記「幸福度の男女差」(世界価値観調査及びISSP調査)で見ると、中央線より右に行くほど女性の幸福感が男性を上回る度合い、左へ行けば男性が上回る度合いを示していますが、女性超過の点で日本は1位が3回、2位が1回、3位が1回、11位が1回と、“世界で一番、女性超過が大きい国”であることを示しています。
****「幸福度の男女差」****
・・・・東アジア諸国はかつての儒教国だという性格を共有し、欧米諸国と比較すると、家庭や社会の中での女性の地位が低いと考えられているが、経済発展と社会の近代化が進んだ高所得国では、幸福度にそれが反映しているわけではなさそうである。
むしろ、女性は、①家族の財産権、相続権の男女平等など近代的な法律上の位置、②家事労働を軽減する家電製品の発達、③子育て、老親の世話の負担を軽減する社会保障の充実、などにより、かつての家への従属・拘束から解放されて自由になったのに、男性の方は、男性の権利ばかりでなく責任も大きかった過去の伝統に引きずられ、自分が家族やまわりを支えなくてはと思いすぎて、幸福度を感じにくくなっているのではと想像される。【本川 裕氏 「社会実情データ図録」】
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【“やたらと楽しそうな”日本の女子学生】
上記の“男性に比べて女性の幸福度が高い”という日本の特徴を反映した調査がもうひとつ。
高校1年生を対象とする国際学力テストであるOECDのPISA調査によると、日本を含む東アジア儒教圏の生活満足度が他のグループより際立って低いこと(下記図の横軸で見ると、先述のドミニカは最高に対し、韓国は下から二番目)、ほとんどの国が男子学生のほうが満足感が女子学生より高いのに対し、日本だけが女子学生のほうが高いこと(縦軸で見て、日本だけがマイナス)が示されています。
****日本の女子高生がやたらと楽しそうな理由****
世界の高校生は生活満足度の状態で文化圏ごとにグループ分けできる
・・・・・(高校1年生を対象とする国際学力テストであるOECDの)PISA調査では、学力テストのほかに、学力の要因を探るため、先生や同級生との学校生活の状態や学習意欲、生活満足度などの意識の状態を、生徒に対する調査票によって調べている。
図1には、世界48ヵ国の生徒の生活満足度の状態を示すグラフを掲げた。ここで生活満足度は、0から10までの11段階で回答を求めた結果の平均点で示されている。
X軸方向に「生活満足度の高さ」、Y軸方向に「生活満足度の男女差」を取った散布図を描いた。これを見ると、欧米、ラテンアメリカ、イスラム圏、東アジア儒教圏といった文化圏ごとに、ほぼ例外なく、国々がグループ分けできる点が非常に興味深い。
また、日本については、東アジア儒教圏の共通の特徴として、X軸方向の全体的な満足度が世界の中でも最低の水準になっているとともに、Y軸方向については、世界では一般に男子生徒の生活満足度が女子生徒を上回っている中で、唯一、女子生徒の方が上回っている点で非常に特徴的だ。(中略)
日本だけでなく、儒教の影響がなお残る東アジア諸国では、所得が高くなってもなかなか幸福を感じないようなのだ。(中略)
東アジア諸国の高校生の生活満足度が、世界の中で最も低くなっているのは、上述のように、成人と比較して学生の場合は所得水準との関係が薄く、さらに教育分野では儒教の影響がなお大きいこともあって、成人と同じ理由がダイレクトに働いているためだといえる。(中略)
日本の高校生も、先生や親の期待に十分応えられていないと感じてしまいがちなので、生活満足度が欧米などと比較して低くなってしまっているのであろう。
さらに、人生態度に関する、これ以外の文化心理学的な要因も考えられる。
幸福感研究の世界的な第一人者、エド・ディーナーとの実験心理学的な研究で知られる大石繁宏氏によれば、社会の流動性が高く、友人を選択する可能性の高い米国では、弱音を吐くと友人から「お荷物になりそうな面倒な奴だ」と思われるプレッシャーがあるという。
これに対して、友人を選ぶ余地の小さい島国の日本では、悲しみや苦しみを共有する人間関係が大事だと思われており、「自分が元気すぎると不幸な友人を傷つける場合がある」という配慮が働く。欧米起源のスポーツと異なり、日本の武道や大相撲では、勝者のガッツポーズが控えられているのも同じことだといえる。
このため、全体としての満足度を聞くアンケートに答える段階で、欧米では毎日の満足度のうちいい面だけ回顧し、日本では悪い面だけを思い出して回答する傾向があり、結果として毎日の満足度は同じレベルでも、日本人の満足度は低くなるという(大石繁宏「幸せを科学する」p.35〜43)。(中略)
全ての国で、生活満足度の男女差は、「男マイナス女」が成人より高校生の方が大きくなっている点が印象的だ。成人については生活満足度に男女の差があまりないのに対して、高校生については、男子生徒が女子生徒を上回る場合が圧倒的に多いのだ。(中略)
PISA報告書によれば、女子高生の生活満足度が男子より低いのは、一つの可能性として、「思春期の女子の厳しい自己批評を反映しているのではないか」と考えられている。
すなわち、マスメディアが前提にしている「スリムで理想的な体型」や、ソーシャルメディアで共有されている美しいとされる体型の画像の影響にさらされていることが、思春期の女子の自己認識や満足感にネガティブなインパクト与えているとされているのである。(中略)
日本の女子高生がやたらと楽しそうなのは古い道徳からも新しい規範からも自由なため
ここまで考えてくると、日本の女子高生の生活満足度が、世界で唯一、男子より高い理由の一つは、自分の身体イメージへのこだわりについて、欧米のようには強迫観念にまでは至っていないためだと考えられる。(中略)
さて、日本の女子高生の生活満足度が世界で唯一、男子より高いことを説明するもう一つの要因は、成人の生活満足度がそもそも女性優位であり、女子高生もそれと同じだと考えられるからである。(中略)
このように、日本の女子高生が男子より楽しそうなのは、男性と比較して、性差に対する旧来の道徳感からの解放が進んでいると同時に、若い女性の身なりや体型はこうあらねばならないという情報社会の新規範からも外国と比較して自由だから、というのがデータから推察されるとりあえずの結論である。【1月17日 本川 裕氏 ダイヤモンド・オンライン】
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大幅に省略しましたので文脈・論旨が不明瞭になってしまいました。興味のある方は上記リンク先でご覧ください。
ただ、“日本の女子高生がやたらと楽しそうな”理由が、“自分の身体イメージへのこだわりについて、欧米のようには強迫観念にまでは至っていないため”というのは、個人的にはあまり説得的でないように感じています。
【自殺にみる男女格差】
ついでに男女差に関する、全く別の観点からの数字を。
2017年の日本全国の自殺者は16年よりも757人少ない2万1140人で、8年連続で減少しています。結構なことです。
男女別にみると、男性が1万4693人、女性は6447人で、男性が女性の倍以上になっています。【1月22日 Record china】
*****自殺者の70%は男性 統計データから見る男性の自殺リスク*****
・・・・アメリカの男性自殺率は女性の4.2倍、イギリスは3.6倍とのこと。自殺率の男女格差が日本と同程度かそれ以上に激しい国も、世界には少なくないようです。
WHOの報告によると、英米と同じく旧ソ連・旧共産諸国も自殺率の男女格差が大きく、ロシア、ベラルーシ、ウクライナ、エストニアなどは日本とほぼ同じの約2~3倍程度、リトアニアについては男性自殺率は女性の6倍という驚きの数字です。
興味深いのがイスラム圏と中国で、これらの地域においては女性自殺率が男性自殺率を僅かに上回ります。アフガニスタン、イラク、インドネシア、パキスタン、中国……など。(後略)【小山晃弘氏】
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このあたりも興味深いところですが、長くなったので、また別機会に。