(【2017年12月22日 朝日】 こうした豪中間の人的交流は、現在の緊張がコントロールされれば、将来的には豪中両国をつなぐ“太いパイプ”にもなるでしょう。)
【中国を意識して接近する日本とオーストラリア】
中国の海洋進出を念頭に、日本がインド太平洋戦略の基軸の国としてインドとともに重視するオーストラリアのターンブル首相が来日しています。
****<日豪首脳会談>「インド太平洋」連携確認****
安倍晋三首相は18日、オーストラリアのターンブル首相と首相官邸で会談し、日米が掲げる「自由で開かれたインド太平洋戦略」での連携や、米国を除く環太平洋パートナーシップ協定(TPP11)の早期発効を目指すことを確認した。
首相は冒頭で「北朝鮮の脅威や安全保障、TPP11などについて胸襟を開いて議論したい」と述べ、ターンブル氏も「日豪は同じ志を持って自由貿易、法の支配をこの地域で維持しようとしている。一層協力していく」と応じた。
日本はインド太平洋戦略の基軸の国として豪州とインドを重視。会談で両首脳は、中国の海洋進出を念頭に、東南アジア諸国の海上警備能力の構築支援などについても協議したもようだ。自衛隊と豪州軍が共同訓練で相互訪問する際の法的地位を定める「円滑化協定」の早期合意を目指すことも確認する。【1月18日 毎日】
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オーストラリア側が日本との関係を重視する背景としては、中国との関係が最近悪化しているという事情が指摘されています。
****日本にすり寄る豪州 ターンブル首相18日訪日、政権テコ入れ 中国離反、米とは関係悪化****
オーストラリアのターンブル首相が18日に訪日する。
2015年9月の“党内クーデター”で安倍晋三首相の盟友だったアボット前首相を追い落とし、有力視されていた日本の「そうりゅう型」潜水艦導入を退けた。
親中派の元実業家として知られ、経済立て直しに中国との関係強化を掲げたが、中国の“内政干渉”もあって結局は頓挫。同盟国の米国との関係もギクシャクするなか、日本からの支援を取り付け、政権基盤のテコ入れを図る姿勢だ。
豪公共放送(ABC)は16日、在キャンベラの中国大使館が昨年10月に最大野党・労働党の議員十数人を夕食に招き、豪政界への政治工作疑惑の払拭に努めたと報じた。その数日前、豪政府幹部は国内の学生に対し、中国共産党の影響力に備えるよう、異例の呼びかけをしていた。
豪政府は先月、中国を念頭に、外国人から影響を受けた国内組織や政治献金の監視を強化する措置を法制化。中国との癒着が指摘された労働党のダスティアリ上院議員が辞職表明に追い込まれるなど、豪中間のつばぜり合いは激化している。
中国共産党機関紙・人民日報系の環球時報が先月発表した「2017年の最も中国に非友好的な国」調査によると、1位は6割の豪州で、2位のインド、3位の米国、4位の日本を引き離した。ネットユーザー向けに初めて実施された同調査は、豪中の離反が民間でも強まっていることを浮き彫りにした。
一方、豪州の同盟国である米国との関係は冷え切ったままだ。初の電話会談を「最悪だった」と酷評したとされるトランプ大統領とターンブル氏との関係が改善する兆しはみられない。
2016年9月に駐豪州米大使が帰任してから15カ月以上、同席は空席のまま。豪州では「外交上の侮辱行為の一歩手前」(フィッシャー元副首相)などといらだちが募る。
国内では、二重国籍問題で議員の辞職が相次ぎ、かろうじて過半数を維持する保守連合の政権が揺らぎ、首相の支持率も低下している。
こうした中、注目されているのがターンブル氏の訪日だ。有力紙オーストラリアン(電子版)は14日、「日本との軍事協定で中国の威力に対抗」と題した記事で、日豪首脳会談で議題になると予想される自衛隊と豪軍の共同訓練に言及。
豪戦略政策研究所(ASPI)のピーター・ジェニングス所長は、太平洋戦争で1942年に日本から攻撃を受け、現在は米海兵隊が巡回駐留する北部ダーウィン港に触れ、「3カ国演習の機会増加に期待する」と強調した。【1月18日 産経】
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“すり寄る”という表現はいささか感情的なものが感じられまが、それはともかく、現在のオーストラリアの状況は上記記事にほぼ網羅されています。
オーストラリア議会では二重国籍問題で辞職する議員が続出し、ターンブル政権も副首相など複数の閣僚が辞職。昨年12月に行われた下院補欠選挙で敗れると少数与党に転落する・・・というところまで追い込まれましたが、補選は勝利したことで、何とか議会多数派は維持しています。
ただ、ターンブル首相の支持率は昨年11月時点で36%と、過去最低に落ち込んでいます。
【政治家への献金問題や中国人留学生への暴行問題などで高まる中国・オーストラリア間の緊張】
オーストラリアを取り巻く国際情勢の中心にあるのは、やはり中国との緊張の高まりです。政治家への献金による「内政干渉」問題に加え、ターンブル首相には中国問題で“弱腰”を見せられない事情もあるようです。
中国との関係が緊張するにつれ、中国人留学生への暴行なども起きており、両国関係の悪化を加速させています。
また、このことは、オーストラリアが潜在的に有している差別的“白豪主義”を呼び覚ます危険性も指摘されています。
****中国問題で揺れる豪州 献金で辞職する議員、留学生襲撃も****
オーストラリアではターンブル首相自らが、中国がオーストラリアの政治に対して「これまで前例のない、ますます巧妙な工作を行っている」と発言。
中国側が反発すると、ターンブル首相は毛沢東主席の建国宣言をパロディーのように用いて、中国語で「オーストラリア人民は立ち上がった)」と述べ、中国側は改めて反発した。
事態はさらに進展した。オーストラリアの野党・労働党のダスティヤリ上院議員が12日、中国人実業家から政治献金を受けていたことを認め、辞職して次回選挙に出馬しない意向を明らかにしたのだ。ダスティヤリ議員は南シナ海の問題について中国寄りの発言を続けてきたことで知られている。(中略)
ここで思い起こしてしまうのは、「オーストラリアの国内政治に影響を与える考えはない」としていた中国外交部の耿爽報道官の発言だ。(中略)献金していたことが事実ならば、中国は金銭を使って他国の政治に干渉していたことになる。(中略)
陸慷報道官はダスティヤリ議員の辞職表明直後の12日の記者会見では、同議員の辞職問題について「他国の内政についてはコメントしない」と述べた上で、「最近、個別の西側国家で突然、『他国の内政には干渉しないこと』に関心が出ている。よいことだ。これらの国の人々の頭に、『内政不干渉』が根づけば、国際関係の健全な発展に効果がある」などと述べた。
この「妙に強気な対応」は、中国人が窮地に立たされた場合にしばしば見せる反応だ。自分らの姿勢にブレがないことを「証明」しようとする心理が働いているように思える。(中略)
オーストラリア内には、ターンブル首相以上の対中強硬論も多い。そこで問題になるのが、オーストラリア経済に中国への依存体質が定着してしまっていることだ。
オーストラリアにとって中国は2000年以来、最大の貿易相手国だ。中国政府商務部(商務部)によると、2016年におけるオーストラリアの対中輸出額は599億1000万ドルで、前年比1.4%減とわずかに後退したが、同国の輸出総額の31.5%を占めた。オーストラリアの主な輸出品目は鉄鉱石や石炭だ。
中国には、関係が悪化した国を経済面で苦境に陥れようとした「実績」がある。しばらく前には尖閣諸島の問題などで対立を強めた日本に対してレアアースの輸出を差し止めた。最近では、高高度防衛ミサイル(THAAD)配備で、それまでは「蜜月関係」だった韓国が、中国人観光客の激減や中国に展開する韓国系小売チェーンのロッテマートが営業中止に追い込まれるなどで、大きな打撃を受けた。
そのため、中国が石炭や鉄鉱石の輸入先をブラジルに切り替える可能性があるとの見方もある。(中略)
オーストラリアについては、もうひとつ注目すべき事情がある。ターンブル政権が発足したのは9月20日だった。ターンブル氏の子息は北京での留学期間中に知り合った女性と結婚したが、この女性は中国政府のアドバイザーとして活躍し、江沢民元国家主席とも親交があったとされている。
そのためオーストラリアでは「ターンブル首相には中国寄りの姿勢が目立つ。その背景には親族の問題がある」との批判も出ていた。ターンブル首相は国内からの批判を避けるためにも、中国に対してある程度以上、毅然とした姿勢を取り続けざるをえないだろう。
オーストラリア国内では、反中感情も高まっているようだ。在メルボルンの中国総領事館は19日、「最近になりオーストラリアの複数の場所で数回にわたり、中国人留学生を侮辱したり殴打する事件が発生している」「オーストラリア滞在中には安全上のリスクに直面する可能性がある」として注意を呼びかけた。(中略)
たとえ中国の政策に対する激しい反発があったとしても、中国人の留学生を襲撃する行為が許されないことはもちろんだ。ましてオーストラリアには、人種差別政策の「白豪主義」を長年にわたり取り続け、1970年代になりやっと「人種差別禁止法」を成立させるなどで、「多文化主義」を国際的に掲げるようになった経緯がある。
実際には、オーストラリアで白人至上主義の感情が消えたわけではない。2005年には暴徒化した白人集団が中東系移民を無差別に襲撃する事件が発生した(クロナラ暴動)。
アンケート調査でも、白豪主義的な考えを持つ人が相当数存在することが分かっている。また、「白豪主義」「保護貿易」「反イスラム」を主張するワン・ネーションが連邦議会(国会)で議席を確保している。
世界全体を見てもこのところ、「自国絶対優先主義」を掲げる政治勢力の台頭が目立つ。オーストラリアについても、中国との対立が引き金になり、「白人至上主義」が勢力を得る可能性が全くないとは言えない情勢だ。【2017年12月22日 如月隼人氏 Record china】
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【大学・大学院生約141万人のうち中国出身が約12万人】
中国との関係悪化が重要な問題となるということは、オーストラリアにとって、それだけ中国の存在が大きいことの裏返しでもあります。
経済関係では、上記記事のように“中国は2000年以来、最大の貿易相手国”ですが、留学生についても、同様の関係があります。
****留学大国、豪州の光と影 中国人が最多、学費割高 資源輸出に並ぶ稼ぎ/学問の自由に懸念****
オーストラリアで鉱物資源輸出と並ぶ外貨獲得源が「留学」だ。
キャンパスの4人に1人を占める留学生が落とすお金が大学や業界を潤す。「お得意様」は中国人だが、祖国への批判を許さない一部学生の言動が、研究や学問の自由を脅かす事態になっている。
豪州で最も古い歴史を持つ1852年創設のシドニー大学では、アジア系の学生たちが目立つ。
北京出身の孫宇澄さん(22)は11月に建築デザインを学ぶためにやってきた。年約3万豪ドル(約255万円)の学費と週500豪ドルの家賃は「親が払ってくれます」。父は装飾業、母は教師だという。
豪政府によると、2015年の大学・大学院生約141万人のうち約36万人が留学生。うち中国出身が約12万人で1位を占めた。
外国人の留学を支援する専門業者はシドニーだけで約800ある。大手の「iae留学ネット」は年間4千人が利用するが、6割が中国人だ。「大半は裕福な家庭の出身で、学費は気にしない」と同社シドニー店の中国人担当レベッカ・ワンさん(37)。
学生は、入学手続きから空港への出迎えまで同社の支援サービスを無料で利用できる。代わりに、留学先の大学が初年度の学費の10~15%分を「紹介料」として払う。留学生は、授業料が豪州人学生の4、5倍高く設定されている。大学にとって高い収益を上げる上客と言える。
豪州は、15年度のサービスも含めた輸出で「教育関連の旅行サービス(留学)」が198億8100万豪ドル(約1兆6900億円)と、鉄鉱石と石炭に次ぐ第3位の金額を稼ぎ出した。
■台湾を国扱い、抗議受け配慮
中国人留学生の存在感が増すなか、「学問の自由が脅かされる」と懸念する報道が相次いでいる。
「私たちを不愉快にさせた」。8月下旬、豪南東部のニューカッスル大学で中国人学生らが講師に抗議する動画がネットに公開された。台湾を「国」に分類する資料を講義で使ったことが理由だった。大学が「全教職員と学生は敏感な事柄に注意を払うように」と声明を出す事態になった。
同じころ、「中国とインドの係争地にインドが主張する境界が引かれた地図を使った」とシドニー大の講師を非難する投稿が中国語サイトに載った。講師は謝罪に追い込まれた。
豪紙オーストラリアンは、ニューカッスル大学の対応の背景に在シドニー中国総領事館の関与があったと報じた。
中国の民主化を求めるシドニー工科大の馮崇義・准教授は「中国大使館や領事館は(各大学の)中国人学生のリーダーと定期的に会合を持っている」と解説する。
一連の事案を記者に問われたビショップ外相は10月、「言論の自由が抑え込まれる状況を見たくない」と答えた。対中関係に詳しいマッコーリー大のベイツ・ギル教授は「『中国人学生はお金を払ってくれるから』では、健全な学問は維持できない」と話す。【2017年12月22日 朝日】
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「中国はオーストラリアの中国人留学生を監視コントロールしている」という警戒感も、オーストラリア側には生じているようです。もちろん、中国側は否定しています。
****オーストラリアの中国人留学生は中国当局に監視されている?****
2018年1月17日、中国メディアの環球網によると、駐豪中国大使館は一部で流れている「オーストラリアの中国人留学生を監視コントロールしている」との指摘を否定した。
記事によると、2017年10月にオーストラリアの政府関係者からオーストラリアの大学に対し、「中国の影響力に警戒するように」との呼び掛けがあった後、駐豪中国大使館が10人以上の新人議員を大使館に招いて食事を行った。その席で大使館は、「中国はオーストラリアの中国人留学生を監視コントロールしている」との非難について強く否定したという。
(中略)中国の外交官は「駐豪中国大使館には教育を担当する職員は3人しかおらず、オーストラリアに10万人以上いる中国人留学生を監視コントロールするなど、どうしてできるだろうか」と述べたという。(中略)
17年後半から中豪関係は緊迫しており、オーストラリア国内では「中国の影響力浸透論」が高まっている。駐豪中国大使館は昨年12月、豪メディアによる批判的な報道について「冷戦思考と偏見に満ちており、典型的なヒステリーとパラノイアである」と批判している。【1月18日 Record china】
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中国人留学生に対する暴行に関しては、下記のような事件も。
****中国人留学生2人に数十人が集団暴行、「中国に帰れ」と叫びながら****
(中略)負傷したのは、キャンベラの学校に通う高校2年の中国人留学生2人。
23日午後7時40分ごろ、バス停でバスを待っていた2人に地元の少年4人が近づき「たばこをよこせ」と要求。2人が拒否すると、4人は「中国に帰れ」などの罵声を浴びせかけた。
中国人留学生の1人が「うせろ」と反撃すると4人は暴力を振るい出し、ちょうどバス停に停車したバスから降りてきた二十数人も加わって、2人を袋だたきにした。【2017年10月30日 Record china】
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オーストラリアでは、以前、インド人留学生への暴行・襲撃も問題となったことがあります。
やはり、白豪主義的な差別意識が社会の根底に根強くあるのでしょうか。
【中国に面倒をかけた国は・・・・オーストラリアが断トツで1位、日本は4位】
こうした“内政干渉”をめぐる政治的緊張、留学生をめぐる暴行や監視疑惑などもあって、冒頭【産経】で取り上げてられている調査結果となっています。
****今年中国に対して最も「非友好的」だった国は?日本は意外な順位****
2017年12月25日、環球網は、「今年、中国に対してもっとも非友好的だった国」を尋ねるアンケートを開始した。
環球網は「2017年が間もなく終わろうとしているが、世界にとっても中国にとっても特別な、そして大きな意味を持つ1年となった。この1年、中国は朝鮮半島問題や南シナ海問題などの旧来の問題の対処に成功するとともに、高高度防衛ミサイル(THAAD)配備問題やドクラム高地の対峙(たいじ)など、新たな問題にも対応した」とした上で、今年1年、中国に面倒をかけた国はどこかをネットユーザーに尋ねている。
選択肢は、オーストラリア、米国、インド、韓国、日本、ドイツ、シンガポール、ベトナム、その他、の九つだ。
26日午前10時45分現在、約1万3000件の投票があり、先日中国との癒着が指摘された野党上院議員が辞職する騒ぎが起きたオーストラリアが7059票と過半数を獲得して独走状態となっている。
2位はインドで1764票、3位は米国の1410票。日本は4位の1142票となっている。THAAD問題でほぼ1年間に渡り関係が冷却化した韓国は525票の5位。6位以下はドイツ(104票)、ベトナム(99票)、シンガポール(96票)で、その他の国は97票となっている。【2017年12月26日 Record china】
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調査時点のタイミングの問題もあるのでしょうが、恒常的反日問題を抱えている日本としては、非常に“意外な結果”です。
中国も日本だけを敵視している訳でもなく、オーストラリアやインドなど、厄介・面倒な相手をいろいろ抱えているということは、日本が中国と付き合っていくうえで、ひとつの事実認識として重要でしょう。