孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  ビッグデータ解析・ネット規制でめざす「神の見えざる手」によらない「特色ある社会主義」

2018-01-23 22:54:50 | 中国

(現金やクレジットカードには対応せず、アリババの「支付宝(アリペイ)」を使って個人情報を登録した会員だけがスマホで決済できるしくみの上海市内の格安大型スーパーマーケット【1月9日 産経】 ブラックホールに吸い込まれるように個人情報が蓄積されていきます)

とりあえず走ってみる。問題があったら対応はそのあとで・・・
中国では、現金を多用する日本とは異なり、スマホを利用したモバイル決済が主流となっていることは、これまでも再三取り上げてきました。

“中新網(CNS)のウェイボー(Weibo)アカウントで、出かける際に財布を持つかどうかについてアンケートを行った結果、回答した1018人中41.8%が「持たない」、41.1%は「持っていくが、携帯電話で支払うことが多い」と答えた。携帯電話一つで何でもできる日もそう遠くない。”【1月16日 CNS】

モバイル決済を前提にした自転車シェアリングなど、新たなサービスも拡充・拡散しています。

中国“ご自慢”の高速鉄道では、事前にスマホから食事を注文して、指定駅で座席までデリバリーしてくれるサービスも一般化しているようです。(このデリバリーも、現代中国社会の特徴のひとつです)

****高速鉄道ネットデリバリーサービスがより便利に、特産の注文も―中国****
中国鉄道総公司によると、鉄道部門は1月23日から高速鉄道ネットデリバリーサービスに対しアップグレートを行った。

注文できる時間を列車が出発する2時間前から1時間前に繰り下げたと同時に、高速鉄道での地方特産物注文予約サービスもスタートした。新華網が伝えた。(後略)【1月23日 Record china】
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走る前にあれこれ考え、結局走らない日本に対し、とにかく走ってみて、問題があればそのとき考えるというのが中国流ですから、いろんなサービスが出現する一方で、いろんな問題も当然に起こります。

****中国の無人コンビニBingo Box、役員の離職や営業停止相次ぐ****
中国で半年前にオープンした無人コンビニエンスストア「Bingo Box」。役員の離職や、営業停止が各地で相次ぐなど、さまざまな問題が浮上している。同社に限らず、無人コンビニの開業ペースは調整期に入った。(中略)

陳CEOは去年7月、無人コンビニを翌月末には全国200か所に展開し、同年内に5000店舗出店を目指すと発表していたが、その後、各地で出店した店舗に対し、現地政府から営業停止命令が相次いで出された。

営業停止の主な理由は、申請手続きの不備や、防火対策に問題があったことなど。最近のデータによると、全国29か所、300店舗までしか展開できていない。
 
展開スピードが減速したことについて陳CEOは、「急ぎ過ぎたことで多くの問題が起きてしまった。それを教訓として今後はスピードを落とし、じっくりと問題点を改善していき、各地域の政府と協力して運営条件などを擦り合わせたい。また、新たな画像識別技術を取り入れたレジを近々導入する予定だ」と話した。
 
無人コンビニを経営する会社は、昨年1年間で約30社設立されたが、中でもトップを走るBingo Boxは、経営モデルや運営方法を模索し続けている。【1月18日 東方新報】
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こうした“走りながら考える”やり方は、急激な社会変化を可能にしてもいますが、そうした変化についていけない人々もやはり存在するようです。

****<中国>春節に帰れぬ農民工 スマホ使えず、帰省切符買えず****
中華圏の旧正月「春節」(2月16日)まで1カ月を切った中国では帰省に向けた鉄道の切符の販売がピークを迎えている。

数億人が参加する激しい争奪戦は、急速なIT化を反映しインターネットによる販売が大半を占める。便利さによって長蛇の行列が減る一方、ネットを使いこなせない一部の出稼ぎ労働者「農民工」には、待ち望んだ家族との新年をあきらめざるを得ない人も出ている。

「何時の列車でも構わない。1枚だけでいいんだ」。上海駅の切符売り場で劉月英さん(62)は窓口に向かって、何度も繰り返した。妻と孫が暮らす町に近い湖北省武漢市までの150元(2600円)の切符を買うため、駅に通って3日目。だが端末を検索した女性係員は「没有(ないです)」。劉さんは後ろの客にせかされ、やむなく窓口を離れた。「他に買える場所がない。昔は朝早く並べば買えたんだ」
 
中国国鉄の規則では発売開始はインターネットと電話では乗車30日前からだが、駅窓口は2日遅い。春節前からは発売数分で完売となることが多い。

中国メディアによると、14日までに発売された春節期間の切符1億3300万枚のうちネット販売が78%を占めた。
 
その多くがスマートフォンのアプリ経由だ。事前に予約を受け付け、発売と同時に自動的に注文の接続を繰り返す。あるアプリでは50元(850円)を払えば接続頻度が4割アップする機能もある。(中略)

中国政府系機関の調査ではネットは全人口の53%に当たる7億人強(2016年)に普及した。一方、高齢者を中心に地方出身労働者にはネットを使えないか、限られた機能の利用にとどまる人も少なくない。

春節には農民工専用列車が走るなど、救済策も用意されているが利用できる人は一部だ。高速鉄道の作業現場で働く60代の男性は「春節に帰るのは無理だ。1年ぶりに孫の顔を見たかった」と話し、駅を後にした。【1月20日 毎日】
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「中国には弱者の利益を代弁する共産党のような左翼政党はないのか?」と思ってしまうような光景ですが、その共産党の一党支配社会であることが皮肉なところです。

【「ビッグ・ブラザーがあなたを見ている」監視社会、さらには信用度ですべてが決まる「ランク社会」へ
急速に進展するモバイル決済システムで集まる膨大な個人情報に、国家が保有するIDカード作成に伴う情報、街中に配置された膨大な数の監視カメラ・・・・それらの行きつく先として懸念されるのが、ジョージ・オーウェルの未来小説「1984年」に描かれたような「ビッグ・ブラザーがあなたを見ている」という監視社会であろうことは、多くの者が思うところです。

お尋ね者の指名手配犯が田舎のお寺に潜りこみ、その地域の人々から非常な尊敬を受けるまでになったのですが、公安局のビッグデータを用いたデジタル捜査によって逮捕される・・・・という話も起きているとか。

****住民が尊敬していた中国の名僧、なんとその正体は****
・・・・中国では全国民が顔写真入りのIDカードの作成を義務付けられており、相当な分量の顔写真が当局のデータベースに保存されているほか、これに紐付けされた銀行口座や携帯電話番号なども一括して把握されている。

また、中国全土をオンラインでカバーする監視カメラと、顔認証技術をはじめとした最新のテクノロジーが、「維穏」(社会の治安維持)を名目に当局側によって大いに活用されている。(中略)

いまや中国は国民のデータベース化に加え、全国に1億7000万台の監視カメラが設置されたサイバー監視大国となっている。監視カメラのうち2000万台は顔認証機能で指名手配中の犯罪者を自動認識するアプリが組み込まれた最新型だ。
 
2015年ごろから整備されるようになったこの徹底した犯罪者追跡システムは「天網工程(スカイネット計画)」と呼ばれている。犯罪者が出家して僧侶になることで過去をごまかす手法も、いよいよ通用しなくなってきたというわけだ。(後略)【1月22日 JB Press】
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監視社会の懸念・・・というより“現実”については、2017年12月23日ブログ“新疆ウイグル自治区  圧倒的な治安維持強化のもとで進む「完全監視社会」構築”でも取り上げたところです。

また、単に国家から監視されるだけでなく、個人生活のあるゆる場面で、顔認認証システム、スマホ決済データなどから導かれる“信用度”で評価される“ランク社会”にもなります。こちらも現実化しつつあるようです。

2017年9月11日ブログ“中国 顔認証システム、信用の可視化 その次にやってくるのはSNSによる「ランク社会」か

****スマホ、監視カメラ…中国は今、ジョージ・オーウェルの「1984年」の世界****
中国で日常生活のあらゆるシーンから現金を使う支払いが消える「キャッシュレス化」が猛烈な勢いで進行している。銀行口座に直結したスマホが主役だ。
 
アリババが運営する「支付宝(アリペイ)」など複数のサービスに延べ12億人が登録。決済額は2016年に約35兆元(約610兆円)、17年は倍増した。
 
驚異のスピードと決済規模だが、アリペイに付加された機能の「芝麻信用(セサミ・クレジット)」には別の意味で驚かされる。
 
1年近くアリペイを使った記者(河崎)の個人評価は「617点」だった。
 
950点満点の5段階評価で「極好」と「優秀」に次ぐ「良好」だ。小学校の通信簿なら「3」。買い物や公共料金の支払いなどに問題はなく、2と1にあたる「中等」「較差」は免れた。

ただ、不動産や自家用車の所有など資産状況、交友範囲に富裕層がいるかなどまで評価されるため、点数はいまひとつだった。
 
点数が高いと消費者金融から無担保で借り入れができるほか、ネットで公開すれば“称賛”を浴びることもでき、メンツが立つ。だが支払い滞納で点数が下がると、鉄道のチケット購入が制限されるなど、生活に支障が生じるしくみだ。
 
利便さと引き換えに個人のあらゆる情報や行動がネット業者に蓄積されて「格付け」され、店頭で撮影される顔の画像データも加わって、アメとムチで人々の生活を監視していく。

中国人に携帯が義務づけられている身分証も、中国版LINE「微信(ウィーチャット)」に電子的に埋め込む制度が近く本格化する。
 
こうしたキャッシュレス社会の個人情報管理について、香港中文大学の張●(=或のノを三本に)(イク)●(=民の右に攵、下に日)(マン)講師(社会学)は、「政治的な監視も可能で『1984年』に描かれた世界が出現した」と考えている。
 
英国の作家ジョージ・オーウェルが1948年に執筆し、49年に刊行された未来小説「1984年」。一党独裁の社会で人々は、街中でも自宅でも「テレスクリーン」と呼ばれる双方向の映像装置で監視され、党やそのトップ「ビッグ・ブラザー」に背く言動がみつかれば思想警察に捕らえられて監禁、拷問される。
 
旧ソ連を念頭に70年前に書かれたが、スマホやネットワーク化された監視カメラは21世紀のテレスクリーンともいえ、オーウェルの慧眼には驚くばかりだ。
 
ニューヨーク証券市場に上場している民間企業のアリババ。ただ、蓄積データはすべて中国内にあり、中国共産党が命じれば、党に差し出さねばならない。(中略)
 
小説に描かれたシーンでは「ビッグ・ブラザーがあなたを見ている」と書いたポスターが、街角のいたるところに貼られている。
 
現代のビッグ・ブラザーは、そんな直接的な表現はしないが、人々をキャッシュレス社会の利便性のとりこにさせながら、監視機能を飛躍的に高めることに成功した。しかも数十億人分の膨大な情報を蓄積、分析できる「ビッグデータ」という最新の技術まで手にしたのだ。【1月9日 河崎真澄氏 産経】
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個人の購入・支払い情報だけでなく、資産情報、さらには交友範囲の者のランクまで加味されるという話になると、人々は高いランクの者と付き合おうとし、低いランクの者はますます社会から疎外されることにも・・・・従前ブログで取り上げたネットフリックス配信動画「ブラック・ミラー」が近未来を描く「ランク社会」の世界そのものです。

あらゆる行動・付き合いにおいて、いかに自分の信用度・ランクを上げるかが意識される「ランク社会」は、国民自らがのめりこんでいくという点で、国家による監視社会よりも怖いかも。

日本でも“いいね”の数に夢中になるような現象がありますので、こういう「ランク社会」の現実味は小さくないでしょう。

【「神の見えざる手」を凌駕するのか・・・ネットとビックデータの国家管理による「新時代の中国の特色ある社会主義」】
また、中国では当局によるネットやSNSの監視体制が強化されています。

****中国当局、15年以降に1万3000のウェブサイトを閉鎖****
中国で、当局が定めたインターネットに関する規則に違反したとして、2015年以降に閉鎖されたり認可を取り消されたりしたウェブサイトの数は1万3000に上ると、国営新華社通信が24日、報じた。
 
中国では2012年に習近平氏が中国共産党総書記に就き、同氏指導部が発足して以降、当局がインターネット規制を一層強めている。(後略)【2017年12月24日 AFP】
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****政府がSNSを監視? 発言に不安広がる 中国****
中国で人気のSNS(中国版LINEとも呼ばれる「ウェイシン」)を使ったやり取りについて、大企業の経営者が監視されているおそれがあるとの懸念を示したことが利用者の間に波紋を広げ運営会社が打ち消しを迫られる事態となり、政府などによる通信監視に対する中国の人々の不安を浮き彫りにしています。(中略)

中国では、政府によるインターネットの規制強化が進み、去年からは個人の利用者で作るグループのやり取りまで取締りの対象になっています。(後略)【1月3日 NHK】
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****#MeToo」中国でも広がる 大学教授からセクハラ、女性がネットで告発 当局は統制の動き、投稿削除も****
・・・・ただ、一連の運動は政府批判につながりかねないため、中国当局は神経をとがらせる。北京市のある大学生はネット上で、大学にセクハラ対策を求める公開質問状を出したところ、当局から呼び出され、書き込みを削除されたという。

習近平指導部は人権活動や言論の自由への締め付けを強めている。セクハラ被害の訴えには政治的なリスクも伴うだけに、告発運動がどこまで効果を上げるかは見通せない部分もある。【1月22日 西日本】
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こうした個人情報管理やネット・SNS統制を当局・党指導部の立場から考えると、「神の見えざる手」に頼ることなく「新時代の中国の特色ある社会主義」を実現する社会コントロール手段・・・という話にもなります。

****中国のネット監視社会が世界のスタンダードになる日****
王滬寧(おう・こねい)。(中略)彼は中国共産党政治局常務委員、いわゆる「チャイナセブン」(中国共産党の7人の最高指導部のこと)の1人である。(中略)

ネット規制の最高責任者
その王は常務委員に就任した直後、2017年12月に浙江省で開かれた第4回世界インターネット大会において、国家がネットを規制しネットビジネスの制度設計にも積極的に関与してゆくことを大々的に宣言した。
 
王を中国のネット規制の最高責任者と見てよいだろう。ネットが世論形成や経済活動において重要な役割を果たすようになった今日、その管理は政治局常務委員が直接担当する分野になった。
 
つい先日まで「新時代の中国の特色ある社会主義」がなにを意味するのかよく分からなかったが、王が常務委員に就任してその直後にインターネットの大会に出席したことから、「新時代の中国の特色ある社会主義」がなにを意味するのか、ようやくよく分かった。
 
ソ連が崩壊した直後、1990年代初頭、フランシス・フクヤマ氏が書いた「歴史の終わり」が世界中でもてはやされた。そこでは「民主主義」と「市場経済」の組み合わせが、人類がたどりついた最善かつ最後のシステムとされた。
 
それから30年ほどが経過したが、その間、コンピュータとネット技術が驚異的なスピードで発展し続けた。スマホは旧来メデイアである新聞、雑誌、テレビを駆逐し、ネット通販は既存の小売店を脅かしている。ビッグデータを用いて個人を特定する技術も驚異的なスピードで進歩し続けている。
 
そんな時代に王が考え出したのが「新時代の中国の特色ある社会主義」である。それは、国家がネットを使って政治と経済を強力にコントロールするシステムとしてよいだろう。
 
ソ連を代表とする20世紀に出現した社会主義国では、官僚が政治や経済をコントロールした。官僚による独裁政治である。しかしながら、ソ連が崩壊したことからも分かるように、官僚は政治や経済を効率的にコントロールすることができなかった。その結果、社会主義と官僚による独裁は効率の悪いシステムとして歴史の彼方に追いやられてしまった。
 
しかし、それから30年が経過し、ネットとビックデータの処理技術が驚異的に発達すると、中国は、再度、社会主義に挑戦することにしたようだ。それを「新時代の中国の特色ある社会主義」と呼んでいる。
 
この体制下では、国民の情報はネットを通じて全て国家によって収集される。住所や職業はもちろんのこと、通信内容、どこで何を買ったか、どこに旅行したか、ネットでどのページを見ていたかなど、ありとあらゆる事柄が国家に筒抜けになる。そこから各人の能力や志向、交友関係、政治への関心度などが明らかになる。
 
国家はその情報を用いて、経済や政治をコントロールする。それが「新時代の中国の特色ある社会主義」である。(中略)

政治において重要な意味を持つネット管理
もし、中国がこれからも順調に発展していくとしたら、「神の見えざる手」を前提とした旧来の経済学の教科書は全面的に書きかえなければならなくなる。

ネットが発達した社会では、「神の見えざる手」よりも国家がビッグデータによって管理した方が、社会をより適正にコントロールできる、ということになるからだ。

「新時代の中国の特色ある社会主義」は極めて挑戦的なテーゼである。これまでSF小説でしか語ることができなかった管理社会を、この地上に実現しようとしている。(中略)

習近平体制の今後は21世紀を占う上でも重要である。恐ろしいことだが、もし「新時代の中国の特色ある社会主義」が成功して、2050年頃に中国が米国を超えるようなことがあれば、多くの国が中国を真似ることになろう。
 
そこでは個人情報は丸裸にされる。そして、その情報を分析した国家が、国民に知らせることなく秘密の内に全てをコントロールする。
 
習近平体制は中国の今後だけでなく、コンピュータやネットが驚異的なスピードで発展する現在、我々の未来を考える上でも重要である。これから中国で起こることを細心の注意を払って見ていく必要があろう。【1月23日 川島 博之氏 JB Press】
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