孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

EU  東西分断とポピュリズム台頭 両者が集約する難民対策で困難なかじ取り

2018-01-14 22:47:53 | 欧州情勢

(焚き火で暖をとる難民たち(ギリシャ、2017年12月21日)【1月12日 WSJ】)

Brexitが些細なことに思われるような重大な事態になる恐れがあるEU内の東西の対立
EUが独仏に代表される“西欧”と、カチンスキ党首率いる「法と正義」が主導するポーランドやオルバン首相のハンガリーなどの“東欧”の間で、深刻な分断が広がっていることは、2017年12月1日ブログ“東西亀裂が深まるEU チェコのポピュリズム台頭 「非リベラル」傾向を強めるハンガリー・ポーランド”でも取り上げました。

こうした東西分断の背景には、中東欧諸国に共産主義支配の遺産とも言える、西欧的価値観へ違和感があることのほか、西欧主導のEUの側が新規加盟した中東欧の声を十分に汲み上げてこなかったことで、中東欧諸国が二流国家群として扱われているとの反感を抱いていることがあります。

西欧とは異なる価値観と西欧への不満・反発は相互に呼応して肥大し、その結果として、ロシア・中国・トルコの名を挙げて、民族的基盤に則った自由の制限された「非リベラル国家」を目指すと公言するハンガリー・オルバン政権、そして与党「法と正義」が進める司法改革が政府の司法介入を可能とし、EUが重視する「法の支配」に違反するとして、欧州委員会が制裁に向けた手続きに着手しているポーランドの現状があります。

****EUを信じる西と信じない東、広がる亀裂****
独ディ・ツァイト紙政治担当編集委員Jochen Bittnerが、10月23日付けニューヨーク・タイムズ紙に、EU内では後から加盟した東欧諸国と元加盟の西欧諸国との間に亀裂があり、双方に責任がある、とする解説記事を書いています。要旨は以下の通りです。

1990年代初期の欧州共産主義の崩壊後、チェコ、ポーランド、スロヴァキア、ハンガリーの4か国はヴィシェグラード・グループを作った。同グループは、EUとの結びつきを強め、2004年にEUに加盟した。
 
当初共産主義崩壊後の統合の旗手であったヴィシェグラード・グループは、今日では西欧が中東欧を完全には統合できないことの象徴となっている。4か国の政治家はEU反対を唱え、「EUは押しつけがましい」と批判している。
 
4か国は、西側の主流に与することを拒み、イスラム難民の受け入れを拒否し、民主主義のチェック・アンド・バランスを煩わしいものと考える。
 
こうした傾向はヴィシェグラード・グループにとって新しいことではなく、過去10年の間に見られた。過去10年、EUは北の債権者と南の債務者の間の債務危機に忙殺され、EUを信じる西と信じない東との亀裂が広がるのを見落とした。その間に中欧で疎外感が定着した。
 
こうなったことについては東西の双方に責任がある。
 
西欧は、東欧はEUに加盟しただけで満足したものと考え、東欧を二流国家群として扱った。ヴィシェグラード・グループ諸国がEUで何か提案しても無視されるか、拒否された。西欧は東欧との経験の違いを重視しなかった。(中略)

ヴィシェグラード・グループ諸国が西側の約束に幻滅を感じたのは理解できる。ヴィシェグラード・グループ諸国はEUに加盟した時、安定を期待したが、加盟直後EUはまずユーロ危機、次いで大量の移民流入で揺れた。

自由は、安全ではなく新たな不安定を意味した。多くの中東欧の人にとって、西側の一員になりながら依然取り残されることを恐れなければならないのはショックであった。
 
それとともに、中東欧では、40年間の共産主義支配の結果、国民相互、政治グループ間の不信感は大きい。専制主義時代の遺産はいまだに残っている。
 
この間、中東欧の国民は自由に適合する努力を怠った。経済は自由化したが、自分たちの心を自由化することを忘れた。
 
東西は両者が共存する治療法を施さなければならない。EU内の東西の対立は、放っておけばBrexitが些細なことに思われるような重大な事態になる恐れがある。(後略)【12月1日 WEDGE】
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ポーランド・ハンガリー以外にも、EUに批判的な「チェコのトランプ」と日系極右政治家が躍進したチェコの総選挙結果については前回ブログで取り上げたところです。

そのチェコでは、大統領選挙が行われていますが、親ロシア・中国でEUの難民政策に強く反対している現職大統領がトップで決選投票に進んでいます。

****<チェコ大統領選>親露の現職首位、過半数なく決選投票へ****
チェコ大統領選が13日開票され、現職のミロシュ・ゼマン氏(73)が首位、チェコ科学アカデミー元総裁のイジー・ドラホシュ氏(68)が2位となった。過半数を獲得した候補はおらず、26、27日に決選投票が行われる。
 
ゼマン氏は親ロシア・中国で欧州連合(EU)の難民政策に強く反対していることで知られる。一方のドラホシュ氏は親EUを主張する。

チェコの大統領は儀礼的な存在だが世論に与える影響力は強く、決選投票の結果はチェコの動向に影響を与えそうだ。
 
当局によると、開票率99%でゼマン氏は約38.6%、ドラホシュ氏は約26.6%を獲得。大統領選には9人が立候補した。ゼマン氏は主に地方が支持基盤で、ドラホシュ氏は首都プラハなど都市部で人気が高い。【1月14日 毎日】
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ゼマン大統領はトランプ米大統領のエルサレム首都認定を支持し、これに批判的なEU諸国を「臆病者」と批判しています。

****チェコ大統領 「EUは臆病者」、米のエルサレム首都認定問題で****
ドナルド・トランプ米大統領がエルサレムをイスラエルの首都と認定した問題で、チェコのミロシュ・ゼマン大統領(73)は9日、トランプ大統領を批判している欧州連合(EU)諸国を「臆病者」と非難した。
 
イスラエルの擁護者を自認するゼマン大統領は9日、反移民と反EUを掲げる極右政党「自由と直接民主主義(SPD)」の集会で党員らを前に「臆病者のEUが、親イスラエルの運動よりも親パレスチナのテロリストらの活動が優位になるよう、あらゆる手を尽くしている」と発言した。
 
来年1月の大統領選で2期目の当選を目指すゼマン氏は前日にも、トランプ氏が物議を醸しながらもエルサレムをイスラエルの首都と認定したことに満足していると述べている。(後略)【2017年12月10日 AFP】
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2017年、ポピュリズムの反乱に「執行猶予」を得たにすぎないEU指導者
EUを主導する西欧諸国は、上記のような中東欧諸国との分断に加え、各国内部に、国民の現状への不満によるポピュリズムの台頭を抱えています。

昨年は、オランダ総選挙、フランス大統領選挙、ドイツ総選挙等で、ポピュリズム勢力の最終的勝利はなんとか回避したもののその波は未だ収まっておらず、「執行猶予」状態にあるとも言えます。

****ポピュリストの波が残る欧州、2018年の課題****
欧州連合(EU)は2017年、ポピュリズムの反乱を乗り越えた。だが、反エスタブリッシュメント的でユーロ懐疑主義的な一部政党による脅威が去ったと考える人はごく少数だ。
 
欧州各国のポピュリスト政党は昨年、選挙で政権を掌握するには至らなかったものの、大きな躍進を見せた。

オランダでは極右政党の自由党が最大野党になった。
ドイツでも、アンゲラ・メルケル首相がキリスト教民主同盟(CDU)と社会民主党(SPD)による大連立を再び組むことに成功すれば、極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が最大野党になる。
オーストリアでは極右政党の自由党が連立与党の一角として新政権入りを果たした。

一方、ポーランドとハンガリーの政府は、ポピュリスト的な国内の政策課題を追求し続けており、EUは法の支配を脅かす動きだと批判している。
 
確かに、ポピュリスト政党が今年、大きな突破口を開く展望はほとんどないようにみえる。今年はイタリア、ハンガリー、そしてスウェーデンで大きな選挙を控えている。 
 
ハンガリーでは、何も変化が起きないと予想されている。ビクトル・オルバン首相率いる政党「フィデス」の支持率は、極右政党「ヨッビク」を大幅にリードしている。

スウェーデンでは、昨年12月に公表された主要世論調査によると、ナショナリスト政党のスウェーデン民主党の支持率が14.5%と、難民危機のピークにあった15年時点の20%強から低下している。

そこで大きく注目されるのがイタリアだ。同国では、反既成勢力の「五つ星運動」が世論調査でリードしているほか、ユーロ懐疑派の「北部同盟」も支持を拡大している。しかし大半のアナリストは、現行選挙法の下では決着がつかず、幅広い連立が必要になるとみている。
 
しかし、今年以降のポピュリスト的な挑戦は一体どうなるだろう。その答えはいずれも、反グローバリゼーション的でユーロ懐疑派的な諸政党への支持を駆り立てているものによって左右されるだろう。

彼らポピュリスト政党の躍進は、2015年の難民危機への反応や、もっと幅広く移民への反感をどれほど反映しているのか。

また、文化的な不安、つまり有権者が自らのアイデンティティーや伝統が失われていると感じるなかで生じる不安を、どれほど反映しているのか。

そして、そうし各政党の躍進は、世界的な金融危機やユーロ圏債務危機後の厳しい経済状況によってどの程度もたらされたのか。

厳しい経済状況とは、高い失業率や賃金の停滞であり、それが政治エリートに対する信頼低下につながっている。(中略)
 
ロンドンを拠点とするシンクタンク「経済政策研究センター(CEPR)」が昨年発表した論文は、ポピュリスト政党への支持と経済との間に強い相関関係があると指摘している。

論文は、失業率の1%ポイント上昇がポピュリスト政党の支持率の1ポイント上昇につながる傾向があるとした。この研究はヤン・アルガン氏ら4人の欧州エコノミストが実施した。
 
研究はまた、失業と、EUに対する否定的な態度との間に明確な相関関係があると指摘。失業が増加すると、EUや加盟国の政治機構、そして裁判所への信頼の低下につながるという。

これはEUにとって特別な問題となる。例えば、ユーロ圏の債務危機をきっかけに、ユーロ圏の機構上の構造や多くの国の労働市場の構造に重大な欠陥があり、それが失業の急増につながったことが明るみに出た。

それはユーロ圏と国レベルの双方での構造改革の必要を浮き彫りにした。ただ、こうした構造上の変革を実現するには信頼が不可欠だ。信頼がなければ改革はあまり進まず、したがって高失業が続くだろう。
 
EUにとっての朗報は、ユーロ圏の経済が拡大しているだけでなく、失業率も低下していることだ。失業率は8.8%と、ピークだった2013年の12%強を大幅に下回っている。
 
EU経済に対する楽観論は今や2010年以降で最高水準にあり、加盟国経済への楽観論は07年以降で最高水準となっている。

昨年12月に発表された最新のEU世論調査「ユーロバロメーター」によれば、ユーロ加盟に対する支持率は現在、ユーロ圏市民の間で74%に達しており、04年以降で最高水準にある。一方、EUを肯定的イメージでみている人の比率は40%で、中立的なイメージが37%、ネガティブなイメージが21%となっている。
 
しかし、今や欧州の運命を担おうとしているさまざまな国の大連立政権ないし少数政権は、雇用市場変革に必要な改革を本当に推進し、ポピュリスト的な脅威を永久に駆逐する能力があるのだろうか。

あるいは、一部の主流政党は、ポピュリスト的な挑戦に対処するにあたり、ポピュリストたちのアジェンダ(移民政策や難民の処遇を含む)の諸側面を取り込む傾向があり、それが国レベル、EUレベルでの改革実行を難しくするのではないだろうか。

そうしたアジェンダの取り込みが欧州懐疑派政党の存在を正当化し、政治討論を極端にしてしまいかねないからだ。
 
欧州の主流政治家たちは2017年にいわば「執行猶予」を得た。しかし、欧州政治の中長期的な安定は、上昇軌道にある経済によってもたらされた好機を彼ら政治家が18年にしっかり捉えられるか否かによって決まるだろう。【 1 月 9 日 WSJ】
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ハンガリーやスウェーデンで極右政党の伸びが抑えられているのは、政権与党自身が“ポピュリストたちのアジェンダ(移民政策や難民の処遇を含む)の諸側面を取り込む”ことで国民支持を得た結果でもあります。

オーストリアでは第1党の中道右派、31歳のクルツ氏率いる国民党は、右翼政党・自由党との連立を組むことに。
自由党は反移民や反イスラムを掲げて勢いづく欧州の他の右翼勢力と連携しており、過去に幹部がナチスを礼賛する言動をもとっています。

極右「自由党」の幹部で、内相を務めるキックル氏は「難民・移民を1か所に集中させて収容するべきだ」などと、ナチス・ドイツの強制収容所を連想させるような発言をしたの批判も浴びています。

両党は、国民党の「親EU」、自由党の「反EU」という差異はありますが、移民・難民への反感を背景に、総選挙ではともに移民の流入抑制や難民への生活保護の削減などを掲げています。

こうした連立政権の姿勢への批判も国内にはあります。2万人を超える市民が13日、ウィーンでデモを行い、「ナチスの思想の復活を許すな」などと批判の声を上げました。

再燃する難民めぐる対立 分断・分裂が深まる危険も
最初に取り上げた東西分断、そして上記の各国でのポピュリズム勢力の台頭が集約する問題が、各国による受け入れ分担が膠着している難民対策です。

(グレー部分が、受入割り当てに対し未達の人数【1月12日 WSJ】)

****EUで難民めぐる対立が再燃、6月の譲歩期限迫る****
難民への対応を巡るEU加盟各国の指導者たちの論争はこの1年間静かだったが、ここにきて再び衝突しかねない状況に戻りつつある。
 
欧州連合(EU)は、亡命を求める何十万人もの人々の処遇に関するシステムの抜本的改革を先送りしてきた。EUはここにきて、難民受け入れ譲歩のための最終期限を6月に設定したが、加盟諸国の状況は厳しくなっている。
 
ドイツやオーストリアでは、反移民を掲げる政党が躍進している。ドナルド・トランプ米大統領の発言および政策は、欧州の移民反対派を勇気づけている。

ハンガリーのビクトル・オルバン首相は当初から移民歓迎政策に反対していた人物で、この問題に関するEU指導者同士の論争が「泥仕合」の様相を呈していると最近述べた。
 
欧州がこの問題をどう解決するか。それは、ギリシャやイタリアにある難民キャンプに足止めされている何千人、何万人もの難民申請者たちの運命を決めるだけではないだろう。

加盟国間に広がった隔たりは、他の難しい決定を複雑にしかねない。力の比較的弱い国々がブリュッセル(EU本部)に対する怒りを募らせているからだ。
 
この亀裂が表面化したのは、主にシリアやイラクから100万人近くの難民が欧州南東部に押し寄せた2015年だった。そこで欧州西部および北部に位置する比較的裕福なEU加盟国は、EU全域で受け入れを分担する方法を提唱した。

だが、元共産圏のいくつかのEU加盟国は、イスラム教徒の受け入れを拒否した。その結果がこう着状態だった。
 
この亀裂は、英国が16年6月の国民投票でEU離脱(ブレグジット)を支持したことを受けて、一時的に覆い隠される形となった。それは、より貧しいEU加盟国から英国に流入する移民への懸念が大きく影響した投票結果だった。

しかし昨年12月、フランスとドイツがしびれを切らすなか、欧州理事会(EU首脳会議)のドナルド・トゥスク常任議長(EU大統領)が新たに期限を設定し、この問題を最優先課題に戻した。
 
移民や難民の大量流入を防ぐために16年にトルコと結んだ合意を受けて、難民の流入数は減っている。だがEU域内に到着した難民の受け入れをどう分担するかは、依然として大きな障害になっている。(中略)

EUのルールでは、難民申請者の扱いについては、その申請者が最初に到着した加盟国が責任を持つとしている。到着する難民の数がどれほど多くても、最初に到着した国がその義務を負うことになっている。

だが大量の難民がイタリアとギリシャに殺到したため、欧州委員会は加盟国で受け入れを分担する国別割当案を作成した。EUの閣僚理事会は、一部加盟国の反対を押し切って、およそ10万人におよぶ難民申請者の受け入れ分担を承認した。
 
ハンガリー、ポーランド、チェコ共和国はこれに従うのを拒否し、欧州委員会を訴えた。EUの最高裁判所である欧州司法裁は3カ国の訴えを退けたが、3カ国は引き下がっていない。3カ国は現在、再び難民危機が起きた場合に同様の分担枠を発動するという新たな提案に反対する構えだ。(中略)

大半の移民が最終的な落ち着き先として目指す比較的裕福なEU加盟国は、東欧の加盟諸国が反抗的なままであるなら、次回のEU予算でこれら東欧諸国への資金を削減すると暗に警告している。

だが5月に始まる予算交渉を監督する欧州委員会のギュンター・エッティンガー委員(予算担当)は8日、こうした報復的な措置に反対の姿勢を表明した。同委員は、東欧加盟国向けのEU資金削減を通じて移民政策を推進すれば、「欧州ファミリーを分断させるだろう」と述べた。そして、「我々は既に仲間内で十分に分裂している」と付け加えた。(中略)

EUの議論の中で置き去りにされているのは移民・難民自身だ。(後略)【1月12日 WSJ】
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