孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アフガニスタン情勢  アメリカ・トランプ政権のパキスタンへの支援停止で変化は?

2018-01-12 22:40:18 | アフガン・パキスタン

(中国からの投資で建設されたライトレール(次世代型路面電車)の警備に当たるパキスタンの警察官(2017年10月)【1月11日 WSJ】)

頻発するテロ ただし、タリバンとISでは差異も
アフガニスタンでのテロ頻発は今更の話ではありますが、年末から年明けにかけても大規模なテロが相次いでいます。

警察に自動車爆弾、6人死亡=アフガン【12月22日 時事】
情報機関狙った?アフガンでテロ…6人死亡【12月25日 読売】
アフガン首都で自爆、41人死亡=IS、犯行主張―シーア派集会標的か【12月28日 時事】
葬儀で自爆、18人死亡=タリバンは関与否定―アフガン【12月31日 時事】
アフガンで自爆テロ、デモ警戒の警察官ら20人死亡 ISが犯行声明【1月5日 産経】

特に、IS(イスラム国)による犯行が目立っており、上記テロについても、タリバンによるものは南部カンダハルで12月22日、大量の爆薬を積んだ自動車が警察施設に突入し自爆した最初の事件だけで、残りはすべてISによるものとされています。

タリバンのテロが対象を軍・警察に比較的絞っているのに対し、ISのテロはシーア派集会や葬儀など、一般市民をも標的にした見境のないものになっています。

イスラム原理主義的な国際テロ組織であり、異教徒・異宗派全般を憎悪するISに対し、タリバンはあくまでもアフガニスタン国内にしか関心がない土着組織で、将来的なアフガニスタン統治を目指すうえでは、世論の批判が高まる一般市民を無差別に殺害するテロとは距離を置きたい姿勢も見受けられます。(葬儀を狙ったテロでは、関与を否定する声明も出しています)

アメリカ シリア・イラクからアフガニスタンへ戦力移動
一方、アフガニスタン政府を支援するアメリカは、タリバンの勢力拡大に対し、“オバマはアフガンからの撤退を外交の目標の一つに掲げましたが、途中で増派に切り替えざるを得ませんでした。9.11後のアフガン戦争は18年に及んでいますが、米国は負けるわけにいきません。さりとて、米国が勝つ見込みもありません。”【1月11日 WEDGE】と、抜けるに抜けられないが、出口も見つからない状況にあります。

トランプ政権はアフガニスタン新戦略によって、アフガニスタンへの関与を再び強める方向にあります。
シリア・イラクの対IS戦闘が一段落しつつあることで、アフガニスタンへ兵力を振り替える余力も出てきたようです。

****米、アフガンでドローンや軍事顧問を増強へ****
トランプ政権の増派方針とシリア・イラクの対IS戦闘減少を受け

米国防総省は、トランプ政権によるアフガニスタン駐留米軍部隊の増派方針を受け、アフガンでドローン(無人機)など軍装備品の配備増強や約1000人の軍事顧問の追加派遣を計画している。米政府ならびに軍当局者が明らかにした。
 
例年戦闘が激化し始める春までにアフガンで米国の軍事プレゼンスを強化する措置で、国防総省は航空支援や監視・偵察のため武装ドローン、非武装ドローンをアフガンに大量に送り込む。
 
米政府当局者によれば、同省はまた、ヘリコプターや地上車両、迫撃砲などの能力を増強する。こうした計画は、シリアやイラクでの過激派「イスラム国(IS)」との戦闘作戦が減少したことにより可能になった。さらに、早ければ2月にアフガン治安部隊の軍事顧問として、米陸軍治安部隊支援旅団の一部を派遣する。

ドナルド・トランプ大統領は昨年8月に、アフガン駐留米軍の約4000人の増派を決定しており、米軍の規模は約1万4000人に増加する。治安部隊支援要員が加われば、その数はさらに膨らむ可能性がある。ただ、一方で撤退する部隊が出る場合もありうる。
 
米軍のアフガニスタン重視方針は大規模な配置転換計画の一環で、東アジアでの兵力を拡充する一方で、中東での兵力は縮小される見込み。ジム・マティス国防長官が昨年遅くに、イラク、シリア、アフガンを管轄するジョゼフ・ボーテル中央軍司令官に計画を検討するよう命じていた。(中略)
 
アフガニスタン駐留米軍のジョン・ニコルソン司令官は昨年11月28日に記者団に対し、「イラクとシリアでのISとの戦いに勝利したことから、アフガンに注入される力は増えると考えている」と述べた。(中略)
 
しかし国防総省は、イラクとシリアの米軍兵力を急激に削減すれば、過激派が息を吹き返す恐れがあることをよく知っている。ある米軍当局者は「気をつけなければならないのは、ISへの監視の目を離すのが早すぎてしまうことだ」と指摘し、「我々は以前に犯した過ちを繰り返したくない」と語った。【1月12日 WSJ】
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シリア・イラクが収まったと思ってアフガニスタンを強化すると、再びシリア・イラクで・・・といったモグラ叩きの危険もあります。

タリバンの最も重要な支援者であるパキスタンへの支援停止
それはともかく、現在程度の米軍の投入で、現在の苦しいアフガニスタン情勢を大幅に転換できるかという話になると、まず難しいでしょう。

マティス米国防長官は昨年6月の上院軍事委員会での証言で「現時点ではアフガニスタンでの戦争に勝てていない」とも発言、“アフガンで政府の統治が及ぶのは国土の6割以下とされ、東部ではIS、北部や南部などではタリバンが攻勢を強めている”【2017年4月22日 毎日】という状況にあります。

もっとも、タリバンのほうも一気に全土を制圧するほどの力はなく、“事実タリバンは和平協議を望んでおり、タリバンの最も重要な支援者であるパキスタンも、タリバンのカブール占拠を望んでいない”【米外交問題評議会の国家情報問題フェローのMichael P. Dempseyによる、12月3日付けニューヨーク・タイムズ紙掲載の論説】とも。

Michael P. Dempsey氏の主張の真偽のほどは知りませんが、アメリカの同盟国で巨額の支援を受けていながら“タリバンの最も重要な支援者である”パキスタンに対し、かねてより苛立ちを強めていたアメリカが、いよいよ支援停止という形で強い圧力をかけ始めたことは周知のところです。

****トランプ氏のパキスタン批判で波紋 「テロリストに隠れ家与えた」…“氷河期”の両国関係、一層冷え込みも****
トランプ米大統領が新年最初のツイッター投稿で、パキスタンを名指しで批判し波紋を広げている。

トランプ氏がテロ掃討戦への協力態勢が改善されていないと突きつけたことになり、「氷河期」(パキスタン地元記者)とも言われる両国関係が一層冷え込むことも懸念される。
 
トランプ米大統領は1日のツイートで「米国は、おろかにも15年間で330億ドル(約3兆7千億円)をパキスタンに提供したが、パキスタンは嘘と欺瞞(ぎまん)しかわれわれに与えていない」と批判。さらにパキスタンは「われわれがアフガニスタンで追跡しているテロリストたちに隠れ家を提供している。もうたくさんだ」とも指摘した。
 
新年早々の書き込みを受けて、パキスタンは2日、駐パキスタン米大使を呼んで抗議。アバシ首相は緊急閣議を開催して対応を協議し、3日には軍のトップを交えた会議も行う。アシフ外相は地元メディアへのインタビューで「(テロ対策で)われわれはすでに多くのことをなし遂げている」と反発した。
 
トランプ政権は昨年8月、アフガン新戦略の発表などを通じて、パキスタンにテロ掃討への協力を要求。パキスタン軍の情報機関「統合情報部」(ISI)と過激派組織との連携などに懸念を表明していた。

10月にティラーソン米国務長官、12月にマティス国防長官がパキスタンを訪問して協議を重ねていたが、今回の投稿は疑念が払拭されていないことを改めて浮き彫りにした。
 
パキスタンのナセル・ジャンジュア国家安全保障担当補佐官は産経新聞の取材に「米国にはテロリストの避難所がどこにあるか教えてほしい。われわれはテロリストとの戦いで血を流した」と主張している。【1月3日 産経】
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アメリカはかねて、パキスタンがタリバン幹部やハッカニ・ネットワークを「保護下」に置いていると批判しており、オバマ前政権時代からパキスタンへの圧力をかけてきています。

パキスタン国軍、その中枢でありISI(軍統合情報局)が、インドに対抗してアフガニスタンでの影響力を強めるためタリバン等のイスラム過激派を支援してきたのは事実でしょう。

“米国務省は4日、パキスタンが国内テロ組織への対応を改善するまで、安全保障関連の資金支援や武器の提供を停止すると発表した。対象となる支援の種別を精査中のため、実際に停止される金額は公表しなかったが、数億ドル規模に上るとみられる。”【1月5日 時事】ということで、2億5500万ドル分のアメリカ製装備の購入支援がすでに凍結されています。

ただ、実際に停止される金額が今後さらに、どこまで拡大するのかは、はっきりしていません。
“13億ドル(約1465億円)に上る可能性がある”(ニューヨーク・タイムズ紙)とか、下記のような“19億ドル(約2100億円)に上る可能性”なども取りざたされています。

****対パキスタン支援停止、19億ドルに上る可能性も トランプ政権高官****
米ドナルド・トランプ政権高官は5日、トランプ大統領がパキスタンへの資金援助停止を決定した場合、影響を受ける金額は当初の予想を大きく上回る19億ドル(約2100億円)に上る可能性があると明らかにした。
 
米国はここ数か月、アフガニスタン旧支配勢力タリバン系の武装勢力ハッカニ・ネットワークをパキスタンが厳しく取り締まらなければ、同国への軍事支援やアフガニスタン情勢に関する支援を凍結すると警告している。
 
米政権高官はそうした支援の内容に触れ、資金援助停止に関して「装備および連携支援のための資金」が検討対象になっていると述べた。
 
また、パキスタン政府はこれに先立ち、治安維持分野における多額の資金援助を停止するという米政府の判断は「逆効果」だと表明した。トランプ政権は、パキスタンは武装勢力に安全な拠点を提供しているとしていら立ちを募らせ、同国を公然と非難しているが、パキスタン側は慎重に表現を選びながらも米側の主張を批判した。
 
パキスタン政府内では米政府の非難に対する怒りの声が上がっており、両国関係の悪化からアフガニスタンでの米軍の作戦に対するパキスタンの支援に悪影響が及ぶことが懸念されている。(後略)【1月6日 AFP】
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それでもアメリカはパキスタンに頼らざるを得ない事情 パキスタン経由の物流ルートが不可欠
一般的には、アメリカがパキスタンを追い詰めれば、パキスタンは中国との関係をさらに強める・・・と見られています。

****パキスタン、米支援停止で中国に一段と接近へ 勢力図に変化****
パキスタン政府高官らは、米国が先週、同国への安全保障支援の停止を発表したことについて、パキスタンを中国に接近させることにつながると警告した。アジアの勢力図が変化する中、米国と中国は覇権争いを繰り広げている。
 
パキスタンのクラム・ダスタギール・カーン国防相はインタビューで「パキスタンを罰すれば米国にとって大きな敵になる」と指摘。「協力よりも処罰を選ぶことで、米国はこの地域におけるテロとの闘いを骨抜きにした」と批判した。
 
中国は既にパキスタンとの関係強化のため大きな投資を行い、アジアの勢力図を塗り替えつつある。中国は550億ドル(約6兆1000億円)の提供に加え、インフラ投資プログラムを通じてパキスタン経済をてこ入れ。共通のライバルであるインドの台頭をけん制する目的もある。
 
米国は長らくパキスタンと協力関係にあったが、近年は中国に対抗する存在となるインドに肩入れしている。こうした長期的な変化は、ドナルド・トランプ大統領がパキスタンに厳しい姿勢で臨む一方、インドにはアフガニスタンでより積極的な役割を求めていることで加速している。
 
米政府はパキスタンがアフガニスタンで武力闘争を行うタリバンやハッカーニ・ネットワークをはびこらせていると批判し、こうした状況に対応しない限り20億ドルの安全保障支援を凍結する考えを示した。
 
パキスタン政府は国内に武装勢力をかくまっている場所などないと主張し、むしろ自国が最も真剣にテロと戦う中で、米国が軍事・経済的な支援を縮小してきたと非難している。
 
パキスタンのムハンマド・アシフ外務相はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に対し、米国との協力関係に終止符が打たれたと語り、「何の同盟も存在しない」と述べた。【1月11日 WSJ】
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個人的には、これまでも繰り返してきたように、パキスタンのタリバン支援を放置したままアフガニスタン関与を強めても、穴の開いたバケツで水を汲むような話だと思いますので、パキスタンへの強い対応は不可欠と思います。

ただ、パキスタンへの支援停止は、中国の側へパキスタンを追いやる可能性、また、パキスタンが核の闇市場につながりを持つ核保有国であり、国際的支援の減少でパキスタン経済が破綻し、国内が混乱すれば、“核武装したテロ組織の台頭という悪夢が現実になるかもしれない”【1月16日号 Newsweek日本語版】という危険性もあります。

更に、アフガニスタンは内陸国であり、対アフガニスタン政策を堅持するにはパキスタン経由の物流ルートが不可欠だという現実的問題のために、結局はパキスタンをこれ以上追い込むことはアメリカにはできない・・・との見方も。

****それでもトランプはパキスタンを支援する****
テロ組織をかくまうパキスタンをこき下ろしたが、援助を打ち切れば恐ろしい未来が待ち受けている

(中略)安全保障を担うNSC報道官はパキスタンヘの2億5500万ドルの軍事支援の凍結を表明。ただし、これはトランプがツイードで示唆した抜本的な支援撤回には程遠い内容だ。
 
実際、トランプの対パキスクン政策に目新しい点はほとんどなく、今後も従来どおり援助を続けることになるだろう。
 
理由は単純だ。第1に、対アフガニスタン政策を堅持するにはパキスタン経由の物流ルートが不可欠だから。もう1つは、パキスタンがアメリカの支援を失ったら恐ろしい未来が待ち受けているためだ。(中略)
 
唯一の打開策はイランの港 
(中略)アメリカの足を引っ張るパキスタンと組んだ時点でアフガニスタンにおけるアメリカの敗北は決まっていたと言える。

それを回避する唯一のチャンスは、ブッシュ政権時代にイランと組むことだった。01年当時、イランはアメリカのアフガン政策に極めて協力的だった。

だが米政府はイランを「悪の枢軸」と呼び、アフガニスタンヘの物資輸送でパキスタンの空路と陸路への依存を深めていった。
 
私は以前からアメリカはインドと組み、イラン南東部のチャバハル港経由でアフガニスタンに物資を運ぶべきだと主張してきた。チャバハルはインドが開発に協力した港で、アフガニスタンヘの鉄道と道路網の整備も進んでいる。
 
だがこの案は、イランが潜在的にテロ組織に核を渡す恐れがあるとして受け入れられなかった。オバマ政権時代にイランとの核合意によって両国関係は劇的に改善し、チャバハル港活用案を模索できる可能性が浮上した。しかしトランプは核合意の破棄を明言している。
 
代わりの港がなければ、物流をパキスタンに頼るしかない。トランプがツイートするのは自由だが、政権幹部は真実を知るべきだ。アメリカのアフガン政策には道路か鉄道でアフガニスタンにつながる港が必要だ。
 
過去の政権と同じくパキスタンと組むことを選んだトランプ政権は、過去の政権と同じ失敗に直面するだろう。物流はどんな戦略にも勝るのだから。【1月16日号 Newsweek日本語版】
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【“無理”なことでも実現させないと“ジリ貧”か
“アメリカはインドと組み、イラン南東部のチャバハル港経由でアフガニスタンに物資を運ぶべき”という提案の戦術的な現実性はどのようなもかは知りませんが、パキスタンに頼らずに済む限られた方策でしょう。

しかし、政治的には、イランとの核合意に関する対イラン制裁停止を続けるかどうかについてトランプ大統領が今日・明日中にも判断を示す、周辺・関係国は制裁停止継続を強く望んでいるが、イランを敵視するトランプ大統領はひょっとしたら・・・・という話があるぐらいですから、イランと組んで・・・というのは無理な話です。

“無理”ついでに言えば、冒頭でも触れたように、タリバンとISの間には大きな差異があり、両者は互いに争う関係にあります。

“敵の敵は味方”ということで、アフガニスタン政府・米軍とタリバンの間で、対ISに限定した“共同作戦”みたいなものができれば、両者の間の信頼醸成ともなり、将来的な和平交渉の土台ともなるでしょう。
イランと手を組むよりは、まだ現実性があるかも。

イラン経由の物資補給ルート確立とか、タリバンとの共同戦線とか、“無理”なことでも実現させないと、今までと同じことを繰り返していても“ジリ貧”で、現在のアフガニスタン情勢の苦境は打開できないようにも思われます。
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