(昨年12月22日 パレスチナ自治政府アッバス議長との共同記者会見で 【在日フランス大使館HP】)
【外交 トランプ大統領に臆することのない“活躍”で存在感 トランプ氏とは個人的関係も】
昨年5月にフランス大統領に選出されたエマニュエル・マクロン氏は39歳での大統領就任、19世紀に40歳で大統領となったナポレオン3世よりも若く、フランス史上最年少です。
年末12月21日に誕生日を迎え40歳となりましたが、まだまだ若き大統領に変わりはありません。
そのマクロン大統領、トランプ大統領が「アメリカ第一」で引きこもり、世界に関心を示さない、あるいは混乱させるなかで、中国・習近平国家主席と並んで、空白を埋めるかのように外交面では存在感を強めています。
トランプ大統領のエルサレム首都発言で中東世界は混乱し、パレスチナ自治政府は、アメリカはもはや和平協議で仲介者たり得ないと反発していますが、12月22日、マクロン大統領はアッバス議長と会談、アメリカに代わる仲介役に名乗りを上げています。
共同記者会見では、「私はアッバース大統領に、アメリカ大統領が下したエルサレムに関する決定に賛成していないことを改めて伝えました」「フランスはパレスチナの友好国です。私たちは(中略)、今後数週間もイスラエルとの対話と建設的な作業を継続することを希望しつつ、パレスチナの側に立ち続けます。」【在日フランス大使館HP】とも。実にはっきりした言い様です。
レバノンのハリリ首相の辞任騒動やカタール問題でも、事態安定化に向けて一役買って出ています。
その“活躍”の背景には、“握手対決”が評判になったトランプ大統領との強い個人的関係があるとも指摘されています。一定に信頼関係があるから、異なる対応も臆せずできる・・・ということでしょうか。
****マクロン仏大統領、臆せず中東仲介役名乗り・・・評価と危うさ同居****
トランプ米政権の中東外交が迷走する中、フランスのマクロン大統領が中東の新たな仲介役として名乗りをあげている。成果を挙げられるか否かは未知数だが、臆するところがない。
マクロン氏は22日、パレスチナ自治政府のアッバス議長とパリで会談した。聖都エルサレム問題で、アッバス氏が「米国はもう和平交渉の仲介役ではない」と訴えると、「米国は和平交渉から置き去りにされた。私は同じ失敗はしない」と応じた。今月10日にはイスラエルのネタニヤフ首相を大統領府に招き、ユダヤ人入植凍結を促した。
アラブ圏への関与にも積極的だ。11月、レバノンのハリリ首相がサウジアラビアで突然辞任を表明すると、即座にサウジ入りし、皇太子と会談。ハリリ氏をパリに招いて首相留任につなげ、レバノン安定に一役買った。
今月7日には、サウジやエジプトが断交するカタールを訪問。クウェートの仲介を支持した。
シリア情勢では内戦終結を視野に「アサド政権と話さないわけにいかない」と発言し、アサド大統領退陣を求めたオランド前政権の方針を修正した。
活発な外交の背景にあるのは、トランプ大統領との個人的関係への自信。立場は異なっても、欧州首脳の中でもっとも頻繁にトランプ氏と電話会談する。英独首脳は国内政治でもたつき、外交の余裕がない。
一方、マクロン外交は危うさもはらむ。イランの弾道ミサイル開発では、トランプ政権と共に圧力強化を主張。イランの反発を買い、イラン核合意の順守を求める欧州の足並みを乱した。
入植凍結の提案では、ネタニヤフ首相から何の返答も得られなかった。
仏国内で、マクロン外交への評価は高い。フィガロ紙は「フランスがやっと外交の中心に復活した」と論評した。世論調査の外交への支持率は61%に達した。【2017年12月24日 産経】
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マクロン大統領が、電話会談などでトランプ大統領とどこまで意思疎通をはかっているのかは知りません。
地球温暖化問題では、トランプ大統領の協定離脱を受けて、環境問題を牽引していく姿勢を示しています。
環境問題に深い関心があるというより、うまく利用している・・・という指摘も。
****<仏大統領>環境問題けん引役 米離脱で国際社会結束を確認****
パリで12日開催された地球温暖化対策に関する国際会議「ワン・プラネット・サミット」を主催したフランスのマクロン大統領は、地球温暖化対策の新枠組み「パリ協定」からの米国の離脱を受けて国際社会の結束を確認し、環境問題のけん引役を果たしてフランスの存在感を高めることを狙っている。
「再交渉する用意はないが、(米国が)戻るなら歓迎する」。開催前夜の11日、マクロン氏は米テレビにそう述べた。就任後は「気候外交」を推進し、トランプ氏を含む各国首脳に環境問題への取り組みの必要性を説いてきた姿勢の反映だ。
とはいえ4〜5月の仏大統領選では、環境問題に「無関心」と批判された。(中略)
マクロン氏は大統領就任後、オランド前政権から引き継いだパリ協定というフランスの「成果物」を国内外で最大限に活用した。
6月にトランプ氏がパリ協定離脱を表明した際は「米国と地球にとり誤り」と英語で失望を表明。トランプ氏の売り文句「米国を再び偉大に」を使い、「地球を再び偉大に」と呼びかけた。
環境問題で国際的影響力を高め国内での支持にもつなげたいマクロン氏にとり、米国の協定離脱は「望外の贈り物」(仏紙リベラシオン)だった。(後略)【2017年12月12日】
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マクロン大統領はアメリカに拠点を置く複数の科学者に対し、フランスに拠点を移し温暖化研究を行うための助成金を付与するとも発表しています。
こうした一見アメリカに対し挑戦的とも思える行動ができるのも、トランプ大統領との個人的関係があるからでしょうか。
【“EUの顔”“トランプ暴走に歯止めをかける最後の砦”への期待感も】
これまで欧州世界をリードしてきたドイツ・メルケル首相が連立交渉に苦しみ、イギリス・メイ首相は離脱問題に埋没している状況で、“EUの顔”となることも期待されています。(あるいは、本人が希望しています。)
****EUの顔となれるか 仏マクロン大統領****
2017年11月、フランスのマクロン大統領がアメリカの雑誌「タイム」の表紙を飾り、「欧州の次の指導者」と評された。
39歳の若さで大統領に就任したマクロン氏。EU(=ヨーロッパ連合)からの離脱を決めたイギリスのメイ首相や、2017年9月の議会選挙で大幅に議席を減らし指導力低下が目立つドイツのメルケル首相とは対照的に、欧州でその存在感を増している。
「欧州の次の指導者」を自負するかのようにマクロン大統領は就任直後から国際舞台での言動を活発化させている。EUの政策をめぐっては、ユーロ圏共通の予算や財務相創設などさらなる欧州の統合を提案。
また、アメリカのトランプ大統領が中東のエルサレムをイスラエルの首都と認めた問題ではイスラエルとパレスチナ自治政府、双方の首脳と相次いでパリで会談し、仲介役に名乗りを上げた。
2017年12月には120か国以上が参加する環境サミットを自ら主催。トランプ政権が脱退を決めた「パリ協定」の促進を確認するなど、矢継ぎ早に動いている。
一方、フランス国内では国際競争力強化のための規制緩和や痛みを伴う経済改革に着手。企業が労働者を解雇する際の手続きや負担を軽減する労働法の改正で硬直的な労働市場にメスを入れた。
また、予算削減のため低所得者向けの住宅補助を削減する一方、経済活性化のため企業や富裕層に対する減税を打ち出した。
国内経済の成長率見通しも2011年以来の高水準で、“マクロン改革”が結実すれば経済成長は一段と加速する可能性も指摘されている。
しかし、一連の改革に対しては「金持ち優遇」との批判も一部で上がっており、労働組合や年金生活者などの反発は大きくなっている。支持率は、大統領就任直後の60%台から2017年9月には40%台に急落した。失業率は2018年6月末で9.4%と予想され、雇用の創出が遅れている現状も浮き彫りになっている。格差拡大への不満が国民のグローバリズムやEUへの疑念や反発につながるとの指摘もある。
今後、経済政策で後回しにされている、と感じる人たちの底上げを図ることができなければ4年半後の大統領選挙で極右政党が再び台頭する筋書きが現実味を帯びてくる。
2018年は大きな政治イベントが予定されていないだけにマクロン大統領は、さらに年金改革や議会の定数削減などに乗り出すとみられている。
AFP通信によると、大統領の側近の1人は「大統領は非常に長期的な視野で改革に取り組んでおり、譲歩するつもりはない」と語っている。改革の果実を広く行きわたらせることができるのか。マクロン大統領の手腕が問われる1年となりそうだ。【1月3日 日テレNEWS24】
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【内政 不人気な“マクロン改革”断行で支持率を落とすも、異例の回復 今後は改革の成果次第】
上記記事にもあるように、国際面での“活躍”の一方で、国内的には“マクロン改革”断行によって支持率を減らしています。
あるいは、国民の一部に不人気であることは最初から分かっている“改革”ですから、“支持率低下にこだわることなく改革を進めている”と言うべきでしょうか。
****【マクロン仏大統領就任半年】支持率低下も改革まっしぐら 大統領選の全公約に着手****
フランスのマクロン大統領は14日、就任から半年を迎えた。国の競争力増強を目指し、大統領選の全公約を実現、あるいは国会に提案し、猛スピードで規制緩和に取り組んでいる。
痛みを伴う経済改革で支持率は30%台まで急落したが、「フランスには意識革命が必要」とお構いなしだ。
今秋、パリではマクロン改革に対する抗議デモが相次いだ。労働組合や年金生活者、学生らが「大統領は金持ちびいき」「労働者を守れ」と連呼した。ただ、規模や迫力は今ひとつ。改革に好機を見いだす若者も多いからだ。
たとえば、日曜日の百貨店営業。以前は「労働者保護」のため禁じられていたが、規制緩和で可能になった。社会党のオランド前政権時代、経済相だったマクロン氏が雇用創出を目指して実現したものだ。中心部の店はいま、どこも週日に買い物に行けない共働きカップルであふれている。
大統領就任後、ただちに硬直的なフランスの労働市場にメスを入れた。最大の成果は、9月の労働法改正。企業の解雇手続きを簡略化し、負担も軽減した。
仏企業は独英に比べ、解雇が困難。外国企業が景況悪化で人員削減しようとすると、「本国の業績はどうなっているのか?」と調べられた。
労働裁判所に提訴され、多額の賠償金を要求されるケースが多く、進出した日本企業に「できるだけ人を雇うな」と弁護士が助言するほど。これが約10%で高止まりする失業率の一因だった。25歳未満では4人に1人が失業者だ。
オランド前大統領は同様の雇用改革を模索したが、党内の造反と労組の反発に合い、ついには再選断念に追い込まれた。マクロン氏は今年6月の下院選の大勝利の勢いに乗って、国会審議を経ずに政令で法改正する「離れ業」で一気に実現させた。
目下の課題は富裕税の廃止。ミッテラン社会党政権が1980年代、「所得再配分」を目的に導入した。マクロン氏は「金持ちに課税しようとしても、みんな海外に逃げるだけ。雇用創出には企業家が必要」と主張して先月、国会下院で可決させた。
経済学者のトマ・ピケティ氏は「歴史的過ち」と批判したが、大統領はテレビのインタビューで「金持ちへの嫉妬で国を麻痺させてはいけない。私は若者が立身出世できる国にしたい」と反論。さらに「改革の結果は2年以内に出す」と公約した。
社会党政権の経済相だったとは思えない右旋回で、マクロン当選を支えた中道左派の失望は強い。「伝統破壊の大統領」(左派系リベラシオン紙)の批判も強く、最新の世論調査で支持率は38%に低下した。
だが、パリ政治学院のザキ・ライディ教授は、「彼の改革は英独など他の国では当たり前のこと。保革2大政党制ではしがらみで実現できなかった。マクロン氏は大統領の指導力を回復した。5年後の大統領選までに国民に『わが国も変われる』と実感させることが重要だ」と指摘する。(後略)【2017年11月14日 産経】
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マクロン大統領にとって好都合なのは、改革への不満の受け皿となるはずの野党が総崩れ状態にあって、マクロン追撃に乗り出せないことです。
****がたつく対抗勢力 共和党や国民戦線は内紛****
・・・・一方、支持率が下がるマクロン氏に攻勢をかけたい野党だが、いずれも党勢回復はおぼつかない。
FN(極右国民戦線)は、ルペン氏の右腕だった戦略担当のフィリポ副党首が離党し、独自の政治運動体「愛国者」をつくった。大統領選の敗因の一つとされる「脱ユーロ」路線の見直しに異を唱えたうえでの行動だった。
ルペン氏の求心力の衰えは隠せない。立て直しに向けて、極右のイメージが拭えない党名の変更も視野に入れている。
最大野党の中道右派・共和党は、マクロン陣営が総選挙で圧勝した国民議会(下院)で会派が分裂。12月に党首選を予定するが、大物は参戦しなかった。最有力の党内右派の候補に対して穏健派はすでに不支持を明言しており、挙党態勢を取るのは難しい情勢だ。
社会党は下院議員が10分の1ほどに激減した。党公認で大統領選に挑んだアモン元国民教育相は下院選でも落選。党内の支持が十分に得られなかったしこりを抱えて離党した。党トップの第1書記も下院の議席を守れずに辞任。リーダー不在の状態が続く。党本部の建物も、資金難から売却に追い込まれた。
既存の政党に属さずに大統領の座を射止めた「マクロン旋風」は、各党に深い爪痕を残している。【2017年11月20日 朝日】
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こうした政治状況も幸いして、改革への批判は予想されたほどの大きなうねりとはならず、マクロン大統領の支持率は回復傾向にあります。
****「フランスを古臭い規制の封鎖から解放する」マクロン政権の1年に見る“小泉純一郎節”****
「秋には、政権を揺るがす大混乱が国内で起きるだろう」。2017年5月、マクロン大統領が誕生した時、フランス中の誰もがそう思っていた。
2016年春、オランド大統領のもとでエルコモリ労働大臣が労働法改正を行ない、連日激しいデモに見舞われていたが、マクロン氏は、選挙戦中から労働組合が「XXLサイズ」と皮肉を込めて呼んだ、よりドラスティックな「労働法改革」を掲げていた。
そして大統領に当選するとすぐに公約通り法改正に着手。しかも国会から授権されて政令で立法するオルドナンス(委任立法)という手法を使って、9月に労働法改正を実現し、企業の解雇手続きを簡略化。国会審議を封じ込めた。
マクロン政権の支持率は急落した。たとえばJDD(ジャーナル・ドゥ・ディマンシュ)紙では、2017年6月には64%あった支持が8月には40%にダウン(フランスの世論調査機関であるIfopのデータに基づく)。
一般的に、大統領選出から3カ月間は「100日間の恩赦期間」といわれ、国民もあまり批判せず様子見する時期だ(サルコジ氏などは同時期に65%から69%にあがっていた)。
ふと、あの「異色の宰相」の顔がよぎった
ところが、冒頭の「2017年大混乱」予想は見事に外れた。デモは起きたが、その動きは全国的に広がらなかった。それどころか、12月17日付のJDD紙では支持率52%に回復したのだ。
調査機関Ifop関係者は「近頃、フランス元大統領たちの支持率はいったん低迷すると誰一人として回復していない」と語っている。JDD紙とは別のメディアでも、マクロン政権の支持率は30%で底を打って横ばいから上昇。異色の大統領だといえる。
増え続ける失業、社会格差、治安の悪化。サルコジ、オランドは何の結果も出せず、事態はますます悪化するばかりだったフランス。そこに、彗星のごとく現れて、当選。すぐ後の日本の衆議院にあたる国民議会選挙でも圧勝して「マクロン改革」を断行……。
マクロン政権の大躍進を目の当たりにして、私の頭には、ふと、あの異色の宰相小泉純一郎元首相の顔がよぎった。(中略)
マクロン大統領が目論む「2022年の再選」と「外交シフト」
マクロン大統領がこれだけ急いで改革を行ったのには、とにかくはじめの1年で大きく変革して、結果を待ち、2022年の再選を狙うという目論見がある。(中略)
(改革の“痛み”で)マクロン大統領の支持率も再び下落するかもしれない。しかし、ポピュリストであったサルコジ、オランド両大統領とは異なり、国民と一定の距離を置くスタンスのマクロン氏は、一喜一憂することはないだろう。
2018年、マクロン大統領は外交に重心を置くようになると思われる。フランスでは、アメリカと違って内政は首相の責任である。経済産業デジタル大臣時代からの「マクロン・マター」だった労働法改正が終わったので、内政でわざわざ矢面に立つ必要もない。
ドイツが組閣すらできない状況が続くなかで、マクロンの外交シフトは、EUひいては国際情勢全般にとって好都合である。なぜなら、EUで勃発している諸問題の「仲介役」をマクロン大統領が果たすと期待されるからだ。
現在のEUでは、ポーランドやハンガリーによるEU基本理念からの逸脱行為や、賃金格差による東側から西側への労働者の流入など、「EU内部の東西問題」が顕在化している。「エルサレム問題」に象徴される中東問題も喫緊の課題としてあげられるだろう。
さらに言えば、マクロン大統領には、アメリカの暴走に歯止めをかける最後の砦としても機能することが有望視されているのだ。【1月2日 広岡 裕児氏 文春オンライン】
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