孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「アメリカ第一」のトランプ大統領 グローバリズム総本山のダボス会議出席で何を語るのか?

2018-01-25 23:42:36 | アメリカ

(ダボス会議に向けて出発するトランプ大統領【11月25日 NHK】)

グローバリズムのもとで拡大する格差
グローバリズムにけん引される経済活動のなかで、貧富の経済格差が拡大していることは常に指摘されるところです。

****世界の最富裕層1%、富の82%独占 国際NGO****
世界人口の1%にあたる富裕層が1年間に生み出された富の82%を独占した一方、所得の低い人口の約半分は財産が増えなかったとの報告を、国際NGO「オックスファム(Oxfam)」が22日に発表した。
 
貧困撲滅に取り組むオックスファムは、スイス・ダボス世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)が開催されるのを前に報告書を発表した。
 
それによると2010年以来、10億ドル以上の資産を持つ超富裕層の資産は一般的な労働者の資産の6倍の速さで増加。また2016年3月~2017年3月で、2日に1人のペースで超富裕層が誕生しているという。
 
オックスファムのウィニー・ビヤニマ事務局長はこの結果について、「経済の発展を示唆するものではなく、経済システムの破綻の兆しだ」と声明で述べた。(中略)
 
不平等の拡大を解決するため、オックスファムは各国政府に対し株主の配当や経営者層が得る報酬を制限することや、男女の収入格差の是正、脱税の取り締まり、保健医療や教育に対する投資の増大を訴えている。【1月22日 AFP】
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****世界の富、金融危機以降で27%増大 格差は広がる****
2007年に起きた世界金融危機以降の10年間で世界の富は27%増大したが、貧富の格差はいっそう広がったとする報告が14日、発表された。
 
スイス金融大手クレディ・スイスの調査部門が毎年発行している、世界の富に関する包括的な調査報告「グローバル・ウェルス・レポート」によると、特に昨年半ばから今年半ばの1年間における世界の富の成長ペースは過去5年間で最も速く、6.4%増となっている。

広範な株式市場の好況に加え、不動産のような非金融資産で保有される富が金融危機発生直前の水準を初めて超えたことなどが要因となっているという。
 
富の増大は世界全体で起こっているが、一方で恩恵を受けている層は明らかに一部であり、世界人口の10%未満の人々だけで、世界の富全体の86%を所有しているという。

同レポートによると2000年以降、保有資産3000万ドル(約34億円)以上の個人は5倍に増え、世界で4万5000人に上っている。
 
クレディ・スイスのレポートはまた、いわゆるミレニアル世代が前の世代よりもはるかに厳しい市場環境に置かれている点を詳細に指摘。そのため、ミレニアル世代は「富を得る展望も限られがちだ」という。
 
ミレニアル世代は世界金融危機による損害を直接被っていることに加え、「それに続いた失業や所得格差の増大にも直撃され、不動産価格の高騰や住宅ローン規制の厳格化にも見舞われ、さらに一部の国では教育ローンも大幅に増えている。一方で、彼らよりも前の世代ほど年金へのアクセスが見込めない」とレポートは論じている。【11月15日 AFP】
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グローバリズムを代表する「ダボス会議」 格差・分断の現状への認識も
その恩恵を受けていない各層からは、当然にグローバリズムによる格差・富の集中に対する強い反発が生じています。

アメリカでもグローバリズムの波から取り残されたラスト・ベルトの人々の不満を、グローバリズムを声高に否定する「アメリカ第一」を掲げるトランプ大統領が見事に拾い集めることで政権を獲得しています。(実際にトランプ氏を支える有力者が、ラスト・ベルトの人々と同じ考えかどうかは別ですが)

そのローカルを全面に押し出すトランプ大統領が、グローバリズムを代表する政治・経済エリートの集う“総本山”的なダボス会議に出席することで世界の注目を集めています。

これまでクローバリズムをけん引してダボス会議の側にも、グローバリズムのもとで“保護主義や民族間の亀裂、経済格差で世界の分断が深まっているという認識”があるようで、今年のテーマは「分断された世界における共通の未来の創造」・・・だそうです。

****ダボス会議23日開幕 保護主義や格差議論 トランプ氏の出席焦点****
会議は23~26日の4日間で、各国の首脳や経営トップら3千人以上が出席する。今年のテーマは「分断された世界における共通の未来の創造」。

保護主義や民族間の亀裂、経済格差で世界の分断が深まっているという認識のもとで、各界の指導者は将来の方向性を指し示す発言を求められる。
 
経済政策や難民問題、人工知能(AI)などの討論を中心に400以上のセッションが開かれ、このうち160以上はインターネットでライブ配信される。WEFのクラウス・シュワブ会長は「現代の地球上の課題は政治家や経営者、市民団体などあらゆる分野の英知を結集しないと解決できない」と会議の意義を強調した。
 
22日時点でトランプ氏は最終日の26日午後2時(日本時間午後10時)から演説する予定。(中略)米大統領の出席は2000年のクリントン氏以来18年ぶり。
 
ダボス会議にはグローバル経済の担い手となっている経営者や、市場開放や経済統合に熱心な指導者らが集まる。一方、トランプ氏は17年1月の就任以降、2国間交渉で国益を追求するグローバル化に逆行した通商政策を推進してきた。トランプ氏の演説とともに、経営者らがどう受け止めるかも注目される。(後略)【1月22日 日経】
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グローバリズムへの不満を背景に、保護主義や民族間の亀裂を拡大するトランプ大統領
“保護主義や民族間の亀裂”・・・保護主義は、NAFTAの再交渉を強引に進め、中国に対する制裁も辞さない、まさにトランプ大統領が推し進めているところのものです。

亀裂・分断については、「shithole」発言、「壁」による分断、一部の国からの新たな移民・すでにアメリカ国内に生活する不法移民に対する厳しい対応など、言うまでもないところです。

トランプ大統領に先立ってダボス会議に出席している政権高官からも、トランプ政権が今後、保護貿易主義的な動きをさらに強めていくことを示唆する発言がすでに出ています。

****トランプ政権】保護主義強める政権 緊急輸入制限、市場懸念**** 
トランプ米政権が再び保護貿易主義的な動きを強めている。約16年ぶりとなる緊急輸入制限(セーフガード)発動に続き、24日にはムニューシン財務長官が輸出競争力の強化につながるドル安容認に言及。金融市場はこれらの動きをトランプ大統領の貿易戦争も辞さない強硬姿勢とみて懸念を強めている。
 
ムニューシン氏はスイスでの世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)の会場で「貿易に関していえば弱いドルは米国にとって明らかによい」と発言。貿易赤字解消を求める政権中枢から発されたメッセージを受け、外国為替市場でドル安が加速した。
 
トランプ政権は23日には中国や韓国などからの太陽光パネルや住宅用洗濯機の輸入急増が米企業に損害を与えたとして、通商法201条のセーフガードの発動を決定。トランプ氏は発動を決める文書への署名の際、通商代表部(USTR)に「引き続き米国の産業を保護する調査を指示」したと述べた。
 
またダボス会議では24日、ロス商務長官も「中国は自由貿易を提唱することが上手だが、保護主義的な行動をとるのは一段とうまい」と挑発。中国の供給過剰が問題視されている鉄鋼製品などに厳しく対処する考えをにじませた。(後略)【1月25日 産経】
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トランプ氏出席で、「つり合いのとれたグローバル化」への合意形成?】
世界貿易のルールが破壊されるのか、新しい世界貿易のルールが見いだされるのか・・・NAFTA(北米自由貿易協定)再交渉と米中貿易を巡る動きが注目されます。

重要なことは“貿易不均衡が正せるかどうかはむしろ、アメリカの国内政策にかかっている。技術革新を推進し、インフラに投資し、将来の労働力に対する教育や訓練を充実させること”【1月25日 「トランプの貿易戦争が始まった」 Newsweek】ですが、“トランプ政権は不幸にも、「アメリカを再び偉大にする」というスローガンに込めたトランプのノスタルジアに捕らわれているようだ。アメリカが世界唯一の経済大国で、一方的に他国に対米黒字削減を押し付けることができていた時代はとうに過ぎ去ったというのに。”【同上】とも。

****トランプの貿易戦争が始まった****
・・・・ある米政権高官は1月19日に報道陣に対し、アメリカは「NAFTAと米韓FTAで良い結果」に落ち着くことを望んでおり、WTOについては中国の台頭に対応できるようにするための「本気の改革」を望む、と言った。どちらとも、なんとしても必要だ。

だがアメリカがその両方を実現するには、トランプ政権が強硬な姿勢や一方的な言動をやめ、カナダやメキシコ、日本、EU、韓国などの同盟国と連携する方法を見つけ、現実的かつ多国間の貿易ルールを確立するしかない。

かつてなくバランスの取れた貿易ルールと相応の結果が求められる新時代に突入した、というトランプ政権の見解はそれ自体、正しい。

だがアメリカがそれを実現するには、友人の助けが必要だ。【同上】
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理念が真っ向から対立するようにも思われるダボス会議にトランプ大統領が出席することについては、トランプ大統領はウォールストリート・ジャーナル紙とのインタビューで、出席する目的は「アメリカのチアリーダー」になるためだと語っています。

****トランプ大統領 ダボス会議へ出発「米への投資呼び込む****
(中略)ダボス会議でトランプ大統領は、株価の上昇が続いて、失業率が17年ぶりの水準に改善したことや、法人税の大幅な減税を盛り込んだ税制改革を実現するなど経済政策の成果をアピールし、アメリカ国内への投資を呼びかけることにしています。

ホワイトハウスのギドリー副報道官は22日、NHKのインタビューに対して、「トランプ大統領は、アメリカを再び偉大な国にするため、貿易は自由だけでなく、公正でなければならないことをダボス会議で訴える」と述べ、トランプ大統領が、アメリカ第一主義を掲げて貿易の不均衡の是正などを訴えるという見通しを示しました。(中略)

トランプ大統領は24日、ダボス会議に出席するためワシントンを出発するのに先立ってホワイトハウスで、「私はアメリカへの投資を呼び込むためダボスに行く。私は『アメリカに来てくれ』と言うつもりだ」と述べて、ダボス会議でアメリカ国内への投資を呼びかける考えを示しました。【1月25日 NHK】
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何らかの合意形成を期待する向きもあるようですが・・・

****ダボス会議のトランプ氏、「世界」に何を説く****
ポピュリズムを体現する米大統領が世界のエリートを前に語ることは

・・・・トランプ氏は政治的な工作員であり、世界のエリートにとっての厄災、乱暴な言葉を吐いて礼儀正しい社会に乱入する者、そして「嘆かわしい人々」の擁護者だ。

そのトランプ氏が有名なスイスの山に登り、グローバル主義者からなる既存支配層のリーダーを自認する、正統な考えを持った裕福な人々を前に演説をする。舞台は、彼らにとって最も神聖な神殿の中心である世界経済フォーラム(WEF)の年次総会(ダボス会議)だ。

(中略)その「炎と怒り」を伴う激しい言動は、既にダボス会議の出席者が敬愛する制度や妙案の多くを攻撃している。今回の疑問は、両者がどこで折り合いをつけるかだ。ダボスがわずかながらトランプ流を受け入れるのか。それともトランプ政権がダボスの流儀を取り入れるのか。
 
トランプ氏は、過去30年にわたり国際システムをけん引してきたグローバル化への反対を決定づけるような綱領を掲げて大統領選を制した。

(中略)ナショナリストとグローバリストの論理が化学変化を起こして一体となることはあるのか。どこか不安げにグローバルシステムの雪深い山頂に座っている一部の国際機関のリーダーは、確かにそう願っているように見える。
 
トランプ氏を初めてのダボス会議に招待する裏には、何らかの新たな合意を形成する狙いがありそうだ。世界経済フォーラムの創設者兼会長のクラウス・シュワブ氏は、ポピュリスト・ナショナリスト運動のリーダーとの対話を仲介するために時間を費やしてきた。

スイスの経済学者であるシュワブ氏はウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)とのインタビューで、現在の政治的ストレスからある種の「つり合いのとれたグローバル化」が浮上する可能性があるとの楽観的な見方を示している。
 
この見方にトランプ氏がどう反応するかは不明だ。(後略)【1月24日 WSJ】
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劇的な「悪臭弾」で会議を政治利用する可能性
現実には、国内支持層を強く意識した“政治ショー”になりそうに思えます。

****トランプ大統領、ダボス会議で「悪臭弾」放つか****
(中略)現在、トランプ米大統領は、グローバルエリートを自認するダボス会議参加者に、彼らがほぼ全てにおいて間違っていたと伝えるため、現地へと向かっている。(中略)

トランプ大統領とその側近らは、国内では難しい綱渡りに直面している。トランプ氏は、自分がアルプス山脈の麓に集まった企業経営者や著名人、リベラルな政治家を批判するのを国内の支持基盤の人々が見たがっていると分かっている。(中略)

トランプ氏がどのような演説をしようとも、それは同氏の海外における演説としてこれまでで最大の注目を集めるものとなるだろう。同氏はまた、会議で起きたことについてツイッターで非常に個人的なコメントをつぶやき続けると思われる。(中略)

米政治メディアのポリティコによると、トランプ大統領は、劇的な「悪臭弾」と一部で呼ばれるものを放つため、ダボス会議の演説を利用する可能性が最も高いという。

米国の利益を損なっているとみなす自由貿易協定を巡って他の出席者を糾弾したり、気候変動または国際通貨基金(IMF)や世界銀行の活動に懐疑的な態度を表明したりすることが考えられる。(中略)

成功したショーマンであるというのがトランプ大統領の取りえである。そして、自身の演説がダボス会議の最後に行われるという事実を確実にかみ締めるだろう。

出席する他のエリートたちにとっての問題は、最も巧みな駆け引きを講じても、自分たちの議題がトランプ氏のそれに飲み込まれてしまうことを阻止できないということだ。
言うまでもなく、それはトランプ氏がまさに望むところだ。【1月24日 ロイター】
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ダボス会議側は、本当に現状への危機感を認識しているのか?】
グローバリズムを主導するダボス会議に、格差と分断、そしてトランプ大統領のような「右派ポピュリズム」を生む現状への危機感がどの程度認識されているかに対する疑問も。

****グローバル時代の格差拡大とダボス会議が抱える矛盾 *****
(中略)私はダボス会議のベースにある基本的な考え方は間違っているとは思いません。21世紀という時代は、ヒト、モノ、カネ、情報が国境を越えて飛び交う時代であり、国や地域にしても、企業や個人にしても、このグローバリズムに最適化をしてゆくことが経済として最も合理的だからです。

反対に国境や地域に閉じこもるのでは、大きなデメリットを背負うことになります。(中略)物理的に成立しないか、コスト的に潰れていくか、あるいは規制の内部を衰退に追いやるなど副作用は計り知れないわけです。

では、このままグローバリズムを拡大して行くのがいいのかと言うと、変化のスピードが速過ぎれば問題が出ます。先進国の中で行われ、先進国の賃金水準が適用されていた仕事が、途上国に移転されれば、先進国では急速に大規模な失業が発生します。また、先進国から途上国に作業が移転し、急速に経済成長が起これば物価や地価の急速な上昇を招いたり、混乱が生じます。

そうした「ローカルな世界」から「グローバルな世界」への移行に伴う痛みもありますが、より深刻な問題としては「ローカル」と「グローバル」の間に計り知れない格差が生まれているということです。(中略)

21世紀の現代というのは、金融・情報通信・新技術という高度に知的な職種だけが、成功者としてグローバルな世界で繁栄する時代です。

その中で、その成功者のサークルに入れない人々には、「サーカスとしてのナショナリズム」と「規制などで守られた雇用というパン」が「国家というローカル」によって与えられるという「20世紀とは正反対の状況」が発生しているわけです。

つまり、国境を越えていける人間だけが富める時代であり、その結果として富める者の側は、「多様性」であるとか「寛容性」という価値観を掲げながら、「国境」を「より低く」したり「国家」というものを「より軽く」したりしたいという志向性を持つことになります。

反対に、ローカルに縛られ、しがみついている人間には排外や、孤立、多様性への嫌悪といったカルチャーが色濃くなって行くという負のスパイラルが発生するわけです。(中略)

問題は、このような格差が拡大して行けば、成功者のサークルではよりコスモポリタンなカルチャーが濃厚になる一方で、ローカルにしがみつく層はより「閉じこもる」方向になって行くということです。

その上でトランプのような「右派のポピュリズム」という政治手法を使えば、後者の持っている深い怨恨の感情を政治的求心力にする手法は、今後も出てくる可能性があると思います。

今回のダボス会議というのが、どこまでこうした危機感を持って運営されているのかどうかは分かりません。少なくとも、タイトルだけは「分断された世界の中で共通の未来を作り出す」というのですから、多少の危機意識はあるのでしょう。

ですが、少なくとも、このように「グローバル」と「ローカル」の間に経済的な格差だけでなく、世界観に関わる断裂が生じているというのは大変に危機的な状況だと思います。そのような時代に、世界経済フォーラムの大きな会議を、スイスの豪華なスキーリゾートで行うという感覚は、私には違和感があります。【1月25日 「冷泉彰彦 プリンストン発 日本/アメリカ 新時代」 Newsweek】
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