(【2018年12月21日 産経】)
【中国漁船の操業に対し、インドネシアは軍艦8隻と戦闘機4機を配備】
ASEAN内部で南シナ海問題等に関する中国に対する温度差があるのは周知のところ。
そのため、議長国がどこなのかによって、ASEAN会議の中国に対する姿勢も変わってきます。
今回は、南シナ海で中国と厳しく対峙するベトナムが議長国。
****ASEAN外相会議始まる 南シナ海、ロヒンギャ問題討議****
東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議の主要日程が16日、ベトナム中部ニャチャンで始まった。今年のASEAN議長国を務めるベトナムが主催する初の閣僚級会合で、17日まで開かれる。
一部加盟国が中国と領有権を争う南シナ海問題のほか、ミャンマーのイスラム教徒少数民族ロヒンギャ迫害問題が焦点だ。
南シナ海を巡っては昨年12月、中国漁船が当局の警備艇を伴い、インドネシアの排他的経済水域(EEZ)で違法操業していた疑いが浮上。
議長国ベトナムは中国批判の急先鋒で、ASEANがより厳しい姿勢を打ち出す可能性もある。【1月16日 共同】
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最近、南シナ海問題で中国との軋轢が増しているのが、上記記事にもあるインドネシア。
****インドネシア、南シナ海付近に軍艦と戦闘機配備 中国漁船の違法操業受け****
インドネシアのナトゥナ諸島付近の豊かな漁場で中国漁船が操業していた問題を受けて、インドネシアは8日、軍艦8隻と戦闘機4機を配備し、哨戒に当たらせた。両国間の緊張が高まっている。
ナトゥナ諸島周辺海域は、領有権争いが繰り広げられている南シナ海に接している。
領海内への外国船侵入を受けて、インドネシア軍はナトゥナ諸島周辺海域を守るため「定期哨戒」を開始。3日には海軍と陸軍、空軍の兵士およそ600人を配備した。
インドネシア政府も、外国船を警戒するために漁師数百人をナトゥナ諸島周辺海域に派遣する方針を明らかにした。
ナトゥナ諸島周辺海域では昨年12月半ば、中国漁船が中国海警局の警備艇を伴って操業。これを受けてインドネシアは先週、駐インドネシア中国大使を召喚し、「強く抗議」を申し入れた。
これに対し中国政府は、中国はナトゥナ島周辺海域に「歴史的権利」を有しており、漁船は「合法的かつ合理的」に操業してきたと反論した。 【1月9日 AFP】
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常に問題となる南沙諸島(スプラトリー諸島)の南西に位置するナトゥナ諸島自体は中国が領有権を主張する九段線の外にありますが、中国はナトゥナ諸島北方のインドネシアEEZ内の一部海域については「九段線」内海域であるとの立場のようです。
【ジョコ大統領、茂木外務大臣にナトゥナ諸島への投資拡大を要請】
こうした「中国の脅威」という背景もあって、インドネシアは日本に対し、ナトゥナ諸島への投資を拡大するよう要請しています。
****中国に対抗、インドネシアの投資要請は日本の好機****
インドネシアのジョコ・ウィドド大統領が、同国を訪問した茂木外務大臣に対して、ナトゥナ諸島への投資を拡大してくれるように要請したことをインドネシア外務当局が明らかにした。
中国がナトゥナ諸島北方海域に侵出
ナトゥナ諸島は南シナ海の最南部に位置し、それ自体を巡っての領土紛争は存在しない。しかしナトゥナ諸島北方海域の排他的経済水域(EEZ)の線引きに関してはインドネシア、マレーシア、そして中国の間で対立が継続中である。
とりわけ強力な海洋軍事力を手にしている中国は、インドネシアを含む南シナ海周辺諸国との海洋領域紛争で軍事的威圧を露骨に強めている。
中国は、ナトゥナ諸島の領有権を主張していないものの、ナトゥナ諸島北方のインドネシアEEZ内の一部海域については「九段線」内海域であるとして、漁船群や公船を展開させて軍事的威嚇を強化している(「九段線」は、中国が制定した「中国の主権的海域の境界線」)。
昨年(2019年)12月中旬から、ナトゥナ諸島北部のインドネシアEEZ内海域、そして中国当局によると「九段線」内海域で多数の中国漁船団が“操業”を開始した。
インドネシア政府は「中国漁船の操業はインドネシアの主権を侵害している」として中国政府に抗議した。だが、中国当局は中国の主権的海域での通常の漁業活動であるとして全く取り合おうとしていない。
その後も現在に至るまで、同海域の30カ所ほどに中国漁船が留まっている。漁船群に加えて中国海警局(中国人民武装警察部隊海警総隊)巡視船も数隻展開しており、少なくとも「海警46303」「海警35111」という2隻の巡視船(ベトナムやフィリピンとの睨み合いなどでも、しばしば派遣される武装巡視船)が確認されている。
このような紛争海域で“操業”する中国漁船のほとんどに海上民兵が乗り込んでいることは公然の事実である。それらの漁船の多くは武装した艤装漁船であることもまた知られている。
そして「中国海警局」は、法執行機関としての沿岸警備隊としての任務と共に、アメリカ沿岸警備隊同様に第二海軍としても位置づけられている。
警戒監視を強めるインドネシア政府
数年前からナトゥナ諸島北方海域への中国の侵出姿勢が強まった状況に対して、インドネシア政府はナトゥナ諸島北方海域を「南シナ海」から「北部ナトゥナ海」と改称し、インドネシアの主権が及ぶ海域であることをアピールしている。
また、インドネシア海軍艦艇によるパトロールを強化したり、ナトゥナ諸島内にインドネシア海兵隊を配備するなど、「北部ナトゥナ海での国家主権は軍事力を使ってでも守り抜く」という姿勢を維持してきた。
さらに、昨年12月からの中国漁船群の北部ナトゥナ海への展開に対しても、インドネシア政府は軍艦4隻を同海域に派遣して警戒監視を強めていた。
中国側が海警局巡視船を送り込み軍事的威嚇の姿勢をちらつかせ始めたのに対抗して、インドネシア空軍は戦闘機を出動させて、中国側に一歩も引かない姿勢を示している。また、高速軍艦4隻を出動させて、同海域での警戒態勢を軍艦8隻態勢へと強化すると共に、大型海洋哨戒機による上空からの常時監視態勢も固めた。それら海洋戦力に加えて、ナトゥナ諸島内には防空能力の高い海兵隊部隊と、陸軍戦闘部隊を派遣した。
もちろんインドネシア政府は、インドネシアと中国の海洋戦力には比較することができないほど大差があることを百も承知である。
しかしながら、強大な軍事力を振りかざして、また経済的関係を“餌”にぶら下げて、海洋侵出政策をごり押ししてくる中国に対して、はじめから軍事的対抗オプションを放棄する姿勢を示していては、中国がますます軍事的圧力を強化して「戦わずして海洋領域を中国のものにしてしまう」ことは火を見るよりも明らかだ。
そのため、インドネシア政府は軍艦8隻に戦闘機、海洋哨戒機それに陸上戦闘部隊までナトゥナ諸島方面に出動させ、国家主権を守り抜く姿勢を表明しているのである。
とはいっても、中国がさらに多くの海上民兵“漁船団”を送り込み、海警局巡視船だけでなく軍艦や航空機まで派遣してきた場合には、インドネシア側の軍事力では対処しきれなくなる。
それに、南シナ海でのアメリカによる対中牽制策は、FONOPしか期待できない。FONOPは、実質的には効果が上がらないことが既に明らかとなっている。
インドネシアからの投資要請は大きなチャンス
そこでインドネシアは、冒頭で触れたように日本に投資を要請した。日本は、国民生活の生命線ともいえる海上輸送航路帯が南シナ海を縦貫している。
インドネシア当局としては、その日本から何らかの支援を引き出して中国の海洋侵出圧力に対抗しようと言うのであろう。
一方、日本側からみると、ジョコ大統領からのナトゥナ諸島に対する投資要請は、自国の安全保障にとって極めて大きなチャンスである。
すでに日本は、ナトゥナ諸島にインドネシア政府が建設を進めている漁業関連施設への金銭的供与を実施している。インドネシア政府は、さらなる漁業施設への投資やエネルギー関連事業、観光業への投資を求めてきたわけだが、それらの投資要請と共に海洋警備活動での協力も求めている。
ナトゥナ諸島は、中東方面から日本に原油をもたらす多くのタンカーをはじめ、日本の国民生活を支える海上輸送航路帯に隣接している要衝だ。
すでに西沙諸島周辺海域と南沙諸島周辺海域での軍事的優勢を手中に収めつつある中国が、ナトゥナ諸島周辺海域での軍事的優勢までをも手にすると、南シナ海を縦貫する海上輸送航路帯は完全に中国がコントロールするところとなってしまう。
もちろん、海上輸送航路帯を防衛するために中国海洋戦力を南シナ海から追い払うことなど、日本の防衛力ではとてもできない相談である。そして、インドネシア政府としても、日本による直接的な軍事的支援など全く期待してはいないであろう。
しかしながら、日本の支援によってナトゥナ諸島に大規模な漁業基地を中心とした施設や、クルーズシップが着岸できる施設を含んだ観光開発などが進めば、搦め手から中国海洋侵出政策に対抗することが可能となる。
たとえばナトゥナ諸島にそのような港湾施設を誕生させれば、日本の海保大型巡視船やアメリカ沿岸警備隊巡視船などが定期的に寄港することができるようになる。
そして南シナ海の海上輸送に危害が加えられる状況が差し迫ったような場合には、海自艦艇をナトゥナ諸島に派遣してインドネシア海軍との協働警戒態勢を固めることも可能になる。
ナトゥナ諸島開発への投資要請は、日本国防上のチャンスとしての視点から、有効に生かさなければならない。【1月16日 北村 淳氏 JB press】
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いささか「火中の栗」の感もあるナトゥナ諸島ですが、習近平国家主席を国賓として招く日本がどこまで関与するのか・・・。
“中国海洋戦力を南シナ海から追い払うことなど、日本の防衛力ではとてもできない相談である・・・インドネシア政府としても、日本による直接的な軍事的支援など全く期待してはいないであろう”とは言いつつも、いったん事あれば矢面に立つ覚悟は必要になります。
なお、日本の河野太郎外相(当時)は一昨年6月、訪問先のインドネシアでルトノ外相と会談し、ナトゥナ諸島などでの漁港整備や、違法操業漁船を取り締まるレーダー設置などの協力を約束しています。
その関連でしょうか、ナトゥナ諸島に関しては、“日本政府が昨年、ナトゥナ諸島に築地市場をモデルにした魚市場を整備するため、インドネシアに1000億ルピア(約8億円)を供与した”という実績もあるようです。【下記 searchina】
【中国メディア 大型プロジェクトで中国に頼っておきながら、「日本にすり寄るとは何事か」】
このジョコ大統領の日本への投資拡大要請に中国メディアは不快感を示しているようです。
****インドネシアはけしからん! 「日本にすり寄るとは何事か」=中国メディア****
ロイター通信によると、インドネシアのジョコ大統領は10日、南シナ海ナトゥナ諸島への投資拡大を日本政府に求めた。
この近海の漁業権を巡ってインドネシアは中国と対立しており、中国が反発するのは必至と見られる。中国メディアの今日頭条は11日、インドネシアは高速鉄道などの大型プロジェクトで中国に頼っておきながら、「日本にすり寄るとは何事か」と非難する記事を掲載した。(中略)
記事は、日本政府が昨年、ナトゥナ諸島に築地市場をモデルにした魚市場を整備するため、インドネシアに1000億ルピア(約8億円)を供与したことを指摘した。
そのためか記事は、「近年インドネシアは日本と親しい」と危機感を示している。19年9月には、インドネシア・ジャワ島の首都ジャカルタと第2の都市スラバヤを結ぶ既存鉄道の高速化計画を、日本が支援することに決まったばかりだ。
日本のインドネシアに対する投資額は中国を上回るほどになっており、日本は「絶対的な発言権が欲しいからインドネシアに近づいているのではないか」と記事は推測している。
一方、インドネシアは中国に対して厳しい態度を取るようになったと不満を示している。1月1日からニッケル鉱石の輸出が全面的に禁止されたことで、世界最大のニッケル消費国である中国には大きな影響が出ると苦言を呈した。
しかし、ニッケル鉱石を輸出禁止にしてもフィリピンから輸入できると主張、インドネシアが中国に対してこのような態度を取るなら、インドネシアが希望している投資の話も水泡に帰すかもしれないと、脅しとも取れる反応を示している。
日本に接近しているインドネシアに対し、中国は相当警戒をしているようだが、インドネシアは中国との距離感という面で微妙なバランスを保っているとも言えるだろう。
日本にとってインドネシアは天然資源の重要な供給国であり、良い関係を保っていく必要がある。日本からインドネシアへの投資は今後も拡大し続けていくに違いない。【1月15日 searchina】
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