(太鼓や銅鑼を鳴らす男衆に先導されて台湾の神様「七爺八爺」が登場し、選挙集会は熱気を帯びた=台北市で2019年12月28日、福岡静哉撮影【1月2日 毎日】 台湾では選挙は一種のお祭りのようでもあります)
【香港問題への中国・習近平政権の強硬姿勢で、再選に向け優位に立つ蔡英文総統】
あと数日後の11日には、台湾総統選挙及び立法委員選挙が行われます。
これまでのところ、少なくとも総統選挙に関しては、中国と距離を置き、台湾の独自性を主張する現職・蔡英文総統が圧勝する予想となっています。
一時は民進党候補にすらなれないのでは・・・という状況でしたが、この1年のV字回復はひとえに中国・習近平政権の香港問題への対応によるものです。
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台湾の政治的趨勢が中国に有利に傾いていたのはそんなに昔のことではない。
2018年11月の統一地方選では、対中融和路線を取る野党・国民党が、全22県市のうち15の首長ポストを獲得。与党・民進党の蔡英文総統は、大敗の責任を取って党主席を辞任した。これで20年1月11日の次期総統選で蔡が再選を果たす見込みは一気に低下したかに見えた。
ところがこの1年で、世論の風向きは大きく変わった。11日の投票日を前に、蔡の支持率は他候補を大きく引き離しており、余裕で再選を決める勢いだ。
16年の総統就任前から中国と距離を置いてきた蔡だが、この形勢逆転について感謝する相手がいるとすれば、中国の習近平国家主席だろう。
蔡の人気が復活したのは、半年以上にわたり混乱が続く香港に、台湾市民が自分たちの未来を重ね合わせたからだ。
「一国二制度」の形骸化に抗議する香港市民に対して、中国政府はあくまで強硬な姿勢を維持。それを見た台湾市民は、中国が台湾にも提案する「再統一モデル」である一国二制度を決して受け入れてはならないと決意を新たにした。【1月14日号 Newsweek“「蔡英文再選」後の台湾はどこに”】
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【立法委員選挙は、小政党の動き、特に「4年後」を見据えた郭台銘氏の動きにも注目】
立法委員(国会議員に相当)の方は、二大政党以外の小政党の動きもあって、まだ不透明さが残っています。
****台湾総統選まで1カ月 蔡氏リード、同日の立法委員選も焦点****
台湾の総統選は来月11日の投票まで1カ月を切った。再選を目指す蔡英文総統が選挙戦を優勢に進めており、焦点は同日に行われる立法委員(国会議員に相当)選で、与党、民主進歩党が過半数を維持できるかに移ってきた。
二大政党の対立を横目に、今回の総統選への出馬を見送った柯文哲台北市長が率いる台湾民衆党など、小政党の争いも激しさを増している。
蔡氏の世論調査の支持率は、香港情勢が悪化した夏以降、対抗馬の野党、中国国民党の韓国瑜高雄市長を下回る例がない。
民進党が11月中旬から始めたテレビCMは総統選向けではなく、蔡氏の声で「あなたの一票で『一国二制度』にノーを。民主と進歩を国会の多数に」と立法委員選の支持を呼びかけている。
一方、支持率が低迷する国民党の韓氏は11月末、「世論調査の多くは偽物だ」と主張。支持者に対し、調査に「蔡氏支持」と答えるよう求める奇策に出た。調査を混乱させ、劣勢ではないと強弁する策だ。
立法委員選でも、国民党は11月中旬発表の比例名簿で、香港警察への支持を表明した人物を上位に登載し批判が噴出。
前回選で大勝した民進党は苦戦が伝えられ過半数割れの予想もあったが、比例区の投票先で国民党を逆転する調査も出てきた。
一方、小政党では、柯氏が11日、2024年の総統選への出馬に意欲を表明した。民衆党の比例票の底上げが狙いとみられる。
国民党の予備選で敗退し離党を表明した鴻海精密工業の創業者、郭台銘氏は、柯氏の民衆党に加え、宋楚瑜主席が総統選に出馬している親民党の比例名簿にも自身の側近を押し込むしたたかさを見せている。
二大政党が拮抗する中、小政党の「第三勢力」がどの程度、議席を確保するかも注目されている。【2019年12月11日 産経】
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鴻海精密工業の創業者、郭台銘氏は、「4年後」を見据えた動きとか。
****動く鴻海・郭氏、「4年後」視野? 次回総統選へ「第三勢力」づくり****
来年1月11日の台湾総統選への立候補を見送った鴻海(ホンハイ)精密工業の創業者、郭台銘氏(69)が、総統選と同じ日にある立法院(国会)選挙で存在感をアピールしている。
無所属や小政党の候補者を支援して既存の2大政党と異なる「第三勢力」をつくって、2024年の次回総統選の足場にする狙いとみられる。(中略)
郭氏はその後、豊富な資金力を生かして、総統選立候補を模索していた台北市長の柯文哲氏(60)が結成した新党・台湾民衆党や、既存の小政党・親民党の立法会選比例名簿に、鴻海関係者らを送り込み、台湾各地で遊説を続けている。
台湾の国会にあたる立法院(定数113)の現有議席は、民進党68議席、国民党35議席。民進党は総統選では蔡氏が優勢だが、昨年の統一地方選で大敗しており、立法院選では各地で接戦が予想されている。
郭氏は2大政党双方の過半数割れとともに、キャスティングボートを握る第三勢力づくりをめざしている。
その先ににらむのは4年後の総統選だ。郭氏は23日、地元テレビのインタビューで立候補を見送ったことについて「本当に後悔している」と打ち明けた上で、「台湾人民が私を必要とするなら、私は常にともにある」と強調した。(後略)【12月30日 朝日】
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選挙戦終盤にきて、郭台銘氏の軸足は側近が名簿の上位に載っている親民党に支持を絞った様相にもなっているようです。
****台湾、小政党が台風の目に? 立法委員選、二大政党過半数割れも****
(中略)小政党が議席を伸ばせば、どの政党も過半数に届かない可能性がある。
その急先鋒(せんぽう)が、昨年8月に台湾民衆党を設立した柯文哲(か・ぶんてつ)台北市長だ。二大政党は「(中国との)統一、独立問題にとらわれている」として、どの政党も過半数に満たない状態こそが「台湾を再始動させられる」と訴える。支持者は中間層の若者が多く、民進党は陣営票の流出を警戒する。
総統選に宋楚瑜(そう・そゆ)主席が立候補している親民党(現有3)は終盤、国民党支持層に狙いを定めた。国民党の総統予備選で敗れた鴻海精密工業の創業者、郭台銘氏は4日、「比例は親民党に」と支持を表明。
郭氏は側近を民衆、親民両党の比例名簿に押し込んでいたが、側近が名簿の上位に載っている親民党に支持を絞った。柯、郭両氏とも次期総統選に意欲があるとされ、立法院の議席を足掛かりにしたい考えだ。(後略)【1月7日 産経】
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なお、“中国とのサービス貿易協定締結に反対する14年春の「ヒマワリ学生運動」から派生した左派系「台湾独立」派の政党・時代力量は存亡の危機にある”【同上】とも。
【与党・蔡英文政権は「反浸透法」で中国の選挙干渉を排除】
一方、選挙戦を優位に進める与党・民進党は、中国の選挙干渉などに対抗する「反浸透法」を成立させ、反中的な流れを維持したい構えです。
****台湾・蔡英文政権、総統選前に中国の干渉警戒 介入防止法成立へ****
2020年1月11日投開票の台湾総統選を前に、蔡英文政権が中国からの選挙干渉に対する警戒を強めている。
立法院(国会)で過半数を占める与党・民進党は、選挙干渉などに対抗する「反浸透法」を会期末の31日に成立させる構え。対中融和路線を取る最大野党・国民党は激しく反発しており、審議は大荒れとなりそうだ。
中国から台湾の親中派勢力への資金援助などの選挙介入疑惑は、これまでも台湾メディアなどで相次いで報じられてきた。蔡政権は、国民党に有利となるような選挙介入を中国から受けることを強く警戒する。
蔡政権が立法院に提案した「反浸透法案」は、「敵対勢力」からの指示や資金援助を受けて、台湾で選挙や政治献金などに関与したりフェイクニュースを拡散したりした場合、5年以下の懲役などを科す内容。名指しは避けたが「敵対勢力」は中国を想定する。
国民党は「あらゆる個人・団体が『敵対勢力との結託』とみなされて立件される恐れがある」(馬英九前総統)などと強く反発している。これに対し民進党は「国民党が反対するのは中国と協力したいからだ」(陳亭妃立法委員)などと攻勢を強めている。【12月28日 毎日】
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結局、同法案は国民党の立法委員らが議場内で「悪法」「新たな戒厳令だ」などと記した横断幕を掲げ、座り込みをするなどして抵抗しましたが、予定どおりの12月31日、中国と対立する与党・民進党の賛成多数で可決しました。
【「蔡英文再選」後の台湾、特に、習近平政権の対応】
でもって、若干気が早いですが、蔡英文総統の再選という予測を前提に、「蔡英文再選」後の台湾はどうなるのか?という話。
総統選勝利で勢いづく独立派の動き、台湾支持の姿勢を強めるアメリカの動向・・・そうした動きをにらみながら、中国・習近平政権が(米中戦争の危険は避けながら)どのように対応するのか・・・。まずはアメリカ大統領選挙の行方を見守る形になるでしょうが、その後もしばらくは慎重姿勢を維持すると思われます。
*****「蔡英文再選」後の台湾はどこに*****
香港デモをきっかけに一気に勝利へと近づいた蔡総統
統一を迫る中国の習近平はトランプの大統領選をにらみつつ、台湾独立派の影響力拡大を「三面作戦」で封じ込める
(中略)新年早々、台湾統一に向けて基本方針を示した習だが、少なくともあと4年は、反中的な台湾政府を相手にすることになりそうだ。しかも地政学的環境は一段と厄介になっている。その最大の要因はアメリカだ。
米中関係が悪化するなか、アメリカは台湾への外交的・軍事的支援にこれまでになく前向きになっている。1978年の米中国交正常化合意により、少なくとも表向きは中国との関係を台湾よりも優先してきたアメリカだが、ドナルド・トランプ大統領の就任以来、この合意を破綻させかねない措置を相次いで取ってきた。
例えば18年2月、米議会は台湾旅行法を圧倒的多数で可決し、米台両国の政府職員の相互訪問を解禁。同年8月にはトランプ政権が、中国と国交関係を樹立するために台湾との断交を決めたエルサルバドルを厳しく批判した。
さらに19年12月にトランプが署名した2020会計年度の米国防権限法は、サイバーセキュリティー分野における台湾との軍事協力や合同軍事演習まで提唱している。
独立派の勢力拡大は確実か
いずれも象徴的措置にすぎないが、中国指導部は激怒している。それでも習は、これまでのところアメリカを非難するだけで、具体的な報復措置は取っていない。むしろ中国政府が懸念しているのは、アメリカの政策が台湾政治に与える影響だ。
蔡は中国との統一にはあくまで反対の態度を維持しているが、中国政府を刺激するような言動は避けてきた。だが、今回の総統選に圧勝すれば、台湾の政治的ダイナミクスは大きく変わる可能性がある。
例えば民進党内の独立派が、この勢いに乗じて独立の姿勢をもっと明確に打ち出すべきだと、蔡に圧力をかけるかもしれない。
アメリカの対中強硬姿勢を、台湾が中国に対してもっとケンカ腰の姿勢を取ることへのゴーサインと受け止める可能性もある。
その結果、台湾が明らかに独立に向けた積極的行動を起こせば、中国政府は厄介な対応を迫られることになる。
今年はアメリカも大統領選挙の年だから、中国が台湾に軍事的な脅しをかければ、トランプは強気の(ただし攻撃的ではない)対応を取る誘惑に駆られるだろう・・・台湾の独立派はそう踏んでいる。
だから彼らは、国歌の変更など、台湾の法的地位を変更する試みと解釈できるような措置を蔡に迫る可能性がある。
こうした微妙な措置は、中国政府にとってはストレートに対応しにくい。中華民国から台湾共和国に国名 を変えるなら、中国政府として絶対容認できない一線を越えた行為と言えるが、国歌の変更はそこまであからさまではないからだ。こうした揺さぶりをかける独立派の勢力拡大が、第2次蔡政権にとって大きな試練になるのは間違いない。
現実主義者の蔡は、国歌変更のような象徴的な措置は中国を刺激するだけで、台湾にとっては本質的な利益にならないことを理解している。
それよりも蔡が最優先課題に掲げるのは、台湾経済の競争力強化だ。だが中国との関係が悪化すれば、台湾経済がダメージを受け、蔡政権に対する世論の風当たりが強くなるのは間違いない。
習は国家主席就任以来、国内外で次々と議論を呼ぶ措置を取り、リスクのある決断もいとわないという評判を確立してきた。だが台湾に関しては難しい舵取りを迫られている。
黙っていれば、国内の批判派から弱腰と見なされる恐れがあるが、大規模な軍事演習を実施するなどして台湾に脅しをかければ、ほぼ確実にアメリカの介入を招くだろう。
96年の台湾海峡危機で米申がにらみ合ったときには、中国は米海軍に深刻な打撃を与えるような海軍力・空軍力を持ち合わせていなかったが、今回は違う。20年の危機はより危険なものになり得る。(中略)米軍と中国軍が問近でにらみ合えば一触即発の危険性が一気に高まる。50年代後半の台湾海峡危機以来の事態だ。
当然ながら米中はどちらも今年こうした事態が勃発することを望んでいない。米政界は超党派で台湾を強力に支持しているが、台湾問題で中国と壊滅的な戦争に突入することなど誰も望んでいない。回避可能な戦争であればなおさらだ。
習にしても台湾に対して強硬なレトリックを使いはするが、米軍との直接対決に発展しかねないリスクがある以上、軍事行動は何としても避けたいだろう。当面危ない橋を渡る可能性はないとみていい。
今後2年程度、習は2期目に入る蔡政権に現実的な対応を取る公算が大きい。米政界の動きを気にする必要があるからだ。取りあえず今は米大統領選の行方が読めないため慎重にならざるを得ない。
米大統領選の投票が行われる11月3日まで習は事を荒立てまいとするだろう。下手に動けば軍事衝突の危険性が増すのは分かり切っている。中国が挑発的な行動を取ればトランプは支持基盤受けを狙って強硬姿勢を見せつけようとするからだ
投票が終わって米政界の今後がある程度見通せるようになっても、習はしばらく様予見を続けるだろう。
トランプが再選されれば、米中関係が悪化し続ける可能性が高くなる。政治的なコストを気にする必要がなくなれば、トランプは貿易戦争を再開しようとするだろうから、習はトランプに対中攻撃の口実を与えるような言動を慎まざるを得ない。
民主党候補が勝てば、習はなおさら慎重になる。台湾問題で対米関係がこじれ、ホワイトハウスの新しい主人と敵対するような事態は避けたいからだ。
習は軍部を完全に支配下に置いているし、自分を批判する者がいたら汚職を口実に収監できる。米大統領選が終わった後も政権内部の強硬派を抑え込めるだろう。
習の忍耐と胆力が試される
こうした事情から、習は台湾に対して今後2、3年は基本的に、16年に打ち出した三面作戦を続ける可能性が高い。
まず外交面で台湾への締め付けを強める。16年に蔡政権が発足して以降、中国は各国に台湾と断交するよう精力的に働き掛けてきた。今や台湾と国交がある国はわずか15カ国。中国は今後、この15カ国も自陣営に引き入れようとするだろう。なかでも目を付けているのは中国との関係改善に大乗り気なバチカン市国だ。
また、中国は台湾を一層孤立させるため、外交力にものいわせてあらゆる種類の国際機関への台湾の参加を妨害するだろう。
軍事面では、最終的に武力カードを使うことも視野に入れた準備を加速させるはずだ。台湾が正式な独立に踏み切る可能性をゼロにするには、軍事的な脅威という抑止力が必要だと中国の指導部は考えている。
そのため南東部沿岸への短距離弾道・巡航ミサイルなど攻撃兵器システムの配備は着実に進む。台湾周辺での海軍と空軍の大規模な演習も頻繁に実施されることになる。
三面作戦のうち、中国が最も先を見越した攻勢に出るのは経済面だ。習と指導部は中台の経済関係の強化が長期的には中台統一を強力に推し進める原動力になると確信している。
台湾の有権者は心情的には独立を望んでも、現実問題として経済的な生き残りを選ばざるを得ないからだ。台湾経済の中国依存そのものが独立を阻む要囚になる。昨年11月に中国が台湾の企業と個人に対する優遇策を発表したのもそのためだ。(中略)
二面作戦が今後数年で成果を生むかは疑わしい。しかし米中関係が急速に悪化し、中国が取れる有効な選択肢が限られている今、現実路線と強硬路線の中問を行く習の戦略は最も無難なアプローチとみていい。
平和的な中台統一の夢が絶望的なまでに遠ざかっても、忍耐強く微妙なバランスを保って米中激突を避けること。習は今後数年間、その胆力を試されることになる。【1月14日号 Newsweek日本語版】
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