(米軍などが駐留するイラクのアサド空軍基地(2020年1月13日撮影)【1月17日 AFP】)
【「戦争回避の出来レース」】
アメリカによるソレイマニ司令官殺害は、イランの報復攻撃必至ということで、日本を含めた世界中で緊張が高まりました。
基本的に外国のことには無関心な当事国アメリカでも、さすがに懸念が広まったようです。
“アメリカのSNSは大騒ぎとなり、ツイッターでは「第三次大戦(WWIII)」がトレンド入りした。アメリカがイランとの戦争に踏み切れば、徴兵が始まるのではないかという不安の声も多く上がっている”(ウェスリー・ドカリー氏 ニューズウィーク日本版)【1月11日 デイリー新潮】
しかし、その後の展開はアメリカとの戦争を避けたいイランが米軍兵士に被害がでないように配慮したということ、トランプ大統領もカネのかかる戦争はしたくないということで、一応双方「撃ち方やめ」状態に落ち着いているとされています。(今後の多くの「危険」については別問題ですが)
下記記事では「戦争回避の出来レース」といった言葉も。
****米国vsイラン戦争回避の出来レース、2つの国が絶対口を出しては言えない本音とは****
(中略)
《報復を宣言していたイランが日本時間8日午前7時半ごろ、イラクにあるアメリカ軍基地をミサイルで攻撃した》
この攻撃については後で詳しく見るが、イランが報復を行い、同じ日の午後にニューズウィーク日本版が「第三次世界大戦」の記事を掲載したわけだ。
報復が報復を呼ぶ最悪の展開を想像した方は、この頃なら決して少なくなかっただろう。しかしながら、ニューズウィーク日本版の記事がアップされてから約45分後、午後3時に日テレNEWS24は「イラン外相『戦争は望んでいない』」の記事を掲載した。
《イランが、アメリカ軍が駐留するイラクの基地を攻撃したことについて、イランのザリフ外相は8日、「攻撃は終わった。戦争は望んでいない」などとして、あくまで自衛のための報復であることを強調した》
金の切れ目がテロの切れ目!?
これを1つの契機として、抑制的な報道が目立つようになっていく。例えば時事通信は翌9日の午前1時57分、公式サイトに「イラン報復、米軍基地攻撃 イラクに弾道ミサイル十数発―トランプ氏『死傷者なし』」の記事を掲載した。末尾を紹介させていただく。
《CNNテレビによると、イランはミサイル攻撃実施を事前にイラク政府に伝えていた。イラク側から情報を入手した米軍は、着弾までに兵士らを防空壕(ごう)などに避難させることができたという。事実であれば、イランが緊張激化に歯止めをかけるため、米兵に被害を出さないよう配慮した可能性が高い。イランのメディアは「米部隊側の80人が死亡、200人が負傷した」と伝えたが、国内向けの政治的宣伝とみられる》
こうして徐々に「すわ、第三次世界大戦か」という懸念は減少していき、「どうやら大丈夫みたいだ」と世論も変わったわけだ。(後略)【1月11日 デイリー新潮】
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結果、トランプ大統領の強硬姿勢が奏功したとの評価も。
【「彼らが生き延びたのは神の奇跡だ」】
イランが被害を最小限に抑えるように配慮したのは事実でしょうが、弾道ミサイル十数発を撃ち込むという攻撃の技術的問題で、“出来レース”と言えるほど安心していてもよかったものだったのか・・・については、やや疑問も。
****イランのミサイル攻撃、米兵に負傷者出ていた 政府発表と矛盾****
米軍も駐留するイラク軍のアサド空軍基地に対しイランが今月行った弾道ミサイル攻撃で、米軍の要員に複数の負傷者が出ていたことが17日までに分かった。米国防総省は当初、攻撃による負傷者はいないと発表していた。
イラクとシリアで過激派組織「イラク・シリア・イスラム国(ISIS)」と戦う米国主導の有志連合は16日、声明を発表し「1月8日にイランが実施したアサド空軍基地に対する攻撃で、米軍の要員に死者は出なかった。ただ数名が爆発による脳振盪(しんとう)を起こし、治療を受けた。現在も検査が行われている」と明らかにした。
要員らは検査のため、ドイツの医療センターに移送された。検査を受け、任務に復帰可能との判断を受ければイラクへ戻る予定だという。
また米軍当局者の1人はCNNに対し、要員11人がミサイル攻撃によって負傷したと述べた。負傷者の存在はニュース配信サイト「ディフェンス・ワン」が最初に報じていた。
国防総省の発表と食い違う点を問われた防衛担当の当局者は、「それは当時の司令官による検証結果だった。症状はその事象の数日後に明らかとなり、念のために手当てを行った」と説明した。
国防総省の報道官はCNNの取材に答え、当初の記録を修正したと述べた。国防長官のオフィスも、負傷者について把握しているという。
16日夜には米中央軍の報道官が11人の負傷者について、8人をドイツの医療センターに、3人をクウェートの基地に移送して検査を受けさせていると明らかにした。
そのうえで「標準的な手続きとして、爆発の付近にいた要員は誰もが、外傷性脳損傷の有無を調べる検査を受ける。場合によっては別の施設に搬送し、より高度な治療を施す」と付け加えた。【1月17日 CNN】
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爆発による脳振盪を起こすということは、、相当に近い場所で爆発したということでしょう。
数日前、下記のような記事があり、報じられているような“出来レース”的な状況とは何だか違うな・・・と思っていたのですが、脳震盪云々は下記記事の状況に近いようにも思われます。
****イランのミサイル攻撃「生き延びたのは奇跡」 駐イラク米軍司令官インタビュー****
押し寄せる弾道ミサイル、何時間も塹壕(ざんごう)の中に身を潜める兵士たち、強烈な衝撃波──イラクの駐留米軍基地に対してイランが行った前代未聞のミサイル攻撃について、ある米司令官は「耳を疑った」と語った。
イラク西部のアサド空軍基地でAFPの独占インタビューに応じたティム・ガーランド中佐は、イランが同基地を攻撃した数時間前の7日夜、上官らから「事前警告」を受けていたと明かした。
「最初はショックを受けた。耳を疑った」。アサド基地にそんな大胆な攻撃をする能力も、意思も、イランにあるとは思えなかったとガーランド中佐は言う。イラク最大級の空軍基地であるアサド基地には米軍兵士1500人、イラク軍兵士数千人が駐留している。(中略)
米軍の無人機攻撃に遭い、死亡した。アサド基地は、これに対するイランの報復攻撃の対象として狙われた。
7日午後11時(日本時間8日午前5時)までに米軍と有志連合軍の兵士らは宿舎や配置場所から避難し、塹壕の中に身を隠すか、基地内の各所へ散って待機した。そして緊張したまま待機する時間が2時間ほど続いた。
「攻撃の第1弾が始まったときの音は、これまで聞いたことのある中で最も大きく、激しい音だった」とガーランド中佐はAFPに述べた。
■衝撃波でたわむドア
「空気が何か、異常だった。空気の流れ方、温度の上がり方がおかしかった。衝撃波がやって来てドアが折れ曲がり、前後に大きくたわんだ」
午前1時35分に開始された攻撃はそれから3時間続き、さまざまな間隔で約5回の弾丸ミサイルによる一斉攻撃が基地に向けて行われた。イラクへの駐留経験が複数あるガーランド中佐だが、「あれほど長時間恐怖を感じたことは久しくなかった」と語った。
攻撃が鎮まったのは午前4時ごろ。塹壕から出てきた司令官や兵士たちが目にしたのは、基地の至るところで上がっている火の手だった。被害は基地内の10か所以上に及んだが、奇跡的に死者はいなかった。
監視塔にいて吹き飛ばされた兵士2人も、脳震とうを起こしただけで済んだという。
「彼らが生き延びたのは神の奇跡だ」とガーランド中佐は言う。
ただ、ミサイル攻撃は兵士らに爆撃は終わったと思わせる間隔を置いて複数回あったという。「もう大丈夫だと思うくらい、だいぶ時間がたっていた。私見だが、死者を発生させようという意図だったのではないか」
攻撃の激しさを考えれば、自分たちは運が良かったとガーランド中佐は語った。「戦域弾道ミサイルによる攻撃だ。前例のない攻撃だった」 【1月14日 AFP】
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上記記事を読む限り、本当にイランが被害を最小限に抑えるように配慮したのかさえ怪しいような、“死者を発生させようという意図”ともとれるような激しい攻撃だったようです。
結果的にイラン側はミサイル技術の精度を見せつけた・・・・という話にもなっていますが、それは結果論で、監視塔の兵士が吹き飛ばされたり、ドアが大きくたわむような波状攻撃で、人的被害がでてもおかしくないような状況だったのでは・・・。
(監視カメラだってある時代、弾道ミサイルが飛んでくるときに監視塔での監視がどういう意味を持つのか知りませんが)脳震盪以外の被害者がでなかったのは「彼らが生き延びたのは神の奇跡だ」という「幸運」の結果だったのかも。
もし数名の死者がでていたら、トランプ大統領も「万事順調だ。イランがイラクにある2つの基地にミサイルを発射した。死傷者や被害の状況を調査中だ。今のところ、大丈夫だ。」では済まされなかったでしょう。
報復が報復を呼ぶエスカレーションに陥る危険もあり得た状況で、そうならなかったのは“神の奇跡”だったのかも。
【「そんなことはどうでもいい」ことか?】
「出来レース」と呼ぶにはあまりにもリスクの大きい事態だったようにも思えますが、そんな世界に危機をもたらすような事態の引き金ともなった司令官殺害について、トランプ大統領の発言は随分といい加減です。
****司令官殺害根拠「どうでもいい」 トランプ氏がツイート****
トランプ米大統領は13日、イランのイスラム革命防衛隊のソレイマニ司令官を殺害した経緯を巡って、「差し迫った脅威」があったかどうかについて「どうでもいい」とツイッターに投稿した。司令官殺害の理由に関してトランプ政権の説明は揺れており、米議会などでさらに批判が強まる可能性がある。
トランプ氏はツイッターで、メディアや民主党が、司令官を殺害しなければならない緊急性があったか否か、政権内で見解が一致していたかどうかを懸命に議論しているとしたうえで「両方イエスだ。彼の忌まわしい過去を考えれば、そんなことはどうでもいい」と主張した。
米政権は、国際法で自衛的措置と認められるのに必要な「差し迫った脅威」について具体的な説明をしておらず、与党・共和党の一部からも批判が出ている。
トランプ氏は、ソレイマニ司令官が、イラクの首都バグダッドを含む4カ所の米大使館を標的に攻撃する計画を進めていたと主張。だが、エスパー米国防長官は「私は4大使館については(証拠は)見ていない」と、トランプ氏の説明を事実上否定した。
トランプ氏は13日、記者団から「4大使館への脅威」の情報について問われると、「(説明は)完全に一貫性がある。ソレイマニは世界最悪のテロリストだ。過去に多くの米国人を殺害した。民主党が彼を擁護するのは、米国の恥だ」と強弁した。
バー司法長官も13日の会見で「(司令官殺害は)米国に対する攻撃を阻止し、合法的な自衛措置だった」と強調した。【1月14日 朝日】
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エスパー米国防長官がトランプ大統領の説明を事実上否定する・・・ホワイトハウス内部はどうなっているのでしょうか?
トランプ大統領がどこまで熟慮して判断・決定しているのか・・・はなはだ疑問です。
頭にあるのは「ここで弱腰姿勢を見せると再選があやうい。なんとかオバマ前大統領との違いをアピールしないと」という思いだけのようにも。
そもそも、イランや中東情勢についてどれほど理解しているかも・・・
イランの位置を正しく答えられたのはアメリカ国民の23%だった【1月21日号 Newsweek日本語版】とのことですが、トランプ大統領も位置は知っているでしょうが、それ以上は・・・。
****真珠湾訪問「何のため?」 地理歴史にうといトランプ氏浮き彫り、米記者新刊****
ドナルド・トランプ米大統領はインドと中国が国境を接していることを知らず、ハワイの真珠湾を訪問する意味もよく理解していなかった──米紙ワシントン・ポストの記者2人による新著「A Very Stable Genius(非常に安定した天才)」の内容の一部が15日、同紙に掲載され明らかになった。
フィリップ・ラッカー記者とキャロル・レオニグ記者が手掛けた同書は、トランプ氏の気まぐれな振る舞いの数々とともに、基礎的な地理や歴史に対する無知ぶりを浮き彫りにしている。
同書によるとトランプ氏は、インドのナレンドラ・モディ首相との会談の席で、「あなた方は中国と国境を接しているというわけではないでしょう」と発言したという。実際にはインドと中国は隣国で、1962年にはヒマラヤ山中の係争地をめぐって紛争も起きている。
このトランプ氏の発言と、インドが直面する中国の脅威を否定するような態度を受けて、「モディ氏は驚きに目を見張った」「モディ氏の表情は徐々に、衝撃から懸念へ、そして諦めへと変わっていった」と同書は記している。
この首脳会談の後、米国との外交関係から「インドは一歩引いた」とトランプ氏側近の一人は著者らに語ったとされる。
また同書には、1941年12月7日の真珠湾攻撃で日本軍によって撃沈された米戦艦アリゾナの追悼式典にトランプ氏が出席した際のエピソードも紹介されている。それによるとトランプ氏は、当時大統領首席補佐官だったジョン・ケリー氏に向かって「ジョン、一体これは何だ? 何のための訪問だ?」と尋ねた。
「トランプ氏は『真珠湾』という言葉を聞き、歴史的な戦闘のあった場所を訪れるのだという点は理解したようだったが、それ以上はあまり分かっていないように見えた」という。
新著は、「彼(トランプ氏)は時々、危険なほど無知だ」との米ホワイトハウス元上級顧問の言葉も引用している。 【1月16日 AFP】
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私を含めて一般人は「知らない」ことは恥ずかしいことでも何でもありませんが、世界のリスク管理を決定するアメリカ大統領となると話も違ってきます。
「知らない」以上に、人間的に信用できない「嘘つき」はもっと困ります。