孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

「ストの国」フランスでの異例の長期交通ストライキ 「不便」への国民の不満は?

2020-01-04 21:23:48 | 欧州情勢

(3日、フランスで、交通ストライキの影響で閉鎖された地下鉄の入り口の前を歩く人たち=AP【1月4日 東京】)

【1か月を超える交通スト 政権と労組の体力勝負へ】

昨年12月18日ブログ“フランス 年金改革に反対する5日からの交通スト、いまだ収束せず クリスマス突入か”でも取り上げたフランスでの、年金改革をめぐる昨年末からの交通ストライキは、クリスマス突入どころか年が明けても止まず、1月4日で31日目に入っています。

 

現在の日本とは異なり、ストライキがごく一般的にみられるフランスでも、さすがにこれほど長期化した交通ストはないようです。

 

“交通機関のストは、給与体系など待遇改善を求めた一九八六~八七年の二十八日間が過去最長だった”【1月4日 東京】

 

マクロン政権と労働組合側の体力勝負の様相を呈しています。

 

****大規模ストで大混乱!正念場のマクロン政権*****

年の瀬を襲ったフランスの大規模ストライキ。首都パリの都市機能がマヒし、経済への影響が懸念されるなか、ストの拡大・継続により、正念場を迎えたマクロン政権の今後を展望する。

―パリは“通勤交通戦争”状態―
フランスの首都パリの路上ではいま、毎朝のように大渋滞が起きている。主要道路は、車が全く動かないことも珍しくない。立ち往生したり、無理な割り込みを試みたりするドライバーには、他の車から容赦ない罵声が浴びせられることもしばしばだ。

また、地下鉄はほとんどの路線がストップし、バス停は、山のような人だかりで、乗るときに罵り合いやケンカが始まることも珍しくない。

都市機能がマヒし、公共交通機関のストップにいらだつ大勢の市民。これが現在のパリの姿だ。

―“ストの国”仏でも異例の大規模スト―
パリに大混乱をもたらしているのは、政府の年金改革に反対するストライキだ。12月5日に、フランス最大の労働組合の一つが呼びかけて実施したストには、政府発表で80万人が参加した。

この結果、高速鉄道の9割が運休し、エールフランス航空が、中・近距離路線を中心に大幅に運航を取りやめた。またエッフェル塔やオルセー美術館が閉鎖。ルーブル美術館も営業時間の短縮を余儀なくされ観光にも深刻な影響が出ている。

労働者の権利意識の強いフランスでは、もともとストやデモは日常茶飯事。「フランス人が好きなものは、サッカーとデモとストライキ」などと揶揄されるほどだ。しかし、そんな“スト大国”フランスでも、今回の規模は異例。スト慣れしているはずの社会に大きな混乱が広がっている。

―労働者の怒りを買う年金改革とは―
労働組合の激しい怒りの対象となっているのはフランス政府の年金改革だ。政府は現在、業種ごとに42種類ある年金制度を一本化し、受給開始年齢を、62歳から64歳に引き上げようとしている。

現行の制度で、公務員は、一般の民間企業の労働者に比べ、最大で2倍近い年金を受け取れたり、重労働とされる鉄道や海運などの労働者は、通常より10年以上早く退職し年金を受け取れたりするなど優遇措置がある。

 

こうした手厚い優遇制度を支えるための財政支出は、フランスのGDP全体の約14%に上り、OECD(=経済協力開発機構)の加盟国の平均7.5%をはるかに上回っている。

年金改革は、財政を圧迫する優遇措置をやめ不公平の是正をめざすものだ。しかし、これまで恩恵にあずかってきた労働者たちは、「既得権益」を守ろうと必死の抵抗を続けている。

改革への逆風が吹き荒れるなか、マクロン政権は12月11日、新たな制度を段階的に実施し、当初の計画より幅広い世代を適用除外とするなど一定の譲歩を示した。

しかし、改革の本筋を変えない姿勢に、組合側は、「国民をバカにしている」と猛反発。ストの無期限延長を決定した。さらに、これまでストを控えていた別の大手労働組合も、「政府は越えてはならない一線を越えた」と反発し、ストへの合流を表明するなど、混乱は拡大・悪化の様相を見せている。

―鬼門の年金改革。「黄色いベスト」運動の合流でさらなる混迷へ?―
今回のストをみると同じフランスで1995年に起きた大規模ストがオーバーラップする。当時のシラク政権が発表した年金改革案に対し、交通・エネルギー・通信など広範な公共企業の労働者が猛反発。3週間以上続いたストで、パリは大混乱に陥り、改革は失敗に終わった。

 

今回、労働組合は当時のストを意識して、政府に圧力をかけており、撤回を求めて長期間の闘争も辞さない構えだ。

さらに混迷に輪をかけそうなのが、「黄色いベスト」運動のストへの合流だ。去年、燃料税の値上げをきっかけにフランス全土に広がった反政府デモ「黄色いベスト」運動。開始から1年以上がたち当時の勢いはないが、今回のストによる社会の混乱に乗じて抗議活動を再び活発化させようとしている。

―改革後退ならマクロン氏の権威失墜も―
「黄色いベスト」運動がピークだった1年前、マクロン大統領は「金持ち優遇」との激しい抗議デモに直面。燃料増税の凍結に加え、最低賃金の引き上げなどを国民に約束した。こうした譲歩により、財政負担は、日本円にして1兆円以上増加したという。

マクロン大統領は、就任当初、国民に痛みを伴う改革を速やかに実行し、国内に投資を呼び込むことでフランスを成長軌道に乗せ、国民に改革の成果を実感させることを目指していた。

しかし、「黄色いベスト」運動に対する妥協で、マクロン「改革」は挫折。今回もストに屈して、年金改革を撤回することになれば、2回連続の譲歩となり、改革からの後退を強く印象づけることになる。改革を旗印にしてきたマクロン政権の存立基盤は大きく揺らぎかねない。

また、イタリアなど、加盟国の債務削減が課題となっているEU(=ヨーロッパ連合)において、けん引役を担うマクロン大統領は、各国に財政規律の順守を求める立場だ。フランスの財政赤字がさらに膨らむことになれば、EU内でのメンツを保てなくなるだろう。

厳しい状況のなか、マクロン大統領は、退任後から支給される大統領特別年金(日本円で月額約75万円)を歴代大統領で初めて辞退する意向を表明。自ら身を切る覚悟を示してまで、ストの一時休止を求めたが、事態が収まる気配はない。

一方、世論調査では、当初、7割近くの国民がストを支持していたが、混乱が長引くにつれて支持が減少するなど、国民がうんざりし始めていることをうかがわせる。


実は、6割以上の国民が「年金改革は必要」と考えているというデータもある。そこからは、自分の受給額は維持したいが、このままの制度では、立ち行かないことを認識している多くの国民の姿が浮かび上がる。


しかし、現状では、こうした声はストの混乱にかき消され、表だっては、ほとんど聞こえてこない。事態の打開策が見えないなか、国民にねばり強く説明を重ね、改革を支持する民意を少しずつ掘り起こすことしか手だてはないのかもしれない。

マクロン政権は、2020年1月末に年金改革法案を提出し、夏までの法案成立をめざしている。国民生活や経済の混乱という窮地のなか、このまま改革姿勢を貫けるか、それとも、譲歩か。2020年は、マクロン大統領にとって非常に難しい政権のかじ取りを迫られる年となりそうだ。【1月3日 日テレNEWS24】

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マクロン政権側の「正念場」は上記のとおりですが、正念場なのは組合側も同様でしょう。

日本でかつて「スト権スト」を構えながらも敗北した労働側が、それを機に衰退していったように、これだけのストを構えて成果を得られなかった場合のダメージは労組側にとっても深刻なものになるでしょう。

 

そのため、マクロン政権、労組側、お互いに引くに引けないチキンレースともなっています。

 

【「不便」への「ぼやき」「苛立ち」はあっても、労働者の権利への表立っての批判は大きくならないフランス社会】

チキンレースの行方はわかりませんが、興味がもたれるのは、これだけの「不便」に対し一般国民がどのように思っているのかという点です。

 

上記にもあるように、年金改革の必要性は国民の6~7割が理解しているとも。

しかし、表だって労組側への「ストをやめろ!」との批判の声は大きくなっていないようです。

 

一方で、日本ではストライキどころか、「利用者に迷惑をかける」ということで、元日休業さえままならぬ状況が。

 

****元旦に休んで何が悪い!少しはフランスのストを見習うべき。元日は労働禁止でどうか:コンビニ営業問題****

元旦のコンビニ影響が問題になっている。

セブンイレブンでは、コンビニの24時間営業問題の議論のきっかけをつくった店のオーナーの、契約解除を決定。ファミリーマートでは、本部本部社員が店舗業務を代行する制度をつくった。

 

怒りが収まらない。元旦に休んで何が悪い! 元日にすら休めないなんて、家族と一緒にお雑煮を食べてお屠蘇を飲んでゆっくりできないなんて、会社は鬼である。非道である。人権侵害である。元日だけじゃない。3が日は、有無を言わさず全部休みにするべきである。

 

もちろん、例えば神社やお寺の門前町などが「ぜひとも、かきいれ時の元旦に営業したい」というのならすればいい。でもそうではないのに、なぜ元旦に開ける必要があるのだろうか。利用者の便利? 「正月3が日くらい我慢しろ~っ!」と叫びたい気持ちだ。

 

ここで問いたい。

利用者の方々、「あなたの『不便』は、人様のお雑煮とお屠蘇のお正月を犠牲にしなければならないほどのものなのですか?」。

 

非道な企業の方々、「あなたは、人様のおせちを囲む家族団らんを犠牲にしてまで、『金もうけ』が大事なのですか?」。 (中略)

 

元旦を休むのは人間の超初歩的な権利であり、日本の伝統であり、人手不足の問題じゃないでしょう!と言いたい。

ここで、目下ストライキ中のフランスと比較せずにはいられない。

 

フランスのストライキとは

フランスは今ストライキをやっている。年金改革に反対しているのだ。

目玉はあまりにも複雑化した年金制度を一本化すつためであり、フランス人の7割以上が制度の調整には賛成している。この制度改革で今までの恩恵を受けられなくなる人達や労働組合が、主に反対運動をしている。

 

ストライキでは、毎日大変不便な目にあっている。なにせ大半の列車や地下鉄が運休したり、運行時間や運行本数を制限したりしている。通勤通学には、いつもよりも2倍か、それ以上の時間がかかるので、朝早く家をでなければならない。

 

パリの街では、歩いている人が圧倒的に増えた。自転車やキックボードの数も増えた。見知らぬ人同士の自動車の乗り合いも増えている。

 

フランス人の偉いところは、みんなこの不便さに耐えて、じっと我慢しているところである。

 

人々もメディアも同じである。このような「労働者が権利を求める運動」そのものを、表立って批判することは、日本人から見たら「無い」といっていい。そういう社会なのだ。「権利を求める運動は必要だ。そのためには、自分に関係なくても、不便は我慢する必要がある」というのが、社会のコンセンサスなのである。

 

そして、デモやストなどを行った後に、政府と代表者が交渉を始める。こういう形が定着している。いわば儀式のようなものだ。

 

すごいなあと関心している。批判はないのか?


批判の形は、表立っては「ぼやき」と「商業に与える影響が大きい」というものとなる。

 

人々のインタビューでは「自分はこんなに不便を強いられている。疲れました」というのはOK。しかし「他の人のことも考えてほしい」「ストは迷惑だ」「ストをするな」とは決して表立っては言わない。(中略)

 

ニュースでも毎日「いかに経済に与える影響が大きいか」を報道している。でも、収入源で困っている業界の人も「こんなに困っている。このままでは店が立ち行かない」「雇用に響いてしまう」とは言うが、「ストをやめてくれないと本当に困ります」「他の人のことも考えてほしい」「いくらなんでもやりすぎです」とは決して言わない。

 

こうして労働者側には人々の無言の支援が常にあり、政府(や資本家)に圧力が加わっていき、交渉の力となる。政府側は、ストが長引くことによる世論の微妙な変化(「いくらなんでも、そろそろストをやめてほしい」という気持ち)を見ながら、どこまで妥協するか、どこを妥協しないかを探っていくのである。

 

表立っては言われない批判とは

筆者がストが始まったころ、すぐに友人たちから聞かれた、あまり表立っては言われない人々の不満は、「あのひとたち、ストをしたって仕事に行かなくたって、給料は減らないもんな」という皮肉であった。

 

特に今回年金削減の対象となるのは、今まで優遇されてきた公務員(またはそれに準じる立場の人)が多い。フランスは公務員天国で、ストをしている立場の人ですら、フランスの公務員は恵まれているとわかっている。

 

普通の人は、最初の数日はともかく、ストがあって会社に行かなければ、その分給料が減らされてしまう。あるいは有給を使うことになる。だから行かなければならないのだ。(ただしフランスでは、病欠の場合は3日を越えると国民保険から保証金が出る)。

 

だからやっぱりというべきか、最近のニュースでは「あの人達はどうやって仕事を休んでストをしているのか」という内容が報道されている。何でも「病欠」扱いの人が結構いて「ただでさえ大赤字の国保が、さらに出費を強いられている」という論調となる。これは直接の批判ではなく、間接的な批判という形である。

 

今回のストは大変大きく、不便はいつもの比ではない。ストは長引き、来年も続けるという。クリスマスと年末年始で、人々は帰省したり旅行したり移動の多い時期である。ニュースは毎日、「今日の運行状況」を報道している。

 

しかし、それでも「労働者の権利」のほうが大事なのだ。それを要求する人々には、自分には直接関係ないことでも、社会は黙ることで理解を示す、そして黙って耐えるのがデフォルトなのだ。

 

日本と比べずにはいられない。日本はなんと労働者の弱い国なのだろうか。

元旦すら休めないなんて、なんて非人間的なのだろう。元日を休む権利を要求しただけで契約終了だなんて、搾取にもほどがある。(中略)

 

そこで(ちょっと極端な)提案である。

◎元日は法律で労働禁止。

◎2日と3日を国民の祝日にする。

ただし働きたい場合は、届けと許可を得なければならないことにする。元日を休みたい人が許可を得るなんて、逆だと思う。デフォルトが間違っている。(中略)

 

企業は、金を搾り取りたいというよりも、サービスを減らしたら競争相手に負けてしまうのが怖いのはわかっている。だから「みんなで休めば怖くない」を実践するしか方法がないと思う。業界協定でもいいが、法規制するのが一番確実だと思うが、いかがだろうか。【12月30日 今井佐緒里氏 YAHOO!ニュース】

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最近メディアを賑わせているカルロス・ゴーン被告の不法出国問題。

 

もちろん日本としては腹立たしい話ですが、ゴーン被告の側からすれば、容疑自体に対する意見の相違の他、保釈中も妻に会えないなどの日本司法制度への不満があり、その根底には個人の権利に関する認識の違いがあるのでしょう。 

 

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