孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

中国  香港、台湾、新型ウイルス肺炎への対応に見る習近平「一強体制」の弊害 「裸の王様」へ

2020-01-22 23:37:14 | 中国

(【2017年10月31日DIAMONDonline】共産党大会の時の写真でしょうか。いつもの「作り笑い」ではなく、自然でいい感じの笑顔ですね。)

【権力集中 「人民の領袖」へ】
中国共産党政権内部の権力闘争的な実態については部外者はわかりにくいところは多々ありますが、一般的には、習近平国家主席への権力集中が進み、「一強体制」になっていると言われています。

****「1強」体制固めた中国の習近平国家主席****
中国の習近平国家主席(64)が(2018年)3月、国会にあたる全国人民代表大会(全人代)で再選され、正式に2期目がスタートした。

自らの任期を延ばす憲法改正もあっさり実現し、「1強」体制を着実に固めた。大きな権力を手にした習氏は何を目指しているのか。

国会にあたる全人代で再選され、盟友・王氏を副主席に
任期制限なくす憲法改正案を通す
 
今年の全人代は、昨年秋の共産党大会で総書記に再任されて権力基盤を固めた習氏が、自らの政策を実行しやすくする態勢を整える意味が大きかった。結果的に、習氏の狙いはほとんど達成できたといえる。
 
何より大きいのは、自らの長期政権を制度的に可能にしたことだ。共産党が支配する中国の最高指導者は党トップの総書記だが、今は外交などを担う国家主席も兼務している。総書記に任期制限はないが、国家主席は憲法で2期10年までという制限があった。
 
だが、習指導部は全人代が始まる直前、任期制限を撤廃する憲法改正案を突然発表した。「長期支配は独裁につながりかねず、歴史に逆行する」と知識人などから批判が出たものの、全人代では、約3千人の代表のうち、反対はわずか2票で成立させた。これで習氏は5年後の2023年以降も、国家主席を続けられるようになった。
 
人事面では、補佐役の国家副主席に盟友の王岐山氏(69)を登用した。王氏は習氏の1期目に、汚職高官を摘発する党機関トップの書記として、「反腐敗」運動を指揮した実力者。

昨年、「68歳定年」の内規により党の要職からいったん退いたが、意表をつく形で習氏が政府の要職につけた。党序列で2位の李克強首相の影響力は低下しそうだ。

目標とする「社会主義現代化強国」実現へ、体制作り
集団指導体制が有名無実化する心配も
 
習氏が今回、強引とも思える手法で態勢作りを進めたのはなぜか。
習氏は建国から100年を迎える今世紀半ばまでに、世界トップレベルの実力を持つ「社会主義現代化強国」を実現するという目標を掲げている。

だが、目の前には産業構造の転換や貧困問題といった難題が待ち受けている。大きな改革を進めるには、強いリーダーシップと安定した長期政権が必要という判断があったとみられる。
 
政権基盤が安定したことで、外交面でも思い切った政策がとれそうだ。米国との貿易摩擦では強気の対抗策を打ち出し、尖閣諸島の問題をめぐって関係が悪化していた日本には王毅国務委員兼外相を派遣し、改善に向けてかじを切った。
 
ただ、中国は建国の指導者、毛沢東が圧倒的な権威から独裁色を強め、「文化大革命」などの政治運動で国を混乱させた歴史がある。そのため、改革開放を進めた鄧小平の時代以降は、複数の幹部の話し合いで重要政策を決める「集団指導体制」に移行した。
 
習氏の権力が強まりすぎれば、集団指導体制が有名無実化し、再び独裁政治に陥りかねないと心配する見方もある。【2018年4月29日 朝日中高生新聞】
********************

「基本的」には、上記のような習近平氏への権力集中が今も続いており、毛沢東と並ぶ「人民の領袖」と位置付けられています。

****習主席は「人民の領袖」 中国共産党、権威付け進む****
中国共産党中央政治局は26、27日に開いた会議で、習近平総書記(国家主席)を「人民の領袖」と位置付けた。

30日までの香港紙、星島日報によると、指導部を構成する政治局がこの呼称を習氏に使うのは初めて。米中貿易摩擦による景気減速など内外に難題を抱える中、習氏の権威付けが一段と進められた。
 
「領袖」は絶大な権限を誇った毛沢東に使われた呼称で、2017年ごろから習氏に対しても使われるようになった。星島日報は、今回「人民の領袖」と新たに位置付けたことで、習氏の指導的地位をより際立たせたと指摘。個人崇拝の傾向が強まりそうだ。【2019年12月30日 共同】
*****************

【成果が出ない「強国路線」】
習近平政権は鄧小平以来踏襲してきた外交路線である「韜光養晦(とうこうようかい)」(才能や野心を隠して力を蓄える)を放棄し、外洋拡張路線を展開。領土の主張を含めて、周辺国とのトラブルを恐れず、強硬姿勢を貫く「強国路線」に転じています。

ただ、習近平政権の打ち出した「強国路線」は、今のところままり成果をあげていないように見えます。

米中交渉について、下記のような記事が出るということは、逆に言えば、中国国内(主に保守派からでしょうか)に「中国は負け」という不満が出ているということを示しています。

****「中国は負け」と嘲笑する中国人は、悲しいほど幼稚―中国紙編集長****
2020年1月16日、環球網は、米国との貿易戦争で「中国が大国らしからぬ負け方をしたという人は、悲しくなるくらい幼稚」とする、胡錫進(フー・シージン)環球時報編集長による文章を掲載した。以下はその概要。 

米国との貿易戦争で「中国は大国らしからぬ負け方をした」と嘲笑する人は、ペロシ米下院議長、シューマー上院議員、バイデン前副大統領が「米国は屈服した」とトランプ大統領を攻撃する論調に学ぶ必要がある。

今回の貿易戦争で中国の誤りを随時論証しようとする国内の人は、米国でトランプ大統領を批判する人に比べるといささか幼稚である。 

第1段階の経済貿易合意は当然ながら互いに妥協した結果であり、中国が譲歩したのは当然のこと。しかし、中国の譲歩はわれわれの改革開放が強化すべき方向を示しているのではないか。(中略)

「では、最初から貿易戦争など起こさず、米国の条件を全部受け入れればよかったではないか」と言う人がいるが、あまりにも幼稚な話で悲しくなる。

中国は米国との22カ月の戦いによって、米国の多くの要求を排除することに成功するとともに、米国人に「中国人は手ごわい」とも確信させた。EU(欧州連合)だって、日本だって、米国とこれほど張り合う勇気も能力も持ち合わせていない。中国は大国として、米国からリスペクトを得る必要があったのだ。 

われわれは争って大国になろうと思ったわけではないが、今や世界第二の大国になった。中国が大国でないと言うなら、世界では米国を除いてどこが大国だと言うのか。

あれこれ考えて「中国はもう大国を自称するな」とあざ笑うような一部の国民は、そんな暇があったら公益活動でもしたらどうか。春節の時期は、どこでも人手を欲しがっているのだから。【1月17日 レコードチャイナ】
********************

香港では逃亡犯条例改正案が頓挫したうえに、昨年11月に行われた香港区議会(地方議会)選では民主派勢力が85%の議席を獲得する圧勝を許すことに。

台湾では、強硬な対応に終始した結果、虫の息だった蔡英文総統の復活・再選に「塩を送った」形にも。

【官僚システムを委縮させ、機能不全を引き起こす「裸の王様」】
問題は「負けた」云々の結果ではなく、「一強体制」のもとで意思決定がうまく機能しなくなっているのでは・・・との懸念です。

****国台弁の工作をぶち壊したのは習近平****
・・・・私は最近ますます確信しているのだが、習近平の暴政は、情報官僚たちを含む中国の官僚システムを委縮させ、機能不全を引き起こしている。こ

のため習近平は国際情勢も経済情勢も社会情勢も正しい情報を掌握できておらず、政策ミスが連発して止まらないのだ。
 
(台湾総統選挙において)国台弁(国務院台湾事務弁公室、中央台湾工作弁公室)が本当に浸透工作をさぼっていたのかというと、実のところ、彼らはなかなか頑張って仕事をしていた。

少なくとも2018年秋の地方統一選挙で、韓国瑜を民進党の牙城といわれた高雄市市長に当選させた手腕は見事というしかない。

そうやって作り上げた国民党優勢のムードをぶち壊したのが「習五条」(2019年初頭に習近平が発表した強硬な台湾政策)だとすれば、習近平は頑張る国台弁はじめ台湾の情報官僚たちの働きを後ろから妨害しているとしか思えない。
 
香港デモの影響によって蔡英文優勢がどうしても覆せない状況になっても、国台弁は国民党の比例名簿上位に中共の傀儡となる統一派議員候補をねじ込んだ。

国民党比例名簿4位で当選した退役軍人の呉斯懐は、習近平に忠実な傀儡と多くの国民党員も認める人物である。国台弁は彼を立法院の国防委員会に送り込むことで、たとえ蔡英文が再選しても、国防に関する内部情報はきちんと手に入れられるように手配した。

もっともこうしたあからさまな工作によって国民党の支持者離れが加速したことも確かだ。今、呉斯懐は国民党惨敗の“戦犯”の一人として立法委員(議員)辞職をするのか否かが問われている。
 
総じていうと、国台弁は習近平の指示どおり、頑張って台湾浸透工作、選挙のための世論誘導工作を行ってきたが、その成果を習近平が後からぶち壊した。

国台弁は焦ってさらに浸透工作したのだが、焦った分、雑な仕事になって、台湾有権者から見破られた、ということではないだろうか。

鄧小平以来、時間をかけて完成された中国の官僚システムを使いこなせず、ぶち壊しているのが習近平だと、私は分析している。
 
習近平は香港に続いて台湾においても敗北を受け入れなければなるまい。さて、この敗戦処理をどうするのか。【1月16日 福島 香織氏 「台湾総統選で“敗北”した習近平が責任転嫁の逆ギレ」 JB press】
*******************

*****香港区議選:中国共産党は親中派の勝利を確信していた(今はパニック)****
(中略)
なぜ、これほどの大きな誤算が生じたのか。最大の問題は、中国共産党から香港の世論操作を任されていた人々が、その成果の報告も自分たちで行っていたことだった。

これを行っていたのが、中国政府の香港出先機関である香港連絡弁公室だ。同機関は本土と香港の統合を推し進めるのが表向きの任務だが、実際には親中派の政治家をまとめたり共産党系の会報を出す役割などを果たしている。また、中央政府のスパイもする。

「指導部の望む情報」だけを提出
香港で長引く抗議デモは連絡弁公室にとって大きな失態であり、「サイレント・マジョリティー(声なき多数派)説」は彼らにとって、名誉挽回のための策だった。この説を裏づける資料のみを中国側に提出し、否定的な材料は全てもみ決していたのだろう。(中略)

だがもちろん、共産党指導部が一つの情報入手経路にだけ頼るということはない。(中略)情報は複数の手段を使って入手している。時には真実を見つけ出すために、意図的に非公式な情報源を用いており、国営新華社通信のスタッフなどが作成する内参(内部参考資料)もその一つだ。

問題は、ますます疑い深くなってきている習近平体制の下では、こうした内参さえもが、その内容を「指導部の望む情報」に合わせるようになっていることだ。

計画の失敗は「忠誠心が損なわれている兆候」に仕立て上げられる可能性がある。特に分離主義に関連のある問題についてはその傾向が強く、習は2017年、「分離主義との戦い」の失敗を理由に新彊ウイグル自治区の共産党員1万2000人以上を調査している。

香港は(習にとって)政治的には新彊ウイグル自治区ほど危険な場所でなないが、リスクが高い地域であることに変わりはない。

だが政治的なインセンティブがあることで、複数の情報源が指導部にとって「聞こえのいい論調」を繰り返し、指導部はそうした情報の信頼性が高いと確信するようになっていくのだ。(後略)【2019年11月26日 Newsweek】
**********************

“中国国営新華社通信は4日、中国政府の香港出先機関、香港連絡弁公室の王志民(おう・しみん)主任(62)を解任する人事を発表した。香港政府や中国共産党への抗議活動が半年以上続いている事態の責任を取らされた形だ。(中略)昨年11月の香港区議会選で、親中派勢力が勝利するとの誤った見通しを中国政府に伝え、最高指導部の信頼を失ったなどの情報もあった”【1月4日 産経】

上記のような政治問題とは異なりますが、今話題になっている新型ウイルス肺炎への対応についても、ウイルス特定などは早期に対応したものの、その後の情報公開に基づく対応策については後手に回った感が。

実態がどうなっているのかわからない、「国外に出ても省外に出ない愛国ウイルス」などと揶揄される状況にも。

****新型肺炎、政府の対応後手=習氏指示まで動かず―春節で感染拡大不可避か・中国****
中国政府は22日、国内外で懸念が強まる新型コロナウイルスによる肺炎に関して初めての記者会見を開き、一層の感染拡大に警戒を呼び掛けた。

ただ昨年末に湖北省武漢市で原因不明の肺炎多発が報告されてから既に3週間余り。政府は、習近平国家主席が20日に指示を出してようやく情報開示姿勢に転じた形で、対応は後手に回っている。
 
22日午前0時(日本時間同1時)時点の患者数は440人。死者は前日から3人増えて9人となった。全国集計のデータ公表が始まった20日以降、患者は毎日100人ペースで増えている。

この日にはマカオ、米国、タイでも新たな患者が確認された。24日からの春節(旧正月)大型連休を前に、国内の帰省や海外旅行など人の移動は既に始まっており、さらなる感染拡大は避けられない見通しだ。
 
国家衛生健康委員会の李斌副主任は会見で「武漢では地域的に感染している住宅地もある」と、人から人への感染が広がっている現状を説明。「ウイルスが変異する可能性があり、さらに拡散するリスクがある」と述べた。中国疾病予防コントロールセンターの高福主任は感染源について「海鮮市場で売られていた野生動物だ」と明言した。【1月22日 時事】 
********************

みんなが責任追及・転嫁を恐れて、最高権力者の顔色をうかがい、ことなかれ主義でやりすごす・・・そんな状況が透けて見えます。

権力が集中するほどに、周囲が見えない「裸の王様」になっていくのが世の習いでしょう。

なお、習近平「一強体制」については、対米交渉や香港・台湾での失敗から、批判も出ているとの指摘もありますが、そのあたりは長くなるので、また別機会に。
(“中国「皇帝」習近平は盤石ではない、保守派の離反が始まった”【12月26日 Newsweek】)

こうした政権批判は本来は「裸の王様」を正す機会になるのでしょうが、オープンな政党間の議論ではなく、水面下の権力闘争として陰湿に展開されるあたりが中国一党独裁体制の問題でもあります。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする