孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

韓国  厳しい競争社会 メンタルクリニックに通う子供 「雁パパ」「ペンギンパパ」 スペック重視の就職

2020-01-20 22:40:47 | 東アジア

(空を飛ぶ雁の様子。雁は雛のために餌を獲りに行く【2019年1月24日 吉村 剛史氏 海外ZINE】
海外に妻子を留学させ、たまに飛行機で会いに行く「雁パパ」という言葉も)

韓国がひと頃自嘲的に「ヘル朝鮮」と呼ばれたように、特に若者にとって受験・就職・結婚・出産も厳しい社会で、そうした厳しさを勝ち抜くために激しい競争を強いられる競争社会であることはよく取り上げられる話です。
また、日本のセンター試験に相当する試験が行われる日は、国をあげた協力体制がとられることもよく知られた話です。

以下の記事もそうした韓国の現状を伝えるもののひとつですが、競争に疲れた5歳児がメンタルクリニックに通うとか、ソウルや海外に留学させた妻子に会いに行きたいけど経済的にそれもかなわない(飛ぶに飛べない)「ペンギンパパ」といった話を読むと、日韓関係の確執はさておき、「大変だね・・・」と思ってしまいます。

****5歳でメンタルクリニック、留学費用で家族崩壊……韓国「無限学歴社会」の辛すぎる現実****
先週末、日本各地ではセンター試験が行われた。入試改革で二転三転しながらひとまず現行の形では最後となったセンター試験だが、熾烈な受験戦争で知られる韓国では、政治の混乱で受験生が日本以上の混乱にさらされているという。

超・学歴社会の実像を、韓国社会の苛烈な競争を描き出した『韓国 行き過ぎた資本主義』(講談社現代新書)の著者、フリージャーナリストの金敬哲氏が語った。

◆◆◆
「最近、子どもを中学校の頃から、メンタルクリニックに通わせることが流行ってるのよ」
そう教えてくれたのは、ソウルでも最も教育熱の高い地域、大峙洞(テチドン)に住む母親です。私が韓国の教育問題を取材していて一番の衝撃を受けたのは、この事実でした。
 
大峙洞は、ソウルの富裕層が住む江南(漢江の南岸)エリアにあります。江南には名門高校や中学校が集まり、その中にある「大峙洞」はわずか3.53平方キロメートルのなかに1000あまりの学習塾がひしめく地区。いまや韓国中から子どもたちが集まり、最も受験競争が激化している場所です。
 
実際に取材したメンタルクリニックの所長は「最近も英語幼稚園に通う7歳の女児が来院しました」とのこと。そのクリニックには、これまで勉強に疲れた5歳から高校生までの生徒たちが訪れています。幼稚園や小学校のころから子どもがメンタルクリニックに通う状態が普通に起こっているのです。

「大峙洞キッズ」のカバンの中身
生まれたときからほんの一握りの韓国社会の上層に入るために勉強漬けになっている「大峙洞キッズ」たち。そのうちのひとり、小学5年生の男の子のかばんの中身をみせてもらうと、数学のテキストに加えてTOEFL関連のリーディング、文法、単語集などの教科書。さらには『ハリー・ポッター』の英語の原書まで、ぎっしり詰まっていました。

彼は、毎日3時間ずつ数学塾と英語塾に通い、数学塾では中学3年の授業を受けているといいます。こうした塾では、学校の内容を遥かに超えた先の内容を教えて、小学生の時から大学受験の準備をしているのです。
 
正規の学校教育課程より先に塾で学ぶ「先行学習」があまりに普及したことで、公教育の形骸化と崩壊が進み、また、子どもたちの発達段階とかけ離れた学習によって成長にも悪影響があると指摘されています。

ソウルでもこの状況に制限をかけようと、2008年には市の教育庁が「深夜教習禁止条例」を制定して、市内の学習塾で22時以降の授業を禁止しました。
 
ただ、22時以降は通学バスの中でテストを行うという塾もあれば、スマホアプリで24時間指導を行う塾も出ており、条例の実効性は低いままです。

また、「体育施設」は条例適用外という抜け穴もあり、いまでは深夜時間を利用して水泳教室などに通う「スポーツレッスン」がブームになっています。

最近流行の「入試代理母」とは?
どうしてスポーツ教室がブームになるのか、疑問に思われる方もいるかも知れません。実は韓国の高校入試では基本的にペーパーテストがなく、難関校でも内申書と面接だけで合否が決まります。体育や音楽などの副教科でも日ごろからよい点数をとることが求められているのです。
 
その傾向は、大学入試でも同様です。一大イベントとして日本のセンター試験に相当する「修能試験」が行われ、リスニングの時間には韓国全域で飛行機の離着陸が禁止されて、受験生送迎のために白バイが待機するなどして話題になりますが、そのテストの点数だけで入学できる枠は30%ほど。多くの有名大学も含む残りの70%は、資格や内申点などの包括的な評価によって入学しています。
 
もともとそうした総合評価は、勉強ばかりではなく、ボランティアや研究など様々な活動をする学生を評価しようと作られました。地方と都市では教育環境に差がありますから、そうした社会的な不平等を是正する意味もありました。

ところが今では、富裕層の一部がゴーストライターを雇って自費出版して点数稼ぎを目指したり、大学教授が論文の共同執筆者に自分の子どもの名前を加えるようになったりしています。かえって、金やコネがものをいう状態です。
 
韓国政府も、過熱する教育戦争に次々と対策を打ち出していますが、その結果、毎年のように教育政策が劇的に変化して公教育の現場は混乱。受験生や保護者たちはますます私教育に依存するようになりました。
 
高校や大学入試の制度が複雑になりすぎて、何をすれば評価が上がるのか一般の保護者には把握が難しいほどです。そのため最近では、「入試代理母」と呼ばれる、自身の子どもを難関大に入学させた経験を元に、受験生たちの進路に合わせた学習プランを組む入試コンサルタントさえ登場するようになりました。

教育費で引き裂かれる家庭
これだけ多岐にわたる教育サービスを利用しようとすれば、当然多額の教育費がかかります。そのしわ寄せが、いま親世代に大きくのしかかっています。
 
取材した中には、共働きで月に1000万ウォン(約100万円)の手取りがあるにもかかわらず、子どもの教育費や養育費が収入の60%以上を占めている夫婦もいました。

所得に対して多額の教育費を出さなければならず、家計が赤字になってしまうエデュプア(education poor)もうまれ、それがそのまま老後の負債として残ってしまう事態になっています。
 
加えて、留学も盛んに行われる韓国では「雁パパ」「鷲パパ」「ペンギンパパ」という流行語も生まれています。

「雁パパ」とは、教育のために妻子を地方からソウル中心部に、またはソウルから外国に留学させ、自分は地元に残って教育費や生活費を仕送りする父親のことです。

妻子に会いに飛行機で飛んでいくことから、渡り鳥になぞらえて生まれた言葉ですが、妻子に会いにいける回数によって派生語が生まれました。いつでも海外に行けるお金持ちのパパを「鷲(ワシ)パパ」、逆にお金がなく「飛べない」パパは「ペンギンパパ」と呼ばれているのです。
 
韓国の上流社会では、いまや半分以上が雁パパです。ただ、せっかく生活を削って仕送りをしても、長年別居を続けることになりますから離婚する家庭も少なくありません。いまでは寂しい「雁パパ」向けの「雁バー」というデートバーが繁盛する始末です。

映画『パラサイト』から見える現実
(中略)映画の中に限らず、いまの韓国社会の至るところで、あまりに極端な格差と無限に競争を強いられる息苦しさが蔓延しているのです。(中略)

韓国社会は、行き過ぎた資本主義と、そこからの揺り戻しの間で、行き先を見失ったまま政治に翻弄され続ける状態が続いています。
 
こうした動揺、格差による軋轢は、いまや韓国のみならず日本や世界中の資本主義諸国で生まれつつある現象ではないでしょうか。近未来の自分たちの日常になりうるからこそ、韓国社会のレポートがお互いに解決策を考えていくきっかけになればと願っています。【1月20日 文春オンライン】
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1年前の記事になりますが、もうひとつ。

****韓国の就職は学歴・スペック重視、流行語で知る熾烈な事情****
 韓国の履歴書は「スペック重視」!
韓国で出会った人にふとしたきっかけで語学力を聞くと、TOEICが900点台という人にごろごろ出会います。たとえその点数に満たない人であっても日本語や中国語、またはその他の言語が堪能だったりします。

そのような人たちは韓国国内の語学学校に通って研鑽したり、独学で語学を習得する人もいますが、留学経験やワーキングホリデーで海外の就業経験がある人も多いのです。韓国の就職にはこのような経験が評価の対象になります。

韓国の人口は約5100万人(2018年現在)。日本と比較しても人口は半分以下であり、外需に頼る経済構造になっています。そのため、中小企業であっても外国の企業と取引している会社が多く、就職するにあたっても英語などの外国語能力が重視されるのです。

そこで韓国の履歴書はどのようなものなのか、見てみましょう。

韓国の履歴書(とはいっても、書式は様々なのですが……)には、学歴やこれまでの職歴に加え、資格、語学、OA能力、社会活動の経験、受賞歴などを記入する欄があります。プライバシーの観点などから批判もあるようですが、家族構成の項目まで設けられています。

このように枠がしっかり定められていると、履歴書を見たとき、個々の能力が一目瞭然。そこで韓国の学生たちは、よりよい就職に向けて「スペック」を高めていくのです。
 
学歴が重視される韓国の就職
韓国では朝鮮時代、儒教を重んじていたことから学問が重視され、科挙の試験が行わなわれていました。そんなこともあり、今も学歴社会、とりわけ「学閥社会」としてその傾向が根強く残っています。

そのため競争の激しい大企業に就職するためにも、できるだけ難易度の高い大学を目指します。なかでも「インソウル(인서울、in Seoul)」と呼ばれるソウル市内の大学に入ることが世間的にも評価が高く、なかでもその頂点に位置している大学が「SKY」といわれるソウル大、延世大、高麗大です。

しかし近年は大学進学率が下落傾向にあるといいます。2009年には77.8%でしたが、2017年には68%まで落ち込んだ、というデータもあります。とはいえこれは依然として世界的に見ても高い状況です。

今は有名大学を出たからといって必ずしも良い就職ができるわけでもなく、起業する若者がいたりするため、大学へ進学する価値が相対的に下がっていると考えられています。(中略)
 
IMFショックまでは年功序列・終身雇用
韓国社会の大きな転換点は、1997年のアジア通貨危機でした。そのときに韓国は国家破綻寸前の危機に陥り、IMF(国際通貨基金)が介入。なんとか破綻は免れたものの、企業は倒産し、街には失業者があふれました。

それ以降、就職には学歴のみならず、能力までもが重視されるようになります。そして国家破綻の危機を目の当たりにした親たちは、子供たちが将来、経済的な余裕が持てるようにと教育により力を注ぐようになります。

幼い子どもを母親とともに海外に送って教育を受けさせ、父親は韓国に残ってお金を稼いで送金するだけ、という「雁お父さん(기러기 아빠、キロギアッパ)」という言葉まで生まれました。

厳しい大学受験を終えて、大学生になっても落ち着く暇はありません。学校のレポートや試験はもちろん、資格や就職のために日々勉強。韓国の大学の図書館はなんと24時間営業。昼夜問わず勉学に励むのです。親たちも子どもに対しては「アルバイトより勉強してほしい」と望みます。

さらに大学生は休学までして、語学留学やワーキングホリデーでどんどん海外に出ていくのです。これには日本と比べて休学費用が安いこともあるでしょう。(中略)

このように海外経験がある、というのは、韓国では決して特別なことではありません。「息子や娘が海外に留学している」などという話も含め、こういった話は行く先々でよく耳にすることです。

ちなみに韓国の就職は、日本のような新卒一括採用ではありません。在学中にインターンシップとして働き始め、そのまま仕事が決まったり、親戚や知人とのコネクションで仕事が決まったりと人それぞれ。

上のコメントにもあるように、在学中に就職が決まらないことも普通のため、必ずしも焦って就職するわけではありませんが、履歴書に空白期間ができることを嫌い、卒業を先延ばしにする人もいます。

また韓国の男性は、20代のあいだに約2年間の兵役があることから、雇い入れる企業は年齢には比較的寛容。韓国の年齢(数え年)で30歳くらいまでに就職すれば大丈夫、という考えもあり、休学を繰り返して30歳近くまで大学生を続ける人もいます。
 
就職してからも大変! 大企業と中小企業の働き方
韓国では大企業と中小企業の賃金格差が大きいことから、インタビューにも表れていたように、多くの人は大企業に就職することを目指します。そのため履歴書に書く「スペック」を上げることに必死になるのですが、運よく大企業に就職したあとも激しい競争にさらされます。

このような企業社会のなかで生まれた言葉を紹介したいと思います。

38線、45定、56泥
「38線、45定、56泥」という言葉。「38線(삼팔선、サムパルソン)」は、朝鮮戦争の休戦ラインに例えた言葉。38歳という年齢で結果を残しているかどうかで、その後の処遇が線引きされるというもの。

そして45定(사오정、サオジョン)は、西遊記の「沙悟浄」と音が同じで、45歳で定年、つまり退職を促される、ということ。さらに56泥(오륙도、オユクド)は「五六島」という釜山にある島の名前で「56歳まで会社に残っていると泥棒(도둑、トドゥク)」という意味です。

このような大企業の実情を表す世知辛い言葉は、IMFショック後の2000代前半に生まれたため今ではあまり使われなくなりました。しかし現実に、2017年のデータでは、韓国の会社員の平均退職年齢は52.6歳とされています。

役員にまで出世すれば60歳近くまで働けるけれども、事務職は「50歳になるとそろそろ退職かな」という話になってくる。すると今まで貯めたお金を使ってチキン屋を始めるとか飲食店をやるとか、何かを考えるのが普通。技術がある人は60過ぎて会社に残っている人もいるけれども。(一般企業勤務/30代男性)

現実的に50代はまだまだ働き盛りであり、子どもにもお金がかかる世代。そのようななかで肩たたきに遭う、という流れは今もそれほど変わってはいないようです。
 
88万ウォン世代、ヘル朝鮮……。言葉にみる韓国社会
「88万ウォン世代(88만원세대、パルパルマヌォンセデ)」とは、2007年にベストセラーになった本のタイトルです。IMFショック以後に非正規雇用者が増え、当時の20代の非正規職の月給が88万ウォン(現在のレートで8万8千円)と算出されたもので、若者たちの実情を示した言葉として広まりました。

その後2010年代前半には、「ヘル朝鮮(헬조선、ヘルチョソン)」という言葉も生まれました。受験や就職戦争が過酷なうえ、さらには親の経済力によって身分が固定されてしまう、といった実情について、皮肉を込めて「地獄の朝鮮」と呼ぶというものです。

経済力が不安定な若い世代は、恋愛、結婚、出産を放棄する「三放世代(삼포세대、サムポセデ)」とも言われていたのですが、それに加えて人間関係、マイホーム、夢、就職をあきらめた「七放世代(칠포세대、チルポセデ)」という言葉も生まれました。

こうしたなか、韓国を捨てて海外就職を選ぶ若者も増えているといい、そのなかでも日本を就職先に選ぶ人も多いのです。「日本の中小企業は待遇がよい」という噂もあるのだとか。(中略)韓国での就職も大変な状況ですが、現実には海外就職も前途多難のようです。(中略)
 
何かと融通が利く、韓国の日常の働き方
(中略)
スペックに出世競争に……でも日常は融通がきくことも。
就職はハイスペックな争いのうえ、就職してからも気を抜けない韓国。しかし実際の働き方にはゆとりがみられ、規則にがんじがらめにならず、何かと融通が利くという点は日本にはないところ。

「パルリパルリ(早く早く)」の精神が根付いており、スピード感があり、本気になると物事はものすごい速さで進んでいくことさえあります。

韓国の働き方は少し粗いところもあるとはいえ、臨機応変にテンポよく物事が進んでいく様子を見ると、日本には足りない何かが見えてくる気がします。【2019年1月24日 吉村 剛史氏 海外ZINE】
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他にも
“「本当のヘル朝鮮が来ている」と韓国紙、文在寅政権の経済政策をやり玉に”【1月18日 レコードチャイナ】
 “韓国の若者、失業期間長くなっても大企業に入りたがる―中国メディア”【1月19日 レコードチャイナ】
といった記事も。

紹介した記事2本の引用だけで長くなってしまったので、これ以上は今回はやめておきますが、「韓国も大変だね・・・」というのが実感。

その大変さの多くは日本社会も多かれ少なかれ共有しているものでしょう。

日韓関係改善の基礎となるべきものは、そうした相互理解・共感から生まれてくるようにも。
政治でもたらされるのものは、どちらかの政治が変われば「なかったもの」になってしまいますので。

 

 

コメント
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