(ガザ地区からのロケット弾を迎撃するアイアン・ドームから発射されたミサイル【2019年5月8日 高橋和夫氏 COMEMOO】 昨年5月、ガザ地区から600発のロケット弾がイスラエル領内に撃ち込まれ、大半はアイアン・ドームで迎撃したものの、イスラエル側にも4人の死者が出ています。)
【エルサレムにフランス領?】
今日の国際面の記事で一番「へーえ、そうなんだ・・・」と思ったのは、下記記事。
エルサレム旧市街にフランス領とみなされる教会があるそうです。
****仏大統領、エルサレムでイスラエルの治安要員と口論 教会立ち入り巡り怒声も****
中東エルサレムの旧市街でこのほど、現地を訪問中のマクロン仏大統領がイスラエルの治安要員と口論を繰り広げる一幕があった。フランス政府の管轄とされる教会の中にこの治安要員らが立ち入ろうとしたためとみられており、規定を守るよう厳しい口調で相手に通告するマクロン氏の様子が動画に記録されている。
マクロン氏は23日に開かれるホロコースト犠牲者への追悼行事に出席するため、エルサレムを訪れている。上記の口論は、フランス政府が管轄し、フランス領とみなされている旧市街の聖アンヌ教会で起こった。
動画では、自身の後に続いて教会内に入ろうとしたとみられるイスラエルの治安要員に対し、マクロン氏が叫ぶような口調で「誰もが規定を知っている。あなたのしたことは気に入らない。出ていきなさい」と告げる様子が映っている。
マクロン氏はさらに、「規定を尊重してください。何世紀にもわたって存在する規定を私が変えるわけにはいかない。それははっきり言っておく」と付け加えた。
ローマカトリックに属する聖アンヌ教会の起源は12世紀にさかのぼる。教会は1856年、オスマン帝国の皇帝によってフランスのナポレオン3世に寄贈された。
仏大統領府の報道官はCNNに対し、マクロン氏の言動はフランスとイスラエルの治安要員による口論に介入したうえでのものだったと説明。
「聖アンヌ教会はフランスに帰属する。エルサレム市内にあるこれらの土地の保全もフランスが担う。現場ではイスラエルの治安要員が教会内に立ち入ろうとしたが、警備はフランスの要員が行っていた。大統領は両国の治安要員による口論の間に立ち、その場を収めたうえで全員に改めて規定を周知しようとした」と述べた。
一方、イスラエルの当局者は声明で、同国とフランスの治安要員とのやり取りは「話し合い」だったとの見解を示した。イスラエルの治安要員と警察官がマクロン氏並びにフランスの代表者を護衛することは事前に合意されていたとし、マクロン氏からは教会訪問を終えた後で謝罪があったと述べた。
マクロン氏に同行する報道官は同氏の謝罪の有無を確認することを控え、「そのような場面は見ていない」と述べた。
フランスは旧市街のある東エルサレムに対するイスラエルの主権を認めておらず、イスラエルによる占領地とみなしている。
国際社会の多くはこの認識を共有しているが、イスラエルはこれに異議を唱え、エルサレム全域が自国の主権下にあるとの立場をとっている。【1月23日 CNN】
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さすが、世界の歴史が凝縮している街エルサレムだけあって、いろんなことがあるようです。
とにかくエルサレムは遺跡だらけですが、その石ひとつ動かしただけでも、ユダヤ教徒・キリスト教徒・イスラム教徒の間で大きなトラブル・衝突になりかねないという、極めて微妙な場所です。
そんな高度にデリケートなエルサレムを、実にあっさりとイスラエル首都に認めたのがトランプ大統領でした。
【ネタニヤフ首相の失言は「周知の事実」 奇妙な二重基準】
イスラエル・ネタニヤフ首相は収賄などの罪で起訴されている身ですが、盟友トランプ大統領同様に「でっち上げ」だとして容疑を否認しており、裁判の先送りを狙っているようです。
****イスラエル首相、国会に免責申し立て 収賄罪などで起訴に「捜査はでっち上げ」****
イスラエルのネタニヤフ首相は1日夜、記者会見を開き、2019年11月に起訴された収賄などの罪について、国会に免責決議を求めると表明した。捜査を「でっち上げ」と批判し、免責決議には「国民の代表を無実の罪から守る意味がある」と強調した。
ネタニヤフ氏の申し立ては国会内の委員会で審議され、議員総会での投票が必要となる。だがイスラエルでは19年4月以降、政治混乱が続き、委員会の委員が任命されていない状態。3月にはこの1年間で3度目となる総選挙が行われる予定で、審議が始まるのは総選挙後とみられる。
結論が出るまで司法手続きは進まないため、免責が認められない場合でも裁判開始は大幅に遅れる見込みだ。
19年9月の総選挙で第1党となった中道政党連合「青と白」の共同代表で元軍参謀総長のガンツ氏は「法の下では万人が平等だと教わってきた、我々の価値を脅かしている」とネタニヤフ氏を非難。
極右政党「わが家イスラエル」を率いるリーベルマン氏も免責決議を支持しない考えを示し、「イスラエルはネタニヤフ氏にとらわれた囚人になってしまった」と批判した。【1月2日 毎日】
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そのネタニヤフ首相がうっかり「口を滑らせた」とか。
*****イスラエルを「核保有国」と表現、ネタニヤフ首相が失言****
イスラエルのネタニヤフ首相は5日、同国を核保有国と表現した後、照れたしぐさで訂正した。失言だったとみられる。
イスラエルは核兵器を保有していると広く信じられているが、この問題で肯定も否定もしない曖昧政策を取り続けている。
ネタニヤフ首相は閣議で、ギリシャとキプロスとの海底ガスパイプライン事業に関する準備原稿をヘブライ語で読んでいた際、「このプロジェクトの重要な点は、イスラエルを核保有国(nuclear power)にすることだ」と述べ、その直後に「エネルギー大国(energy power)」と訂正した。
首相は一瞬間を置いた後、微笑んで誤りを認めた。首相が失言するのはまれで、ソーシャルメディアですぐに拡散した。【1月6日 ロイター】
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核保有に関して肯定も否定もしない曖昧政策を取り続けているイスラエルですが、保有していると広く信じられてもいますので、ネタニヤフ首相が失言しようが今更大した問題にもなりません。
ただ、北朝鮮やイランが核保有に進むとアメリカなどが敏感に反応するのに対し、イスラエルエルの核保有は曖昧政策が容認されているというのも、奇妙な二重基準です。
もっとも、すでに保有している国とそうでない国には異なるルールが適用される二重基準状態ですから、これも「今更」の話という扱いなのでしょう。
【核合意破棄・核保有に向けて対応をエスカレートさせるイラン】
問題となっているイランはアメリカとの緊張のなかで、1月5日の声明で、「(制限破りの)第5弾かつ最終段階として、重要な制限である(ウランを濃縮する)遠心分離機の数に関する制約を取り除く。運用面ではもはや核開発に制限はない」と表明。保有するウランの濃縮度や貯蔵量などで、核合意の制限に縛られないとの意向を示しています。
これに対し、英独仏の3カ国は1月14日の共同声明で、対イラン国連制裁の再開に道を開く「紛争解決手続き(DRM)」を発動したと発表しました。米、イランが対立を深める中、イランに合意復帰への圧力をかけ、外交による緊張解決を促したものとされています。
しかし、イランは反発を強めており、合意は破棄はしていないものの、履行義務を放棄する瀬戸際の駆け引きが続いています。
****イラン最高指導者「核合意で英仏独は信用できない」 制裁再開の動きを牽制****
イランの最高指導者ハメネイ師は17日、欧米など6カ国と結んだ核合意をめぐり、当事国である英仏独は「信用できない」などと述べて批判した。
無制限のウラン濃縮実施を表明したイランに対し、3カ国は14日、合意で定められた「紛争解決手続き(DRM)」を発動していた。手続きは最終的に対イラン国連制裁の再開に道を開くもので、核合意崩壊の危機をはらんで両者の対立が激化している。
ロイター通信によると、ハメネイ師は首都テヘランのモスク(イスラム教礼拝所)で8年ぶりに主導した金曜礼拝の説教で、英仏独について「米国同様、イランをひざまずかせることはできない」「米国の利益に従っている」などと主張。紛争解決手続きを発動した英仏独を強く批判した。
16日にはロウハニ大統領が演説で「核合意前よりも1日当たり多くのウランを濃縮している」と述べた。また、英仏独に「無益に傍観しない。もし彼らが(核合意の履行義務を)放棄するなら、私たちもそうする」と述べ、合意で定めるイランとの経済関係維持を実行するよう改めて英仏独に警告した。
イランは5日、核合意の規定を撤廃して無制限にウラン濃縮を行うと表明。ウランは高濃度になれば核兵器に転用できる。合意の維持を掲げながら履行義務を放棄する瀬戸際戦術だ。
イランが今後、欧州との経済取引の維持という成果なしに核合意の枠内に復帰するとは考えにくい。トランプ米政権が核合意を離脱して再開した制裁により、外貨収入の柱である原油売却益が激減、来年3月からの新年度予算策定も難航したといわれる。
経済悪化に対する国民の不満は数年前から蓄積されており、それを鎮めるためには欧州の資金が欠かせない。墜落したウクライナ機の誤射を認めたことで、国内では昨年11月に続いて反政府デモが起きるなど、政権の求心力が揺らぐ事態も続いている。
半面、反米の保守強硬派が台頭するイランでは「核合意を締結して米国にだまされた」という見方が広がっている。核・弾道ミサイル開発やテロ組織支援などを含む新たな協定の協議に応じる気配はみられず、欧州側との協議の着地点は見通せないのが実情だ。
一方、英仏独のDRM発動にはイランに圧力をかけて対話復帰を促す狙いがあるが、イランだけでなくロシア、中国も一斉に反発。裏目に出た形になった。
DRMは、合意違反が認められた場合の解決手段として定められた。合意加盟国の協議で決着しない場合、国連安全保障理事会に通告。安保理が対イラン制裁解除の継続を決議できなければ、制裁が復活する。
米国のムニューシン財務長官は15日、「国連制裁が復活することになるだろう」と述べた。安保理の協議にかけられれば、米国はただちに制裁復活を求める、という意思表示だ。
DRMの手続きは原則65日以内だが、協議は延長が可能。3カ国は米国の対イラン圧力に加担する姿勢を見せながら、対話の可能性を探り、時間稼ぎをする狙いとみられるが、大きな危険をはらむ。DRMは一度発動されれば、イランが強硬姿勢を変えない限り、制裁復活へのステップが続くことになるからだ。【1月17日 産経】
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その後も、イラン側の対応はエスカレートしています。
“イラン、IAEA(国際原子力機関)協力見直しも=制裁視野の欧州批判”【1月19日 時事】
“イラン、NPT(核拡散防止条約)脱退も 核合意めぐり欧州をけん制”【1月21日 AFP】
【イスラエルのイラン攻撃の可能性】
こうした核保有に進む構えを見せるイランに対し、中東への深入り嫌うアメリカ・トランプ政権が直接的な攻撃にでる可能性は低いとされていますが、アメリカに代わって虎視眈々とイランを狙うのがイスラエル。
****イスラエルによるイラン攻撃の可能性高まる*****
(中略)
トランプ政権が、イランに核兵器を持たせないという絶対条件を譲らず、イランが今回の核合意の制限破棄声明を貫けば、いずれイスラエルと米国による、イランの核開発能力を破壊するための、何らかの先制的阻止行動あるいは軍事行動がとられることは必至であろう。
またその時期は、イランが1個分の核分裂物質を保有する可能性のある3カ月以内ということになる。イスラエルとしては努めて早期に阻止行動をとりたいであろう。
その場合にイスラエルがとりうる行動の選択肢としては、行動の烈度の順に以下のような選択肢がありうる。
① サイバー攻撃による、核関連施設の破壊、イランの革命防衛隊、弾道ミサイル基地などの核作戦に関する指揮通信・統制システムの制圧など(中略)
② 無人機、特殊部隊の破壊工作などによる要人の殺害、特に核関連部隊の指揮官、核物理学者など枢要な人物の殺害(中略)
③ 多数の無人機、あるいは無人機と有人機を併用した精密空爆による核関連施設、指揮通信組織などの中枢施設の破壊(中略)
④ 特殊部隊および正規軍を限定使用した、ペルシア湾内の離島など小規模の拠点に対する限定地上攻撃(中略)
⑤ 空爆では破壊できないイラン本土内の地下の核施設、指揮統制・通信中枢、ミサイル基地などの破壊を目的とする、限定地上攻撃(中略)
⑥ ペルシア湾の機雷戦、潜水艦戦などによる海上封鎖(中略)
⑦ 本格的な地上戦を伴う攻撃(中略)
以上の選択肢のうち、①、②、③まではこれまでイスラエルが行った実績もあり、今もより高度の能力がイスラエルにはあるとみられ、実行される可能性は高い。
ただし、100カ所以上はあるともみられているイラン側の核関連施設の多くは地下にあり、それらの数、位置、規模などの細部は不明であろう。
そのため、効果は限定的なものにとどまり、イランの核能力を完全に奪うことはできないであろう。
イランはイラクの米軍施設に対する報復攻撃で見せたように、十発以上の改良型スカッド級の弾道ミサイルを同時に比較的正確に発射し目標に命中させる能力を持っている。サウジの石油施設攻撃では、無人機の多数運用能力もあることを示している。
秘匿が容易な移動式弾道ミサイルや無人機を先制攻撃で一挙に破壊することはできない。これらのイラン側の残存報復能力をみれば、イスラエルや湾岸に展開する米軍に対する何らかの報復なしに、一方的にイランが制圧される可能性は低い。
また報復に際しては、シリアのアサド軍が多用した化学兵器が使用される可能性もある。核兵器の可能性は低いが、隠蔽された軍用原子炉で密かに核分裂物質を生産し、核実験なしでそれらが弾頭に搭載される可能性も、時間とともに無視できなくなる。
したがって、④から⑦の選択肢を採ることによるリスクは大きく、イスラエルがこれらの選択肢を実行する可能性は高くない。
特に、米軍の本格的な長期の支援が必要になる⑥と、多国籍軍の大規模な地上兵力が必要となり、大量の死傷者が予想される⑦の攻撃には、トランプ政権は同意しないであろう。
また英独仏は1月4日、対イラン国連制裁の再開に道を開く「紛争解決手続き」を発動したとの共同声明を発表しているが、核合意継続を望んでおり派兵には同意しないであろう。ペルシア湾岸諸国も紛争のエスカレートや長期化は望んでいないとみられる。
また⑥や⑦の場合は、中露はイランへの武器援助、経済支援などを行う可能性があり、紛争が長期化し、場合により軍事紛争がエスカレートする危険性もある。
⑥、⑦など最悪のシナリオは米国、イランも望んでいるとはみられず、実現の可能性は低い。
しかし、イスラエルなどの限定的な攻撃に対するイラン側の対応によっては、ペルシア湾での機雷敷設といった事態はありうる。その場合は、石油価格が急騰し、ペルシア湾の石油輸出ルートが長期にわたり安全に使用できなくなるであろう。
全般的には、イスラエル側のイランの核化阻止のために採りうる行動の選択肢の効果には限界があり、イランの核能力を一時的に制限しあるいは遅延はできても、完全阻止は困難であろう。
唯一可能性があるのは、イランのイスラム共和制が民主化運動により倒されることである。
ウクライナ機誤爆をめぐる体制批判がいまイラン国内で起きているが、その動きがどこまで広がるのか、体制側がいつかの時点で革命防衛隊などによる武力弾圧に踏み切るのか、あるいは譲歩するのか、体制変革まで進むのかが注目される。(後略)【1月21日 矢野 義昭 JBpress】
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イスラエルは、1981年にイラクのオシラクに建設中のプルトニウム生産用とみられる原子炉を、2007年にはシリアの建設途上の原子炉を、ともに精密空爆により破壊した実績がありますが、とり得る最大限の攻撃は、そのあたりと似たようなものになると推測されます。
ただ、イランはイラクの米軍基地に弾道ミサイル十数発を撃ち込んだように、イスラエルの攻撃への報復も予想されますが、イスラエルの誇るアイアン・ドームがイランからの攻撃をすべて遮断できるのか?
そのあたりの確信・判断と、アメリカ・トランプ大統領の同意次第でしょう。
首尾よくイランを叩ければ、何度やっても膠着状態の3月総選挙も有利に・・・という思惑もあるかも。もっとも、手痛い報復をうけるなど下手したら逆の結果にも。