(世界有数の観光地「ウユニ塩湖」 この地下には世界最大のリチウムが眠っている・・・画像は【2017年4月22日 ハーバー・ビジネスオンライン】)
【お宝が眠るボリビア・ウユニ塩湖】
昨年のことになりましたが、吉野博士がリチウムイオン電池の研究でノーベル化学賞を受賞したのは周知のところです。
****祝ノーベル化学賞 吉野博士が語ったリチウムイオン電池の本当の凄さ****
その市場規模は3兆円以上
(中略)
リチウムイオン電池の何がすごいのか。2016年の週刊現代の取材で、吉野氏本人はその特徴を次のように話していた。
「現在、スマホやノートパソコンなどのバッテリーに使われているのが、リチウムイオン二次電池です。二次電池とは、繰り返し充電して使える電池のこと。他の二次電池は、最後まで使い切ってから再充電しないと、次から電圧が下がってしまう『メモリー効果』の問題がありますが、この電池ではその影響はほぼありません」
環境面でも大きな貢献を果たした
(中略)また、繰り返し使える「二次電池」であることも、環境面ではインパクトが大きい。長い間、電池といえば使い捨ての乾電池(一次電池)が当たり前で、希少な金属が含まれる電池をそのつど廃棄することを問題視する声も少なくなかった。しかし、リチウムイオン電池はその課題も解決。現在ではクリーンエネルギー技術の主役として、世界中から脚光を浴びているのだ。(中略)
いまやその市場規模は3兆円以上ともいわれるリチウムイオン電池。しかも、今後さらに需要は増えていくだろうと吉野氏本人は語る。
「現在の主なマーケットはモバイル機器ですが、ドローンや電気自動車のバッテリーとして普及していけば、更に需要が高まるかもしれません。そうやって大容量のリチウムイオン二次電池が世の中に認められ始めたら、次は大型蓄電システムにも使われるかもしれない。まだまだ発展が望める技術なんです」(吉野氏)(後略)【2019年10月9日 現代ビジネス編集部】
**********************
となると、当然世界の企業の視線はリチウムに集まります。
結果、2018年までの20年間でリチウムの価格は14倍に高騰しています。(2018年後半からは供給過剰で価格下落)
現在、リチウムの産出量は、1位オーストラリア(41%)、2位チリ(36%)、3位アルゼンチン(16%)とのことです。【2018年10月1日 NHKより】
しかし、埋蔵量世界一と言われているのがボリビアのウユニ塩湖一帯。「行ってみたい観光地ランキング」で近年トップクラスに位置している、あの南米のウユニ塩湖です。
****ウユニ塩湖に眠るリチウム、ボリビア経済救世主となるか****
内陸国ボリビアの標高3600メートルに位置するウユニ塩湖(別名ウユニ塩原)には、世界最大規模のリチウムが眠っている。リチウム電池需要が世界的に急増する中、ボリビアは原料となるリチウムの生産量を劇的に増やしている。
(中略)ボリビアは南米で最も貧しい国の一つだが、電気自動車などで今後大量の需要が見込まれるリチウムに経済発展の期待をかけている。
同国リィピのリチウム工場は2020年に稼働する予定で、年間1万5000トンの炭酸リチウム生産を見込んでいる。
国営企業ヤシミエントス・デ・リティオ・ボリビアノス(YLB)はウユニ塩湖のリチウムによって、2021年までにボリビアを世界第4位のリチウム生産国に押し上げるという目標を掲げている。【2019年10月10日 AFP】
******************
【資源ナショナリズムの観点から自力開発にこだわってきた左派モラレス政権】
上記記事では“ボリビアは原料となるリチウムの生産量を劇的に増やしている”とありますが、実態としては、むしろ逆に“それだけの埋蔵量がありながら、これまでボリビアのリチウム産出は低レベルにとどまってきた”と言うべき状況です。
その原因は、ひとつはボリビアのリチウムが不純物を含むため、コストが高いこと。
もうひとつは、これまでの左派モラレス政権の外資に頼らない「資源ナショナリズム」の方針。
****南米ボリビア どうなるリチウム開発****
(中略)
ボリビアの資源政策
藤田
「スタジオには、中南米地域の研究がご専門で、筑波大学名誉教授の遅野井茂雄(おそのい・しげお)さんにお越しいただきました。」
塩﨑
「ボリビアはリチウムの埋蔵量が世界一といわれていますが、なぜ、開発を進めてこなかったのでしょうか?」
「やはり端的に申し上げて、現政権・モラーレス政権が、独自の資源政策、『資源ナショナリズム』といいますか、国が資源を管理するんだという、非常に強い政策がございます。
ボリビアは資源が豊富なんですけれども、中南米の中でも長いこと、最も貧しい国の1つでありました。その大半が先住民なんですね。
その先住民の代表として、12年前にモラーレス大統領が選ばれまして、資源が豊富なんだけど貧しいのは、資源を一部のエリートや外国資本が搾取した結果なんだということで、抜本的に開発政策を変えたんですね。
その開発政策の中身なんですが、正に『脱植民地化』『反グローバル化』ということですが、要するに植民地時代300年、共和国として200年、500年間、その間、同じように資源が開発されて外国に輸出されていったという、そういう意味では植民地のような状態が続いているんだということですよね。
それを乗り越えたいということと、それから『反グローバル化』ということで、こういう弱小の国が、資源を開発するにあたって、多国籍企業と連携すると負けてしまうという、そういう思いがあるんだろうと思いますね。したがって、独自の政策を打ちたてたということです。
そうした中で、天然ガスの国有化ということをやりまして、80%以上の課税をしました。
それからもう1つは、『資源の国有化』だけではなく、『資源の工業化』を目指しまして、特にリチウムについては、バッテリーの原料としてリチウムを輸出するだけではなくて、バッテリーを国内で生産するんだというところまで目指しているんですね。
特に、雇用を生み出したい思いがある。それによって、貧しい国民の生活を改善したいという強い思いが、そこに込められているんだろうと思います。」
リチウム開発 南米で競争高まる
塩﨑
「こちらは、リチウムの主要な産出国を示していますが、隣国のチリやアルゼンチンは、オーストラリアに次ぐ主要な産出国になっていますけれども?」
遅野井茂雄さん
「チリは積極的にグローバル化に対応して、外資も入れまして、どんどん開発をしていこうということで、進めて来てますし。
そして今年に入って、ペルーでもアンデスでリチウムの鉱脈が発見されたということで、いよいよ2020年ぐらいに、リチウムを輸出するような見通しまで出てきているんですね。
ボリビアはそういう関係で、独自の政策をとってきたので、今まで利益を得ることもできずに来たんですが、これからますますリチウム生産の競争は激しくなってくることが予想されます。」(中略)
塩﨑
「今のボリビア政府の開発は技術的にも、時間的にも難しいのではという指摘がありましたが、今後、ボリビアでリチウム開発を本格的に商業化していくためには、何が必要なのでしょうか?」
遅野井茂雄さん
「ボリビア政府は、かなり理想的な姿を追求してきたと思うんですね。本来ならば外国人を入れて、さっさと開発して進めていくのが流れとしては理解できるんですけれども、それをしないで独自でやろうとしてきてますから。
考え方が1つ、そこにありますのでね。
またその中には、環境との両立ということがあるんですね。
ウユニ塩湖というのは観光資源でもありますし、多くの人たちが来ているわけですけれども、この現状の生産の方式は、大量の水をくみ上げて、それを乾燥させてということになりますので、観光資源としてのウユニ塩湖を、やはり守っていかなければならないという、そういう理想型があるんです。
そこら辺との妥協をどういう形でやるかということなんですが、そのためにも、やはり外国の技術をどういう形で取り込んでくるのかという、非常に開発政策に対する柔軟な姿勢が求められてきているんだろうと思いますし、今そういう方向に行こうとしているんではないかと私は見ています。」【2018年10月1日 NHK】
********************
【クーデターはリチウムを狙うアメリカの策略?】
しかし前出「ウユニ塩湖に眠るリチウム、ボリビア経済救世主となるか」【2019年10月10日 AFP】が報じられた直後から、ボリビア政治は大転換することになりました。
憲法で禁止されている4選を目指して強引に大統領選挙に出馬したモラレル大統領でしたが、僅差で“勝利した”と発表されたものの、集計が1日中断して再開後に数字が大きく跳ね上がるなどの「不正疑惑」があり、野党陣営はこれを認めず混乱へ。
結局、身の危険を感じたとしてモラレス大統領は11月10日、同じ左派政権のメキシコに出国亡命。(その後、やはり左派政権が誕生したアルゼンチンに亡命)
しかし、モラレス前大統領亡命後もボリビアでは反モラレス派の暫定政権とモラレス支持派との間で混乱が続いています。モラレス前大統領も「貧しい人々のため、そして祖国を団結させるため戦い続ける」としています。
****ボリビア暫定政府、モラレス前大統領を告訴 「扇動とテロリズム」容疑****
ボリビア暫定政府のアルトゥーロ・ムリーリョ内相は22日、大統領選をめぐる混乱を受けて辞任しメキシコに亡命したエボ・モラレス前大統領がボリビア国内での道路の封鎖を継続するよう支持者に呼び掛けているとして、モラレス氏を「扇動とテロリズム」の容疑で政府所在地ラパスの検察に告訴したと発表した。
ラパスでは数週間前から道路が封鎖され、食糧や燃料の不足に見舞われている。ムリーリョ氏は報道陣に対し、モラレス氏と同じ容疑でフアン・ラモン・キンタナ・タボルガ前大統領府相も告訴したと明らかにした。
モラレス氏は10月20日に投票が行われた大統領選をめぐる混乱を受けて今月10日に辞任し、メキシコに亡命。有罪になれば、最大で30年の禁錮刑が科される可能性がある。【2019年11月23日 AFP】
*****************
モラレス前大統領は、アメリカがボリビアの潤沢なリチウム資源を手に入れるためにクーデターを支援したため、自分は国を追われることになったと主張しています。
****ボリビア前大統領、「クーデターはリチウム狙う米国の策略」 AFPインタビュー****
ボリビアのエボ・モラレス前大統領が24日、亡命先のアルゼンチン首都ブエノスアイレスでAFPの独占インタビューに応じ、米国がボリビアの潤沢なリチウム資源を手に入れるためにクーデターを支援し、これによって自身は退陣に追い込まれたと語った。
(中略)辞任以来モラレス氏は、自身はクーデターの被害者だと主張している。
「工業化された国々は競争相手が欲しくない」と語るモラレス氏は、ボリビアがリチウム採取の協力相手に米国ではなくロシアと中国を選んだことを、米政府は「許していない」と述べた。
米国は、ボリビアには「1万6000平方キロにわたる世界最大のリチウム鉱床があることを知っている」という。
ボリビアには確認されている中では世界最大のリチウム資源が眠っているが、低品質だと広く考えられており、同国にはリチウム資源を有効活用できるだけの基盤も不足している。(後略)【12月25日 AFP】
*******************
ボリビアのリチウムは低品質で経済的に開発が困難なことから、アメリカがこれを狙って・・・という主張には、やや疑問があります。
ただ、ボリビアは先住民貧困層を支持基盤とするモラレス前政権と富裕な白人を中心とする東部諸州の間には従前から激しい確執があり、モラレス左派政権を嫌うアメリカがこの白人勢力や警察幹部に資金供与して反モラレス・モラレス追放を支援してきたこと、クーデターの背後にアメリカの存在があることは事実です。【「選択」1月号より】
【リチウムを求める中国進出の矢先のクーデター】
アメリカの関与したクーデターとリチウムが関連付けられてとやかく言われるのは、中国がボリビアのリチウム産出に乗り出そうとしていた矢先だったという事情もあります。
****中国・ボリビア・リチウム取り引きはおしまいか?****
(中略)これまで数週間、ボリビア政府は、小さなドイツ採掘企業ACIシステムズ・アレマニア(ACISA)との契約に署名しようとしていた。11月4日、利益配分に対する現地での抗議のため契約はキャンセルされた。
地元民はロイヤルティーの3%から11%への増加を望んでいた。契約は自動車電池工場とリチウム水酸化物工場のため、長期間、ウユニ塩湖(ウユニ塩原)に対する13億ドルの投資をもたらすはずだった。
テスラや他のアメリカやカナダの電池生産者との類似契約も、受け入れ難い利益配分取り決めのため締結し損ねた。
中国は世界最大のリチウム市場だ。遥かに大きな。最も高い成長の可能性がある国だ。2018年には、百万台の中国電気自動車が販売され、需要は指数関数的に増加すると予想される。2030年までに中国の道路上の全新車が電気自動車になるという習主席の予測は楽天的かもしれず、中国シンクタンクによれば、2040年までにそうなる可能性が高いという。
2019年2月、中国企業、新彊TBEAグループと、ボリビア国営企業ヤシミエントス・ドゥ・リティオ・ボリビアノス(YLB)は、リチウム採掘投資で、市場の需要次第で拡張可能な、ボリビアが51%、中国が49%の株を持つ当初23億ドルのベンチャー企業の契約交渉した。プロジェクトには、ボリビアで付加価値を生み、何千という仕事を作る、自動車用電池製造や更に多くのものが含むはずだった。
駐ボリビア中国大使は、2025年までに、中国は約800,000トンのリチウムを必要とするだろうと推定している。現代の技術の電気自動車は、70キロワット時のテスラ・モデルSのバッテリ・パック一個のため、約63キログラムもの極めて大量のリチウムが必要だ。
ウユニ塩湖の公式な既知埋蔵量は900万トンと見積もられ、米国地質調査局による既知の世界全埋蔵量の約4分の1に等しい。
政府推計によれば、ボリビアの全リチウム埋蔵は、主にウユニ塩湖で2100万トンに達する可能性がある。リチウムに対する世界銀行の世界需要予測は今後数年間に急増し、2050年までに現在需要の1,000%以上に達すると見ている。
この数十億ドル市場のかなりの部分が中国だ。だから、アメリカが引き起こした軍事クーデターそのもの、特にそのタイミングが、ボリビアのリチウムに、より正確には中国・ボリビア契約に関係があると考えるのは、決して牽強付会ではない。
今年初めから、ボリビアは中国と一帯一路構想(BRI)との連結を交渉していた。リチウム採掘と産業開発はその一環だった。エボ指導下、南米の依然最貧の国を、大半のボリビア国民が「裕福に暮らす」水準に引き上げることが可能なはずだった。
双方が恩恵を受ける一帯一路を世界中に拡張する中国の手法での、ボリビアとのリチウム開発のような二国間取り引きは陸封されたアンデス山系の国の生活状況改善に大いに貢献したはずだった。
中国があらゆる時にこきおろされ、激しく打たれる状態で、明らかに、欧米人自身が主張したいとを望む市場に対する、このような何10億ドルもの長期協定を、本当の悪の枢軸、アメリカ合州国やヨーロッパ諸属国やカナダやオーストラリアは許さない。
それゆえ、エボ・モラレス大統領と彼のMAS党同盟者や後継者となりうる人々は去らねばならなかった。非武装先住民は買収された警察と軍隊に脅迫されなければならなかった。(後略)【12月2日 Peter Koenig マスコミに載らない海外記事】
********************
中国の一帯一路が“双方が恩恵を受ける”という善良なものかどうかはともかく、また、アメリカの関与したクーデターがリチウムも目的とするものだったかどうかはともかく、アメリカの支援を受ける右派政権によって、アメリカはボリビアのリチウムへの将来的アクセスを可能した・・・とは言えるでしょう。