孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

拡大する格差が生み出す社会不安・民主主義の揺らぎ

2020-01-26 22:01:46 | 民主主義・社会問題

(バングラデシュ首都ダッカを流れるブリガンガ川で、工業化学物質が入っていた袋を洗う男性(2020年1月9日撮影)【1月21日 AFP】)

【富の集中 拡大する格差】
若い頃に読んだ数少ない経済学関係の本のなかで、唯一印象に残っているのは市場経済の「効率」と「公正」を扱った本で(新書だったと思いますが、著者も書名も忘れました)、「市場経済は資源配分において優れた効率性を有することは認める。しかし、貧乏人の住む家が、隣の金持ちの家の犬小屋にさえ劣るということは受け入れがたい」といった趣旨の記述です。

別に「格差社会」云々を持ち出すまでもなく、現実には「犬小屋」にも到底及ばないことが、極めて普通・日常的・当たり前のことともなっています。

****世界の富裕層 上位2100人 46億人分より多い資産持つ****
世界の富裕層の上位2100人余りの資産を足し上げると、世界の総人口のおよそ6割に当たる46億人の資産の合計を上回ることが、国際的なNGOがまとめた報告書で明らかになりました。

世界の貧困問題に取り組む国際的なNGOの「オックスファム」は20日、スイスで開催されている「ダボス会議」にあわせて経済格差に関する報告書を発表しました。

それによりますと、去年の時点で10億ドル以上の資産を持つ富裕層2100人余りの資産の合計は、世界の総人口のおよそ6割に当たる46億人の資産の合計を上回っていたということです。

そのうえで、上位1%の富裕層が今後10年間、税金を0.5%多く払えば、介護や教育などの分野で1億1700万人を新たに雇うことができる金額になるとしています。

報告書は男女の経済格差に関連して、主に女性が担っている介護や育児などの無報酬の労働の価値は、年間で少なくとも10兆8000億ドルに相当すると推計しています。

そして、政府が介護などの分野に投資し、女性に適切な賃金が支払われるしくみを作るべきだと提言しています。

NGOの代表は「女性の無報酬の労働が経済の隠れたけん引役であることを知ってほしい。女性は適切な賃金の支払いを必要としている」と述べ、各国に格差の解消に向けた取り組みを求めました。【1月22日 NHK】
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“10兆8000億ドル”という金額はIT業界の生む所得の3倍以上で、オックスファム・インディアのアミタブ・ベハール最高経営責任者(CEO)は「経済の隠れたけん引役は実際は、女性が無報酬で行っている(他人の)ケアであることを強調する必要がある。この状況は変わるべきだ」と述べています。【1月20日 ロイター】

昨年は世界の各地で反政府デモが繰り広げられましたが、そうした現象の背景には「格差」に対する不満があると思われます。

「世界では30カ国以上でデモが起きている。デモ参加者は格差を受け入れるつもりはない、現在の状況下で暮らしたくないと訴えている」(前出オックスファム・インディアCEO)【同上】

似たような話はよく目にしますが、やはりオックスファムの報告によれば、アフリカではさらに富の集中が著しいようです。

****アフリカ大陸で富豪3人が富独占 6億人貧困層の資産合計を上回る****
国際非政府組織(NGO)オックスファムは4日までに、アフリカ大陸で上位3人の大富豪が持つ資産が全人口の約半数に当たる貧困層約6億5千万人の資産を合計した額を上回るとの報告書を発表した。

「アフリカでは富裕層の資産が増える一方で、極度の貧困も進行している。不平等が貧困撲滅の取り組みを台無しにしている」と批判した。
 
最も格差が深刻な国は南部のエスワティニ(旧スワジランド)で、同国の大富豪の推定資産は約49億ドル(約5200億円)に上る。大富豪が所有する企業の取引先レストランで働き続けた場合、この資産を得るのに約570万年かかるとした。【2019年9月5日 共同】
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アフリカで絶えない内戦・紛争、容易に拡大する過激な武装勢力・・・・そうしたものの背景に上記なような現実があるのでしょう。

そして多くの国で、不平等・格差は拡大する傾向にあるようです。

****世界の3分の2の国で所得格差が拡大 国連が報告書****
国連は、日本を含む先進国やアジア・アフリカ諸国など世界の3分の2の国で所得格差が広がり不平等が進行しているとする報告書を発表し、各国政府に対してデジタル格差の解消や社会保障の普及に取り組むべきだと勧告しました。

これは国連が21日発表したもので、1990年から2016年までの各国の所得水準の推移を見ると、欧米や日本など先進国の多くと中国やインド、それにアフリカ諸国の一部など世界の3分の2の国で格差が広がり、社会の不平等が進行していると指摘しています。

このうち途上国ではデジタル技術が教育や保健サービスの普及を促進した反面、インターネットの普及率が先進国の87%に対し19%にすぎないとして、デジタル格差が深刻だと分析しています。

地球温暖化の影響については、このまま進めば温暖化のリスクにもろい国や地域と、そうでない国や地域との経済格差を広げると警告しています。

そのうえで報告書は各国政府に対して、国際協力を通じたデジタル格差の解消や、社会環境の変化に対応した職業訓練への投資の拡充、それに誰もが受けられる社会保障制度の構築に取り組むべきだと勧告しています。

記者会見した国連のハリス事務次長補は「社会の不平等を緩和するため政府がまずすべきことは、すべての人が機会を得られるようにすることだ」と話しています。【1月22日 NHK】
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【若者・女性へのしわ寄せ まともな仕事に就く機会を得られないことが生む社会不安】
不平等のしわ寄せを受けやすいのが、経済的基盤が弱い若者や女性です。

****世界の若者22%が「ニート」状態 ILOが年次報告書*****
国際労働機関(ILO)は20日、世界の15~24歳の若者のうち、22%が「ニート」状態となっているとする年次報告書を発表した。
 
報告書は、仕事や通学をせず職業訓練も受けていないこの年齢層の若者は世界で約2億6700万人に上ると指摘。

さらに、多くは有給で働いていても「標準以下の労働条件に耐えている」と警告した。特にアフリカでは、若者が増えているものの、非正規雇用の比率は95%に達しているという。
 
性別による労働上の不平等にも言及。女性の労働市場参加率は47%で、男性よりも27ポイント低い。「男女格差には大きな地域差があり、介護者としての女性の役割を主張するなど、性別に対する固定観念が一部の地域に染みこんでいる」と指摘している。

世界全体の失業率については、2019年から横ばいの5・4%。21年には5・5%に上がると予測している。【1月21日 朝日】
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今後も状況は改善が見込めず、むしろ悪化する可能性が高いようです。当然ながら、そのことは社会不安の原因ともなります。

*****世界の約5億人、十分な仕事に就けず ILO報告*****
連の国際労働機関は20日、雇用情勢に関する年次報告書を発表し、世界で4億7000万人以上が失業中か十分な職に就けていないと明らかにした。また、まともな仕事に就く機会を得られないことが社会不安の一因になると警告した。

 ILOによると、世界の失業率は過去10年間のほとんどで比較的横ばいで推移しており、昨年は5.4%だった。失業率は今後も大きく変化しないと予想されているが、減速気味の経済により、増加する人口に対する仕事の数が減って失業者が増加する恐れがある。
 
年次報告書「世界の雇用および社会の見通し」の中でILOは、今年の失業者数が、昨年の1億8800万人からさらに増えて1億9050万人に上ると予想している。
 
同時にILOは、世界で約2億8500万人が不十分な仕事に従事していると強調。不十分な仕事とは、希望する勤務時間より短い時間しか働くことができない、職探しを断念した、労働市場に参加する機会が少ないなどの状態を意味する。
 
失業者と不十分な仕事に従事している人は合わせて5億人近くに上り、世界の労働者人口の13%を占めるとILOは指摘している。 【1月21日 AFP】
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【民主主義の基盤を浸食する社会の分断】
経済のグローバル化の恩恵を一部の富裕層・エリートだけが享受しているとの不満は、ポピュリズムやナショナリズムの形をとった政治的な流れともなり、民主主義の基盤を浸食する事態ともなっています。

****なぜ民主主義は苦境にあるか、いかに解決するか  政府への不信と経済的苦難が人々を分断させた ****
民主主義は決して政府の最良の形態を意図したものではなかった。むしろ民主主義の美徳は単に、統治される側の利益を統治する側の利益より優先することにある。
 
しかし今日、世界中の民主主義国家は通常よりも混乱し、機能が低下しているように見える。独裁的リーダーらがこうした傾向を声高に指摘し、そこにつけ込もうとする一方で、民主的リーダーらは何かが軌道を外れてしまったのではないかと思案に暮れている。
 
米国では党派間の分断が進む中、ドナルド・トランプ大統領が弾劾訴追を受けている。米上院は間もなく、トランプ氏を罷免するかどうか投票にかける。

英国では2016年に有権者が欧州連合(EU)からの離脱を選択した後、政府はその方法について合意するまでに3年間を要し、3人の首相がもがき苦しんだ。
 
カナダのジャスティン・トルドー首相は、与党が議会の過半数を維持できなかったため、少数派政権を率いようとしている。

西側リーダーのまとめ役だったドイツのアンゲラ・メルケル首相は引退に向かっており、同氏が属するキリスト教民主同盟(CDU)が連立与党の結束を保てるかどうかは不透明な状況だ。

ブラジルでは、元軍人のジャイル・ボルソナロ大統領が民主的な諸機関を批判しており、一部市民の間で民主主義への支持が薄れていることが世論調査で明らかになっている。
 
民主主義諸国の中で最も人口が多いインドでは、世俗主義から宗派対立への流れが進行しているとみられ、緊張が高まっている。イスラエルの首相は起訴されており、同国の指導者らは激しい対立が続く中で、何度選挙を繰り返しても組閣ができない状況にある。

民主主義の拡大を支援する国際組織「民主主義・選挙支援国際研究所」は、数週間前に発表した報告書の中で「民主主義は脅威にさらされており、民主主義の約束の復活が求められている」と強調した。同様に、バンダービルト大学の研究者らも最近「米州の民主主義はさらなる後退のリスクに直面している」と結論付けた。
 
いま問われているのは、民主主義が現在抱える問題が、単に民主社会にとって不可避の周期的な修正局面の1つなのか、それとももっと腐食性の高い現象を示すものなのかということだ。
 
「世界中の民主主義の健康状態の悪化は深刻だが、決して末期的ではない」と国際経験が豊富なウィリアム・バーンズ元米国務副長官は話す。「多くの民主主義国は深刻な統治危機に直面している。国民に奉仕する能力をまひさせる一連の機能不全だ」

ポピュリズムと怒り 
民主主義の苦しみの理由を一言で説明することはできない。いくつかの要因が重なり合い、結合力のある社会や連立政権を生み出すことがより困難になっているのだ。
 
西側の民主主義国では、2007年に始まった金融危機によって打撃を受け、着実で公平な経済成長を監督する政府の力への信頼が失われた。

この危機により、経済のグローバル化が経済のはしごの最上層にいる人たちにとって有益であるのと同様に、中間層や下層にいる人たちにとっても有益だとの考えへの信頼も失われ、一部の米国人に自分たちの悩みは政策立案者らにとってほとんど重要でないと思わせる結果となった。
 
こうした心理は、ポピュリズムとナショナリズムの台頭を後押しした。ポピュリストの運動は、民主主義社会のエリートに対する怒りと恨みをあおり、有権者をより小さな「サイロ」に追い込んだ。

サイロの中では、同じ境遇の人や似たような不満を抱く人と一体感を持つ傾向にある。こうしたサイロ効果は、民主主義社会が育むはずの幅広い中間層から人々を引き離し、より小さな基盤に依存する政府を誕生させる。この結果、統治する側が効率的に業務を遂行することがより困難になる。

情報技術(IT)は民主主義社会を一層分裂させている。インターネットやソーシャルメディアを使って何百万人もの人々と瞬時にやりとりできる能力は、社会を結びつけられる力のように見えるかもしれない。

しかし実際には逆の効果をもたらしている。人々はインターネットで個々の特定のサイロにいる、似たような考えを持つ人のニッチなグループを見つけることによって、国民という大きな枠組みから逃れることができるようになった。
 
「グローバル化の時代、流動性と機会が減る中で人々が自分の人生をコントロールできると思えないと、アイデンティティーへのこだわりが極めて強くなる」。外交問題評議会(CFR)のリチャード・ハース会長はこう述べた。「現在は小さなコミュニティーを形成する能力が事実上無制限になっている。このため国家的なコミュニティーの形成が一層困難になっている」
 
この過程で、派閥同士が対立する構図が生まれる。ツイッター上の議論が激しさを増すこともしばしばだ。このような環境では、政治家はアイデンティティー政治を行い、特定の支持者の不満に対応しようとする誘惑にかられる。

これはまさにトランプ氏が自身の集会でやっていると指摘されていることであり、インドのナレンドラ・モディ首相がヒンズー教に基づくナショナリズムに訴える過程でやってきたことである

消えゆく中間層 
これら全ての力により、民主主義を機能させるためのコンセンサスや妥協を見いだすことが一層困難になっている。その代わり、民主主義社会内の派閥同士の対立が激しさを増すばかりだ。

権威主義的な政府、とりわけロシアと中国の政府は、こうした傾向が西側の民主主義の欠陥の兆候だと指摘するにとどまらず、その問題を悪化させるような手段を講じている。
 
ロシア指導者のウラジーミル・プーチン氏は周知の通り、ソーシャルメディアを利用して米国や西欧の選挙に介入していると広く非難されている。主な目的は西側社会により多くの対立の種をまくことだとされる。(中略)
 
こうしたことを念頭に置くと、民主主義社会は状況を有利に展開するためには何をすればいいのだろうか。ひとつには、自分たちの体制の改革が必要かもしれない。

ハース氏は「成熟した民主主義国家は、人間の場合と同様、動脈硬化を起こす」と指摘した。同氏は、米国の民主主義の基盤となっている共通の理念を若い世代に認識させるため、彼らに公民教育を行う新たな措置を提唱している。(中略)
 
究極の処方箋は、民主的に選出された指導者たちが、選んでくれた人々だけでなく、政治的分裂の反対側にたまたま位置する人々の声にも、より真剣に耳を傾けることなのかもしれない。【1月20日 WSJ】
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