孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

アルカイダ指導者のザワヒリ容疑者を米軍がアフガニスタンで殺害

2022-08-02 23:45:48 | アフガン・パキスタン
(国際テロ組織アルカイダ指導者 ザワヒリ容疑者(右)と ビンラディン容疑者【8月2日 NHK】)

【米軍、ザワヒリ容疑者を殺害 アフガニスタン首都カブールで】
バイデン米大統領は1日、国際テロ組織アルカイダの最高指導者アイマン・ザワヒリ容疑者を殺害したと発表したと発表しました。アフガニスタンの首都カブールでドローンを使った攻撃で殺害したとのことです。

ザワヒリ容疑者はアルカイダの黎明期からビンラディン容疑者が全幅の信頼を置いた最高幹部で、長年ナンバー2の「副官」として組織拡大に貢献、ビンラディン容疑者が米軍に殺害された後は結束力が弱まったアルカイダのトップとして組織維持に務めてきました。

****米、ザワヒリ容疑者殺害=アルカイダ最高指導者―アフガンでドローン攻撃****
バイデン米大統領は1日、国際テロ組織アルカイダの最高指導者アイマン・ザワヒリ容疑者を殺害したと発表した。71歳だったとみられる。

ザワヒリ容疑者は2001年9月の米同時テロに深く関与し、11年5月の米軍特殊部隊によるビンラディン容疑者殺害後、アルカイダを率いてきた。アルカイダの一層の弱体化は必至で、壊滅的打撃を受けた可能性がある。

バイデン氏は国民向けのビデオ演説で「正義は下された。このテロリストはもうこの世にいない。世界中の人々はもうこれ以上恐れる必要はない」と表明。さらに「同時テロで奪われた罪のない人々の命を追悼し続ける」とも述べた。

米政府高官によると、米当局がアフガニスタンの首都カブールで現地時間7月31日午前6時18分(日本時間同日午前10時48分)ごろ、ザワヒリ容疑者が建物のバルコニーに出たところをドローン攻撃で殺害した。米メディアは「中央情報局(CIA)による殺害作戦」と報じている。高官は一般市民らにけがはなかったと強調した。

従来はパキスタンとアフガンの国境地帯に身を隠していると考えられていたザワヒリ容疑者がカブールに潜伏中という情報は今年に入って米政府が把握した。監視の結果は約3カ月前からバイデン氏にも逐一報告され、殺害作戦が本格化したのはここ1カ月の話だった。バイデン氏が作戦実行を最終承認したのは7月下旬という。(中略)

バイデン氏は昨年8月末、アフガンから米軍を撤退させた。イスラム主義組織タリバンの全土掌握による混乱で批判を招いたが、今回のザワヒリ容疑者殺害で「アフガンが今後、テロリストの安住の地になることはない」と強調した。【8月2日 時事】 
******************

映画・ドラマによれば、こういう場面ではホワイトハウス地下のシチュエーションルームに大統領以下の主だった関係者が集まり、モニター等で現地の状況を確認しながら作戦が実行される・・・ということのようですが・・・。

【テロが減少する直接効果はあまり期待できない】
アルカイダから分派したスンニ派過激組織「イスラム国」(IS)がイラクとシリアで台頭すると、アルカイダは求心力を失いましたが、未だイスラム過激派の“トップブランド”としての存在感はあり、独自の指揮系統でテロ活動を行う参加の組織にとってアルカイダの名前はそれなりの価値があると言えます。ヤクザ組織の代紋みたいなものでしょうか。

****米殺害のザワヒリ容疑者 若くして過激思想に傾倒****
米国が殺害を発表したアイマン・ザワヒリ容疑者はウサマ・ビンラーディン容疑者の死後、10年以上にわたり国際テロ組織アルカーイダを最高指導者として率いた。しかし、カリスマ性に欠け指導力を発揮できず、組織は弱体化。重病説も取り沙汰されていた。

エジプト・カイロ郊外で1951年に生まれたザワヒリ容疑者は、世界のイスラム過激思想に影響を与えた原理主義組織「ムスリム同胞団」に学生時代から傾倒した。過激思想に詳しいカイロ・アズハル大のアブドルバセット・ヘイカル教授は、欧米の中東支配に対する反発から「イスラム世界の過激な変化を志向した」と分析した。

ザワヒリ容疑者は74年にカイロ大医学部を卒業後、81年に起きたサダト大統領暗殺事件に関わったとして投獄された。その後、アフガニスタンで対ソ連ゲリラ戦に参加し、ビンラーディン容疑者に出会った。

2001年の米中枢同時テロのほか、1998年のケニアとタンザニアの米大使館爆破事件にも関与したとされ、米政府は懸賞金2500万ドル(約33億円)をかけて行方を追っていた。

2014年にはアルカーイダから分派したスンニ派過激組織「イスラム国」(IS)がイラクとシリアで台頭。求心力を失ったアルカーイダは、中枢が反米イデオロギーを鼓舞するメッセージを発信し、各地の傘下組織が独自の指揮系統でテロ活動を行っていたとの見方が有力だ。

欧米では近年、アルカーイダ本体の関与が明確な大規模テロは起きていない。しかし、中東やアフリカでは政情不安に付け入る形で傘下組織が活発に活動している。米議会調査局は今年5月、米国人らを狙う危険性があるアルカーイダ系組織として、イエメンの「アラビア半島のアルカーイダ」(AQAP)やソマリアの「アッシャバーブ」などを挙げた。【8月2日 産経】
********************

今回のザワヒリ容疑者殺害の影響は二つあります。
ひとつはアルカイダの組織活動が今後どうなるか? テロ減少につながるのか? という問題。

アルカイダ自身の求心力は更に低下し、組織は大きく揺らぐかと思われますが、上記記事にもあるように、すでにアルカイダが何か企てるというよりは、アルカイダネットワークに参加する各組織が独自活動においてアルカイダの名前を“箔付け”に利用するという感じが強くなっていましたので、ザワヒリ容疑者殺害によってテロが減少する直接効果はあまり期待できないように思えます。

【タリバンとアルカイダの関係が切れていなかったことが証明された】
もうひとつの問題は、殺害されたのがアフガニスタンだったこと。つまりアフガニスタン・タリバン政権が国際テロ組織アルカイダのトップをかくまっていたと推測されることです。

****タリバン、アルカイダ指導者保護でドーハ合意に違反=米国務長官****
米国がアフガニスタンで国際武装組織アルカイダの最高指導者、ザワヒリ容疑者を殺害したことについて、ブリンケン米国務長官は1日、イスラム主義組織タリバンが同容疑者をかくまっていたとし、ドーハでの合意に対する「重大な」違反だと非難した。

「タリバンに合意を守る意向もしくは能力がない中、われわれは揺るぎない人道支援でアフガンの人々を引き続き支え、特に女性や子どもの人権保護を提唱していく」と述べた。【8月2日 ロイター】
*********************

このことが国際テロ組織との関係を断つとしていたアフガニスタンとアメリカ、国際社会との関係にどのような影響を及ぼすか・・・・という問題です。一方、アフガニスタンにしてみれば、自国内での米軍による殺害は主権の侵害という問題にもなります。

****カブール市民「何かの間違い」 ザワヒリ容疑者殺害、重い口****
米国がザワヒリ容疑者殺害を発表した直後の2日朝、アフガニスタンの首都カブールは、普段通り多くの人々が通りを歩いていた。タリバンの暫定政権は「米国によるドローン攻撃」を非難する一方で、死亡したのがザワヒリ容疑者だったことについては言及を避けている。

暫定政権、言及避ける
「どんな理由であったとしても、この攻撃を強く非難する」。暫定政権のムジャヒド報道官は2日昼前に発表した声明で米国を非難。カブール中心部にあるシェルプール地区の民家への空爆があり、米国のドローン攻撃だったことが判明したとした上で「こうした行動は米国、アフガン、そして地域の利益に反する」と述べた。アルカイダに関する言及はなかった。

地元テレビでは、2日朝の段階でザワヒリ容疑者の殺害について報じるニュースは少ない。中心部の検問所で警戒にあたっていたタリバン戦闘員にザワヒリ容疑者の殺害について聞くと、戦闘員は「空き家にロケット砲が着弾しただけで、けが人はいなかったはずだ」と不思議そうな顔で答えた。ザワヒリ容疑者がカブール市内に居住していたことについても「何かの間違いだ」と否定し、「アルカイダとタリバンは関係がない」と述べた。

カブール市内の警備は、アルカイダとのつながりが指摘されるタリバン内の強硬派「ハッカーニ・ネットワーク」の戦闘員が中心的に担っているとされ、市内のいたるところに銃を携えた戦闘員が配置されている。

タリバンを長年取材してきた毎日新聞助手は「アルカイダとの関係を認めてこなかったタリバンは、今回の米国の攻撃で面目をつぶされた形だ。タリバン内部でも動揺が広がる可能性があり、騒動に発展することを警戒して検問も厳しくなるはずだ」と警戒したが、記者(川上)と助手が30分ほど外出した間、検問で止められることはなかった。(中略)

一方、(攻撃の様子を語る住民に)アルカイダやザワヒリ容疑者について話を聞こうとすると、住民の口は一様に重くなった。両替商のアブドル・モヒーンさん(20)は、殺害されたのがザワヒリ容疑者だったことについて「ニュースを見ていないから知らないし、関心もない」と話した。別の男性は「そんなことを聞かないでほしい。ここは民主主義国じゃないんだ」と小声で訴えた。

ザワヒリ容疑者はタリバンの復権に伴い、パキスタンとアフガンの国境付近の潜伏先からカブールに移動した可能性も指摘される。ザワヒリ容疑者を首都で事実上かくまっていた疑いが浮上したことで、国際社会のタリバンへの対応が厳しくなるのは必至だ。【8月2日 毎日】
*****************

****アフガン、なお「テロの温床」 ザワヒリ容疑者 政府機関近くに潜伏****
アフガニスタンの首都カブールで国際テロ組織アルカーイダの最高指導者、ザワヒリ容疑者が殺害されたことは、米軍撤収後のアフガンがいまだに「テロの温床」である実態を浮き彫りとした。

イスラム原理主義勢力タリバンが米国と合意した「国際テロ組織との関係遮断」を履行していない疑いは強い。カブール陥落1年を15日に控え、タリバン統治への不信感が高まる結果となった。

ザワヒリ容疑者が潜伏していた住宅はカブール中心部の高級住宅街シェルプール地区にあり、政府機関やタリバン幹部の自宅からもほど近い。タリバンはザワヒリ容疑者の居場所を把握していたとみられ、ロイター通信はタリバン関係者の話として、タリバンがザワヒリ容疑者に「最高レベルの警備」を与えていたと報じた。

タリバンと米国は2020年2月、カタールの首都ドーハで和平合意に署名した。合意では米軍がアフガンから撤収する一方、タリバンはアルカーイダなど国際テロ組織と関係を断ち、国土を活動拠点として利用させないことが盛り込まれた。

ただ、21年8月に米軍撤収は完了したものの、タリバンはアルカーイダとの関係を維持しているとの見方は根強かった。タリバンは1990年代、アルカーイダ指導者のウサマ・ビンラーディン容疑者を「賓客」として迎え入れて、原理主義化が進んだ経緯があり、両組織の縁は深い。

タリバン暫定政権のザビフラ・ムジャヒド報道官は2日、ツイッターでザワヒリ容疑者の死亡は触れず、米軍のドローン攻撃について「米軍の攻撃は国際的な原則に対する明らかな違反行為だ。米国、アフガン、地域の利益に反する」と反発した。【8月2日 産経】
******************

“タリバンは1990年代、アルカーイダ指導者のウサマ・ビンラーディン容疑者を「賓客」として迎え入れて・・・”ということですが、何もタリバンが招いた訳でもなく、他に行くあてもない国際的お尋ね者ビンラーディン容疑者が舞い込んできたというところで、また、当時の国際情勢に疎いタリバンはビンラーディン容疑者がどのような人物かもよくわからないまま、客はもてなすという部族の慣習に従って「まあ、おとなしくしているなら、いてもいい」と受け入れたということのようです。

受入れ後も、ビンラーディン容疑者の資金・アラブ世界からの戦闘員の提供を重宝しつつも、国際社会を敵に回すその勝手な活動に(基本的にアフガニスタン国外のことには関心がないオマル師・タリバンは)苛立ったりもしていましたが、「客を追放するのは習慣に反するので、できない」とそのまま置いていくうちに、当時の最高指導者オマル師以下のタリバンが次第に精神的にもアルカイダ思想に取り込まれていった・・・というように思えます。
(参考 高木徹著「大仏破壊」)

ザワヒリ容疑者についても、思想的に共鳴してかくまったというより、他に行くところがないと頼まれると追い出す訳にはいかなかったのかも。

もっとも、アルカイダとのつながりが指摘されるタリバン内の強硬派「ハッカーニ・ネットワーク」と他の勢力の間では、ザワヒリ容疑者への対応に温度差があったかも。

いずれにしても、ビンラーディン容疑者がパキスタンで殺害された際も、パキスタン国軍がかくまっていたと推測され、パキスタンとアメリカの関係がギクシャクすることにもなりました。

タリバンがアルカイダと切れていないというのは誰しも想像することではありましたが、想像することと、実際にザワヒリ容疑者がアフガンにいたということでは重みが違います。

【タリバンが更に国際社会に背を向ける可能性も】
今回事件を受けて、タリバン政権が求めていた国際的な国家承認は更に遠のくことになるでしょうが、そのことでタリバン政権が国際社会との関係を見限って、更に強硬な路線に進むということも懸念されます。

タリバン指導部は実権掌握時は国際社会にも配慮した宥和的姿勢も見せてはいましたが、それから1年、その凶暴な性格が明らかになりつつあります。

****刑、拷問、恣意的拘束…今も続くタリバンによる人権侵害の実態 アフガン実効支配から1年****
イスラム過激派組織タリバンがアフガニスタンで政権を奪取してから、まもなく1年が経つ。

当初、タリバンは自ら記者会見を開いて「我々は変わった」と積極的に発信したり、日本のメディアを含む外国メディアの取材にも応じて英語でインタビューに答えたりするなど、「我々は変わった」アピールに余念がなかったこともあり、日本でもタリバン新政権を楽観視する向きがあった。しかし現実は大きく異なる。

「裁判なしの処刑160件」人権侵害の実態は
国連アフガニスタン支援団(UNAMA)は7月20日、タリバン支配が開始された2021年8月15日以降10カ月間のアフガニスタンの人権状況をまとめた報告書を発表し、タリバンが今も人権侵害を続けている実態を明らかにした。

UNAMAはタリバンによる前政権や治安部隊の関係者に対する裁判なしの処刑(超法規的処刑)160件、恣意的な拘束178件、拷問や虐待56件について、極めて具体的に報告している。タリバンは政権奪取直後の2021年8月17日、前政権や治安部隊などの関係者を対象とした恩赦を発表したものの、「この恩赦は一貫して守られていないようだ」と指摘する。

こうした人権侵害の加害者に対し、タリバン当局が全く処罰していないだけでなく、タリバン当局の勧善懲悪省と諜報局という2つの組織が主体的にこれらの人権侵害を実行している実態について、UNAMAは強い懸念を表明している。

タリバンはジャーナリストの恣意的逮捕や報道機関に対する規制により報道の自由を抑圧しているだけでなく、抗議活動の参加者に暴力をふるったり拘束したりすることにより、反対意見を封殺しているともされる。タリバンによるメディア関係者に対する人権侵害は、163件が報告されている。

奪われる女性の権利、相次ぐ「イスラム国」の攻撃
タリバン支配の最も顕著な犠牲者は女性である。ブルカ(顔を含む全身を覆い隠す長衣)着用の義務付けや移動の制限、立ち入り場所の制限、教育や就業の制限など、タリバン当局が次々と発布する規制により、女性は公共の場から締め出され、社会に参加する権利を徐々に制限され、多くの場合完全に奪われてしまったと報告されている。

国連のアフガニスタン担当特別代表はこれについて、次のように述べた。
「女性と女児の教育および公的生活への参加は、いかなる近代社会にとっても基本的なことだ。女性と女子を家庭内に追いやることにより、アフガニスタンは彼女たちが提供する重要な貢献の恩恵を受けることができなくなる。あらゆる人のための教育は基本的人権であるだけでなく、国家の進歩と発展の鍵なのだ」。

治安に関しても、この10カ月間に「武器を用いた暴力」は大幅に減少したものの、民間人の死傷者は2000人を超え、その大半はイスラム過激派組織「イスラム国」の攻撃によるものとされる。

2021年8月以前は「武力を用いた暴力」を主に実行していたのはタリバンだったが、タリバンは今やそれを取り締まるべき立場にある。しかし「治安は回復した」「我々は『イスラム国』を封じ込めている」「米国は『イスラム国』の脅威をでっち上げている」といったタリバンの主張は、こうした報告書が突きつける事実の前に信憑性を失う。

タリバン政権誕生で状況悪化
タリバンによる政権奪取以降、アフガニスタン経済は崩壊状態にあり、タリバン当局がそれに対してほぼ無策であることが人権状況の悪化に拍車をかけている。

報告書によると、現在アフガニスタンの人口の少なくとも59%が人道支援を必要としており、その数は2021年初頭と比較して600万人増加した。

要するにタリバン政権誕生により、アフガニスタンの人々の状況は悪化したのだ。

UNAMAの報告書は国際社会に対し、アフガニスタンの人々への支援の継続を求めている。しかしいくら国際社会が人道支援をしようと、アフガニスタンを支配するタリバンが、すべてのアフガニスタン人の人権を保護・促進する義務を果たさない限り、根本的な問題解決にはならない。

タリバン当局は人権問題について西側諸国による再三の勧告を無視し、中国やロシアといった権威主義国家との関係を強化しつつある。問題解決への道は遥かに厳しく、そして遠い。【8月1日 イスラム思想研究者 飯山陽氏 FNNプライムオンライン】
*******************


コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする