孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

スリランカ  中国“スパイ船”入港問題 経済破綻でガソリン不足・売春・臓器売買

2022-08-13 23:37:00 | 南アジア(インド)
(20年の閣僚就任式に参加したラジャパクサ三兄弟。(右から)ゴタバヤは大統領、チャマルは閣僚、マヒンダは首相に【7月22日 Newsweek】)

【いわゆる「債務の罠」の代表事例とされるハンバントタ港】
中国が途上国を“借金漬け”にして、返済ができなくなったところで施設運用権などを中国のものにする・・・という、いわゆる“債務の罠”の事例として必ず最初にあげられるのがスリランカの南部ハンバントタ港の一件です。

****「債務の罠」で重要港湾は植民地に****
2000年代にインフラ整備を積極的推進したスリランカは、中国などへの対外債務を膨らませた。巨額の返済に行き詰まり、港湾国家構想の中核であった南部ハンバントタ港の運営権を、中国国営企業に99年間供与する事態まで発展している。

この一件は、中国が仕掛ける「債務の罠」の典型的な事例だとして国際的な注目を集めた。中国が途上国に対して多用する手口に、高額なインフラ整備費を厳しい返済条件で貸し付けるものがある。相手国が返済条件に応じられなくなるのを待って、新設したインフラ施設の運営権の譲渡を受ける手法だ。

こうして中国の手に落ちたスリランカのハンバントタ港をめぐっては、事実上の中国の植民地ではないかとする国際的な批判が相次いでいる。

中国は「真珠の首飾り」と呼ばれる海上輸送ルートの確立を試みているとされる。インド西部のパキスタンからスリランカのハンバントタ港を経て、台湾海峡へと至るルートだ。中国の打算的な戦略は、スリランカへの「債務の罠」の成功で見事に実を結んだともいえよう。(後略)【7月28日 PRESIDENT Online】
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****中国紙は「借金漬け外交」の批判を意に介さず****
(中略)2020年の債務返済の際、国際通貨基金(IMF)との対話を通じ、緊縮財政と債務整理を推進するという道が残されていた。しかしスリランカは、既存債務の返済に充てるべく、中国がちらつかせた30億ドルの追加融資枠にいとも簡単に飛びついてしまったのだと(米外交コラムニストの)タルール氏は論じている。

一方で中国側は、このような国際的批判を意に介さない。中国共産党傘下のグローバル・タイムズ紙(環球時報)は7月18日、スリランカ大使が中国による支援が「大いに役立っている」と発言したと報じ、支援は人道的な援助であると強調した。

記事はスリランカ側が政権交代後も「中国との卓越した関係の維持」を望んでいると述べている。また、スリランカ大使による見解として、「否定派たちが債務を中国プロジェクトのせいにするのは、中国バッシングの口実にすぎない」との意見を取り上げた。【同上】
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個人的には、中国の意図以上に責任を負うべきは借りた側の問題だと思います。スリランカで言えば、このブログでも取り上げてきたようにラージャパクサ一族による縁故主義に依った国家運営の腐敗・非効率の問題です。

【中国“スパイ船”のハンバントタ港への入港をめぐる中国と印米の綱引き 中国が押し切る】
それはともかく、そのハンバントタ港に中国の“スパイ船”が入港しようとして、これを阻止しようとするインドやアメリカなどの間で綱引きが行われていました。

****中国調査船がスリランカに、インド「安保・経済面で注視」****
インド外務省報道官は28日、中国の援助で建設したスリランカ南部ハンバントタ港に中国の調査船が入港するとの報道について、状況を注視しており国益を守ると表明した。

報道官は定例会見で「インドの安全保障・経済上の利益に影響を及ぼすいかなる事態も注視しており、国益を守るために必要なあらゆる措置を講じる」と述べた。

スリランカのコンサルティング会社「一帯一路イニシアチブ・スリランカ」は中国の調査船が1週間後にハンバントタ港に入国し、インド洋北西部で8月から9月にかけて宇宙追跡・衛星管理を行う計画だと明らかにしている。

スリランカは債務返済に行き詰まり、ハンバントタ港の運営権を2017年以降、中国企業に99年間リースしている。米国とインドは同港が中国の軍事基地になる恐れがあると警戒している。【7月29日 ロイター】
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問題の中国の調査船「遠望5号」は調査・測量船とされていますが、インドのCNNニュース18は、軍民両用のスパイ船で、特に大陸間弾道ミサイル発射の衛星追跡を行うと報じています。

経済破綻しているスリランカにとってインド・中国は資金支援において当面の“頼みの綱” そのインドの懸念とあって、スリランカ政府は中国に入港延期を正式に要請しました。

****スリランカ、中国「調査船」の入港延期要請を正式発表****
スリランカ外務省は8日、南部ハンバントタ港への中国の調査船「遠望5号」入港について、中国政府側に延期を申し入れたと正式発表した。衛星の観測任務などを担ってきた遠望5号のスリランカ入りを巡っては、周辺地域の動向を偵察する目的があるとの懸念がインド側から出ていた。

スリランカ外務省は「さらなる協議の必要」から、遠望5号の入港を延期するようコロンボの中国大使館に要請したと明らかにした。スリランカは11日から17日までの停泊を認めると、ラジャパクサ前大統領が辞任する直前の7月12日に伝えていたという。(中略)

スリランカでは物価上昇などに端を発した経済危機により、「親中派」と目されていたラジャパクサ兄弟による政権が退陣に追い込まれた。首相などを務めてきたウィクラマシンハ氏が7月に大統領に就任している。

スリランカ外務省は8日付の声明で、「スリランカと中国の恒久的な友情と優れた関係を再確認する」とも表明した。スリランカが4日に実施した中国との外相会談で、「一つの中国」政策を支持する姿勢を示したとも記した。【8月9日 日経】
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インドの対応に対し、“中国外務省はインドを念頭に「スリランカに圧力をかけるのは全く道理がない」と反発”【8月13日 日経】しています。

“7月中旬に中国を出航した遠望5号は、インドネシア方面からスリランカをめざしていた。船舶情報会社マリントラフィックによると、10日ごろから複数回にわたり針路を変更して周辺海域にとどまっている。同船はもともと「補給」目的でスリランカに寄港すると説明されていた。”【同上】とのことで、ハンバントタ港から約1100キロ離れた地点にとどまっていましたが、結局、中国が押し切ったようです。

****中国軍船の入港許可=米印懸念も圧力に抗しきれず―スリランカ****
スリランカ主要メディアは13日、同国政府が中国海軍の観測船「遠望5号」の入港を許可したと報じた。同船をめぐっては、隣国インドが「スパイ船」(地元メディア)などと安全保障上の懸念を指摘。スリランカは中国側に入港延期を求めていたが、多額の対中債務を抱え、中国の圧力に抗しきれなかったようだ。
 
スリランカ紙サンデー・タイムズによると、ウィクラマシンハ大統領と8日に面談した駐スリランカ米大使も、遠望5号の入港に懸念を示した。しかし、米印両国とも反対する具体的理由を示さなかったため、入港を認めたという。【8月13日 時事】 
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8日になされたスリランカ外務省の入港延期要請は何だったのか・・・という感もありますが、それを押し切る中国の“剛腕”も、まあ、たいしたものです。
と言うか、ここで入港を諦めたら、「スパイ船」とのインド・アメリカの言い分を認めることにもなる・・・それはできない・・・という判断でしょうか。

【経済破綻 生きるために体を売る女性 給油のために10日間並ぶドライバー そして臓器売買】
中国とインド・アメリカの対立が生む荒波に翻弄されるスリランカですが、国内経済状況は破綻の危機・・・と言うより、すでに破綻しています。

****生きるために身体を売る女性たち*****
迷走する政治と経済に、国民の生活は疲弊している。経済危機を受け、スリランカの主要産業のひとつであるアパレル産業で働く女性たちは、食糧を買う資金を得るために売春宿で働くことを余儀なくされている。

英テレグラフ紙は、NIKEやGAPなど大手多国籍企業向けの製品工場で働く女性たちが、物価高のため副業として体を売っていると報じている。

同紙によると女性たちには、1000スリランカ・ルピー(約380円)ほどの日当が支給される。だが、40%にも達するインフレを前に、こうした賃金は無価値になりつつあるという。

衣料品業界で働く女性の多くは同業界の経験しかもたず、体を売る以外に追加収入を得る術がない。記事が掲載されたのは5月だが、現在ではさらに状況が悪化している。英BBCはスリランカ政府発表のデータをもとに、6月のインフレ率が54.6%に達したと報じている。

薬と食糧を買うため、体を売る女性が目立つようになった。インドの大手コングロマリットが運営するニュースメディア「ファースト・ポスト」は、首都スリジャヤワルダナプラコッテに隣接する旧首都のコロンボで、にわかづくりの売春宿が増加していると報じている。売春宿には研究者からマフィアまで多様な客が集い、彼らを相手にすることで1日で半月分の収入を得ることができるという。

ガソリン不足で働けず、輸送混乱で物価上昇
食糧以外では、ほぼ輸入に依存している燃料の不足も深刻だ。
ガソリンと軽油を求め、給油所には連日長蛇の列ができている。英BBCは、コロンボでミニバス運転手として働く43歳男性の事例として、給油待ちの列に10日間並んだ事例を取り上げている。車中泊をしながら10日目に給油所にたどり着いたが、それでもタンク満タンの給油はかなわなかったという。

英スカイ・ニュースは、トゥクトゥク(三輪タクシー)で稼ぐある運転手の話を伝えている。燃料不足を受け、この男性は2週間に一度しか操業できない状態だという。妻は妊娠中だが、「彼女のおなかにいる子供にごはんをあげることができていない」とこの男性は唇を噛む。

食糧難に喘あえぐのは、一部の国民だけではないようだ。シンガポールの国際ニュースメディアであるチャンネル・ニュース・アジアは、世界食糧計画(WFP)による評価として、スリランカの6世帯に5世帯が食べ物を抜くか減らしていると報じている。ある一家は小さな魚を6人の子供に分け与え、大人は残った汁だけで空腹を紛らわせている模様だ。

燃料不足で商品の輸送が停滞しており、食品などの価格上昇に歯止めがかからない。【7月28日 PRESIDENT Online】
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生活に困窮した者が最後に手を染めるのは、子供の売買と臓器売買。
日本のNPO法人が関与したとされる下記のような話も、こうした経済破綻を背景にしたものでしょう。

****「臓器売買疑惑」スリランカでも移植計画…NPO「急いでやろう、患者10人送る」****
海外での生体腎移植で臓器売買が行われた疑いがある問題で、NPO法人「難病患者支援の会」(東京)が今年に入りスリランカでの移植を計画し、海外のコーディネーターに「(患者を)2人ずつ合計10人ぐらい送ります」と伝えていたことが、読売新聞が入手した録音・録画記録でわかった。現地は政情が不安定で、手術は実現していない。
 
コーディネーターは、臓器売買に関与した疑いで2017年にウクライナ当局に逮捕されたトルコ人男性(58)。中央アジア・キルギスで昨年行われた日本人患者の生体腎移植で、ドナー(臓器提供者)1人あたり約1万5000ドル(約200万円)の「ドナー費用」をNPOから受け取ったことが判明している。(中略)

NPO法人「難病患者支援の会」は12日、「一連の報道について」などと題する複数の文書をホームページで公表した。「臓器売買に関与したことは一切ない」とする一方、キルギスで昨年行われた移植について「臓器売買の疑いがあるのも事実」とした。

文書では、NPOがこれまで17年余りで約170例の海外移植を案内し、ドナーは事故死、脳死、死刑囚(2015年まで)、生体(過去5例)のケースがあるとした。ドナーの選択・手配は現地の病院やコーディネーターなどが行っているとし、「NPOが関与することは絶対にございません」と説明した。

キルギスでの移植については、コーディネーターからの説明で手術前に生体移植と認識していたと記載。「私どもの知らない時に臓器売買が行われていたかもしれません」とした上で、今後は生体移植に関わらないと表明した。

臓器移植法が禁じる無許可の臓器あっせんは「一切行っていない」として、「これからも移植を必要とし、国内にて機会が得られない患者の方々の支援活動を続ける」とした。【8月13日 読売】
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「私どもの知らない時に臓器売買が行われていたかもしれません」というのは、今時通らない弁解です。

【IMFの他、インド、中国、ロシアへ支援を求めるも、政治の立て直しが第一歩】
経済破綻状態のスリランカは今月、30億ドルの支援を求めて国際通貨基金(IMF)との交渉を再開する予定ですが、当面の危機乗り切りのために、既に40億ドルの資金を提供しているインドだけでなく中国、更にはロシアにも支援を求めています。

****スリランカ、中国に貿易・投資・観光への支援要請=駐中国大使****
スリランカのパリサ・コホナ駐中国大使は25日、ロイターとのインタビューで、スリランカが持続的な成長を支えるため中国に貿易、投資、観光への支援を要請しており、総額40億ドルの包括的な緊急援助に向けて交渉していると述べた。

スリランカにとって中国は日本と並ぶ最大の債権国。中国はスリランカの対外債務の10%程度を保有している。

コホナ氏によるとスリランカは、中国企業によるスリランカ産の紅茶、サファイア、香辛料、衣料品の購入を増やし、輸入規則の透明性を高めて運用を容易にするよう中国に求めている。

スリランカで2019年に発生した連続爆破テロやその後の新型コロナウイルスのパンデミックで大幅に落ち込んでいる中国からスリランカへの旅行者についても、もっと増えることを望んでいると訴えた。

コホナ氏は、スリランカのウィクラマシンハ新大統領が訪中し、通商や投資、観光などの課題について話し合う予定だと述べた。また、新政府の対中政策はこれまでと根本的に変わらないとの見通しを示した。【7月26日 ロイター】
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冒頭の中国船入港を認めた背景には、こうした事情もあるのでしょう。

****経済危機で高まるロシア依存****
中国とのパイプが深まる一方で、ロシア依存も大きな懸案となりつつある。英BBCは、スリランカのゴタバヤ・ラージャパクサ前大統領が辞任の1週間前、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に対して燃料輸入に関して支援を要請したと報じている。

報道と前大統領自身のツイートによると、スリランカ側は輸入代金の支払いに関して信用面での支援をプーチン氏に求めた模様だ。スリランカは燃料不足解消のため過去数カ月間でロシアからの燃料輸入を行っているが、今後さらに輸入量を拡大することが予想される。

同記事によるとスリランカ側は、かつて観光客のおよそ20%を占めていたロシア人観光客の再来にも期待感を示しているという。ウクライナ侵攻を発端に国際社会がロシアと距離を置くなか、正反対の動きとなった。

スリランカ側はそもそも、ロシアへの経済制裁に反対の立場を示している。小麦や燃料などのロシアからの輸出が滞ることで、途上国の経済が困窮しているとの主張だ。

インドのPTI通信が報じたところによると、ラニル・ウィクラマシンハ首相は西側諸国に対し、「ウクライナ侵攻に関するロシアへの制裁は、モスクワを屈服させることにはならず、代わりに食糧不足と物価高騰で途上国をひどく傷つけることになるだろう」と発言した。【7月28日 PRESIDENT Online】
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関係国の支援を取り付けるのも重要ですが、まずはラージャパクサ一族支配のもとで腐敗したスリランカ政治を立て直すことが根本的課題でしょう。

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中国も通貨スワップで資金を出しているが、スリランカの債務再編には消極的だ(もしも応じれば「債務の罠」に落ちた他の諸国も同様な要求をしてくるに違いない)。

日本は主要な援助国で債権国でもあるが、やはり追加支援には慎重だ。この腐敗体質では援助金がどこに流れるか分からないからだ。

他の支援国も同様で、スリランカ政府の腐敗の根が取り除かれないかぎり、誰も動かない。早急に政治の安定を取り戻すことが、さらなる追加融資や債務再編の第一歩だ。【7月22日 Newsweek“国民を「こじき」にした一族支配、行き過ぎた仏教ナショナリズム──スリランカ崩壊は必然だった”】
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