孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  国軍と民主派の両方からにらまれないよう、口を閉ざして生きている住民

2022-08-03 23:08:23 | ミャンマー
(ミャンマーのマグウェ地方で、国軍の拠点を襲撃する民主派の武装組織=フェイスブックより【7月28日 西日本】 民主派の武装組織がどのような武器を有しているのか・・・この画像ではよくわかりません)

【非常事態宣言を半年延長 来年8月までに“民主派排除”の総選挙】
ミャンマー軍事政権が民主活動家の処刑を行ったことは7月26日ブログ“ミャンマー 民主派弾圧を強化する軍事政権、民主活動家4人を処刑 中国、ロシアとの関係強化”で取り上げました。

その軍事政権は非常事態宣言の2回目の半年延長(憲法既定ではこれが最後)を行い、来年8月までに軍がコントロールした形で総選挙を行う方針です。

****ミャンマー政変1年半 国軍、非常事態宣言を半年延長****
クーデターで実権を握ったミャンマー国軍は7月31日、昨年2月に発令した非常事態宣言を半年間延長することを決定した。今月1日でクーデターから1年半となったが、国軍が実権を手放す気配はなく、反発する民主派との間で対立が一層激化しそうだ。

国軍は昨年2月1日、大統領府相、外相、国家顧問を務めていたアウンサンスーチー氏らを拘束し、全土に非常事態宣言を発令した。憲法規定では非常事態宣言の期間は1年だが、半年ずつ2回まで延長できると定めており、今回が2回目の延長となる。

国営メディアは延長の理由を「総選挙実施に向けた準備のため」としている。国軍は来年8月までに総選挙を行う方針を示しているが、スーチー氏ら民主派は排除される見通しだ。

国軍トップのミンアウンフライン総司令官は1日の演説で、総選挙実施のために「平和と安定が欠かせない」と述べ、民主派が結成した「国民防衛隊」(PDF)などへの締め付けを強化する考えを示唆した。

同国の人権団体によると7月29日までに2138人が弾圧で死亡し、約1万5千人が拘束された。【8月1日 産経】
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【ASEAN さらなる民主派処刑なら和平計画見直しも】
ミャンマー国軍のミンアウンフライン最高司令官は1日、国営放送を通じて演説。
「暴力の即時停止」など東南アジア諸国連合(ASEAN)と合意した5項目について、市民の抵抗活動などを理由に「実現は難しかった」とし、「今年は可能な限り実現させる」と語りました。国内外で高まる国軍への批判をかわす狙いがあるとみられています。

上記のようにASEANに対し若干の歩み寄りの姿勢もにおわせていますが、5項目合意を無視され、特使派遣してもスー・チー氏など民主派とは会えず、更に民主活動家処刑ということで、ASEAN側は対応を硬化させています。

****ASEAN、ミャンマー和平計画見直しも さらに死刑執行なら****
東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議が3日、開幕した。議長国カンボジアのフン・セン首相は冒頭、ミャンマー軍事政権が囚人の死刑をさらに執行すれば、ASEANはミャンマーとの和平計画の再考を迫られると述べた。

ASEANはミャンマーに対し、昨年合意した5項目の和平計画を順守するよう求めており、ミャンマーの軍事政権が民主活動家4人の死刑を執行したことを非難している。

フン・セン首相は和平計画について、誰もが望む通りには進展していないものの、人道支援の提供などでは一定の前進があったとした。

だが、民主活動家の死刑執行を受けて状況は「劇的に変化」し、和平計画の合意前より悪化したとみることもできると指摘。

「判決見直しを求める私や他の人々の訴えにもかかわらず死刑が執行されたことに(ASEAN諸国は)深く失望している」と述べた。

ASEAN議長報道官が1日明らかにしたところによると、今週の会議にミャンマーの代表は出席しない。国軍以外の代表を送る案を軍政が拒否したという。【8月3日 ロイター】
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いつも言うようにASEAN内部ではミャンマー軍事政権への対応で温度差があります。
マレーシアやシンガポールは強硬姿勢ですが、もともと軍事政権からスタートしたタイ・プラユット政権やミャンマー軍部との関係を維持する中国の意向を反映するカンボジア・ラオスなどは宥和的な姿勢です。

その比較的宥和的な議長国カンボジアのフン・セン首相が上記のように述べるのですから、メンツを潰された形になって苛立っているのかも。

【武器供与やASEAN首脳会議への参加を求める民主派だが・・・】
国軍と武装闘争を行っている民主派の抵抗政府である「国民統一政府(NUG)」は国際社会に武器供与を求めています。

****ミャンマー民主派抵抗政府が武器供与を訴え ASEANへの承認要望も****
<ウクライナへの欧米の軍事供与を念頭に要望>
ミャンマーのミン・アウン・フライン国軍司令官をトップとする軍事政権に対抗するために組織された民主派の抵抗政府である「国民統一政府(NUG)」は7月28日に国際社会に対して軍装備品や武器弾薬の供与を求めた。

NUGは軍政が逮捕・訴追している民主政府指導者だったアウン・サン・スー・チー氏の側近だった民主派元国会議員と著名な民主活動家など4人の死刑確定囚への7月23日の死刑執行に対抗して、軍政との戦闘を強化するために武器供与は必要だとしている。

NUGのドゥア・ラシ・ラ大統領代行は「ファシスト軍政と戦うために命を犠牲にしているミャンマー人への技術支援、武器弾薬、資金援助を切実に要請する」と国際社会の協力を呼びかけた。

NUGはスー・チー氏の政権を支えた民主派政治家や少数民族代表により組織された抵抗政府。大統領代行はじめ主な閣僚やメンバーはミャンマー国内の少数民族武装組織の支配地域などに潜伏。あるいは国外に脱出して抵抗活動を続けている。

軍政はNUGをテロ組織としてメンバーの摘発に躍起となっているが、NUGはSNSや地下放送などで国内外から軍政批判と情報発信を継続している。

民主派政治犯への死刑執行に対してNUGは「4人の殉教者の犠牲は革命に大きな推進力を与えるだろう」と述べ、NUG傘下の武装市民抵抗組織「国民防衛軍(PDF)」に対し各地で軍との戦闘激化を指示している。

こうした武器供与要求の背景にはロシアが軍事侵攻したウクライナへの米国からの最新鋭の高度な誘導弾や精密砲弾などの武器提供があり、「国家同士の戦争と軍政と民主派組織の内戦という違いはあるが、多くの市民が戦闘や人権侵害で亡くなっている状況は同じ」との認識がNUGの根底にあるとされている。

対ASEANにNUGを認定要求
こうした武器供与の要求を国際社会に求めると同時にNUGはミャンマーも加盟する東南アジア諸国連合(ASEAN)に対してミャンマーを代表する政権としてNUGを認定し、ASEANが主宰する外相、財務相、国防相そして首脳会議にNUGの各閣僚、代表を参加できるように求めている。

8月3日に今年のASEAN議長国であるカンボジアで開催されるASEAN外相会議にもNUGは出席を求めている。同外相会議はミャンマー軍政の代表を招待しておらず、軍政代表欠席で主にミャンマー問題を協議する見通しとなっている。

このためNUGとしては「軍政代表がいない会議であればこそ我々NUG代表の参加を認めてほしい」としているが実現の見通しは暗い。

2021年2月1日のクーデターを受けて同年4月16日に樹立されたNUGは発足直後から「ミャンマーを代表する政権は軍政ではなくNUGである」として内外にアピールしているが、ASEAN内では意思統一ができずNUGにコンタクトしているのはマレーシアだけといわれている。

議長国カンボジアの思惑
ASEAN加盟国間ではミャンマー問題に関する温度差が存在するのも事実で、これが問題解決への道筋をつける「障害」になっているとNUGなどは指摘している。

クーデター後からミャンマー軍政に厳しい姿勢をとっているのはマレーシアとシンガポールだけに過ぎず、残る加盟国は「是々非々」というような曖昧な姿勢に終始している。

今年のASEAN議長国であるカンボジアはフンセン首相やASEAN特使であるカンボジアのプラク・ソコン外相らが何度もミャンマーを訪問しミン・アウン・フライン国軍司令官ら軍政幹部と会談しているが、実質的な事態の進展はないのが現状である。

カンボジアは議長国としての成果を追及してASEAN内での存在感を誇示しようとするばかりで、そのいい例が2022年6月にカンボジアで開催されたASEAN国防相会議にミャンマー軍政代表を招いたことだろう。ミャンマーを疎外させない方針で臨んだものの、他の加盟国からはコンセンサスを得ていないと反発を買ったのだった。

フンセン首相は「スタンドプレー」が好きだが、こうしたミャンマーを内に取り込んでの問題解決はミャンマーの後ろ盾である中国への配慮もあるとみられていた。カンボジアはラオスと並んでASEAN内の親中国派であることと無縁ではないことがマレーシアなどの反発の一因とされている。

何れにせよこのままでは11月に開催予定とされるASEAN首脳会議にミャンマーのミン・アウン・フライン国軍司令官を招待する見込みは薄い。

一方でマレーシアのサイフディン・アブドゥッラー外相が中心となってASEANのこれまでのミャンマー問題に対すアプローチを変えて、さらなる強硬姿勢を打ち出すべきだとの機運が高まっていると言われる。

果たして、NUGのドゥア・ラシ・ラ大統領代行やマン・ウィン・カイン・タン首相を「ミャンマーの首脳」として出席を求めることになるのか、ミャンマーの首脳欠席で開催するのか。ASEANはミャンマー問題で大きな岐路を迎えることになる可能性が高い。【8月1日 大塚智彦氏 Newsweek】
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現時点でASEANが首脳会議に民主派代表を招き、その主体性を発揮するようなことは100%ありえませんが、武器供与も同様に非現実的でしょう。そこまで民主派に肩入れしてミャンマー問題に深入りする国はないでしょう。

【国軍と民主派の板挟みになる住民 両方からにらまれないよう、口を閉ざして生きている】
そうした状況で国軍と民主派武装勢力の争いが続いていますが、現地住民は両者の板挟みになって苦しんでいるとも報じられています。

民主派が地元住民に紛れて国軍車両に地雷を仕掛けたり、待ち伏せ攻撃をしたりして、死傷者が出ているということで、国軍は見境なく村を襲撃。国軍兵士は住民が逃げ去った後、家々を物色し、テレビなど金目の物を奪い、家に火を放っていくとも。

また、村の若者は民主派との関係を疑われ国軍の尋問施設に送られます。

一方、民主派の拠点を村に置くと、民主派に協力しない者は国軍寄りとみなされ、民主派から攻撃を受けることも。

国民の多くは、国軍と民主派の両方からにらまれないよう、口を閉ざして生きているのが現実です。

【日本人ジャーナリスト拘束で起きる「自己責任論」】
日本に関係するところでは、7月30日、日本人ジャーナリストの久保田徹さんがデモ取材中に現地の治安当局に拘束されました。

****久保田徹さん ミャンマーで裁判へ 抗議デモ撮影“参加者とつながり”****
7月30日にミャンマーで拘束された久保田徹さん(26)が、今後、裁判を受ける見通しであることがわかった。

抗議デモを撮影中に、最大都市ヤンゴンで治安当局に拘束された久保田徹さんについて、国軍のゾーミントゥン報道官は2日、FNNの取材に対し、「取り調べは今も続いている」としたうえで、「彼はデモ参加者とのつながりについて認めたため、今後、裁判を受けることになる」と話した。

容疑の中身や、現時点で起訴されているかについて報道官は明かさなかったが、久保田さんは「観光ビザでミャンマーに入国した」という。【8月3日 FNNプライムオンライン】
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この種の問題が起きると、最近の日本では「自己責任論」が主張されることが多いようです。
ただ、それは紛争地域の取材報道を否定し、外の世界から目をそらし、今ある日本国内のささやかな安心・安全にしがみつこうとする内向き姿勢の表れのようにも思えます。

****「ジャーナリストではなくミャンマー国軍や警察を批判すべき」 日本人拘束でまた噴出する“自己責任論”****
(中略)これまでもミャンマーに限らず、海外で日本人が拘束されニュースになることは度々あった。そして、その度に浮上するのが「自己責任論」だ。今回もTwitterには、「これは自己責任としか言い様がない」「こういう人達が伝えてくれるから世界を知れる」と様々な声があがる。

■“リスクがある地域の取材”のあり方は
(中略)では、今回も噴出する「自己責任論」はどう考えるべきか。

まず元経産省のキャリア官僚で制度アナリストの宇佐美典也氏は「自己責任だと思う」との立場から、「どの国でも邦人が危機に晒されれば日本政府は全力を尽くすが、そもそもとれる手段があまりないから“リスクがある”と渡航勧告をしている。そのリスクを承知で行ったことに対して、責任が他の人にあるというのは理論として無理がある。ただ、彼が自身の決断で行ってリスクを承知で危機に遭っているというのが事実で、他の人がどうこう言うことではないと思う」との見方を示す。

(ロイター通信記者でNGOヒューマン・ライツ・ウォッチの)笠井氏は「いわゆる軍事国家で反軍デモを取材するというのは、それなりの危険が伴う行為だとは思う」とした上で、「ここではっきりさせないといけないのは、久保田さんとデモに参加していた人たちは、報道の自由や表現の自由、結社の自由など、すごく基本的な権利を行使していただけであって、その権利を侵害したのはミャンマーの国軍や警察だ。これは被害者を責めるのではなくて、そういった権利を侵害している側を批判すべきだと思う」とコメント。(中略)

久保田さんの拘束が「自己責任だとは思わない」というプロデューサーの陳暁夏代氏は、「興味本位や旅行で行く人は自業自得だと思うが、彼はジャーナリストであって、職業として向かっている。プロと素人の違いは、知識があるかどうかや、対策をとっているかどうか。その上で行くのであれば職業だと思うし、対策しても防げない拘束といったことが起こった時に、国がどう対応するのか、組織としてどう動くかも問われてくるとは思う」との意見を述べる。(後略)【8月3日 ABEMA Times】
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【死と隣り合わせの現地ジャーナリスト】
久保田さんの場合は外国人ということで、まだ一定に配慮されているところがありますが、現地のジャーナリストは文字通り命がけの活動になります。

****日本人ジャーナリストと同日に拘束された現地人カメラマン、その日のうちに死亡 尋問中に暴行死か***
<午前2時に突然の家宅捜査で連行され、10時間後には家族に死亡通知>
ミャンマーで取材活動を続けていたカメラマンが7月30日に治安当局の家宅捜索を受け身柄を拘束された。そしてその日のうちに残された家族のもとに病院から入った連絡は衝撃的な内容だった。
「死亡したので遺体を引き取りたければ渡す」
 
家族が引き取ったカメラマンの遺体には目立った外傷はなかったものの、胸と背中に打撲痕らしいアザ、そして胸部に拘束前はなかった縫合した痕跡が残されていたことから、尋問中に受けた暴行が死につながった可能性が高く治安当局への批判が強まっている。

このカメラマンは地元中心の報道写真家の組織に属し、これまで反軍政を掲げる民主派市民のデモなどを撮影し、おもにSNSにアップするなどで情報発信をしていた。これが治安当局に知られ拘束に繋がったとみられている。

死亡したカメラマンはアイ・チョー氏(48)で中部ザガイン地方域のザガイン市内にある自宅に7月30日の午前2時ごろ、軍用車両6台が駆けつけて兵士が家族に対して「門を開けないと射撃する」と脅して自宅内に入った。

その後アイ・チョー氏を武器の不法所持容疑で拘束し、自宅内で家宅捜索を行ったと米国系メディア「ラジオ・フリーアジア(RFA)」が8月1日に伝えた。

拘束10時間後に死亡連絡
(中略)関係者はRFAの取材に対し匿名を条件に、アイ・チョー氏の遺体に「胸部に検視の際のような縫合した後があった。これ以外には特に外傷もなく血や体液などの漏洩もなかった」ことを明らかにした。

またカメラマン仲間のひとりは匿名で「アイ・チョー氏の拘束中から兵士は自宅をくまなく捜索したが武器等不審なものは一切発見されなかった」と述べ、武器所持という容疑そのものが事実に基づかない「身柄拘束のための虚偽容疑」だった可能性も十分あるとみられている。

怯える市民、カメラマンたち
アイ・チョー氏は「アッパー・ミャンマー(ミャンマー上部=中部)写真協会」に所属しながら、ザガイン市内で「ハイマン写真スタジオ」を経営するなど、報道関係者の間で人気と人望がありつつ、地元では親しみやすい人柄で有名だったという。

2021年2月1日にミン・アウン・フライン国軍司令官をトップとする軍によるクーデターが発生後は、地元ザガイン地方を中心に取材活動を精力的に行い、主に反軍政を掲げる民主派市民のデモなどの活動をカメラに収め、SNSなどで発信していた。その写真は民主派政治家や地元メディアなどに多く共有、拡散されたという。

反軍政デモに参加したザガイン市民などをアイ・チョー氏と一緒に取材したカメラマン仲間や地元報道関係者たちは、アイ・チョー氏が拘束されその日のうちに死亡したことを受けて、同様のことが自らの身に起こるかもしれない、との恐怖に怯えているという。

RFAによるとアイ・チョー氏と一緒に取材したことがあるという報道関係者は「兵士が突然自宅などにやって来て気に入らないものを発見したら恣意的な逮捕、殺害となる。法律なんてものはなく法律は兵士の銃口にある。兵士は何でも自分たちが望むことを実行するので、兵士が近くに来るだけで死刑が執行された気持ちになる」とザガイン市民の胸中を代弁したという。

(中略)久保田氏、そしてミャンマー現地のカメラマンや報道関係者に軍政がどのような対応をするのか、世界が注視していくことが求められている。【8月3日 大塚智彦氏 Newsweek】
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