孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

韓国  米中のはざまにあって、対中国関係に苦慮 今も続くTHAAD「3不」問題

2022-08-10 23:24:56 | 東アジア
(韓国を訪問中のペロシ米下院議長が4日、国会本庁の前で金振杓(キム・ジンピョ)国会議長と儀仗隊の栄誉礼を受けながら歩いている。【8月5日 中央日報】 韓国外交部は4日、ナンシー・ペロシ米国下院議長に対する「冷遇」という批判に関連し、「外国の国会議長など議会の方の訪韓に対しては通常、行政府の人は出迎えない」とし、政府の責任論を否認した。)

【尹大統領とペロシ米下院議長との面談を避けた韓国】
一昨日ブログではペロシ米下院議長の訪台への台湾の熱狂的「ペロシ現象」を取り上げましたが、ペロシ議長は台湾・日本などの他、韓国も訪問、そのときの韓国の対応も興味深いものでした。

尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は「夏休み」ということで面談せず、そのことへの批判が高まると、急遽電話会談を実施・・・・中国を怒らせたくもないし、米国と台湾問題で事を構えたくもないという韓国の苦肉の対応とも見えます。

****訪韓したペロシとの面談を謝絶した尹錫悦 中国は高笑いし、米国は「侮辱」と怒った****
N・ペロシ米下院議長が訪韓した際、尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は面談しなかった。中国の圧力に屈したのだ。「米国回帰」を謳った保守政権が「米中等距離外交」に舵を切った瞬間だった――と韓国観察者の鈴置高史氏は言う。

「招かれざる客」の米下院議長
鈴置:ペロシ下院議長の訪韓に関連し、米政府が怒り出しました。尹錫悦政権に侮辱された、と考えたのです。経緯はこうです。

ペロシ議長はシンガポール、マレーシア、台湾を訪問した後、8月3日夜に韓国を訪れました。下院議長は大統領の継承順位が副大統領に次いで2位ですから、普通なら尹錫悦大統領が会います。

ところが「休暇中」との名目で尹錫悦大統領は面談を謝絶。朴振(パク・ジン)外交部長官も海外出張中だったので、国会議長だけが会談に応じることになりました。

ペロシ議長のアジア歴訪の主目的は、台湾への支持表明です。(中略)ペロシ議長が訪台したその足で韓国に行って大統領と会えば、怒りは韓国にも向きます。韓国も台湾を支持したように見えるからです。

中国の顔色をうかがう韓国にとって、ペロシ議長は「はた迷惑な客」であり「招かれざる客」だったのです。

当初、尹錫悦政権は「大統領は休暇中」との言い訳を使って面談を避けようとしたものの、保守から非難が噴出しました。ペロシ議長が韓国の次に訪れる日本も含め、すべての訪問国が政府首脳との会談を用意したからです。

米中双方に誤ったサイン
最大手紙で保守系の朝鮮日報は8月4日の社説「ペロシに会わない尹、米中に誤った信号を送りかねぬ」(韓国語版)で、以下のように警告しました。

・(尹錫悦大統領は)NATO首脳会談の演説では自由民主主義国家の間の協力を強調し「自由と平和は国際社会の連帯によってのみ保障される」と述べた。
・こんな尹大統領がソウルに居るにもかかわらず「事前に了解を求めた」としてペロシ議長に会わないのは、中国の顔色を見たのではないか、との解説も一部にある。文在寅(ムン・ジェイン)政権のように屈従的な姿勢では歪んだ関係が続くだけだ。

目先のことしか考えない外交が米中双方との関係を悪化させる、と痛いところを突いたのです。すると、この記事が載った8月4日の朝、韓国大統領府は「休暇中の尹錫悦大統領がペロシ議長と電話する」と発表、同日午後に40分間の電話協議を行いました。

もっとも、同じソウルに居る2人が電話で話すというのも奇妙な話です。どこかで会えばいいだけのこと。当然、記者はそこを質しました。大統領府は「国益を考えた」と答え、中国に忖度したことを暗にですが認めたのです。

中国に褒められた韓国
――米国も舐められたものですね。
鈴置:ええ。ワシントンポスト(WP)はこの事件を「South Korea’s president skips Nancy Pelosi meeting due to staycation」(8月4日)との見出しで報じました。

「staycation」とは自宅、あるいは近場での休暇を意味します。韓国大統領の家のすぐそばまで米下院議長が来た。というのに、在宅中の大統領は会うのを避けた――とWPは不自然さを揶揄したのです。

フィナンシャルタイムズ(FT)の見出しは「South Korean president snubs Nancy Pelosi as China tension rise」(8月4日)でした。WPの「skip(避ける)」以上に厳しい「snub(無視する)」を使い「中国との緊張激化で、ペロシを無視した韓国大統領」と、より批判的に報じたのです。

中国共産党の対外宣伝紙、Global Timesは(中略)「よくやった」と韓国を褒めそやしました。
・韓国の大統領はペロシとの会談を避けたと専門家は見る。台湾海峡の緊張を高めたばかりのペロシを接遇すれば、中国と敵対することは明らかだからだ。
・韓国は現時点で中国を怒らせたくもないし、米国と台湾問題で事を構えたくもない。そこで韓国政府は国会議長だけにペロシと会わせた。これは儀典にもかなうし、国益も守る。

韓国は恩人を裏切った
――米国のメンツは丸つぶれ……。
鈴置:米政府は尹錫悦政権に対し相当に怒ったようです。国務省が所管するVoice of America(VOA)は直ちに「韓国よ、舐めるな」と言わんばかりの記事を載せました。

「専門家ら『ペロシ議長が訪韓し「米韓関係拡張」を再確認…尹大統領との会同は不発、中国のためなら大間違い』」(8月5日、韓国語版、発言部分は英語と韓国語)です。(中略)

社説から消えた「面談謝絶問題」
――米国がこれだけ怒った。韓国の保守はさぞかし強烈な政権批判に乗り出したでしょうね。
鈴置:私もそう思いました。ところが予想ははずれました。ほとんどの保守系紙は「面談謝絶による米韓関係の悪化」から目をそらしたのです。(中略)

結局、大手紙で「面談謝絶」を社説で批判したのは中央日報だけ。「尹錫悦政権も中国を意識するという点で文在寅政権と変わりないという批判を逃れないだろう」と訴えた「同盟強化を叫んでペロシ議長に会わなかった尹大統領」(8月5日、日本語版)が、ひとり気を吐いたのです。

「台湾」に巻き込まれるな
――保守系紙はなぜ、腰くだけに?
鈴置:朝鮮日報の論説委員会も「面談はしなかったが、電話で話したから米国への言い訳はできた」くらいに考えた――あるいは考えたかったのでしょう。

電話協議しようが実際には米国は怒っている。でも、だからと言って中国と全面対決しよう、と呼びかけるほどの覚悟は保守にもないのです。

韓国人は誰しも内心では「中国には逆らえない」と考えている。ただ親米保守の人々は、そう言えば米国との関係が悪化するので口にはしなかった。でも、保守の中国への恐怖心も限界に達し、噴き出たのです。 

――なぜ、今になって「恐中病」の症状が現れたのですか?
鈴置:中国封じ込めに乗り出した米国が、韓国に次々と踏み絵を迫っています。中韓が結んだ「3NO」を破棄して日米韓の合同演習に参加せよ、半導体分野での中国包囲網「chip4」に加われ……(中略)。

米国の言うことを聞けば、中国から激しく報復されることばかり。そのうえ、今度はペロシ訪韓。「台湾問題で中国と向き合え」との踏み絵でした。

韓国人とすれば、「これだけ中国との摩擦を抱えているのに、台湾の面倒まで見ていられないよ」と叫びたい心情なのです。証拠があります。

東亜日報の8月4日の社説「ペロシ氏の台湾訪問で一触即発の米中、試される韓国の外交手腕」(日本語版)は、一口で言えば「台湾問題に巻き込まれるな」との主張でした。

日本では「台湾が中国に侵略されれば、次は日本だ」との危機感が高まる。でも、韓国人にとって「台湾」は人ごとなのです。

「韓国民主化」の虚実
(中略)

ペロシは「清の使臣」なのか
――韓国の保守の話に戻ります。彼らは中国が怖いにしろ、親米派ではないのですか?
鈴置:そこが微妙なのです。8月5日、朝鮮日報が興味深い記事を載せました。「陳重権、『ペロシが清の使臣でもあるまいし…尹の電話通話は神の一手』」(韓国語版)です。

陳重権(チン・ジュングォン)氏は東洋大学(韓国)の元教授。リベラル派ではありますが、文在寅大統領をヒトラーに例えて、同政権の民主主義破壊を痛烈に非難したこともあります(中略)。

そんな骨のある陳重権氏が「尹錫悦大統領がペロシ議長と面談ではなく電話で協議したのは非常にうまいやり方だった」と評価したことを紹介した記事です。

陳重権氏の論理は「ペロシ訪韓は我々の招待ではないし、米政府のメッセージを持ってきたわけでもない。個人的な側面が強いとの見方もある」でした。ただ今ひとつ、説得力に欠けます。勝手に来た同盟国の高官に会う必要がない――とはいかないのが現実です。

韓国人の心を強くとらえたであろう説得が別にありました。見出しにもなった「ペロシ議長が清や明の使臣なのか。李朝時代の情緒がまだ残っている」との心情論です。

明・清の皇帝の使臣が李氏朝鮮を訪問した際、朝鮮王は迎恩門という専用の門で土下座して出迎えるのが慣例でした。米下院議長が来たら大統領があたふたと出迎えるのはそれと同じではないか、と陳重権氏は指摘したのです。

中国大陸の歴代王朝や、日本の属国の民として生きてきた朝鮮半島の人々に対し「もう、我々は属国ではない」との叫びは、けっこう説得力があるのです。

米国は「中国と敵対せよ」と無理難題を押し付けてくる――。今、そんな不満を募らせる韓国人には「米国の要求をすべて聞く必要なんかないのだ!」との呼びかけは、ことさら心に染みます。(後略)【8月8日 鈴置高史氏 デイリー新潮】
***********************

朝鮮半島の政治体制が常に隣国・中国の強烈な影響下にあったことは事実です。そうした歴史的経緯を踏まえて、過剰なまでに中国に配慮する韓国を「恐中病」と嗤う声は日本に多々あります。

ただ、大国に隣接する国が生きていくために“大国の顔色をうかがう”のは現実国際政治の世界では当然の話であり、そうした地政学的配慮がないのは単なる愚か者、匹夫の勇に過ぎません。

評価は、“顔色をうかがうこと”ではなく、それによってどういう結果が生じたかでなされるべきでしょう。
日本は今後ますます衰退し、東アジアの中流国のひとつになっていくでしょう。一方、中国の国際的影響力は今後も更に大きくなります。

現在でも、日本においても対中国関係は悩ましいものがありますが、将来的に力関係が圧倒的に中国に有利に変化したとき、「恐中病」と嗤っていられるか・・・。

【今も続くTHAAD「3不」問題】
韓国が米中間にはさまれて苦しい立場に追い込まれた事例として記憶にまだ新しいのが、2017年に北朝鮮の弾道ミサイルに対抗して日米韓の防衛協力を強化する措置として米軍が配備した高高度迎撃ミサイルシステム(THAAD〈サード〉)と、それに対する中国の韓国への強烈・露骨な報復措置でした。

****THAAD配備で長期化する中国の対韓報復 韓国を襲う「輸出依存」の経済成長を追求したツケ****
米軍の最新鋭迎撃システム「THAAD(高高度防衛ミサイル)」の韓国配備に対する、中国の報復が長期化している。

韓国の商工会議所などは、2017年2月にロッテグループや化粧品・旅行業界を中心に、中国での経済被害が本格化した後も、THAAD配備に抗議することも、中国を批判することもなかった。下手に騒ぎ立て、中国の反発を招き、被害が大きくなるのを恐れたのだろう。
 
もっとも、中国における韓国企業の経済被害は、とどまるところを知らずに膨らみ続けている。
THAADに用地を提供したロッテグループは、中国国内の営業店に対する、当局の嫌がらせ行為(営業停止措置など)により、5000億ウォン(約490億円)の損失を被った。また、現代・起亜グループの中国における自動車販売は、それぞれ前年同期比64%減、同62%減と、大きく落ち込んだ。

被害は中国に在留する韓国人にも及んでいる。
中国の韓国大使館は、中国国内の韓国人に対し「身の安全に注意する」ように呼び掛けた。実際、在中韓国人の犯罪被害件数は、15年が675件だったのに対し、16年は1332件と倍増した。

現代経済研究院によると、THAADが韓国に配備された3月以降、中国における韓国企業の経済被害は、年末までに8兆5000億ウォン(約8346億円)に達するとのことである。

もっとも、だからといって文在寅(ムン・ジェイン)政権は、北朝鮮の「核・ミサイル危機」がここまで深刻化している状況で、THAAD配備を拒否できるはずもない。実際、9月7日、文政権はTHAADのミサイル発射台の追加配備に踏み切った。(後略)【2017年10月5日 産経】
*******************

このTHAAD配備問題は、まだ終わっていません。

****中国「約束守れ」、韓国「約束してない」=THAADめぐり応酬―仏メディア*****
仏国際放送局ラジオ・フランス・アンテルナショナル(RFI)中国語版は8日、「中国が高高度防衛ミサイル(THAAD)の『3不』の約束を守るよう要求も、韓国高官:約束ではない」と題する記事を掲載した。

記事は、「米軍のTHAADの韓国配備によって中韓関係の緊張が高まり、当時の文在寅(ムン・ジェイン)政権は『3不』(米国のミサイル防衛に参加しない、THAADの追加配備をしない、日米韓軍事同盟を結ばない)を約束していた」と説明した。

その上で、中国外交部の趙立堅(ジャオ・リージエン)報道官が7月27日の会見で「新しい官僚は古い帳簿から目を背けてはならない。どの国であれ、対外政策の基本的な連続性と安定性を維持しなければならない」と述べ、THAADをめぐる「3不」の維持を韓国側に求めたことを紹介した。

一方で、「韓国側はこれに反論した」として、韓国・東亜日報の6日付の記事を引用。それによると、駐中韓国大使館の高官が5日、文在寅政権の交渉代表も政府報道官も「THAAD3不」は約束ではないと表明しているとし、「新政権が気にすべき古い帳簿があるのか疑問だ」と述べたという。

記事は、韓国の朴振(パク・チン)外相が8日から中国青島を訪問し、王毅(ワン・イー)外相と会談する予定であり、この中で台湾海峡をめぐる問題やTHAAD問題について話し合われる可能性があると伝えている。【8月8日 レコードチャイナ】
*********************

****THAADの「3不政策」 合意ではないと中国に説明=韓国外相****
中国を訪問している韓国の朴振(パク・ジン)外交部長官は10日に記者会見し、韓国に配備されている米国の最新鋭地上配備型迎撃システム「高高度防衛ミサイル(THAAD、サード)」について、「北の核とミサイル脅威への対応は自衛的な防衛手段であり、われわれの安全保障主権」として、文在寅(ムン・ジェイン)前政権が掲げた「3不政策」(THAADの追加配備をしない、米ミサイル防衛システムに参加しない、韓米日の安保協力は軍事同盟に発展しない)は合意や約束ではないことを中国側に明確に説明したと述べた。

朴氏は9日、王毅国務委員兼外相と会談し、THAADや供給網(サプライチェーン)、韓中関係、朝鮮半島問題などについて幅広く議論した。

中国外務省は会談後、THAAD問題の「適切な処理」を韓国側に求めたと明らかにしており、会談でTHAADの韓国配備を巡る立場の隔たりは埋まらなかったとみられる。

朴氏は会談で、「中国側が3不を取り上げれば取り上げるほど両国国民の相互認識が悪くなり、両国関係の障害になるだけだ」「新しい未来志向の関係のため、この問題はこれ以上提起しないことが両国関係に役立つ」などと言及した。また、「韓中関係はTHAADがすべてではなく、すべてになってもならない」と説得したという。

韓国の外交部高官は「中国側でもこれが中国の国益に役立たないと判断しているとみている」と述べた。

一方、朴氏は会談で両国の外交当局が進める具体案を盛り込んだ韓中関係の未来発展のための共同行動計画を提案し、中国も推進に同意したと伝えた。(中略)
北朝鮮問題については、「北が挑発を中止して対話に復帰し、真の非核化の道を歩むよう中国の建設的な役割を要請し、中国も共感した」と紹介した。

また、朴氏は文化・人的交流の活性化に向けた文化コンテンツ交流の拡大も呼びかけたと伝えた。ただ、韓国の文化コンテンツの対中輸出の再開や韓流コンテンツの流通を制限する「限韓令」の廃止につながるまでには時間がかかりそうだ。中国は公には限韓令の実施を否定してきた。

朴氏は外相間のシャトル外交を進めることで一致したとして、適切な時期に王氏が韓国を訪問すると明らかにした。【8月10日 聯合ニュース】
**********************

いささか韓国に同情を感じたのは、いま動画ネット配信サイトで10年前の韓国ファンタジー時代劇「シンイ(信義)」を観ているせいもあるかも。このドラマの時代背景は中国・元王朝の影響下にあった第31代高麗王・恭愍王(きょうびんおう)の時代。

「朝鮮も中国の隣にあって大変だよな・・・」と感じた次第。現代では更にアメリカからも突き上げられて・・・・日本も将来的に同様の状況に近づくことは前述のとおり。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする