孤帆の遠影碧空に尽き

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イラン核合意再建交渉“大詰め” EUの最終文書提示でイラン・アメリカの回答が出そろう 結果は?

2022-08-25 23:15:25 | イラン
(【8月10日 ARAB NEWS】 8月初旬、ウィーンで再開された核合意再建交渉)

【イラン革命防衛隊のテロ組織指定解除で暗礁に乗り上げたイラン核合意交渉】
イラン核合意のこれまでの経緯に関して超簡単にまとめると以下のようにも。

****イラン核合意 これまでの経緯*****
核合意は2015年に米英仏独露中の6カ国とイランが締結した。イランが核兵器開発につながるウラン濃縮活動を制限する代わりに、欧米側が経済制裁を緩和する仕組み。

18年にトランプ前米政権が一方的に離脱して制裁を再発動し、反発したイランは合意の制限を大幅に超えるウラン濃縮などを進めてきた。

バイデン米政権の発足後、米・イランの両国は21年4月に合意正常化へ向けた間接協議を開始した。

一時は妥結の機運が高まったが、今年2月に核合意当事国であるロシアがウクライナに侵攻し、交渉は中断。6月にカタールで再開したが進展がないまま終了し、8月上旬にウィーンで再開した。【8月25日 毎日】
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上記記事に“一時は妥結の機運が高まった”とあるのは、今年2月、3月段階。
当時は下記のように“今週末にも合意”といった話が出るまでになっていました。

****イラン核合意再建協議、今週末に合意も=ボレルEU上級代表****
欧州連合(EU)の外相に当たるボレル外交安全保障上級代表は4日、2015年のイラン核合意の再建に向けた米国とイランとの間接協議について、今週末に合意に達するかもしれないと述べた。

英国の交渉責任者、ステファニー・アルカク氏もツイッターで間接協議が合意に近づいているとの見解を示した。

ロシアのウリヤノフ在ウィーン国際機関代表は「イランは(米国との)直接会談の準備はできていない」としたものの、「おそらく来週半ばには合意に達するだろう」とした。【3月5日 ロイター】
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その交渉最終段階にきてハードルとなったのが、ウクライナ侵攻で制裁を課されたロシアが、核合意に沿って参画するイランの核関連事業を制裁対象外にすることを求めたことでした。

これについては、アメリカ側が譲歩姿勢をみせて、合意に向けた流れはなんとか維持されました。

****露のイラン核関連事業は制裁対象外 米、核合意妥結へ譲歩姿勢****
イラン核合意の再建に向けた多国間協議をめぐり、米国務省のプライス報道官は15日の記者会見で、ロシアが同合意に沿って参画するイランの核関連事業については、ウクライナ侵攻を受けて発動している対露制裁の対象とはしないと明らかにした。

同協議は妥結間近とされながらも、ロシアが今月に入って自国に科されている制裁の対象からイランとの取引を除外するよう要求したことで停滞。ロシアがこうした除外規定を制裁回避に利用するとの懸念も指摘されていた。

そんな中でバイデン政権は今回、一定の譲歩姿勢を示した格好だ。ラブロフ露外相は同日、米国から「文書での保証」を受け取ったと述べ、協議の進展に前向きな態度をみせた。(後略)【3月16日 産経】
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しかし、イラン側がイラン革命防衛隊(IRGC)のテロ組織指定解除を求めたことで、交渉は暗礁に乗り上げました。

****イラン核合意再建、革命防衛隊のテロ組織指定解除が最後の障害に****
イラン核合意の再建について、複数の外交関係者は、イラン革命防衛隊(IRGC)のテロ組織指定を米政府が解除するかが、交渉の行方を左右するとの見方を示した。

米政府内ではこの問題を受けて核合意再建に反対する声が上がっているほか、IRGCのテロ組織指定解除を公に批判していたイスラエルなどの中東同盟国も反発している。

1年近くにわたる交渉ではほぼすべての意見の対立が解消されてきたが、政府高官らは、この問題でイランとの妥協点を見いだせなければ話し合いが破綻する可能性もあると述べている。

米政府はIRGCが数百人の米国人を殺害したと指摘しているほか、エリート部隊のゴドス軍は中東地域の代理組織やシリアで戦った親イラン勢力向けに兵器などを提供している。IRGCは弾道ミサイル関連のプログラムや、人権侵害疑惑を理由に、長年にわたって米政府から制裁を受けていて、2017年には対テロ制裁リストに加えられた。

米政府高官らによれば、ジョー・バイデン大統領や側近の多くは判断を先延ばしにするのではなく、イランと合意を結んでその後に改善に努めていくことの方がいい選択だと考えている。

ホワイトハウスはまた、イランの核開発プログラムを制限する合意が、中東地域に安定をもたらすカギとなり、これによって政府も中国やロシアに専念することが可能になるとみている。【3月22日 WSJ】
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【8月に交渉再開 EUの最終文書提示でイラン・アメリカの回答・意見が出そろう 内容は不明】
その後はウクライナ問題で交渉も中断していましたが、8月に再開。ただし、あまり期待値は高くありませんでした。

****米国とイラン、核合意建て直しで間接協議再開 事態打開は望み薄か****
2015年のイラン核合意立て直しに向けた米国とイランの間接協議がオーストリアのウィーンで再開された。イランの国営メディアが4日伝えた。

ただ米国、イラン両政府ともこの協議で事態が打開できる公算は小さいとみている。(中略)

(イラン外務次官)バゲリ氏はツイッターで、ボールは米国側にあると主張した上で、米政府は「成熟した態度を示し、責任ある行動を取るべきだ」と述べた。

一方米国家安全保障会議(NSC)のカービー戦略広報担当調整官は4日記者団に「われわれはイランが合意に応じるのをいつまでも待つわけにはいかない。合意実現可能という点で残された時間は非常に短くなりつつあるようだ」と語った。

今年3月、11カ月にわたる間接協議を経て両国は核合意の修正版を巡っていったんは大筋で妥結したものの、その後状況が一転。イラン側が米国に革命防衛隊に対するテロ組織指定解除を要求し、米政府が拒否していることで意見の対立が続いている。【8月5日 ロイター】
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交渉はEUを介した間接交渉で行われていますが、「最後の努力の時が来た」とするEUはイランと米国に「明快で決定的な政治決断」を求めました。

そしてEUは、これ以上変更を加えることはできないとする最終文書を提示。
イラン側は“満更でもない”ようにも。

****イラン、要求満たされればEUの核合意再建案受け入れも=国営通信社****
国営イラン通信(IRNA)は12日、イラン外交官の話として、2015年のイラン核合意の再建に向けた欧州連合(EU)の提案はイラン側の主要な要求が満たされる場合に受け入れ可能だと伝えた。

核合意再建に向けた米国とイランの間接協議が終了した8日、仲介役を務めるEUは合意の最終文書を提示したことを発表。EU高官は、文書にこれ以上変更を加えることはできないとし、数週間以内に当事国から最終決定が得られるとの見方を示していた。

IRNAによると、イランのある外交官は政府がEUの提案を検討中だとし、「セーフガード、制裁、保証の問題についてイランに約束するのであれば受け入れ可能だ」と述べた。

イランは核合意の復活に当たり、将来の米大統領がトランプ前大統領のように合意を破棄しないという保証を求めている。【8月15日 ロイター】
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イランはEU最終文書への回答を示し、「3つの課題が解決すれば数日内に合意が可能」とも。

****イラン、核合意再建「最終文書」に回答 外相は「3つの課題」に言及****
イランは15日、2015年核合意再建に向けて欧州連合(EU)が示した「最終文書」に回答した。EU当局者が明らかにした。ただ、詳しい回答内容は明かさなかった。

イランのアブドラヒアン外相は先に「3つの課題が解決すれば数日内に合意が可能」との見解を示しており、イランが同意か拒否のどちらを回答したとしても、なお変更の余地があることを示唆した。

外相は「われわれはイラン側のレッドライン(越えてはならない一線)を尊重するよう求めた。われわれは十分な柔軟性を示してきた。合意しても40日あるいは2─3カ月後に現場で実現しないようなものは求めていない」と強調した。

米国側はイラン政府が「本題から外れた」要求を撤回して初めて核合意の再建が可能との立場を示している。イランは同国で検知された未解明のウランの痕跡に関する国際原子力機関(IAEA)の調査の停止や、軍事部門「革命防衛隊」の米国のテロ組織指定解除を求めており、これらの要求が念頭にあるとみられる。

アブドラヒアン外相はまた、「交渉が決裂した場合は米国と同様、われわれには代替案がある」と語った。【8月16日 ロイター】
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アメリカ側はイランの回答を慎重に精査、これに対しイランが「アメリカは「先延ばし」しているといる」と批判する展開も。

懸案となっていた「革命防衛隊」のアメリカのテロ組織指定解除については、イラン側が譲歩を示したようです。

****イラン、テロ指定解除の要求撤回 核協議で対米譲歩****
米国務省のプライス報道官は22日、イラン核合意の再建に向けた米イランの間接協議で、イランが軍事組織、革命防衛隊に対するテロ組織指定解除の要求を撤回したと明らかにした。欧州連合(EU)を仲介役にした交渉の主要争点の一つとなってきたが、イランが譲歩を見せた格好だ。

プライス氏は、EUによる妥結案が不十分だとしてイランが今月提出した追加意見も踏まえ「未解決の相違点がいくつか残っている」とも指摘。イラン核開発の制限内容などについて双方の溝が埋まっていないとみられ、合意に到達できるかは不透明だ。【8月23日 共同】
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そして、アメリカもイランの回答に関しの意見を返答。

****米、イラン側に意見返答=核合意再建交渉めぐり****
米国務省のプライス報道官は24日、イラン核合意再建交渉をめぐり、欧州連合(EU)が示した「最終文書」に対するイランの回答に関し、米政府の意見を返答したと明らかにした。イラン外務省も同日、EUを通じて米政府の意見を受け取ったと発表した。

プライス氏は「米側の精査は終了した」と語ったが詳細については触れていない。イラン側は米政府の意見を慎重に検討した上で、EUに伝える方針。【8月25日 時事】 
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イラン、アメリカ双方の回答・意見の内容は明らかにされていませんが、交渉が“大詰め”段階にあるのは確かです。

****核合意正常化へ米が回答 イラン「慎重に検討」 協議大詰め****
イラン核合意の正常化に向けた米国とイランの間接協議で、イラン外務省は24日、仲介役の欧州連合(EU)が8月上旬に取りまとめた最終文書案に対する米国側の回答を受理し、「慎重な検討を始めた」と明らかにした。ロイター通信が伝えた。

イラン側は既に回答を送付している。文書案と各国の回答内容は公表されていないが、協議は大詰めを迎えた模様だ。

ロシアのウクライナ侵攻で資源エネルギー価格が高騰する中、合意正常化によって、原油と天然ガスの主要産出国であるイランへの経済制裁が解除されると、価格引き下げ要因になるとみられる。

ロイターによると、イラン側は精鋭軍事組織・革命防衛隊を米国の「外国テロ組織」指定から解除せよといった要求を示していたが、最終案への回答では取り下げたという。双方が妥協し、協議が妥結するか注目される。(後略)【8月25日 毎日】
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合意が成立すれば、イラン核開発に対し一定の歯止めがかかり、中東の安定化が図られることになります。
もっとも、イスラエルは合意はイランの核開発を隠す隠れ蓑に過ぎないと見ており、“中東の安定”が直ちに実現される訳でもありませんが。

イランは制裁の一定の解除で、困窮する経済の立て直しを図ることが可能になります。
アメリカは中東の安定で、ロシア・中国対応に専念することが可能になります。ウクライナ情勢を受けて進むイランのロシア接近にも一定に歯止めをかけることができます。

【合意成立・イラン産原油の市場復帰の影響】
また、イラン産原油の市場復帰で、ロシア産原油排除の穴を埋めて原油市場を安定化させることができる・・・ひいては、アメリカ国内のガソリン価格高騰の鎮静化にも・・・との期待も。アメリカ・バイデン政権が合意復帰に取り組んできたのも、その石油の話があってのことでしょう。

ただし、世界経済の景気後退で需要減少を心配しているサウジアラビアなど産油国は、イラン原油の市場復帰で値崩れすることを恐れており、イランが復帰するならその分を減産するという動きもあるようです。

****OPECプラス、イラン産原油の市場復帰に合わせ減産も=関係筋****
石油輸出国機構(OPEC)を主導するサウジアラビアは今週、非加盟産油国も含む「OPECプラス」の減産に触れたが、関係筋によると、直ちに減産に踏み切るとはみられず、イランが核合意再建で米欧と合意し、原油の輸出を再開するのに合わせて実現する可能性が高い。

報道によると、サウジのアブドルアジズ・エネルギー相は22日、先物市場の流動性の乏しさとマクロ経済への懸念を背景とする原油安に対応するため、OPECプラスは減産する用意があると述べた。

9人のOPEC筋によると、9月5日に予定されるOPECプラスの会合はあまりにも時期が近いため減産は見送られると想定され、イラン産原油の復帰によって実際に市場の供給量が増えてから減産が必要となる可能性がある。

関係筋の1人は「OPECプラスは(対イラン)制裁解除後のイラン産原油の市場復帰に準備を整える必要がある」と述べた。

イランの現在の産油量は日量260万バレルで、制裁解除後に最大能力の400万バレルに達するまでに約1年半を要するとみられる。関係筋によると、同国はすぐにでも、貯蔵されている原油の一部売却に着手する可能性がある。

OPECプラスは、7月と8月の増産幅をそれぞれ日量64万8000バレルに小幅拡大することに合意。9月については、米国など主要消費国からの圧力を受けて、さらに10万バレル増産することを決めている。【8月24日 ロイター】
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上記のような減産となれば、イラン産原油の市場復帰でも原油価格は直ちには下がらないかも。それでも産油国と言えども需給バランスに抗する形での価格コントロールは容易ではなく、結局は需給バランスが求める均衡点に落ち着くというのが経済原則でもあります。
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