孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ケニア  過去に混乱を起こした大統領選挙 今回も接戦予想 新大統領の課題は中国からの債務

2022-08-15 23:17:09 | アフリカ
(2022年8月9日/ケニア、首都ナイロビの投票場前(Ben Curtis/AP通信)【8月9日 KWP News】

【大統領選挙のたびに繰り返された混乱】
東アフリカのケニアは民主主義政治においても、経済成長においても、“アフリカの優等生”と評されるような順調な状況にありましたが、その評価に綻びが生じたのが2007年の大統領選挙結果をめぐり1100人以上の死者をだした暴動でした。

****ケニア大統領選:現職再選、選管が発表 開票混乱、野党候補を逆転****
ケニアの選挙管理委員会は(2007年12月)30日、27日に投票が行われた大統領選で、2期目を目指すムワイ・キバキ大統領(76)が458万4721票を獲得して当選したと発表した。

9人が出馬した選挙で事実上の一騎打ちを演じた野党連合「オレンジ民主運動」のライラ・オディンガ氏(62)は、キバキ氏に約23万票差まで迫る435万2993票を獲得した。

オディンガ氏は「キバキ氏陣営の組織的不正」を理由に結果の受け入れを拒否。結果発表前から各地で同氏の支持者による暴動が起き、少なくとも14人が死亡しており、混乱が広がる可能性がある。

28日の段階では、オディンガ氏が大差でリードしていたが、その後、キバキ氏の得票が急増。現場の選管職員が「キバキ陣営の不正に加担させられた」と記者会見で告白したほか、両陣営が個別に会見を開いて「独自集計」を発表し「当選」を主張し合うなど作業は混乱を極めた。最終的には、選管が会見場から記者や野党関係者を排除し、密室からテレビ中継で結果を発表した。

同時に行われた議会選(定数224)で、与党「国民統一党」は40議席を下回る大敗を喫した。【2007年12月31日 毎日】
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上記のような疑惑を感じさせる集計結果を受けて、部族対立が絡んだ暴動に発展。1100人を超える死者を出す混乱は、その戦いの手段でも弓矢が武器として使用されるというユニークなものでした。

****ケニアの民族衝突止まず、弓矢で自衛する町も****
ケニア西部の小さな町ンジョロでは、住民が協力して弓矢で自衛している。
町内の木製の門構えのほこりっぽい敷地では、男性6人が腰掛けて一心に矢を削っていた。男性たちは刀を研ぎ、弓を組み立てながら、戦いの準備をしているところだと話した。

ケニア国内ではこれまでに数百人が死亡した。病院関係者によると、弓矢による死者が次第に増えており、毒矢が頭部や胸部に残っているケースもあるという。(中略) 

リフトバレー州の警察署長は、弓矢が人に対する武器として使用され始めたのは「まったく予想外だった」と話す。「今回の衝突以前には、弓矢は狩猟などの活動に使われるのが主で、こうした攻撃には使われなかった。非常に誤った使い方だし、これまでにはなかったことだ」【2007年2月4日 AFP】
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混乱は長引きましたが、国連調停もあって、4月に与野党で連立内閣が成立し、大統領をキバキ氏が、首相にオディンガ氏がつくという権力を分け合う形になりました。
この方式は、その後の他の国で同様に選挙をめぐる混乱が生じた際のモデルケースともなり、「ケニア方式」とも呼ばれました。

オディンガ首相と初代大統領ケニヤッタ氏(故人)の息子ウフル・ケニヤッタ副首相の争いとなった2013年の選挙でもオディンガ候補ら野党側は選挙結果について不服申し立てを行いましたが、最高裁はケニヤッタ候補の当選を承認。野党側は紛争回避を最重視して司法判断を受け入れたものの、この判決には中立性を欠いているとの批判もありました。

2013年と同じケニヤッタ氏とオディンガ氏の争いとなった2017年選挙は司法判断で選挙が無効となり再選挙となるも、オディンガ氏がこれをボイコットするという混乱になりました。

****2017年ケニア国政選挙****
投票は(2017年)8月8日に行われたが、2013年の選挙から導入された新しいシステムでの集計作業中に混乱が発生した。投票翌日の8月9日、野党側は選挙結果の速報値がクラッキングにより操作されていると批判し、複数の地域で抗議行動が行われて死傷者が出る事態に発展した。

だが、野党側から繰り返し抗議があったにもかかわらず、8月11日にケニヤッタ候補が過半数の票を獲得して再選したと発表された。(中略)野党側は不正があったとして選挙結果を認めず、野党の勢力が強い地域では抗議行動が続くことになった。

8月16日、オディンガ候補は大統領選挙の運営に多数の不備、不正があると厳しく批判し、司法を通じた不服申し立てを行うと発表、8月18日に実行した。

9月1日、ケニアの最高裁判所は大統領選挙そのものを無効とし、ケニヤッタ候補の再選も無効とする判決を下した。この判決はアフリカ史上初めて司法判断により大統領選そのものを無効とした判例となり、世界的に報道されることになった。

再選挙は10月26日に行われたが、野党候補のオディンガがボイコットしてケニヤッタ候補が再選した。野党側は再び選挙結果に異議を唱えたが、最高裁は11月20日に野党の申し立てを棄却しケニヤッタ大統領の再選が確定した。【ウィキペディア】
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【今回選挙も接戦が予想されており、混乱の懸念も】
上記のように過去に政治混乱・暴動を引き起こした大統領選挙が8月9日に行われました。

****大統領選の投票実施 暴力回避へ厳戒態勢―ケニア****
東アフリカのケニアで9日、退任するケニヤッタ大統領の後継を選ぶ大統領選挙の投票が行われた。

ルト副大統領(55)と野党指導者オディンガ元首相(77)による事実上の一騎打ちで、両者の接戦が予想される。過去の選挙では、対立勢力の衝突が死者を伴う暴動に発展。当局は今回、警官15万人を動員するなど厳戒態勢を敷いて、混乱の回避を図る。

大統領選には計4人が立候補。物価高や干ばつで国民は生活苦に直面しており、経済危機への対応が最大の焦点だ。

9日夕の投票締め切り後に開票へ移り、結果は1週間以内に発表される運び。当選条件を満たす候補がいなければ、上位2人の間で決選投票が行われる。大統領選のほか議会選や県知事選なども同時実施された。

ケニアでは2007年、大統領選の結果をめぐる大規模な暴動が起き、1100人以上が死亡。17年選挙でも暴力行為で多数の死傷者が出た。

今回は大きな混乱が伝えられていないものの、選挙戦中は対立候補をおとしめることを狙った偽情報がネット上で飛び交うなど、不穏な動きも。報道によれば、独立選挙委員会は8日、委員会関係者6人が不正の疑いで逮捕されたと発表し、不正操作への懸念が改めて強まった。

過去の暴力騒ぎの事例から、国際社会も投票プロセスを注視している。ロイター通信によると、ブリンケン米国務長官は8日、訪問先の南アフリカで「ケニアの選挙が平和で自由、公正に進められるか、皆が見ている」と述べ、適正な投票プロセス実現に努めるよう当事者らに促した。【8月10日 時事】
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最終結果はまだ発表されていませんが、これまでの途中集計では接戦となっており、敗者がすんなり結果を受け入れることができるか・・・・懸念される状況です。

****ケニア大統領選、有力2候補が接戦 暫定開票結果を公表****
ケニアの選管は14日、ほぼ半数の開票を終えたとして9日投票の大統領選の暫定結果を公表し、ルト副大統領(55)が得票率51.25%、続くオディンガ元首相(77)が同48.09%だと明らかにした。

2候補の接戦が続いており、前日の発表ではオディンガ氏が優勢だった。投票率は約65%で、2017年の前回大統領選の78%を大きく下回った。

開票は16日までに終えないといけないが、選管は12日、劣勢が伝わると各陣営から開票所に人が押し寄せ、長広舌の物言いで作業を止めるため、予定が大幅に遅れていると訴えた。

選管委員長は「こういう振る舞いは直ちにやめる必要がある」と各陣営に警告した。暴動の発生を恐れ、教育省は18日まで全土で休校にすると宣言した。【8月14日 時事】
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僅差の勝負になりそうで、明日以降の状況が懸念されます。

【中国のアフリカ支援の中核 監視システムも中国式】
ケニアは中国のアフリカ支援においてもその中核にあり、中国資本で様々な“近代化”が実現しています。

****ケニア長距離鉄道開業、独立以来の大事業--中国が支援****
ケニアのウフル・ケニヤッタ大統領は31日、ケニアの首都ナイロビとインド洋に面した港湾都市モンバサを結ぶ鉄道路線の開通を宣言した。

この路線整備はケニアが1963年にイギリスから独立して以来、最大のインフラ事業で、中国が進める現代版シルクロード経済圏構想「一帯一路」の一翼も担っている。

政権のごたごたで外交政策をまだまともに立案できないドナルド・トランプ米大統領を尻目に、中国は着々とアフリカに橋頭堡を築き、影響力を拡大している。

ケニアの新しい鉄道の5つの特徴を見てみよう。

■中国が出資し建設
総工費38億ドル、全長約480キロの鉄道を完成させたのは、中国の国有企業・中国路橋工程有限責任公司だ。中国は昨年10月に開通したエチオピアの首都アジスアベバと紅海に臨むジブチの首都ジブチを結ぶ鉄道の整備事業も手掛けた。

英フィナンシャル・タイムズによれば、ケニア向けだけでも2016年の中国の輸出は50億ドルに上り、10年と比べ3倍に増えた。アメリカの対ケニア輸出は7億8000万ドルにすぎない。

■「東アフリカ鉄道網」の一部
ナイロビ=モンバサ路線は、中国が出資する東アフリカ鉄道網整備事業の第一段階だ。この路線は将来的にはケニアの西のウガンダ、コンゴ民主共和国、ルワンダ、ブルンジ、北の南スーダン、エチオピアにも延伸される。

一足飛びの進歩
■低コストで迅速な輸送
これまでナイロビ=モンバサ間の移動は、運賃の高い飛行機か、悪路で9時間かかるバスを利用するしかなかった。旧鉄道では12時間もかかった。新鉄道では4時間半。ケニヤッタ大統領は国有の鉄道会社に2等旅客の運賃を700ケニアシリング(6.77ドル)以下にするよう命じた。最低でも1200ケニアシリング(11.61ドル)もするバス料金より大幅に安い。

■ケニアの誇り
ナイロビとモンバサを結ぶ旧鉄道は植民地時代にイギリスが建設したもので、建設工事で多くのケニア人が亡くなったため、地元の人々は「ルナティック・エクスプレス(狂った急行)」と呼んでいた。新鉄道の名称は「マダラカ・エクスプレス」。マダラカはスワヒリ語で、責任、権限を意味し、ケニアには自治の獲得を祝う「マダラカ・デー」(毎年6月1日)という祝日がある。

■破壊工作は死刑
開通直前にも、何者かが柵や杭を倒すなど破壊工作を行い、新鉄道には安全面で懸念が持たれている。8月の大統領選で再選を目指すケニヤッタは新鉄道の完成を1期目の成果としてアピール。破壊工作には極刑で報いる構えで、開通式で新法を制定すると宣言した。(後略)【2017年6月1日 Newsweek】
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中国の影響はインフラ建設だけでなく、監視システムといった中国式統治方法にも及んでいます。

****“中国化”するアフリカ “一帯一路”はいま****
中国の一帯一路においてアフリカの玄関口に位置するケニア。10年間でGDPが倍増。急速な経済発展を遂げています。
中国が3,000億円以上を融資し、去年(2017年)5月には、首都ナイロビと東部の港を結ぶ鉄道が開通。
周辺6か国に延ばす構想も挙がっています。今、ケニアで進められる国家プロジェクトの半数近くを、中国企業が請け負っているといわれています。

ナイロビ市民 「中国がケニア市場を支配しています。以前はアメリカが大きな影響力を持っていましたが、最近は中国の投資が目立ちます。」

リポート:戸川武(国際部) アフリカが中国への依存を強めているのは、経済だけにとどまりません。国のシステムにも、中国式が広がっています。

20年前にケニアに進出した、中国の通信大手「ファーウェイ」です。
今回、外国メディアとして初めて、内部の取材が許されました。オフィスで働く400人の社員の半数は中国人です。

インターネットの通信網の構築。さらには、国民の6割が利用し、ケニア経済を支えている電子マネーのシステムなどを提供しています。

“中国化”するアフリカ 広がる監視システム
(中略)今、ファーウェイは「セーフシティ」と呼ばれる国の治安維持のシステムの導入を進めています。ケニアの2大都市に1,800台を超える4Kの高画質カメラを設置。その映像を警察がリアルタイムで監視します。システムには最新の顔認証技術が使われ、個人が特定できるといいます。

ファーウェイ・ケニア 徐亮広報部長 「中国では上海、南京、広州など、多くの都市でセーフシティは導入されています。」

こうした監視システムは、中国が世界をリードする技術です。設置されたカメラは、世界最多の1億7,000万台ともいわれ、いわば監視社会を築き、治安を維持しています。中国式の社会システムそのものをケニアに導入しようというのです。(中略)

監視システムの導入を決めたのは、2013年に就任したケニヤッタ大統領です。実はケニヤッタ大統領、過去には選挙を巡って暴動を引き起こし、対立候補の支持者を死亡させたなどとして国際的に批判されていました。

こうした中、手を差し伸べたのが中国でした。ケニアにさまざまなシステムを提供。貿易額は倍増し、最大の貿易相手国となったのです。

ナイロビ大学 サミュエル・ニャンデモ博士 「ケニアの指導者は政権を守るために、欧米ではなく中国を選びました。中国はそれに乗じて、ケニア経済に食い込んだのです。」

セーフシティのシステムは、ケニア政府による治安維持を大きく後押ししています。(中略)

ケニア 情報通信技術庁 ロバート・ムゴ長官 「私たちは中国の事例をみて、同じようになりたいと思いました。急速な発展に成功した中国から多くのことを学びたいのです。」

一方で、カメラで得られる個人情報などの膨大なデータをどう管理するのか、法律はありません。安全を提供する代わりにプライバシーを脅かしかねない政府のやり方ですが、これまで目立った反対の声は上がっていないといいます。

市民  「カメラがあるほうが安心です。プライバシーは気になりません。」
市民  「中国は犯罪から私たちを守ってくれています。監視されたってかまわないわ。」

ファーウェイは今、アフリカ12か国にセーフシティを拡大。欧米とは異なる価値観で経済や安全を最優先させる中国式がアフリカに浸透しています。【2018年4月10日 NHK「クローズアップ現代」】
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【中国債務への対処が新大統領の課題】
中国支援につきまとう債務問題も起きています。大統領選挙を受けて誕生する新大統領の課題は、この債務問題になりそうです。

****ケニア大統領選挙と債務問題****
(中略)現職大統領のケニヤッタがオディンガ支持に回ったことで、オディンガ有利との前評判が高い。先週実施された世論調査の結果は、オディンガが47%、ルトが41%であった(8日付ファイナンシャルタイムズ)。

ルトは農民の息子であることを強調し、貧困対策の充実を主張している。これは、いずれも政治家二世であるケニヤッタとオディンガへの批判でもある。

いずれが大統領に就任するにせよ直面せざるを得ない深刻な課題として、対外債務がある。ケニヤッタは在任中にメガ・インフラ・プロジェクトを建設した。ナイロビ・モンバサ間を結ぶ「標準ゲージ鉄道」(SGR)はその代表である。

建設費470億ドルのうち70%を中国輸出入銀行が出資し、ケニヤにとっては独立後最大のインフラプロジェクトとなった。しかしながら、今日利用者は少なく、この3年間で2億ドルの営業損益を出している。

今年5月に完成したExpresswayもそのひとつである。国際空港と首都を結び、渋滞を避けて20分でナイロビ市内に到着することができる。しかし、1回の利用料金が300シリング(約2.5USドル)かかることもあり、利用は進んでいない。このプロジェクトは、ケニア政府とChina Road and Bridge Corporation (CRBC)とのPPPで建設された(8日付ルモンド)。

ケニアの債務は10年間で4倍に膨らみ、GDPの70%に達した。対外債務の3分の2は中国向けである(8日付けルモンド)。IMFは同国を重債務リスク国に指定した。

アフロバロメーターの調査によれば、中国から借金して大規模インフラに投資をし過ぎたという意見が、ケニアでは特に強い(3日付FT)。

今年に入って、中国がアフリカへの融資により慎重な姿勢を取るようになっているとの報道が目立つが(1月11日付けFT、同日付ルモンドなど)、ケニアやザンビアでの経験がその背景をなしている。ケニア新政権は、こうした状況のなかで債務交渉に臨むことになる。【8月8日 現代アフリカ地域研究センター】
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首都ナイロビとモンバサを結ぶ鉄道を建設に関連し、ケニアのネットメディアは、債務返済ができなくなった場合に同国最大の港であるモンバサ港の使用権を事実上中国に譲渡することを記した文書が存在すると報じています。ケニア政府は否定していますが、契約内容は開示されていません。

いわゆる「債務の罠」の問題がケニアにもつきまとっています。
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