孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

シリア  政権支援の露・イランと反体制派支援のトルコが協調する奇妙な関係 悪化する難民の生活環境

2022-08-20 23:36:00 | 中東情勢
(【7月20日 SPUTNIK】 イラン・テヘランで7月19日、3者会談の前に写真撮影に応じるイラン・ライシ大統領(中央)、ロシア・プーチン大統領(左)、トルコ・エルドアン大統領(右))

【小康状態にあるものの小規模衝突も いくつもの対立軸が重層的に重なる】
以前は国際問題の中心課題のひとつであったシリア情勢については、反体制派が北部イドリブに拠点をもつものの、現地での内戦が小康状態にあることやウクライナでの新たな問題の発生などで、あまり大きな扱いをされることがなくなりました。

ただ、衝突がなくなっている訳でもありません。

****イスラエル、シリア首都近郊を空爆 兵士3人死亡、7人負傷****
シリア国防省は22日、首都ダマスカス近郊でイスラエル軍による空爆があり、シリア軍の兵士3人が死亡、7人が負傷したと発表した。イスラエルが占領するシリア領のゴラン高原方面から攻撃があったという。 【7月22日 AFP】
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****シリア 砲撃で子ども6人含む17人死亡 反体制派支配地域****
内戦が続くシリアで、反体制派が支配する北部の町に砲撃があり、17人が死亡しました。

19日、シリア北部バーブの住宅地や市場にロケット弾などによる攻撃があり、シリア人権監視団によりますと、子ども6人を含む17人が死亡、30人以上がけがをしました。

2011年から内戦が続くシリアで、北部のバーブはトルコの支援を受ける反体制派の管理下にあり、人権監視団はアサド大統領が率いる政府軍による「ここ数か月で最も恐ろしい大虐殺」だと指摘しています。

北部の別の町では16日に、トルコ軍が敵対するクルド人勢力を標的にしたとみられる空爆を行い、政府軍の兵士など11人が死亡していて、人権監視団は政府軍による報復だと非難しています。【8月20日 TBS NEWS DIG】
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上記の短い二つの記事だけでも、トルコの支援をうける反体制派とロシアの支援をうけるアサド政権政府軍の争い、アメリカが支援する北部クルド人勢力とトルコの争い、更に、イスラエルとシリア政府軍の緊張関係という異なる軸を持つ争いが重層的に続いていることがわかります。

【シリア北部クルド人勢力への攻撃を続けるトルコ・エルドアン大統領】
このうちクルド人勢力については、トルコ・エルドアン大統領は、シリア北部クルド人勢力が国内テロ組織PKKと結びついてトルコの安全を脅かしているとして、再三越境攻撃を行っています。エルドアン大統領はこの地域をトルコ管理下において、トルコ国内の370万人と言われるシリア難民を送り込もうとしているとも言われています。

また、エルドアン大統領はクルド人勢力支援から手を引くようにアメリカに求めています。

****トルコは、脅威が続く限りシリア侵攻を計画する****
エルドアン氏は、米国がシリアのクルド人武装組織を訓練・支援していると非難

トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は、クルド人武装組織がトルコの安全を脅かし続ける限り、シリア北部で新たな軍事攻撃を行うエルドアン政権の計画は検討されるだろうと言っている。

エルドアン氏はまた、米国に対し、ユーフラテス川東部から軍を撤退させるよう要求した。そして同氏は、NATOの同盟国である米国が、トルコがテロリストであると見なしているシリアのクルド人武装組織を訓練・支援していると再び非難した。(中略)

5月にエルドアン氏は、シリアのクルド人武装組織を駆逐するためにシリアで新たな軍事作戦を行う計画を発表した。シリアのクルド人武装組織は、活動を禁止されているクルド労働者党(PKK)の延長線上にある、とトルコは主張している。

その計画には、シリアとの国境に沿って30キロメートルの安全地帯を設置するトルコの取り組みを再開することや、シリア難民がトルコから自主的に帰還できるようにすることが含まれている、とエルドアン氏は言っている。

トルコは2016年以降、シリアに3回の大規模な越境作戦を行い、すでに北部の一部の領土を支配している。
「トルコの安全保障上の懸念が解消されないうちは、我々は新たな作戦の検討を続けるだろう」とエルドアン氏は述べた。(中略)「米国はテロ組織を養っている。米国が撤退するか、テロ組織を養わなけば、我々の任務はすぐに、もっと楽になるだろう」

トルコは長い間、米国がシリアのクルド人武装組織を支援していることに憤ってきた。シリアのクルド人武装組織は、ダーイシュ(IS イスラム国)と戦う、米国が主導する部隊の中心を成している。(後略)【7月21日 ARAB NEWS】
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エルドアン大統領はシリア北部への越境攻撃はクルド人テロ勢力への対応であり、領土的野心はないとも。

****トルコ大統領「シリア領土は眼中になし」****
トルコのレジェプ・タイップ・エルドアン大統領は19日、シリアの領土を奪取するつもりはないと述べた。トルコはシリア北部でクルド人勢力への攻撃を強めている。

トルコは数日前、シリアのバッシャール・アサド政権軍が運営する国境検問所を空爆。17人を殺害したとされる。
シリア内戦を監視する団体によると、死亡したのは検問所に詰めていたクルド人民兵と政権軍の兵士。

トルコは空爆について、シリア国境沿いの拠点が攻撃を受け、トルコ兵2人が殺害されたことへの報復だと主張している。

一方でエルドアン氏は、緊張緩和に努めているとみられる。トルコメディアによると、ロシアの侵攻開始後、初めてウクライナを訪問して帰国する機内で、「シリア国民はわれわれの兄弟なので、シリアの領土は眼中にない」として、「(シリアのアサド)政権はこのことを認識しておくべきだ」と記者団に述べた。

エルドアン氏は2週間前、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領と黒海沿岸のリゾート都市ソチで会談。シリアについても協議していた。

シリア北部においてロシアとの緊密な協力関係をさらに強化したい意向をプーチン氏に伝えたとして、「シリアでの行動について、ロシアに逐一連絡している」と述べていた。 【8月20日 AFP】
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【利害が交錯するロシア・トルコ・イラン アメリカ排除で協調】
上記記事最後にあるように、シリアで政府軍を支援するロシア・イラン、反体制派を支援するトルコの3か国首脳が19日イラン・テヘランで、シリアの最近の状況やテロ対策強化について意見交換を行うための「第7回アスタナ和平プロセスサミット」を実施しました。

「アスタナプロセス」とは、ロシア・トルコ・イラン3カ国のイニシアチブによる、シリア情勢の緊張緩和に向けた政策的な枠組みです。

****ロシア、イラン・トルコと3首脳会談 友好関係を誇示****
ロシアのプーチン大統領は19日、イランの首都テヘランで同国のライシ大統領、トルコのエルドアン大統領と3者会談を行った。

3首脳は会談後に共同声明を発表し、内戦が続くシリアの安定のため連携を強化するとし、一方的な対シリア制裁に反対を表明。同国内でのテロ組織の活動を非難した。

タス通信などが伝えた。ウクライナに侵攻したロシアはイラン、トルコとの友好関係を誇示し、欧米の圧力に対抗する狙い。協議はシリア内戦に介入する3カ国が設けた枠組みで行われ、3首脳はそれぞれ二国間会談も行った。

ロシアとイランはシリアでアサド政権を、トルコは反政権派勢力を支援している。トルコは5月、「テロ組織」とみなすシリア北部の少数民族クルド人の民兵勢力を掃討するため軍事作戦を行う方針を示した。エルドアン氏はこの日も「テロ組織に対し行動せずにはいられない」と強調した。

プーチン氏は問題をめぐり、3カ国の間には隔たりがあるとする半面、「この地域から米国が撤退すべきだという点では一致している」と述べ、シリア東部などに駐留する少数の米軍の撤退を求めた。(後略)【7月20日 産経】
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アサド政権を支援するロシア・イランと反体制派を支援するトルコが“友好関係を誇示”というのも奇妙な話ですが、シリア及び自国を含む国際情勢においてアメリカの影響力を排除したいという思いでは一致しているということでしょう。

もっとも立ち位置が異なるだけに、具体的な問題となると相違点が露出します。

イランの最高指導者ハメネイ師は、先に行われたエルドアン氏との会談で、「シリア北部への軍事攻撃は、どんなものであろうと、トルコとシリア、地域全体を間違いなく害する。そしてテロリストを利することになる」「交渉によってこの問題を終わらせる必要がある」と延べ、トルコのシリア北部への越境攻撃に釘を刺しています。

【避難先で国内情勢悪化のスケープゴートにされるシリア難民】
一方、シリアから国外に逃れたシリア難民は長期化する苦しい避難生活を続けていますが、避難国経済が最近の物価上昇など悪化するなかで、その不満の矢面に立たされる形にもなっています。

****シリア人に対する暴力増加、国連機関が発表****
国連当局によると、レバノンの各地で難民に対する外出禁止令を発令、パン屋にはレバノン市民を優先するよう要請している。

金曜日、国連難民機関がAP通信に伝えたところによると、レバノンは食料品価格の高騰や食料不足で悩まされる中、この数週間のうちに、シリア難民に対する差別や暴力が急増している。

「レバノン各地のパン屋で、レバノン市民とシリア人との間に緊張が走る場面が見られる。」と国連難民高等弁務官事務所のスポークスマン、ポーラ・バラチナ氏がAP通信に語った。「中には銃撃やシリア難民を棒を使って攻撃するケースもあった。」

国連世界食糧計画によると、レバノンは食糧安全保障危機に直面しており、国民の約半数が食料が足りていない状況であるという。また、食料品の価格高騰や、この3年間での通貨暴落に苦しんでいる。

バラチナ氏によると、レバノンの各地で難民への外出禁止令が発令され、パン屋にはレバノン市民を優先するよう要請が出ているという。(中略)

今月初めに、あるシリア難民がAP通信に語ったところによると、パン屋はレバノン市民に優先してパンを配るために、彼は何時間も待たされたという。

ソーシャルメディアで公開されたある動画では、レバノンの首都近郊に位置するBourj Hammoudのパン屋付近で、男らが集団でシリア人の少年を棒で殴ったり、顔を蹴るなどしている姿が映し出され、背後では銃声が鳴り響いている。

レバノン当局は先週、パン屋での喧嘩や乱闘を防止するため、治安委員会の結成を発表した。(中略)

レバノン近郊には、内戦から逃れて来たシリア難民、約100万人が暮らしており、その大多数が極度の貧困状態にある。

2019年以来、レバノン全域に住む全ての人々の間で、貧困が深刻化している。同国に暮らすレバノン人、シリア人、パレスチナ人が、毎週のように地中海を渡り、ヨーロッパに避難するために危険な航海をしている。

レバノン当局者の間では、シリア難民をシリア国内の紛争から安全と思われる地域へ強制帰国させる声が高まり、すでに崩壊しつつあるレバノンのインフラをシリア難民が圧迫していると非難している。

シリアの多くの地域では武力紛争が治まってはいるが、人権団体やUNHCRによると、人々が戻るにはいまだ安全ではないという。ヒューマン・ライツ・ウォッチは、恣意的な拘束や拷問、多くの難民に対する人権侵害のケースを記録しているという。

レバノン政府はこのような懸念を無視し、シリア政府とダマスカスで、毎月最大15,000人の難民をシリアに帰国させる計画を調整している。【7月30日 ARAB NEWS】
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370万人という最多のシリア人難民を受け入れるトルコでも、トルコ国内情勢悪化のスケープゴートにされることが多くなっています。

****トルコが難民に新たな制限を導入****
トルコは、イード・アル・アドハー期間中にシリア人が本国に行くことを禁止し、地域に住む外国人の人数に制限を導入した

トルコは、社会的不満が高まる中、シリア人の国内移動を制限し、もうすぐ始まるイード・アル・アドハー休暇中に彼らが本国に行くことを禁止する新たな施策を導入した。

トルコのスレイマン・ソイル内相は、土曜日に首都アンカラで行われた記者会見において、移動制限に関する新たな注意事項を発表した。

7月1日から、各地域に居住できる外国人の割合は25%から20%に引き下げられ、1200地区では居住ができなくなる。

アンカラの難民・移民研究センターのメティン・コラバティル所長によると、シリア人は工業地帯に近い地区に住むことを好み、そこで生活のために低賃金で大半は違法に働いている。
「もし当局が彼らの居住に上限を設定したら、人権侵害であるだけでなく、彼らが重要な労働力として現在働いている工業拠点に影響を与えることになる」と、同所長はアラブニュースに語る。

トルコは400万人以上の難民を受け入れており、そのうち370万人がシリア人だ。

ベルリンのハーティースクール基本的権利センターに所属する研究者ベグム・バスダス氏は、これらの施策はいずれも移動管理とは認めることができないと考える。

「当局が導入した新たな制限は、状況がコントロール下にあると国民を欺くためのその場しのぎの対応であることに変わりはない」と、彼女はアラブニュースに対し語る。

「シリア人にいずれは帰って欲しいのであれば、政府と野党は国境を越えた関係を禁止するのではなく促進すべきだ。トルコにいるシリア人の半数は若者で、その多くはトルコ生まれだ。トルコで育った彼らにはシリアとの実際のつながりや記憶はない」とバスダス氏は言う。

「当局が『自主帰還』を真剣に考えているのであれば、シリアが安全に帰還できる場所になるまでは、人々が本国に行ってトルコでの生活に戻ることができるルートを確保するはずだ。トルコにいるシリア人の大多数は帰る場所がないと繰り返し言っており、今回の禁止はさらに可能性を制限してしまう」

国内で経済問題が高まり選挙が近づく中、シリア難民に対する暴力事件がエスカレートしている。最近、難民が子供を誘拐したという地元の噂をめぐり、70才のシリア人女性がトルコ人男性に顔を蹴られた。

難民たちは、過熱した国内政治のスケープゴートにされることが多くなり、トラブルを避けるために大抵は目立たないようにしている。(後略)【6月13日 ARAB NEWS】
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国内状況が悪化した際、不満のはけ口として非難の矛先が難民・外国人といった弱者に向けられるというのは各国共通の現象です。
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