(27日、衝突が起きたリビア・トリポリで炎上する車両【8月28日 産経】)
【再燃したティグレ人勢力との戦闘】
アフリカ東部エチオピアでは、ノーベル平和賞受賞者でもあるアビー首相率いる政府軍と以前国の実権を握っていた少数民族ティグレ人勢力が激しい戦闘を繰り広げ、双方が非人道的な行為を行っているとも報じられていましたが、3月に政府側が休戦を発表し、一応の小康状態を保ってきました。
ただし、ティグレ人勢力TPLFとは別のオロモ人主体の反政府武装勢力「オロモ解放軍(OLA)」との衝突を報じられていました。
一方で、そうした内戦以上に飢餓の脅威にもさらされています。
そのエチオピアで、政府軍とティグレ人勢力TPLFの戦闘が再燃したとのこと。
****エチオピア北部で戦闘再開 5か月の休戦に幕****
エチオピア北部で24日、政府軍と反政府勢力「ティグレ人民解放戦線」の間で戦闘が発生した。3月に宣言された休戦は5か月で破綻し、和平交渉への打撃となった。
戦闘再開が伝えられてから数時間後には、エチオピア空軍が、TPLFの武器を積んで隣国スーダン経由で領空を侵犯した航空機を撃墜したと発表した。
アフリカ2番目の人口を有するエチオピアでは、政府軍とTPLFとの間で2020年11月から1年9か月にわたり内戦が継続。今年3月に休戦が発効し、戦闘で荒廃した北部ティグレ州への国際支援が3か月ぶりに部分的に再開されていた。
だが政府軍とTPLFはこれまで、相手側が和平に向けた努力を阻害していると非難し合っており、今回の戦闘再開についても互いに責任があると主張している。
国連のアントニオ・グテレス事務総長は、戦闘の再開に「深い衝撃を受けた」と表明。「敵対行為の即時停止と和平交渉の再開」を呼び掛けた。 【8月25日 AFP】
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エチオピア政府側は、24日午前5時ごろにTPLFが、ティグレ州南東部から隣接するアムハラ州側へ攻撃をしかけたと主張しています。
TPLF側は、政府軍がここ数日、軍の再配置を進めていたと指摘し、政府軍が24日午前5時ごろ、ティグレ州への攻撃を始めたと訴えています。
【深刻な食糧不足への国際支援も困難に 民間人犠牲も】
いずれにしても、国連世界食糧計画(WFP)によれば、ティグレ州内に暮らす人々の約半数が深刻な食糧不足に陥っているとされており、戦闘の再開により支援物資がさらに届きにくくなり、州内の状況は悪化することが懸念されています。
問題のティグレ州の出身者の一人が世界保健機関WHOのテドロス事務局長です。
****親族が「飢えている」 WHO事務局長、故郷エチオピアの窮状嘆く****
世界保健機関のテドロス・アダノム・ゲブレイェスス事務局長は25日、故郷のエチオピア北部ティグレ州の状況をめぐる個人的な苦悩を吐露し、親族が苦しみ飢えているにもかかわらず、連絡も支援もできないことを嘆いた。
スイス・ジュネーブのWHO本部で記者会見したテドロス氏は、ティグレ州には多くの親族が住んでいると説明。「お金を送りたいが、送れない。飢えていることを知っているが、助けることができない」と語った。同州は完全に封鎖された状態で、「誰が死んだのか、誰が生きているのかさえ分からない」という。
内戦が続くエチオピアでは、ティグレ州の住民600万人が2年近くにわたり基本的なサービスから事実上切り離されている。テドロス氏は、封鎖が「銃弾や爆弾だけでなく、銀行や燃料、食料、電気、医療を武器にして人々を殺してきた」と非難した。(中略)
テドロス氏は、戦闘再開は悲劇だとしつつも、「現実には、戦争は決して止まっていなかった」と指摘。休戦中もティグレ州は封鎖されたままで、食料や医薬品はほとんど入手不可能だったと説明し、「必要不可欠なサービスの再開と封鎖の中止」を改めて訴えた。
また、自身がWHO事務局長の立場を乱用し、出身地への人道支援を繰り返し訴えたとの批判に反論。人々の健康が懸念される国について取り上げることが自身の職務であり、「私はイエメンのためにも同じことをし、現地を訪問した。シリアのためにもしたし、ウクライナのためにもしている」と主張した。 【8月26日 AFP】
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子供を含む民間人犠牲者も報じられています。
****エチオピア北部の幼稚園に空爆、子ども死亡 ユニセフが非難****
国連児童基金(ユニセフ)は27日、エチオピア北部ティグレ州で幼稚園が空爆を受け「複数の子どもが死亡し、負傷者も出ている」と非難した。(中略)
内戦終結に向けた和平交渉への期待が薄れる中、ティグレ州の州都メケレが空爆を受け、市内最大の病院関係者によると、子ども2人を含む少なくとも4人が死亡した。
地元テレビ局は、死者数は子ども3人を含む7人と報じ、大破した遊具や、鮮やかな絵で彩られた建物ががれきと化した様子を放映した。
これに対しエチオピア政府は、軍事施設のみを標的にしたと主張。TPLFが「民間人の居住地域に偽の遺体袋を遺棄」し、空爆被害をでっち上げたと非難した。
しかし、ユニセフのキャサリン・ラッセル事務局長は、空爆が「幼稚園を直撃した」として、「強く非難する」とツイッターに投稿した。(中略)
国連は3月、「エチオピア空軍が行ったとみられる」空爆で1〜3月に少なくとも304人の民間人が死亡したと発表。難民キャンプ、ホテル、市場などが戦闘機と無人機による空爆を受けており、戦争犯罪に当たる恐れがあると警告している。 【8月28日 AFP】
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【東西分裂のリビア 昨年段階の選挙実施予定も立ち消えに】
もう一か所、リビアでも戦闘が再燃したようです。
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リビアでは国の統治や豊富な石油資源をめぐり、東西にそれぞれ拠点に置く政治勢力同士が対立している。
西部のトリポリに拠点を置くのは、先の内戦後に国連主導の和平交渉の一環で設置されたアブドルハミド・ドベイバ首相率いる「国民統一政府」。
東部には、代表議会や、ハリファ・ハフタル司令官率いる軍事組織が拠点を置き、ファトヒ・バシャガ元内相を暫定首相に据えている。【8月28日 AFP】
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そのリビアでは、昨年には選挙実施で東西両勢力を統一するスケジュールも発表されましたが、素人目にも選挙ができるような状況でないようにも思えました。
****10年続いたリビア内戦終結へ 平和は確立されるのか****
(2021年)5月15日、カダフィの独裁の後の10年の混乱を経て、ようやくリビアに単一の暫定政府が成立した。リビアを立ち直らせるチャンスが訪れている。
ここ半年ほどの経緯は、およそ次の通りである。
2020年11月にチュニジアのチュニスで会合した「リビア政治対話フォーラム」(国連の主導で設立されたリビアの地域的あるいは分野別の利益を代表する勢力・派閥の代表者74名で構成された組織)が合意したロードマップには、新たに統一的な暫定政権を設けること、暫定政権は今年(2021年)12月24日に実施されるべきこととされた大統領選挙と議会選挙の準備を取り進めることが規定された。
暫定政権は大統領評議会(大統領と二人の副大統領)および国民統一政府(首相、二人の副首相、その他閣僚)から構成されると定められた。今年2月5日、同フォーラムは暫定政権を構成するメンバーを選出した。
次いで、3月10日、アブドゥルハミド・ダバイバ首相が率いる内閣を議会(東西の対立を抱えている)が承認し、5月15日に新内閣が発足した。これまで対立して来た、国際的に承認されたトリポリのリビア国民統一政府(GNA)と、ハフタル司令官率いる東部のリビア国民軍(LNA)は、平和裏に権限を移譲したのである。
これまで相対立し争って来た勢力が単一の暫定政権に合意出来たことは特筆すべきことである。LNAを含め国内の諸政治勢力とこれに連携する軍事組織、およびそれぞれの支援勢力を有する諸外国も少なくとも表面的には支持の姿勢である。(中略)
しかし、事態がどう転ぶかは分からない。既に草案ができている憲法を成立させ、選挙法を整備し、予定通り(2021年)12月24日に選挙を行えるかについて、まだ確かなことは言えないであろう。【2021年6月9日 WEDGE】
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案の定と言うか、その後滞在対立は激化、未確認ながら首相暗殺未遂事件が報じられるような状況になり、選挙も立ち消え。
****リビアの混迷加速 2人の首相、暗殺未遂の観測も****
国家分裂状態が続く中東のリビアで政治危機が深刻化している。東部トブルクの「代表議会」は10日、西部の首都トリポリを拠点とする暫定政権のドベイバ首相はすでに任期が終了したとして、元内相を首相に指名した。
ドベイバ氏は民主的な選挙が実施されていないとして辞任を拒否。東西の両勢力がそれぞれ支持する2人の「首相」が並び立つ事態となった。
ロイター通信によると、代表議会ではこの日、首相選出の投票直前に他の候補者が出馬を辞退したとして、議長がバシャガ元内相の首相選出を宣言した。
東西両勢力による内戦が続いたリビアでは2020年に停戦が成立し、ドベイバ氏率いる暫定政権が昨年12月に予定された大統領選の実施を担った。国連なども後押ししたが、東西の勢力は投票規則などをめぐり対立。選挙は実施できず、東部勢力はドベイバ氏の任期は終了したと主張していた。
国連などは現在もドベイバ氏と暫定政権に正統性があるとしているが、東部を拠点とする有力軍事組織「リビア国民軍」(LNA)がバシャガ氏の首相選出を支持するなど、事態は混迷の度を深めている。
代表議会の首相選出に先立ち、10日にはドベイバ氏が暗殺未遂に遭ったとの未確認情報が流れた。公式声明などは出ておらず実態は不明。一方、トリポリ市内には対立する複数の武装勢力が展開しており、治安悪化の懸念も強まっている。
リビアでは11年のカダフィ政権崩壊後、周辺国も巻き込んだ内戦が起きるなど混乱が続いている。【2月11日 産経】
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新旧首相をそれぞれ擁する東西勢力は今年5月には衝突も。
****リビア首都で新旧首相勢力が衝突、バシャガ新首相が撤退****
リビアの首都トリポリで17日、衝突が発生した。バシャガ新首相が首都に入ったが、退陣を拒むドベイバ首相の勢力が反撃し、バシャガ氏は数時間後に首都を離れた。
同国では3月から対立する政権が併存しており、政治的な膠着の長期化や紛争拡大のリスクが浮上している。【5月18日 ロイター】
同国では3月から対立する政権が併存しており、政治的な膠着の長期化や紛争拡大のリスクが浮上している。【5月18日 ロイター】
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【再び大規模衝突の危険も】
そして、大規模衝突につながることも懸念される衝突が再び。
****リビア首都で武力衝突、23人死亡 東西で新たな大規模紛争の恐れ****
東西で国家分裂状態にある北アフリカ・リビアの首都トリポリで27日、暫定統一政府と代表議会の支援勢力同士が衝突し、少なくとも23人が死亡、6か所の医療施設が攻撃を受けた。政治情勢の緊迫化を背景に新たな大規模紛争に発展する恐れも浮上している。
トリポリの複数の地区で26日夜から27日にかけ、小規模の銃撃や爆発があった。攻撃を受けた建物からは煙が立ち上るのが確認できた。
AFP特派員によると、27日夜までに状況は沈静化したもようという。
保健省は最新情報として、この衝突で23人が死亡、140人が負傷したと報告した。
リビアでは国の統治や豊富な石油資源をめぐり、東西にそれぞれ拠点に置く政治勢力同士が対立している。
西部のトリポリに拠点を置くのは、先の内戦後に国連主導の和平交渉の一環で設置されたアブドルハミド・ドベイバ首相率いる「国民統一政府」。
東部には、代表議会や、ハリファ・ハフタル司令官率いる軍事組織が拠点を置き、ファトヒ・バシャガ元内相を暫定首相に据えている。
国連リビア支援団は、民間人が居住する地区で無差別の砲撃が行われているとして、双方に「即時停戦」を求めた。
国民統一政府(GNA)によると、今回の衝突は、トリポリでの武力衝突の回避を目指す交渉決裂後に起きた。 【8月28日 AFP】
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【“国家が存在しない”状況で困窮する市民生活】
リビアの東西対立は今更の話で、驚くことではありませんが、わからないのは、こんな国家機能が存在しないような状況で市民生活が営めるのだろうか?ということ。
やはり、市民生活は相当に苦しいようです。
****1日最大18時間…酷暑のリビア、慢性的停電に国民の忍耐も限界****
これが私のベッドルームだ」。戦火で国土が荒廃した北アフリカ・リビアで、マフムード・アグイルさんは、後部座席を取り除いて自身と2人の子どものための睡眠場所を確保した自家用のライトバンを指さした。
立派な家があるものの、酷暑の中で慢性的な停電が続いているため、エアコンの利いた自動車で眠らざるを得ない。「朝目覚めると、ひどい背中の痛みに見舞われる」とこぼし、「これが近ごろのわれわれの生活だ」とうんざりした表情を見せた。
リビアの原油確認埋蔵量はアフリカ最大だが、国民は1日最大18時間にも及ぶ停電を耐え忍んでいる。
10年にわたる戦争や暴力、深まる貧困、分断した政府に対し、多くの国民の忍耐は限界に達している。首都トリポリや第2の都市ベンガジでは今月、数千人がデモを行い、「働くための照明が必要だ」などと連呼した。
不発弾を処理する組織で働くアグイルさんは「たとえ電気がきていても、とても弱い。照明をともすのがせいぜいだ」と話す。
北大西洋条約機構が支援した2011年の蜂起で独裁者ムアマル・カダフィ大佐が死亡して以降、治安悪化や燃料不足、インフラの劣化や経済的な苦境に見舞われ、今は危機的な電力不足が国民生活を直撃している。
■すべてひどい状況
アグイルさん宅の外壁には、幾つもの弾痕が刻まれている。度重なる暴力事件に見舞われてきたリビアを物語るようだ。
「保健衛生や教育、道路もすべてひどい状況だ。われわれには何もない」と訴える。
カダフィ政権下のリビアは、原油収入に支えられた寛大な福祉国家だった。しかし、紛争や分断、資源の浪費、インフラの荒廃、石油関連施設の封鎖によって、今や見る影もない。
約700万人のリビア国民は、燃料を大量消費して排ガスをまき散らす発電機を頼りにしている。
■国家の不在
トリポリに拠点を置くアブドルハミド・ドベイバ暫定国民統一政府首相は、今月新たに三つの発電所の稼働を開始すると述べ、民衆に自制を呼び掛けた。
一方、東部では、元内相のファトヒ・バシャガ氏がトブルクの「議会」やハリファ・ハフタル司令官の支持を得ている。
ドベイバ氏がバシャガ氏に権力を引き渡すよう圧力をかけるため、東部の支持者はここ数か月、主要な石油関連施設での生産を制限している。
ベンガジに住むアハメド・ヘッジャージさんは障害のある4歳の息子を抱え、無力感に包まれている。使用する医療器具には電気が必要だが、停電により治療に重大な支障を来たしている。
ヘッジャージさんは「(体制は)われわれが電気を使えるよう保証しなければならない」と述べた。
イスラム教の犠牲祭(イード・アル・アドハ)の前に、「お金を引き出すために早い時間帯に銀行に行ったが、午後3時まで列に並ぶ羽目になった」という。「なぜかって? 国家が存在しないからだ」 【7月20日 AFP】
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“国家が存在しない”状況では、当然と言えば当然ですが、「いい加減にしろ!」と言ってもどうにもならない・・・憂うべき状況です。