(2022年7月26日/コンゴ民主共和国、北キブ州ゴマの国連基地近く【7月29日 KYP News】)
【武装勢力が跋扈し、性暴力が横行するコンゴ】
2018年のノーベル平和賞は、「紛争下の性暴力」と闘ってきたコンゴ民主共和国のデニ・ムクウェゲ医師と、イラクの少数派のヤジディ教徒でみずからも性暴力の被害者のナディア・ムラドさんが受賞しました。
****“戦場の武器”性暴力の根絶を ノーベル平和賞で世界に訴え****
“無関心に対する闘いを”
見て見ぬふりをすることはしないでください。行動するというのは、無関心でいるのを拒否することなのです。無関心に対する闘いこそが求められています。
雪に包まれたオスロの市庁舎で開かれたノーベル平和賞の授賞式。スピーチで、ムクウェゲ医師は、今こそ、国際社会が、紛争下の性暴力の根絶に向け、行動を起こす時だと訴えました。
紛争下の性暴力とは
ムクウェゲさんが訴えた性暴力の実態とは。
私たちは、コンゴ民主共和国の東部に隣接するウガンダに向かいました。国境近くのチャカ難民キャンプには、連日のように、大勢の人がコンゴから逃れてきていました。着の身着のまま祖国を追われた人々。疲れ切った表情で「恐ろしい戦闘が続いている」と口々に訴えました。
キャンプでは、国連機関やNGOが女性たちの集会を開いていました。女性たちが、少しずつ語り始めたのは、コンゴでのすさまじい性暴力の横行でした。
「武装グループが母親を射殺した後、娘2人をレイプした」
「父親が縛られ、その目の前で娘がレイプされた」
「父親が縛られ、その目の前で娘がレイプされた」
キャンプの責任者によると、避難してきた女性のほとんどが、凄惨(せいさん)な性暴力を目撃したり、被害にあったりしているということです。
今も襲う恐怖
現状を伝えるためならばと、1人の女性が取材に応じてくれました。28歳のクローディナ・ウイマナさんです。
コンゴ東部の町で雑貨店を営んでいましたが、ことし1月、自宅に押し入った4人組の武装グループによって夫は殺害され、自身は性暴力を受けました。
レイプされているとき、このまま殺されると思いました。死ぬほど恐ろしかったです。今でも家の外を人が通るたびに恐怖が襲います。クローディナさんは、夫を埋葬し、3人の子どもたちを連れてキャンプに逃れてきました。
ことし10月、女の子の赤ちゃんを産みました。そこに話題が及ぶと「父親は夫かもしれないし、武装グループの男たちかもしれない」とだけ言い、さっと赤ちゃんの顔を自分の服で隠し、見られたくない様子でした。
16歳の少女の涙
性暴力の被害者は大人だけではありません。16歳の少女も被害にあっていました。ことし2月、武装グループに拉致され、10月に解放されるまで、繰り返し性暴力を受けました。
インタビューで、少女は「男たちは、私が妊娠したことが分かると放置した」と話しました。
キャンプに逃れて1か月。私たちが取材に訪れていたとき、少女はキャンプ内の医療施設で診察を受け、妊娠およそ6か月であることが分かりました。少女は「これからどうしたらいいのでしょうか。毎日、妊娠したことばかりを考えています」と泣き崩れました。
キャンプのカウンセラーは「被害者たちは性暴力の場面を夢でみたり、繰り返し思い出したりして、その後も苦しみ続ける」と語り、長期の心のケアが必要だといいます。
“戦場の武器”としての性暴力
取材から浮かび上がってきたのは、個々の女性を痛めつけることに加えて、家庭を破壊し、地域社会を崩壊させる性暴力の卑劣さです。
武装グループは、性的な欲望を満たすこと以上に住民たちに恐怖を与え、屈服させるために女性たちを襲っています。銃や弾薬も使わずに、力を誇示する手段として、性暴力がまさに“戦場の武器”になっているのです。(中略)
コンゴの紛争 背景には鉱物資源
それにしても、なぜ、これだけ長きにわたって紛争と性暴力が絶えないのか。
アフリカで2番目に大きな国土を持つコンゴ民主共和国は、9つの国と国境を接し、まさに大陸の中心部にあります。1998年から5年近く続いた内戦では、周辺国も介入して「アフリカ大戦」とも呼ばれ、400万人以上が戦闘や飢餓で死亡しました。
内戦終結後も、東部では、いくつもの武装グループが激しい戦闘を繰り広げています。
紛争の原因になっているのが、世界有数の埋蔵量を誇る金やダイヤモンド、それに携帯電話などに使われるレアメタルといった鉱物資源です。武装グループは、こうした鉱物資源の利権をめぐって争い続けています。(後略)【2018年 NHK】
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【PKO基地が住民に襲われる 武装集団の襲撃を阻止できていないとの不満が背景】
こうしたコンゴにおける混乱を収め、「アフリカ大戦」とも呼ばれた第2次コンゴ戦争の停戦監視活動を行うべく2000年2月から活動している国連PKOが国際連合コンゴ民主共和国安定化ミッション(MONUSCO(モニュスコ))です。
MONUSCOは国連平和維持活動史上初めて設置された平和執行部隊である戦闘部隊を有しています。
要員派遣国は2022年1月31日時点でインド、パキスタン、バングラデシュ、ネパール、インドネシアなど計61か国 。
また、過酷な条件下のためPKOの犠牲者も多く、2022年1月31日時点で233名(事故:41名、病気:131名、悪意ある行為:41名、その他:20名)となっています。
そのコンゴPKO部隊の基地が現地住民に襲撃されるという事態が起きています。
****デモ隊がPKO基地に乱入・略奪 コンゴ東部****
コンゴ民主共和国東部北キブ州の州都ゴマで25日、国連平和維持活動「国連コンゴ民主共和国安定化ミッション」の撤退を求めるデモ隊が、同部隊の基地に押し入り、高価な品を略奪した。
デモ隊は乱入前、周辺の道路を封鎖し、反国連のシュプレヒコールを上げていた。
現場のAFP記者によると、デモ隊は窓ガラスを割り、パソコン、家具などの高価な品を略奪した。国連の警官隊はデモ隊を押し返そうと催涙弾を使用した。一部の国連職員はヘリコプターで基地から脱出した。
デモ隊はゴマ郊外にある国連の物流拠点にも押し入った。こちらでは、学生1人が足を撃たれた。
MONUSCOは紛争を収拾できていないとして、定期的に住民に批判されている。
コンゴ東部では120以上の武装勢力が活動。民間人の虐殺がたびたび起き、紛争で数百万人が家を追われている。
25日の抗議デモの前には、与党・民主社会進歩同盟青年部のゴマ支部が、MONUSCOはコンゴ国民を守れないと証明されているとして「無条件撤退」を要求していた。
MONUSCOのハシム・ジャーニュ事務総長特別副代表は今回の出来事について、「許されないだけでなく、全くもって非生産的だ」として、PKO部隊は民間人を守るためのものだと強調した。
ジャーニュ氏はAFPに対し、基地に押し入った者は「略奪者」であり、「最も強い言葉で非難する」と述べた。 【7月26日 AFP】
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****PKO基地襲撃で隊員3人死亡 コンゴ***
コンゴ民主共和国東部で国連平和維持活動「国連コンゴ民主共和国安定化ミッション」の撤退を求めるデモが激化している。当局は26日、PKO隊員3人とデモ参加者少なくとも12人が死亡したと発表した。
MONUSCOが武装集団の襲撃を阻止できていないとの不満から、デモ隊は25日、北キブ州の州都ゴマにあるMONUSCOの基地と物流拠点を襲撃。26日にはベニとブテンボでもデモが行われた。
ブテンボの警察署長によると、ブテンボではインド出身の2人、モロッコ出身の1人の計3人のPKO隊員が死亡したほか、1人の隊員が負傷。デモ参加者側にも7人の死者と複数の負傷者が出た。
MONUSCOは、デモ隊は「コンゴ国家警察から武器を強奪し、PKO隊員に向け至近距離から発砲した」として、「強く非難する」と述べた。
一方、コンゴ政府のパトリック・ムヤヤ報道官は首都キンシャサで記者会見し、デモ隊による襲撃でPKO隊員3人を含む15人前後が死亡、61人が負傷したと発表した。 【7月27日 AFP】AFPBB News
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“与党・民主社会進歩同盟青年部のゴマ支部が、MONUSCOはコンゴ国民を守れないと証明されているとして「無条件撤退」を要求していた”ということで、PKO部隊が本来対象とする武装組織ではないようです。与党組織が扇動した反国連PKO暴動ということでしょうか。
犠牲者数はその後拡大しています。
****コンゴ、反国連デモで36人死亡 PKO隊員4人含む****
コンゴ民主共和国政府によると、同国東部で先週発生した反国連デモで、国連の平和維持部隊隊員4人を含む36人が死亡した。
AFPが2日に確認したパトリック・ムヤヤ報道官の発表によれば、デモではさらに170人近くが負傷した。
コンゴ民主共和国東部の複数の町では先週、国連の平和維持活動「国連コンゴ民主共和国安定化ミッション」の撤退を求めるデモが行われた。東部では120以上の武装勢力が活動しており、同ミッションに対しては、過去数十年にわたる紛争の終結に向けた取り組みが足りないとの不満が高まっている。
先月31日には、コンゴ東部とウガンダとの国境で、国連の平和維持部隊が発砲し、3人が死亡する事件が発生。国連のアントニオ・グテレス事務総長は事件に「憤慨」したとし、責任追及を訴えた。
ムヤヤ氏は1日付の発表で、フェリックス・チセケディ大統領がグテレス氏に対し、平和維持部隊の行動を「全面的に非難する」と表明し、発砲した者を「厳しく罰する」よう要請したことを明らかにした。 【8月3日 AFP】*********************
【以前は、PKO部隊と政権との連携が緊密過ぎることで、政権への不満が国連にも向かられる状況も】
暴動の背景、特にコンゴ政府と国連PKOの関係がどういう状態にあるのかなどについては情報が少なくよくわかりません。
以前は、PKO部隊は武装勢力掃討にあたってコンゴ軍との共同活動を行っており、政権に対する国民不満の矛先がPKOにも向けられるという状況がありました。
****コンゴでPKOの14人殺害 — 問われる国連の対応****
2017年12月上旬、コンゴ民主共和国で近年における「最悪の事態」と言及された国連平和維持活動(PKO)部隊への襲撃によって隊員14人が殺害された。
1993年にソマリアの首都モガディシュで起こった戦闘以来、最多の死者数を出した今回の事件によって、現在までに数百人を数えるコンゴでの国連PKO隊員の死者数が更新された。
国連当局は事件後直ちに、12月8日に発生したこの襲撃について、コンゴ東部における近年最悪の虐殺事件の一部に関与した反政府武装勢力・民主勢力同盟(ADF)によるものとの見方を示した。
2015年以降、国連平和維持活動の1つであるMONUSCO(国連コンゴ民主共和国安定化ミッション)は、コンゴ軍との一連の共同戦闘活動の中で戦闘ヘリコプターや重砲を配備し、数百人規模の部隊を展開させながら、武装勢力ADFの無力化を図ってきた。
こうした活動は2017年の大半において休止状態となっていたが、国連安全保障理事会が襲撃犯への正当な裁きを求めたことにより、対ADF作戦の再開に向け、国連に対しさらに強力な圧力が掛かることになる。
このような動きは、国連が今回のような襲撃に対して迅速な対応が可能であるという印象を与える一方、コンゴ東部に暮らす住民やPKO部隊にとっては、ほぼ間違いなくより危険な状況がもたらされることにもなる。
コンゴ東部での力による権力闘争
コンゴでの暴力の増大には、選挙の未実施とジョゼフ・カビラ大統領の退任拒否という背景が直接的に関係している。全国的なカビラ大統領の支持率は急落し、支持率が10%を大きく下回っているとする世論調査もある。
カビラ大統領の退陣を求める声は各地に広がりさらなる拡大を見せているが、政府はますます残忍な弾圧的手段を使って権力維持を図っている。
実際に、カビラ政府の治安部隊が各地で実行している行為は、「混乱と組織的暴力をまん延させるための計画的戦略」のように見える。この1年半の間に治安部隊によって殺害された人々の数はカサイ地方だけで5,000人を超えており、政府当局側は選挙のさらなる延期の理由づけとしてこの暴力行為および混乱状態を利用しているのである。
カビラ大統領への不満は増大しており、かつての支持基盤であったベニのような地域にもその不満は拡大し、最近のADFによる襲撃を受けている。ベニでは反政府デモが暴徒化し、現在は、住民が公然とカビラ大統領の退陣を求める状況となっている。(中略)
コンゴ東部で力による権力闘争が行われていることは明白である。政府側、反政府勢力側のいずれもが、自らの優位を確保するためには暴力を使うことをいとわないという姿勢をみせている。
MONUSCOの公平性
MONUSCOは国連平和維持活動史上初めて設置された戦闘部隊を有しており、この戦闘部隊の任務はADFなどの武装勢力の潜伏場所を追跡することである。
コンゴ東部の密林地帯における武装勢力への攻撃は高い危険性を伴うものであり、MONUSCOは初期の段階においてコンゴ軍との共同による戦闘活動の実施を決定していた。
コンゴ軍との共同活動によって危険性を軽減できるとの主張にも十分な根拠がある一方、コンゴの人々の目には、現在の政治的意味合いの強い状況下で国連がカビラ政権側につく存在として映っている。
ベニにおける反カビラ抗議行動は今や明らかに反国連の様相をも呈しており、住民は政府や国連の不十分な活動への不満を訴えている。
カビラ政権軍との共同戦闘活動を実施することにより、MONUSCOはその役割において混乱をきたしており、コンゴが極めて不安定で微妙な時期にある中、自らの公平性をも損ないかねない状況となっている。
こうした事態はアフリカにおける国連PKOにとっての悪夢のごく一部に過ぎず、同地域では、度重なる保護活動の失敗や、ベニに代表される各地での「国連の活動は公平性を保っていない」との見方の拡大を背景に、反国連の感情が悪化している。
罰するよりも保護に焦点を
最近の悲惨な襲撃事件を受け、国連が、何年にもわたってADFの支配下で苦しんできたコンゴの国民や国連自らの保護のために、大胆な措置を講じようとすることは当然といえる。事実、MONUSCOの活動に携わった経験を持つ立場からも、国連の軍事力を総動員して襲撃犯を罰したいとの思いは十分に理解できるものではある。
しかし、ここで戦闘活動を再開させることは適切な対応ではない。これまでに筆者や他の論者が主張してきたように、ADFに対する共同戦闘活動は文民保護という点において有効でないことが証明されており、むしろ罪のない民間人や国連PKO部隊への報復攻撃を誘発しかねないものだといえる。
MONUSCOがコンゴ東部での活動範囲を縮小しようしている今、先ごろ襲撃を受けた場所のような地域を守る部隊の数は削減されるものと考えられる(実際、昨年初頭には、まさに襲撃を受けることとなった地域の隊員数が削減されていた)。
こうした流れの中にあっても、MONUSCOは戦闘活動再開への圧力に屈することなく、むしろその大規模な軍事力を文民保護にのみ向けるべきである。
現在コンゴ東部で、MONUSCOが民間人保護の任務を果たしていると考えている住民の割合は5割を下回っており、およそ半数の住民がMONUSCOは完全撤退すべきだと考えている。
こうした状況の背景には、コンゴ東部の戦闘活動においてMONUSCOとカビラ政権の連携が緊密過ぎる、との印象が一因として間違いなくある。
政治的な圧力によって国内の分裂は深まり、国民への紛争被害が世界でも最大とされるコンゴにおいて、MONUSCOが今なすべきことは、最も危険な状態にある人々を守ることにすべての力を注力させることである。
2018年01月26日 国連大学ウェブマガジン】
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上記2017年の状況は“MONUSCOとカビラ政権の連携が緊密過ぎる”ことを背景にした反国連PKOの様相でしたが、今回の襲撃は与党組織が扇動したようにも見えるということで、状況は全く異なります。
ただ、いずれにしても単に治安が悪いということだけでなく、政治状況が混乱している地域(紛争が起きる地域というのは概ねそういう地域でしょう)に武力を伴ったPKO部隊が入って行う活動の難しさ(現地政権との距離の取り方など)を感じさせます。
とにかく情報が少なく何とも言い難いところです。日本が今後もPKOに積極参加していくのであれば、あるいは逆に、PKOは危険で厄介なので深入りすべきでないというのであれば、今回のような事件に関してもう少しメディアの関心もあっていいように思えます。